前代未聞のサブスク13週連続先行配信 CREAMが仕掛ける次世代の新曲展開

音楽配信やストリーミングが普及するなか、音楽の届け方、受け取り方も、変化を遂げつつある。1MC&1ボーカルのマルチユニットCREAMは、新作アルバム『Sounds Good』収録曲の13週連続先行配信を行うにあたり、「先入観なしに、CREAMの楽曲にふれてもらいたい」とアイデアを絞り込み、新曲と共にプレイリストを公開するという方法を用いた。ラインナップからは、ヒップホップやR&Bをはじめ、ポップ、ロック、ダンス…と幅広いジャンルに精通するキュレーターとしての魅力も見えてきた。CREAMが考える、今の時代の音楽の届け方とは?

リスナーの消費スピードを鑑みて実施した13週連続先行配信

  • CREAMのアルバム『Sounds Good』(18年9月19日発売)

    CREAMのアルバム『Sounds Good』(18年9月19日発売)

 最前線のヒップホップ・R&Bをベースに多種多様な音楽を採り入れ、幅広いファン層に愛されているCREAMが、通算5枚目となるアルバム『Sounds Good』を9月19日に発売。そのリリースに向けて行った取り組みが前代未聞だと話題になっている。なんと彼らは、音楽ストリーミングサービスでそのアルバム収録曲を13週連続で先行配信した。この企画が生まれた経緯を、グループでラップを担当し、全曲のトラックメイクを務めたStaxx Tはこう語る。

「配信が主流となっている欧米では、アルバムという単位ではなく単曲でどんどんリリースしていく傾向が強くなってきていると思うんです。それに、1つの作品を聴く期間が1〜2週間だとするなら、単曲で出してもアルバムとしてまとめて出しても、リスナーの消費スピードはさほど変わらないんじゃないかと。ファンにしてみれば新曲が毎週出される方が楽しいし、僕らとしては13曲をいっぺんに出して結局2週間くらいしか聴かれないのであれば、毎週1曲ずつ出していけば、そのアルバムを3ヶ月聴くことになる。そんな発想から生まれた企画です」(Staxx T)

配信曲のテーマやサウンド感が伝わるプレイリストを公開

 今回の取り組みでさらにユニークなのは、1曲配信するたびに、その楽曲にちなんだプレイリストを自分たちで作成し、各配信サイトで公開したことだ。たとえばプレイボーイとの恋愛を歌った楽曲「PLAYBOY」配信時には《なんだかんだでチャラ男が好き》、アコースティックギター1本のバラード「Selfish」では《心にしみるアコギサウンド》など、一見してその曲のテーマやサウンド感がわかるタイトルがつけられているのも秀逸だった。

LINE MUSICでのCREAMの展開画像

LINE MUSICでのCREAMの展開画像

「曲を公開していく順番や時期も考えました。たとえば給料日の25日から30日までの間には、俺がおごるぜって内容の「Check Plz」っていう曲を出したり、絶対夏フェスを盛り上げる曲にしたいと思っていた「7days A Week」を夏フェス前に公開したり」(Staxx T)

 プレイリストは1曲目に自身の楽曲を据え、2曲目からは幅広いジャンルの洋楽曲をピックアップ。海外曲と遜色ない楽曲をCREAMが作っていることや、さまざまな音楽に通じている二人のセレクター&キュレーターとしての魅力も伝えてくれる。グループでボーカルを担当するMinamiは、今回のプレイリストの目的をこう話す。

「洋楽ファンで私たちのことを知らない人がいたら、このプレイリストをきっかけに知ってもらえる可能性がある。プレイリストに並べた洋楽の流れでCREAMを聴くことで、私たちの音楽性をもっと知ってもらえることにもなる。あと日本のクラブシーンでは洋楽がほぼ流れているから、その中で私たちのような日本の曲がこういうふうに入ったらカッコイイんじゃないかと提案したい部分もありました」(Minami)

重要なのは音楽を作ったらできるだけクイックに世に出すこと

 彼らは今から7年前、メジャーデビューする前から“CREAMVISION”というYouTubeチャンネルを開設し、オリジナル曲のミュージックビデオ(MV)やカバー動画などをアップしている。今では動画の総再生回数は4,400万回、“CREAMVISION”のチャンネル登録者数も16万人を超える勢いだ。CREAMはデビュー時から、“MVの使い方”に長けていて、ファーストアルバム収録曲の「KISSING (Flipside)」はリリースされる約1年前に同チャンネルでMVを公開。同時にライブで積極的に披露していき、アルバムが発売されるまでの間に耳馴染みのある曲へと育て上げた実績がある。今回は「PLAYBOY」「first love」「Kissing pt.2」のショートバージョンMVをいち早くアップ。「PLAYBOY」はアルバム発売のおよそ1年前から楽曲の断片を聴くことができたが、そうすることでじっくりとファンに曲が浸透していき、いつしか人気曲に成長するという。

「サウンドの移り変わりは早いから、今の時代にフィットすると思って作ったものを1年後まで手元に置いて温めていると、出したときに古くなってしまっている可能性がある。音楽は生モノという感覚もあるし、常に最先端を追い求めて作っている限りは、作ってからどれだけクイックに世に出せるかが重要だと考えています」(Staxx T)
「あと、歌詞の2番まで公開するので「続きが聴きたい」と思わせたい狙いもあります。ドラマのいちばん良いところで次回予告みたいな。英語でクリフハンガーっていうんですけど、これは大事」(Minami)
「ただ、2番のあとのブリッジや構成でどう展開をつけるか。そこが肝。僕らがやっている音楽はヒップホップの要素も濃いけど、女性シンガーがいてあくまでポップスとして成り立つものを目指しているから、曲を最後までどう聴かせるか。そこは作り手としてのこだわりどころ、腕の見せどころだと思っています」(Staxx T)

 各SNSメディアにも積極的に情報を発信するCREAMが、今いちばん重要視しているのはユーザー数がうなぎ登りのインスタグラム。若者の間で欠かせない機能となっているストーリーやスワイプを活用して自分たちの音楽を拡散していきたいという。

常に柔軟な姿勢で新しい音楽の届け方を模索

 常に新しい音楽の届け方を模索しているCREAMは、既存のパッケージのあり方にも変化を求めている。今回のアルバム『Sounds Good』のCDパッケージ制作過程では、CDを入れず曲を聴けるQRコードだけが記載されているというアイデアもあったという。実際は商品にCDが入っているが、ブックレットに歌詞やスタッフのクレジットはなく、それらはQRコードのリンク先に掲載。そのぶんブックレットは真っ白というもの。「あらかじめサインする場所を作っておいた(笑)」とStaxx Tは笑う。

「個人的には、今後いよいよアルバムという形式にはこだわらず、10数曲という単位ではなく、4、5曲入りのものを年に4枚とか、そういうほうが今っぽいかなと思ったりもします。リスナーはそれを集めて自分で曲順を考えてアルバムのように楽しんでもらえばいいし」(Staxx T)
「音楽の届け方は時代と共に変わっていくから常に考えていきたいです。3ヶ月後、4ヶ月後に変わっているかもしれないし、その変化に対して、常に柔軟な姿勢をとれるグループでありたいなと思います」(Minami)

 再生メディアや伝達メディアの発展で新しい音楽の届け方が次々に生み出されている現代。せっかく目新しい音楽をつくっても埋もれてしまってはもったいない。CREAMは今回、グッド・サウンドはもちろんのこと、それを楽しみながら効果的に伝えるフレッシュな方法も編み出した。こうした斬新なひらめきが今はヒットへの道を切り開くのかもしれない。

(文・猪又 孝)

提供元: コンフィデンス

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