米津玄師・MISIA…ドラマ主題歌ヒットが続々 復権のカギとは
2010年以降、ドラマ主題歌発のヒットが減少
マーケット規模が縮小しつつあった2000年以降も、MISIA「Everything」、SMAP「世界に一つだけの花」などのメガヒットがドラマ主題歌から生まれている。ところが2010年に入ると、薫と友樹、たまにムック。の「マル・マル・モリ・モリ!」といった例はあるものの、ドラマ主題歌発のヒットは一気に減少する。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)、『半沢直樹』(2013年/TBS系)といった高視聴率ドラマでテーマ曲に起用されたのはインストゥルメンタルだった。
ようやく光明が差したのは、星野源「恋」のヒットだ。自身も出演したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年/TBS系)主題歌の同曲は、ミュージックビデオの振り付けを登場人物たちが披露するという形でドラマ演出の一部ともなっており、そのエンタテインメント性の高さから視聴者を巻き込んだ“恋ダンスブーム”を生み出した。
オンデマンド配信やTVer、楽曲配信やサブスク……新たなヒットの指標が定着
一方、音楽業界側もかつてのようなフィジカルによるメガヒットを生むのは難しくなったものの、ダウンロードやサブスクリプションといった新たなヒットの指標が定着。フィジカルに先駆けて先行配信、サブスク開放する施策も主流となった。さらに今年に入ってからは、ドラマ『隣の家族は青く見える』(2018年1月〜/フジテレビ系)主題歌のMr.Children「here comes my love」、ドラマ『トドメの接吻(キス)』(2018年1月〜/日本テレビ系)主題歌の菅田将暉「さよならエレジー」と、ドラマの初回放送と同時に配信リリースするケースも増えている。ドラマの余韻が冷めやらぬ間に先行配信を行い、デジタルならではの施策でロングセールスに繋げるという新たなヒット事例だ。
一方でドラマ『花のち晴れ 〜花男 Next Season〜』(2018年4月〜/TBS系)主題歌の宇多田ヒカル「初恋」は、初回放送から1ヶ月ものブランクを経て配信リリースされた。この狙いについてTBSの瀬戸口克陽プロデューサーは、「中盤からシリアスな展開になるのですが、それは『花より男子 リターンズ』(2007年/TBS系)の空気と近いものがあり、(『〜リターンズの主題歌も手がけた』)宇多田さんの世界観がぴったりなのではないかと思った」(雑誌『コンフィデンス』2018年4月30日号より)と、ドラマの盛り上がりに合わせた配信タイミングを明かしている。なお同曲は、6/18付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで2週連続首位のヒットを記録している。
ドラマと主題歌の本質に迫った制作方法で良質な主題歌を量産
また、今期のドラマ主題歌ヒットとなった「アイノカタチ feat.HIDE(GReeeeN)」を歌うMISIAは、ドラマ『義母と娘のバラード』について「脚本を読んで、とても心が揺さぶられました。こんな素晴らしいドラマが今の時代に必要だと思います。アイノカタチは人それぞれだけど、愛することは素晴らしい。たくさんの“アイノカタチ”に寄り添い、大切な人に『あのね大好きだよ』と伝えるお手伝いができるよう、心を込め歌いました」と特設サイトでコメントを寄せている。
そして星野源の「アイデア」も、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』のために書き下ろされたもの。星野はドラマで描かれる物語と同様に、明日へのパワーの源となるような力強い同曲が生み出された背景を、「星野源としてやってきたこと、もっと言えばSAKEROCKの時からやってきたこと。そして『YELLOW DANCER』以降、作ってきたイエローミュージックというもの。すべてを含み、すべてを越え、すべてを壊し、未来に進むパワーを持つ楽曲、そんなものを作りたいと思いました」と語る。米津玄師を始め、MISIA、星野源ともに、ドラマの世界観に寄り添った楽曲制作が行われた。
一時期、ドラマ主題歌からヒットがなかなか生まれなかった原因。それは“タイアップ=ヒット”という図式に頼るあまりに、ドラマと主題歌が乖離していたからではないだろうか。たしかにタイアップには一定の効果がある。しかしそれも、ドラマと主題歌の世界観が絶妙に噛み合っていてこそ。今年の主題歌ヒットの傾向からも、ドラマと主題歌の本質に改めて気づいた制作者が増えていることがドラマ主題歌の復興につながっていると推察できる。幸福な関係で結ばれたドラマと主題歌は、「一粒で二度おいしい」ヒットを生む。そしてそれは、エンタテインメントを堪能したい我々視聴者にとっても喜ばしいことでもある。
[18年9月10日号 雑誌『コンフィデンス』より]
(文/児玉澄子)