チャンス・ザ・ラッパーにみる音楽ビジネスの転換期 アーティスト中心の時代に突入
チャンスが模範を見せたアーティストとSNSの新たな関係
チャンス・ザ・ラッパー(写真:Everett Collection/アフロ)
LAでHIP HOPジャーナリストとして活動する塚田桂子氏は「インデペンデント・アーティストとしての威厳と自由を保ちつつ、メジャーレーベルと契約をせずに商業的成功を手に入れてみせたのは、実に新鮮でした」と彼を評する。さらに塚田氏はチャンスの音楽性について、「ミレニアル世代を象徴する存在」と指摘する。「チャンス・ザ・ラッパーには、ゴスペルやジャズ、カニエ・ウェストなどから受けたさまざまな影響を、“チャンス・ザ・ラッパー色”に進化させたような新しい音楽性があります。超が付くほど前向きでポジティブ、気分が明るくなる彼のラップにも思わず惹きつけられます。「Blessings」という曲の中での、「俺はタダ(free)で曲を作るんじゃない、自由(freedom)のために作るんだ」というラインなどは、彼のアーティストスタイルを体現していると思います」(塚田氏)
また、彼を語るうえで外せないのが、SNSとアーティストの新たな関係性だ。「TwitterやInstagram、Facebook、Snapchatなどを中心に世界が回っていると言っても過言ではないほど、SNSへの依存・中毒が標準化しているなか、SNSは今後さらに強力なトレンドセッターになっていくでしょう。と同時に、チャンスが模範を見せたように、長い物にも巻かれない「自由さ」が、より枠にとらわれない発想で新しい「価値観」のトレンドを生み出していくのではないかと感じています」(塚田氏)
単に“メジャーレーベルと契約しない”、“CDやダウンロード販売を行わない”という側面だけで彼を理解するのはやや早計だ。塚田氏が指摘しているように、“価値観のトレンドを生み出している”と見ると、彼の存在も、また違った見え方になるだろう。
同じ考えを持つクリエイター同士がつながるコミュニティ
地元シカゴの小学校に1.1億円を寄付したチャンス・ザ・ラッパー(写真:AP/アフロ)
そして2つ目のポイントとしては、「自由なパートナーシップとネットワークの重要性」と指摘する。「特に、同じ考えを持つクリエイター同士がつながるコミュニティの存在は、クリエイティブ、ニュース性、ビジネスを強化する上でも今後はより一層、重要視されていくと思います」(ジェイ氏)
音楽業界が成長する為には、アーティスト中心の音楽ビジネスの構築がカギに
世界規模で大きな転換点を迎える音楽シーンに登場したチャンス・ザ・ラッパー。彼が次に何を仕掛けていくのか、さらには、どのようなアーティストが次に現れてくるのか、今後の動向が大いに注目される。