ドラマ『フランケンシュタインの恋』挿入歌で注目のUru、YouTubeでの独自戦略とは
小日向文世ら著名人も……癒やしの歌声で聴く者を魅了
劇中に流れるゆえに登場人物の対話に歌がかぶることも多いが、「言葉」と「歌詞」が干渉し合わずしっくり情景に溶け合うのは、演出もさることながら透き通った歌声によるところが大きい。デビューは昨年6月で、有村架純主演の映画『夏美のホタル』主題歌に起用された「星の中の君」。しかしそれ以前からYouTubeで人気を博しており、デビュー前からチャンネル登録者数は14万人を超えていた。すでに2014年には、NHK『あさイチ』にゲスト出演した小日向文世が「毎晩、聴いて癒されている」と公言したこともあったほどだ。
YouTubeチャンネルを立ち上げたのは2013年で、J−POPを中心にさまざまなジャンルの楽曲のカバー動画をアップ。作詞作曲もしていたが、「本格的に音楽の道を目指そうと、デモテープを送ったこともありました。でも、なかなかうまく行かなくて──。もっと歌や曲作りを勉強しなければと、いろんな名曲のカバーをするようになったんです。それとYouTubeは本当にたくさんの方が利用しているので、その中に音楽業界の方もいるかもしれないという思いもありました」
カバー曲に限定した“戦略”でYouTubeきっかけでデビュー
顔はマイクに顔が半分隠れて、ほとんど見えない。本名や出身地を明かしていない神秘性も、あっという間に情報が回る現代では珍しい存在だ。彼女と話してみてわかったのは、実にシャイな性格だということ。これまでテレビに出演したのは今年1月、テレビ朝日『報道ステーション』の阪神淡路大震災特集のナレーションのみで、顔出しはしていない。歌は好きだが、いわゆる“出たがり”とは真逆のようだ。「ずっとYouTubeで活動してきたぶん、人前で歌う経験値が浅いんです。デビュー前に、ライブをやったときも最初はとても緊張してしまって。ステージで歌えたのも、会場に来てくださった皆さんが温かかったおかげでした。でも、それでは申し訳ないなと思ったんです。時間を費やしてライブに来てくれる皆さんに、きちんとお返しできなければいけないって」
観客を前にして歌を聴いてもらうことへの重みを意識するのは、YouTubeという不特定多数に向け発信を行うメディアでの活動が長かったからだろうか。しかしその誠実さがあれば、あとは経験を積むのみ。デビュー以降はライブも少しずつ増えている。「いろんな場所で歌いたいです。YouTubeで聴いてくださってる方は日本全国にいると思うので、これからは直接お届けに行きたいですね」
シャイな性格ゆえの匿名性も、情報化社会の中で活躍の広がりとともに薄れていくだろう。しかし歌声ひとつでここまで来た彼女には、そんなギミックなど必要ないかもしれない。「(素顔を明かさなかったのは)特に理由はないんですけど──、曲を聴いてくださった方が、歌や歌詞や私から生まれた音楽全体で“自由に私を想像して欲しい”というイメージです」やはり彼女には「The Singer」の枕詞がふさわしい。
(文:児玉澄子)