ドラマ&映画 カテゴリ
(更新: ORICON NEWS

“ゾンビ映画はヒットしない”定説を覆す? 『アイアムアヒーロー』異例ヒット

熱狂的なファンが世界中に存在し、ゲームや映画で多くの人気作品が作られているジャンルのひとつに“ゾンビもの”がある。しかし、こと日本においては、ゾンビ映画はヒットしないという定説がある。これまでにも多くの洋画話題作が日本上陸し、邦画でも趣向を凝らしたゾンビ映画が続々と公開されているが、その多くが大規模な公開にはならず、ひっそりと上映を終えているケースが多い。そんななかでいま、潮目が変わりそうな動きがある。アメリカのゾンビ海外ドラマ『ウォーキング・デッド』が大島優子や仲里依紗ら芸能人ファンを巻き込んだブームになり、それに追従するように大泉洋が主演する映画『アイアムアヒーロー』は興収15億円を見込めるヒットになっているのだ。

ホラーとの違いとは?“ソンビ映画”の基本ルール

 そもそもはゾンビ映画とは一体なんなのか? 作品ごとに内容は異なるが、共通するのは、ある要因で死者が蘇ってゾンビとなって人を襲い、ゾンビに襲われた人はゾンビ化するという設定。ゾンビ映画とは、ジャンルとしては恐怖もののホラー映画のなかのひとつになるが、この設定があるかないかが他のホラー作品と大きな違いになり、そこには死生観にまつわる葛藤のほか、家族愛や友情などしっかりとした人間ドラマが描かれる作品も多く、ホラーファンだけではない固定ファンがついている。

 海外のゾンビ映画では“ブードゥー教で蘇らせた死者”を奴隷として働かせたという実話に近いものから、原因は不明だが死者がお墓から蘇る王道のゾンビ映画『ゾンビ』(ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ監督作)、さらにはマイケル・ジャクソンの世界的大ヒット曲『スリラー』ミュージックビデオでの踊るダンシングゾンビなども有名だ。『ゾンビ』では“のろのろ歩く”“頭を破壊すると二度と蘇らない”というゾンビの基本ルールが作られ、その後の多くの映画がこのルールに従って製作されている。
 しかし、この基本ルールが破られることもあり、『ゾンビ』をザック・スナイダー監督(『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』)がリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』では走るゾンビが登場して観客の度肝を抜いた。ほかにもウィルスに感染してゾンビになる病原系の『28日後...』や、イケメンゾンビが恋をする『ウォーム・ボディーズ』など新しいタイプのゾンビ映画が続々と作られ、いずれも海外では人気作になりヒットしている。

日本ではゲームは人気も、映画はコアファンに限られる

 そのほとんどが、人間が人間を襲ってときには食べるというエグい内容の作品にも関わらず、日本にもゾンビ映画の熱狂的なファンは多く存在し、ゾンビ邦画も製作されている。自主制作や小規模なインディペンデント系を除いたメジャー作品を見ても、哀川翔と浅野忠信が共演した『東京ゾンビ』、お笑い芸人・品川ヒロシ監督の『Zアイランド』、バナナマン日村主演の『新選組オブ・ザ・デッド』、井口昇監督の『ゾンビアス』など、それぞれ斬新な設定のゾンビが登場したり、日本ならではのコメディ要素を取り入れたりといったエンタメ系ゾンビ映画が公開されているのだ。

 それだけ映画関係者のなかにもゾンビファンは多い。ところがいまひとつ話題にならず、どれも不発ぎみに終わっていることが多い。そのひとつの要因には、日本は銃社会ではなく土葬の習慣も無いため、いわゆる海外で作られるような真面目なゾンビ映画の設定が難しい、観客が共感しにくいということがある。さらに、一般層の間では、ホラーそのものが苦手、わざわざ観たいとは思わないという風潮もあるようだ。映画ファンの間ではゾンビ好きは多いのだが、その物語性のおもしろさは、なかなか若い世代を含む一般層には響いていないことがうかがえる。
 一方、ゲームでもゾンビものは世界的に人気を得ており、その代表格が日本発の『バイオハザード』だ。ゾンビ映画がヒットしない日本でも、ゲームのほうは人気を得ている。シューティングアクションは人気ジャンルだが、そのなかでも強大で絶望的な存在であるゾンビを次々になぎ倒していき、爽快感やカタルシスが生まれる『バイオハザード』は、映像のクオリティの高さによる迫力や緊迫感、ロールプレイング的な要素も好評を得て、瞬く間に人気作になった。同ゲームは、ミラ・ジョボビッチ主演でハリウッド実写映画化されているが、こちらは世界的な人気シリーズになり、日本でもヒットしている。

人気キャストと原作ファン、ライト層を取り込んだ邦画大作

 そうしたなか、大手映画会社・東宝による本気の大作映画『アイアムアヒーロー』が公開され、ソンビものとしては異例のヒットスタートを見せている。主演を務めるのは大泉洋、そして有村架純と長澤まさみが脇を固めるという今までに類を見ない豪華なゾンビ映画となった今作。旬の人気俳優の起用で間口を広くしたほか、R-15指定の過激な人体破壊描写やグロ要素満載な作りは、原作ファンや筋金入りの洋画ゾンビファンをも唸らせた。

 このヒットの最大の要因には、人気キャストによるエンタメライト層へのアプローチに成功していることだろう。それに加えて、そういったゾンビ映画に慣れていない人たちに、過激な映像描写への驚きとともに、それを映し出す理由があるメッセージ性のある人間ドラマがしっかりと描かれているところのおもしろさが伝わり、ゾンビへのネガティブな反応が起きなかったことがある。同作では、家族や友人など愛する人とある日突然、戦ったり殺し合ったりしなければいけなくなる絶望感があり、“強者が弱者を支配する”“誰かを守ることで英雄になれる”というストーリー部分も丁寧に作られている。

 そこには、ただ怖がらせるだけのホラー映画では味わうことができない、観る人それぞれに想像する余白を与えることで物語をおもしろくするゾンビ映画の醍醐味がつまっている。原作ファンも多い人気漫画をライト層にまで響く極上のエンタテインメント映画に仕上げた『アイアムアヒーロー』は、ゾンビ映画観客層の裾野を広げた。これまでの“ゾンビ映画はヒットしない”という日本映画界のジンクスを打ち破る作品になるかもしれない。
(文:奥村百恵、編集部)

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索