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片岡愛之助『美があるから恐怖が成立する―歌舞伎と通じる美意識』

恐怖漫画の巨匠・楳図かずおが、77歳にして映画監督デビューを果たした『MOTHER』。世界中のファンを魅了してきた楳図作品の秘密が解き明かされていく半自伝的なホラー映画で、主人公の楳図かずお(!?)を演じたのは歌舞伎俳優・片岡愛之助。ホームグラウンドに止まることなく、新たな創造を求めて挑戦を恐れないふたりの才人が、初タッグを組んで恐怖の極みを描く。ホラーの価値観を変える新作映画について、愛之助に話を聞いた。本作を経て感じた楳図ワールドと歌舞伎の共通点も語る。

楳図ワールドと歌舞伎の共通点

――想像を絶する今回のキャスティング。オファーを受けたときは、考えるところもあったそうですね?
愛之助楳図先生の自伝的な映画とお聞きしたので、最初は「なんで、僕?」と思いました(笑)。それまで一度もお会いしたこともありませんでしたし、楳図先生と言えば『まことちゃん』から始まって『漂流教室』『おろち』……子どもの頃からずっと親しんできたマンガ界の大家ですから。それにしても本当にものすごい作品数ですよね!

 今回映画を撮るにあたって、先生の作品を読み返したんですよ。すると子どもの頃には思いもしなかったことですが、楳図ワールドと歌舞伎にはいろいろな共通点がありました。わかりやすいところでいえば『まことちゃん』の「グワシ!」は“ここに注目してください”というときの歌舞伎の見得に通じているな、とか。そういうことに気づくと、当初抱えていた、いかに天才漫画家を演じるべきか? という戸惑いも払拭されました。メリハリのある芝居を求める監督の意図も(歌舞伎俳優の)僕にとっては汲み取りやすいものでした。

――愛之助さん扮する楳図先生、『まことちゃん』ばりのインパクトのある存在感に目を奪われました! ところで楳図ワールドと歌舞伎のユニークな共通点、ほかにはどのような?
愛之助楳図作品に登場する女性って、みんなきれいですよね。美し過ぎて怖いくらい。美意識の高い先生が、美しいものだけにこだわって描くことで、恐怖が立ち上る。美しいからこそ、際立つ怖さだと思います。歌舞伎もまた、美というものを非常に意識した表現なんです。たとえ下品な役でも、下に品と書くわけですから、下品な奴にも品はあると歌舞伎では捉えます。

 『女殺油地獄』の、油まみれになって女性を惨殺する、ちっとも美しくない場面でも、見得を切ったりすることで、お客様に「素敵」と思っていただける。普通に考えたら、全然素敵じゃない(笑)血だらけの恐ろしいシーンですが、歌舞伎では、そのなかにも美しさがあると考える。美があるからこそ、恐怖が成立するという歌舞伎的な発想も、先生の美意識と重なるところだ思います。

 今回の映画で、真行寺君枝さん演じるお母さん(イチエ)も、すごく美しいですよね。お母さんがどういうふうに怖くなるのか、台本を読んでも想像がつかなかったのですが、撮影現場で真行寺さんとご一緒させていただいて、女優さんってすごい! と思いました。こういう風に美しさが狂気に変わっていくんだなって。ただきれいなだけじゃなく、その裏側に何かあったのでは? と思わせる演技。真行寺さんの内から滲み出てくるものなのでしょうが、大変勉強になりました。

演出家それぞれの世界観を知りたい

――本作では、楳図の母・イチエという女性の抱える恐ろしさが大きな見どころですが、愛之助さんもやはり女の方が怖いと思われますか?
愛之助(笑)と、思いますねぇ。やはり人の思いとは怖いもの。それは男子でも女子でも同じです。好きと嫌いは紙一重、可愛さ余って憎さ百倍、なんてよくいわれますけど、その気持ちがどこまで続くのか、どこで反転するのか、わからない。人間の感情って本当に理解できないものです。

 今回の映画はもちろんフィクションですが、ストーリーの背景にある楳図先生の生い立ちやご家族のエピソードは事実だそうです。演じていて、どこまでが本当でどこからが嘘か、僕もわからなくなりました。撮影中も芝居はシリアスなんだけど、あまりにも和気あいあいとした現場のムードに“これで本当にホラーになるのかな?”なんて、少し心配していたんです。でも完成作を観たら、見事に怖い映画に出来上がっていて、感服しました。名作漫画の名場面を彷彿とさせるシーンや、驚きの表情や振り返りの動作など、ホラー描写へのこだわりには、漫画家・楳図かずおが撮ったという意味がきちんと伝わっているのではないかと思います。お客様には、最後の最後まで席を立たずに観届けてほしいですね。

――いまご指摘された、楳図先生の持つ、明るさと怖さというアンビバレントな魅力は、楳図ワールドの大きなテーマでもある、人間の深層心理の奥深さにも繋がるものですね?
愛之助そう思いますね。そして歌舞伎にも、同じような魅力があると思います。歌舞伎って、全部を説明しないで、お客様それぞれが感じて“あの後、どうなったんやろ?”と考えていただく演目が多いんです。謎が残るから難しいなんていわれたりもしますけど、だからこそ楽しめると僕は思います。全部説明されてしまうと、頭を使わずにただ眺めているだけで劇が終わってしまうから、ちっとも心に残らない。歌舞伎には、二度、三度と観ても飽きない仕掛け、新鮮な発見がたくさんある。やはり深いなあと。

――歌舞伎界に身を置きつつ、本作の楳図先生をはじめ、三谷幸喜さん、栗山民也さんら異業種の演出家たちとのお仕事では、何を楽しみにされていますか?
愛之助その人それぞれの世界観を知りたいと思っています。歌舞伎って基本的に演出家がいないので、僕たち俳優が照明の明るさに至るまで、全てを見なくてはなりません。自分で演じながら全体のバランスを見るのはけっこう難しいんですよ。だからこそ、演出家がいてくださるときには、その人がこの作品をどこから見るのか? その演出家の視点を吸収したい。コップひとつでも“えぇっ、底から見るのか!”なんて、すごく新しい驚きじゃないですか(笑)。自分とは180度違う視点を教わって、その経験から学び取ったことを、新しい歌舞伎を作るときにも活かしていければありがたいと思います。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

MOTHER

 人気漫画家・楳図かずお(片岡愛之助)のもとに、ある出版社から彼の生い立ちを記した書籍の企画が舞い込む。その担当編集者となった若草さくら(舞羽美海)は、取材を重ねるうちに、楳図の創作の原点が亡くなった母親イチエ(真行寺君枝)にあることを知る。さくらは楳図の生まれ故郷を訪ねるが、それと同時に周囲で恐ろしい現象が巻き起こる。

監督:楳図かずお
出演者:片岡愛之助 舞羽美海 真行寺君枝
【公式サイト】
2014年9月27日(土)公開
(C)2014「マザー」製作委員会

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片岡愛之助 撮り下ろし☆PHOTO GALLERY☆
『MOTHER』公式サイト

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