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映画は生き残れるか

 2012年の映画興行のふたつの特徴、明暗がわかれた話題作&期待作、洋画をとりまく厳しい環境――映画ジャーナリストの大高宏雄氏が2012年の映画シーンを独自の視線で綴る。

73.3億円(推定)の興収で年間興行ランキング1位になった『BRAVE HEARTS 海猿』(C)2012フジテレビジョン ROBOT ポニーキャニオン 東宝 小学館 エー・チーム FNS27社

73.3億円(推定)の興収で年間興行ランキング1位になった『BRAVE HEARTS 海猿』(C)2012フジテレビジョン ROBOT ポニーキャニオン 東宝 小学館 エー・チーム FNS27社

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 2012年の映画界の特徴は、映画興行に関する限り“一部テレビ局映画の好調さ”と“アニメの新展開”のふたつにおおよそ分けられると思う。前者が、フジテレビが中心になって製作した3本、『BRAVE HEARTS 海猿』『テルマエ・ロマエ』『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』が、邦画と洋画を合わせた作品別興収の上位3位内に入ったこと。後者は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』や『おおかみこどもの雨と雪』が上位を占め、さらにトップテン以外の他のアニメにおいても、ユニーク極まる興行展開を見せたことが、それぞれ挙げられる。

 テレビ局映画が、この10年以上にわたって日本映画界(映画興行)を支えてきたのだが、2012年においてもその“構図”は微動もしなかった。ただ今年は、何らかの節目の年になるような予感がする。近年のテレビ局映画の隆盛は、常識的には『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)をひとつの契機とする。ただ、ついにというのか、この2012年にその『踊る大捜査線』シリーズが終焉したからである。フジテレビという枠を超えても、テレビ局映画はこれで中核となるシリーズものを失った。

 ここで思い出すのが、洋画の『ハリー・ポッター』シリーズが、2011年に終焉したことだ。2000年代における洋画興行の中心的な存在であった同シリーズだったが、その終焉後、洋画は次なる大きな鉱脈を見出しえず、厳しい時代を迎えている。映画興行にかかわらず、何事においても、中核、中心は要の位置にあり、その不在は全体の停滞状態を引き起こす。2013年以降、中心点を欠いたテレビ局映画は、より一層不透明感を増すのではないか。

◆話題作、期待作のなかの明暗

 さて、その一方の洋画のほうだが、トップテンに3本しかランクインされていないのだ。邦画と洋画の興収シェアは、2011年の55%対45%から、60%対40%あたりまで差が広がるとの見立てもある。かつての洋画の隆盛を知る者からしたら、ありえないシェアだろう。洋画だけの興収上位を見ても、シリーズものの多さが目立つものの、『ハリー・ポッター』のような強力シリーズものであった『アメイジング・スパイダーマン』が予想を大きく下回るなど、ヒットのボリュームは小さくなった。

 では、個別的な興行はどうだったか。話題作、期待作のなかで、成功、不成功が顕著だった作品ということになるが、前者は、邦画なら『テルマエ・ロマエ』『ヘルタースケルター』『おおかみこどもの雨と雪』。洋画なら文句なしに『最強のふたり』、そして『TIME/タイム』。後者は、邦画なら『苦役列車』『夢売るふたり』。洋画なら『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』『アメイジング・スパイダーマン』あたりが代表だろうか。

 前者のなかでは『ヘルタースケルター』が、興収21億円を記録して、何とも興味深い興行だったのが目につく。過激なマンガ原作の映画化という題材と、沢尻エリカという稀有な女優が放つスキャンダル的な要素が見事に合致した。もちろん、合致しただけではヒットはおぼつかない。合致の意味は、それが映画の毒をまき散らすことにつながったことである。映画の毒。危ない要素。人々は、ときとして映画の場で、それを欲望の対象とする。タイミングの良さや、具体性を隠すオブラート感覚も必要となり、『ヘルタースケルター』は、そのすべてがうまく回ったのである。

 そして後者なら、興収1億円にさえ届かなった『苦役列車』の興行が、もはや映画そのものが忘れ去られたかのようなひどい映画環境のなか、私の脳裏にはまざまざと思い出されてくる。映画に対して原作者が反発したとかは、この際関係ない。まさに何のオブラートの装いもないストレートな暗くてみじめな“青春映画”など、今の興行の土俵にさえ乗ることはないのだ。ただ、本当にそうなのか、という疑念はある。ミニシアターでの公開だったら果たしてどうだったのか。そのように好意的に考える私の判断を差し引いても、こうした反時代的な作品が登場したとき、その作品を生かすためには、どのような興行の形があるのか、今後しっかりと考えてもらいたいと思うのである。

◆生き残らなくてはならない

 さて、話は洋画に再び戻る。先の“苦戦した”洋画の大まかな理由としては、よくいわれる若者の洋画離れ(洋画そのものに対する関心の低下)が当然根っこにあるとして、この2013年の正月興行作品のふがいない展開を見るに、幅広い層の洋画離れという側面もこれに付け加える必要があると思う。『007 スカイフォール』は及第点だとして、『ホビット 思いがけない冒険』のスタートが、私には驚くべきものであった。

 『ホビット〜』は、2000年代に入って記録的な大ヒットを続けた『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの“スピンオフ”的な作品といっていいが、その興行が、強力シリーズを引き継ぐ作品とはとても思えないようなものになっているのだ。現段階では、20億円に届くような展開ではない。シリーズ色を謳えない宣伝面での制約などがあったと聞くが、それにしても、その成績はシリーズが切り開いたかつての大ヒット現象とあまりに乖離し過ぎていないか。

 うがった見方もできる。シリーズ宣伝ができないことを考慮しつつ、これまでシリーズを支えてきた観客のアンテナが鈍くなった。あるいは、中身をある程度知っていても、スピンオフはシリーズとは似て非なるものであり、それには関心が薄くなった。このふたつがとりあえず類推できるとして、そこから見えてくるのは、不特定多数にまで、相当根深い範囲で洋画離れが進行している日本人の像で、これが非常に深刻なのである。

 結論も何もない。2013年の年明けに「2011年の厳しい成績よりは、かろうじて良かった2012年の映画界」と報道されるだろうが、現実はそんなものではない。一つひとつ、映画の芽がもがれ、散り散りにされている現実が目に入ってくる。代わりに、映画館=シネコンを席巻しつつあるのが、“ODS”といわれる非映画デジタルコンテンツである。映画と非映画。シネコンも、生き残らなくてはならない。資本の非情な論理のただなかで、映画は大きく揺らいでいる。映画は、果たして生き残れるのだろうか。
(文:映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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 『2012年映画興行ランキングTOP10!! 明暗わかれた話題作&期待作…』
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