NHK大河ドラマ『龍馬伝』の高杉晋作、映画『あしたのジョー』の力石徹といった超有名キャラクターさえも自分のものにしてきた俳優・伊勢谷友介（39）が、WOWOWオリジナルのドラマWスペシャル『尾根のかなたに〜父と息子の日航機墜落事故〜』に初主演する。27年前の1985年8月12日、520人の犠牲者を出した日本航空機の墜落事故で肉親を失った3家族を描いたドラマ。今作で伊勢谷は今まで演じてきたどの役とも違うリアリティを持った役に挑んでいる。

　「最近、キャラづいた役が続いていたので、時代劇ではないが現代劇とも違う、少し違った方向へ振り切ってみたいと思っていました。何より、“本”が素晴らしくて、人の心の機微に触れるような作品。出演のお話をいただいて、うれしかったです」。

　今回、伊勢谷の心を動かしたのは、光市母子殺害事件をテーマにした『なぜ君は絶望と闘えたのか　本村洋の3300日』の著者・門田隆将氏が、日航機墜落事故の遺族を取材した同名ノンフィクション（小学館文庫）の原作であり、NHK連続テレビ小説『おひさま』の脚本家・岡田惠和氏の脚本であり、同事故を扱った映画『沈まぬ太陽』の若松節朗監督や撮影監督（カメラマン）の蔦井孝洋氏ら信頼の置けるスタッフだった。

　「カメラマンの蔦井さんとは、10年以上の付き合いがありながら、作品でご一緒するのは僕が監督したショートフィルム1本だけ。撮ってもらうのは今回が初めてでした。そういう機会に恵まれたのもすごくうれしかったですし、今回の現場はとても楽しかったです」。

　ドラマは事故の前、幸せな3家族を描くところから始まる。それが事故後、肉親を失った喪失感で、家族の姿はすっかり変わってしまうが、その悲しみを乗り越え、3人の息子はそれぞれ、父親として新しい家庭を築いていく。数十年にわたる家族の歴史を見つめる。

　伊勢谷が演じるのは、事故で父を亡くした歯科医の峰岸薫。彼は、遺体を家に連れて帰りたい一心で、検視作業に協力する。ほかに、9歳の時、母（広末涼子）と妹が事故に遭い、その後、父・秀人（萩原聖人）とも引き裂かれてしまう小倉光太郎を松坂桃李が、13歳の時に事故で父・正義（緒形直人）を亡くす上杉弘樹を玉山鉄二が演じる。

　事故当時、伊勢谷は9歳。「テレビの向こう側の世界だと思っていました。その時、飛行機は落ちることもあるんだということを知った、そんな印象でした。今回のドラマは、事故でお亡くなりになられた方の命が、残された遺族の中でどのように生き続けたかを見つめると共に、時間の経過というものを強く感じる作品でした。飛行機が落ちたというネガティビティだけでなく、人は悲劇にどう向き合って、どう未来につなげていくのか、それが大事なんだと、役を通じて感じられたのはすごく新鮮でした」。

　大きな喪失から再生していく家族の姿は、東日本大震災後を生きる私たちへのメッセージにもなりそうだ。これには、震災直後から精力的に被災地支援を行ってきた伊勢谷にも特別な思いがある。

　「震災後、亡くなった家族の遺品を探している遺族の方たちをたくさん目にしました。現地で知り合った方とその場では痛みを共有できたかもしれないけど、当事者ではない僕には計り知れない思いがあることもわかっています。今回の作品で、被害者遺族を演じることになり、遺品とは亡くなった方と残された遺族をつなぐもの、そして亡くなった方の思いを伝えていくものだと思いました。人のことをまた少し知ることができました」。

　2009年に設立した会社『リバース・プロジェクト』では、建築廃材を再利用した家具やアート作品を製作したり、デッドストックのジーンズに新たなディテールを施したリメイクアイテムを販売したり、新しいビジネスモデルのプロジェクトを仕掛けて、たびたび話題を集めている。「リアルな世界で本気で出すようになってからは、エンターテインメントの世界では肩肘張らずに自由でいられる感じがします」と語る。

　「常に、役者として、自分自身の心も動かされるものをやっていきたいです。そういう作品に出これからも出会いたいですね。どんなに思っていても、出会えるかどうかはタイミングだと思います。それは恋愛と同じで…、いくら『結婚したい』と願ったところで、結婚できるもんじゃないですもんね。作品との出会いもそういうものだと思っています」。

　伊勢谷が出会ったドラマＷスペシャル『尾根のかなたに〜父と息子の日航機墜落事故〜』は、WOWOWで10月7日（日）・14日（日）の2週連続、午後10時より放送される。