鈴木おさむインタビュー「僕が作るからには新しい価値観を提示したい」
“もしも”の設定が逆に“あるある”を増やす
「夜とか時間が空いたときに、企画の整理をしようと書き留めていたアイデアの1つです。他人のメールをのぞき見したいというのは、誰しもある願望。そんなとき、WiFiをキャッチできる男がいたら……という発想が浮かびました。僕は、ちょっと飛んだ“もしも”を設定することで、逆にいろいろなことが肉薄して見え、“あるある”も増えるように思っています。伊藤さん演じる圭太は、脳内にスマホアプリをダウンロードすることができ、やがて地図アプリの能力も得て、自身の正確な位置もわかるようになります。ですが、それってスマホがあれば誰でもできること(笑)。そんなちょっとしたくだらなさも、視聴者の“あるある=共感”につながると考えています」(鈴木おさむ氏/以下同)
主人公を演じる伊藤については「不思議な役者」と表現する。日本のドラマでは、男女の登場人物がいればそこにラブの要素が入れられることが多い。愛情によって物語を展開させ、さらに厚みを持たせていく伝統的な手法だが、これは同時に視聴者が期待するところでもある。だが伊藤に関しては「それが求められない俳優」とし、「ラブよりもっとフラットな楽しみが期待されている」と分析する。
「ヒロインに新川優愛さんを得たことで、ふたりの関係をよりストイックに見せられるようになったと思います。また、ドラマの縦軸部分を担う社長役には岸谷五朗さん。サスペンス部分がより際立つだろうと期待しています」
19時台がゴールデンなのか?今やメディアはスマホ
「たとえば、TBSの火曜10時は“女性が主人公の枠”という見方がハッキリしている。これは、あの時間に家にいる視聴者層とフィットしたのだと思う。今作の枠は木曜24時ですが、あと1日会社に行けば週末ということで、多少の高揚感があるはず。そんな時間には、会社の“あるある”でクスッと笑える感じがフィットするのではないかと考えました。寝る前やお風呂上がりに、スマホをいじりながら見て欲しいです」
本作には人気の顔認識カメラアプリ『SNOW』が実名で登場している。鈴木氏は「現代が舞台のドラマで、これだけ話題になっているものが登場しない世界観は不自然」とし、「テレビ界は認めたくないことかもしれませんが、80年代からさかんに言われるメディアミックスの“メディア”とは、今やスマホだと思う」と話す。
「僕はYouTuberとよく話をしますが、YouTubeは確実に時代の柱になっていくと思います。彼らの主な視聴者である中高生は、夜寝る前に10分だけ、あの小さい画面でYouTubeを見て楽しむ。時代の流れで人々の時間の使い方も楽しみ方も変わっており、本当に19時台がゴールデンなのか、23時台が深夜枠なのかも疑わしくなっています。そんななか、テレビはどこにターゲティングするのか。スマホなどの新勢力と連動したうえで、それらのユーザー層に向けて何を発信していくのかを考える時期にきています」
お金になることでテレビ局も評価する
「そういった意味でも今後、連続ドラマには可能性があります。ドラマはタイムシフトの数字も出やすく、昨今では録画再生数も評価の対象になり始めている。結局はお金になることでテレビ局も評価するので、こうしたネットの動きからマネタイズができれば、スポンサーの評価方法も変わってくるのではないか。その先陣を切るのが、連続ドラマではないかと考えています」
そんな鈴木氏の挑戦は本作でも継続している。「ちょっとはみ出す感じのSF的な物語。この時間帯で僕が作るからには、その日のトレンドワードに入るドラマにしたい。こういうフォーマットもあるのかなと、新しい価値観を提示していけたらうれしいですね」
(文:衣輪晋一)
(コンフィデンス7月17日号掲載)
脳にスマホが埋められた!
出演:伊藤淳史 新川優愛 安藤なつ(メイプル超合金)/ 篠田麻里子 戸田昌宏 / 岸谷五朗 ほか
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