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尾崎豊の長男・尾崎裕哉インタビュー「指導者じゃなきゃいけなかった」父との違い
「父がやり残したことってなんだろう?」その活動のきっかけに
尾崎裕哉 僕が高校生のときに、ジョン・ウッド(世界の恵まれない子どもたちの支援活動を行う)という方の話に感銘を受けたんです。彼の「1時間にひとつ、世界のどこかに図書館を作っています」みたいなスケールの大きい話を聞いて感動したというか、自分もそういうスケールの大きい、何か世界にインパクトを残せるような人間になりたいなと思って。自分は音楽が好きだから、音楽を軸として社会に貢献したいなという志がそのときに生まれたんです。
――そこには、お父様・尾崎豊さんの影響もありますか?
尾崎裕哉 そうですね、父親の影響は大きいです。なぜかと言うと、父自身がたくさんの人を動かしたことを、僕は見ていたので。記憶にはないんですけど、映像にはたくさんの人がライブに来て熱狂している姿が映っていて、音楽にはこういう力があるんだなって、小さい頃から信じてました。
――なるほど。
尾崎裕哉 音楽にはそういう影響力があることを前提に、でも“父ができなかったこと、あるいはやり残したことってなんだろう?”と考えたとき、音楽を使ってもっと社会にいいことをすることなんじゃないかな、と思ったんですよね。高校生の時に、“あ、これだ”って気づいたんです。
「音楽にできることは?」 東日本大震災にもボランティアで参加
尾崎裕哉 アメリカの学校の活動の一環として、ホームレスシェルターとかにはよく行ってたし、支援はやってました。あとは3.11の震災のときに自分で車を飛ばしてボランティアに行った経験が、大きく影響しているんだと思います。そのときに見たのは、本当に信じられないような光景ばかりで…とにかく情報が錯綜していたし、そういう非常事態に個人でできることって発見しにくいんだなって思ったんですよね。そこで、音楽って心のケアはできるけど、衣食住など物理的なケアはできないじゃないですか? その中で音楽にできることって何なんだろうって、すごく考えました。
――音楽を物理的なケアにつなげること、と。
尾崎裕哉 はい。だからまず、ミュージシャンの社会的責任って何だろう?って考えたんです。ミュージシャンがこの社会に貢献していることといえば、感動を届けることやメッセージを与えることだと思うし、それがこれまで求められていた行いだと思うんですよね。ただ僕はそこだけじゃなくて、もう少し踏み込んだことができないかなと大学のときも研究してて。実際に音楽活動をしながら寄付金を募ることもそうだと思うんですけど、歌で元気を与えるだけじゃない活動っていうのを今後も模索していきたいんですよね。だから、ファッション業界の裏側に児童労働問題があるってことを題材にしている今回の『THE TRUE COST』も、こういう事実があるんだよっていうことだけでも、僕がイベントに出ることによって少しでも多くの人に伝わればいいなと思って参加しているんです。ミュージシャンの活動はもちろん音楽を作ることなんですけど、いちばん大事なところは生き様とか、存在価値だと思っていて。僕は頼れる兄貴みたいな、そんなミュージシャンでいたいなと思う。身近な先輩から影響を受けるように、“自分もやってみようかな”って思ってもらえたらいいなと思うんです。
指導者だった父親、「僕はもっと自然体で音楽活動を」
尾崎裕哉 はい、そうですね。
――お父様の亡くなられた年齢を超えた今、どんな活動をしていきたいですか?
尾崎裕哉まだまだ活動を始めたばっかりなので、やりたいことだらけなんですけど(笑)。もちろん父親の域には、自分は達していない。それはライブをしている場所を見れば一目瞭然だし、まだアルバムも出してませんし(笑)。そういう部分では、もっともっとキャリアをつけてスキルアップしていかなきゃいけないと思うんですけど……。もっとも、彼(尾崎豊)の場合は強烈なキャラクターだったし、指導者じゃなきゃいけない、みたいな部分も少しあったと思うんですね。父は父で本当に自分の言葉を信じて発して、たくさんの人を動かしたんだと思うんですけど、僕は、人を動かす力強いメッセージを発信しながらも、もっと自然体で音楽活動ができたらいいかなって思うんです。それが理想ですね。
――音楽がありながらも、自分の体で動いて行動していくことも伴って。
尾崎裕哉自分の考えている以上のことはやっぱりできないし、背伸びをしても無理がある(笑)。父親は自分の言葉を信じてたから、人を動かせた。信じられないことを言っても、誰にも届かないんじゃないかなと思います。
――ある意味、今はいちばん楽しく音楽を作れているんでしょうか。
尾崎裕哉そうですね。音楽はやってましたけど、ちゃんと曲を作り始めてから時間はそんなに経ってなくて。まだまだこれから、努力していかなきゃいけない。まだ自分の作った曲で、“わぁ、コレすげえ!”とか“ホレボレするわぁ”とか思ったことないんです(笑)。いつかそういう瞬間がくればいいなと思います。
――どのように制作しているんですか?
尾崎裕哉僕は360度ソングライティングって呼んでるんですけど、その時に思いついたものを何でも曲にしていく方法をとろうと思っています。そうして曲が生まれて、誰かに聴かせたときに“いいじゃん!”って言ってもらえたら嬉しいですね。今って、聴いてくれる人と“こういうこと歌ってほしいよ”“じゃあ、こういうのはどう?”っていうようなコミュニケーションができる環境ですよね。それは、ミュージシャンにスター性があって、聴く人が酔いしれていたような父親の時代とはちょっと違う。今っぽく、コミュニケーション重視で、もっとフラットなのもいいのかな、と思います。
――ライブには幅広い層のファンが来てくれているぶん、多くの方にメッセージを届けられそうですね。
尾崎裕哉今の段階だと父親のファンの方が多いので、父親世代の方が多いと思います。でもこの前、新宿と大阪でライブをしたら、意外と同世代や10代の方も来てくれてたんですよね。僕世代の父親のファンっていう方、親子で来てくれる方もいるし、僕がやっていたラジオを聴いて来てくれた方もいる。そういう幅広い層に興味を持ってもらえるのが、すごく嬉しいですね。
(文/川上きくえ)
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