ORICON NEWS

作詞活動45周年・松本隆独占インタビュー 稀代の“言葉の魔術師”が語るヒット曲の昔と今

大衆が欲しがっているものを作るとヒットする

――8月に行われるトリビュートコンサートに関してお伺いしたいと思います。これまでも何度か、トリビュートコンサートが行われていますが、今回は初めてオリジナル曲を歌った歌手やアーティスト、まさにレジェンドたちが集まりました。
松本 これはディスクガレージの小柳さんのセレクション。なんでもそうなんだけど、スタッフの中に情熱をもった人がひとりいると、機関車みたいに引っ張って、こういうことが起きたりするんだよね。彼のセレクションはカバーではなくてオリジナルだった。CDはカバーでコンサートはオリジナルだから、それぞれセパレートしていて全然リンクしていないんだ。僕はカバーの人も出てもいいと思っているんだけど(笑)、彼はそこにすごくこだわっている。

――本当に両者はまったく別のところから生まれた企画なんですね。
松本 逆にそういうのが面白いと思っていて。お互いが雪だるまみたいに大きく膨らんでいくのを、真ん中にいる僕は、今何が起きているのかよくわからない状態で、目が点になって見ているというか(笑)。今まではこういうイベントを企画すると「懐メロですか?」と言われて、企画倒れになってしまうことが多かったんだけどね。Twitterのタイムラインを見ると多くの人が「すごいメンバー」という感想をツイートしているわけ。大衆が欲しがっていているものをメディアが対応できていない。そういうときに、大衆が欲しがっていているもの作るとヒットする。それは今まで僕と京平さんがやってきたことなんだ。

――2日間にあれだけのアーティストが一堂に会するのは本当に凄いことだと思います。
松本 奇蹟が実現するのを待っているという感じはあるよね。

――その奇蹟の中でも特に注目を集めているのは、元はっぴいえんどの3人が同じステージに上がるということですが。この再結成はどのような経緯で決まったんでしょうか。
松本 前から細野さんがやりたがっていたことで、大滝さんを口説きに行こうかと言っているうちに、亡くなってしまった。はっぴいえんどは4つの角があって、それがガチガチしていたから上手くいかなかったんだけど、こういう人間関係は1ヶ所が崩れると意外とうまく回り出してしまうことがあって……。昨日、細野さんと僕と(鈴木)茂の3人で会って当日どういう曲を何曲やるかについて話し合ったんだけど、非常にスムーズで、あっという間に10分くらいで終わってしまった。

ドラムは敵前逃亡するかもしれない(笑)

――今回は松本さんがドラムで参加することも話題になっていますよね。
松本 敵前逃亡するかもしれない(笑)。体は生ものだから練習をやりすぎると筋を痛めてしまうわけ。今はその加減が難しいなと思っていて。これって映画の『ロッキー』と同じじゃない? 『ロッキー』と同じくらいの苦労なので、誰かこれを映画にしてくれないかな(笑)。まず新しいドラムを買うことから始めて、今はスティックを作ってもらっているところ。

――すごく楽しみです。松本さんの歌詞が若い世代にも受け入れられているのは、作品自体の普遍性はもちろんですが、松本さん自身が常に若い感性をもたれているからなのではないか、と思うのですが。アニメや海外ドラマやゲームにも関心をもたれていて、最近はとくにSNSを積極的に活用されています。それが若い世代に対しての訴求力になっているように思います。
松本 前に「風街茶房」というウェブサイトを川勝君と両輪でやっていたんだけど、川勝君が亡くなって、運営が難しくなってやめてしまったの。40周年が終わって隠居しようと思っていた時期でもあって。でもTwitterだったら無料で人件費なしで、自分で簡単に発信できるなと思った。

――松本さんがTwitterを始めたときは驚きました。
松本 先日、映画『海街diary』の映画のパンフレットにも書いたんだけど、あの映画は食べるシーンがすごく多くて、ご飯食べながら「お父さんが死んだ」という深刻な話をしているところが面白いの。その辺に是枝監督の才能を感じるわけだけど、それを見て食べることが生きることなんだって強く思った。一時期、Twitterに食べ物の写真をあげることに関してアメリカの心理学者が「心理的に問題がある」と指摘して、それ以降Twitterに食べ物の写真をあげる人が一気に少なくなった。でも僕はアメリカの心理学者は絶対に間違っていると思った。人間の生活は衣食住が基本で、住むところがなかったらホームレスになるし、着るものがなかったら凍え死んでしまうし、食べなければ死んでしまう。最後の食べないと死ぬというのはいちばん重要なわけ。だから、食べ物の写真をTwitterに挙げることはとても自然なことで心理的な問題はない。食べ物の写真を撮ってはいけないというお店の考えもおかしいと思う。お金を払っているわけだから食べようが写真撮ろうがこっちの勝手だよね(笑)。

詞先の作り方を継承したい

――松本さんのFacebookにはよく食べものが挙げられていますよね。
松本 美味しいものをみんなに教えてあげているの(笑)。あまりに美味しすぎて話題になると、行列ができて自分が食べられなくなってしまって、今は京都でそのジレンマに悩まされている(笑)。

――そうやって、今までは手の届かなかった伝説の人がSNSで発信している。それが大きいのではないかと思います。
松本 今回の雪だるまの原動力になっているかもね。自分と同世代の人から平成生まれの若い人まで日本中にいるわけだから、ありがたいと思う。

――では最後に、『風街であひませう』と「風街レジェンド2015」以降の松本さんの活動を教えていただけますでしょうか。
松本 詞は3曲書いてあって、ひとつは細野さんに渡しています。雑誌『BRUTUS』に発表した「エスプレッソ」という詞。詞先(しさき)の曲作りをみんなに教えようと思って、細野さんの許可を得て『BRUTUS』に掲載したの。曲先の作り方しか知らないのは、モノづくりの1/3くらいしか理解していないということで、要するに音楽の作り方を知らない人が主流を占めてしまっているから音楽のマーケットが縮小しているんだと思う。その原因は基本的な音楽の作り方が継承されていないことにあって、これを正さないといけない。人のことだからどうでもいいことかもしれないんだけど(笑)。でも詞先の作り方をドキュメントしようと思った。細野さんはまだ手をつけていないらしくボツになる可能性もあるけどね(笑)。こういうやり方ができるのは、細野晴臣と大滝詠一と筒美京平だけだね。僕が安心して歌詞を渡せるのは。

――もう2曲についてはいかがですか。
松本 あとの2曲についてはまだ言えない。面白いものになると思うけど。

(文/竹部吉晃,長井英治(ラジオ歌謡選抜) 写真/草刈雅之)

『松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート 「風街であひませう」』

■完全生産限定盤 2CD+書籍+しおり/VIZL-842 4500円(税抜)
Disc1:「風街でうたう」(トリビュートアルバム)
Disc2:「風街でよむ」(ポエトリーリーディングアルバム) ディレクター:是枝裕和
○ハードカバー書籍仕様 ・対談:松本隆×宮藤官九郎/解説:最果タヒ(詩人)/オリジナルショートストーリー:山内マリコ(作家)
■通常盤 CD/VICL-64356 3000円(税抜)
(完全生産限定盤のDisc1と同内容)
松本隆 作詞活動四十五周年記念オフィシャルプロジェクト
風街レジェンド2015
○日時:2015年8月21日(金),22日(土)
 [21日]開場18:00/開演19:00 [22日]開場16:00/開演17:00
○会場:東京国際フォーラム ホールA

○出演:松本隆/細野晴臣/鈴木茂
伊藤銀次/稲垣潤一/イモ欽トリオ/EPO/太田裕美/大橋純子/小坂忠/斉藤由貴/佐野元春/杉真理/鈴木雅之(21日)/寺尾聰/中川翔子/早見優/原田真二/水谷豊(22日)/南佳孝/美勇士/安田成美(22日)/矢野顕子(21日)/山下久美子/吉田美奈子 他
[風街ばんど]井上鑑(音楽監督・Keyboards)/松原正樹(Guitar)/今剛(Guitar)/吉川忠英(A.Guitar)/高水健司(Bass)/林立夫(Drums)/山木秀夫(Drums)/三沢またろう(Percussion)/比山貴咏史(Chorus)/佐々木久美(Chorus,Organ)/藤田真由美(Chorus)/山本拓夫(Woodwinds)/金原千恵子(Violin) 他

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索