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作詞活動45周年・松本隆独占インタビュー 稀代の“言葉の魔術師”が語るヒット曲の昔と今

薬師丸ひろ子の優れた感性 詞を理解して歌っている

――思えば、今まで松本さんの歌詞を朗読するというアイディアがなかったというのも不思議ですよね。
松本 これは革命的なことなんだよ。今まで歌詞は常に音楽の添え物みたいに軽く見られていたから、音楽を取っ払っちゃうとこうなるということを聞かせたかった。

――曲というのはまず歌手の人気や歌唱があって、次にメロディやサウンドアレンジ、最後に歌詞という順で評価されてきたのを、松本さんがその順番を変えてみせた。この朗読を聴くとそれがよくわかります。
松本 ある意味これは歌詞だけで自立できることを証明できたよね。

――朗読で松本さんの歌詞を改めて聴くと、それまでサウンドやメロディで気付かなかった詞がストレートに入ってきます。
松本 意味が違う詞に聞こえてくるよね。薬師丸(ひろ子)さんの「あなたをもっと知りたくて」とか。彼女に「あの曲って明るくて爽やかなタイプの曲なのに、そんなの読んで面白いの?」って聞いたら「面白いんです」っていうわけ。あの人は優れた感性を持っていて、詞をそこまで理解して歌っている。そういうのってやっぱり朗読にも出てくるよね(笑)。あと、この朗読のCDの「魔女」から「初戀」っていう流れがすごいね。女の子の二面性が分かるよね。

――ここで二面性が見られるとは思いませんでした(笑)。
松本 思わないよね(笑)。影から光へのどんでん返しが強烈だなって。

――その「初戀」は今人気の広瀬すずさんが朗読されていますね。
松本 現役の青春の強さですね。彼女にあの歌詞を読んでもらうと改めてこの曲の世界観を確認する部分があるよね。斉藤由貴さんは悔しがっていたからね(笑)。

「風をあつめて」の朗読は詞を書いた本人特権で

――だから「卒業」は渡さないと(笑)。斉藤由貴さんの「卒業」は本当に素晴らしくて、まるでひとり芝居をしているようですね。
松本 あれは野外の海辺でレコーディングしたんだけど、僕はその様子をずっと後ろから見ていた。斉藤由貴さんと是枝監督と音声さんの邪魔しないように30メートルくらい離れていたところで。そうしたら本番中、目の前に停泊していた海上保安庁の船が消火訓練か何かでいきなり放水を始めたの。思わず写真を撮ってしまったんだけど、それはまるでディズニーランドのアトラクションみたいな夢のような光景だった。

――今回は松本さんもご自身で朗読をされていますね。
松本 はっぴぃえんど時代にも『はっぴいえんど』(通称『ゆでめん』収録の「続はっぴーいいえーんど」)で読んでいるし、昔はライブのレパートリーが少なくて、大滝さんに「松本、詞を読め」と言われて何度か朗読させられたことがあった。6曲演奏しなければならないのに5曲しかレパートリーがなかったりして……。僕が朗読している時間、他のメンバーは休んでいるという(笑)。

――なぜ今回「風をあつめて」を朗読しようと思われたのですか。
松本 「風をあつめて」は今までNHKの特番などで何度か読んでいるから読みやすいというのもあったけど、今回は木谷君からお願いされて読むことになった(笑)。でも本当なら細野(晴臣)さんに読んでもらったほうがいいんだけどね。細野さんの声の低音の魅力はすごいからね。今回は詞を作った本人特権ということで。斉藤由貴さんは褒めてくれたけど(笑)。

――雰囲気が伝わる朗読だと思います。
松本 過去に友部正人さんに頼まれて、朗読のための詞を書き下ろしたことがあるんだけど、それはあまり面白いものにはならなかった。でも歌のために書いた詞を読むのは長さもちょうどいいし、リズム感も適切で、これは娯楽になるということに今回気づいた。みんなが知っている歌詞だと、面白がって聞いてくれるし、退屈しないんだよね。

――ほかにご自身で読みたい歌詞はありましたか。
松本 なんでも読める。「空いろのくれよん」でも「夏なんです」でも。

『風街であひませう』はまるでオリジナルアルバムに近い完璧な出来

――ぜひ聴いてみたいものです。『風街であひませう』には元はっぴいえんどの3人でレコーディングされた「驟雨の街」が収録されています。
松本 はっぴいえんど時代の未発表曲「驟雨の街」が発見されたので、これをどうにかしなきゃということで、細野さんと密談したんです。「驟雨の街」と「めざめ」という2曲が発見されたんだけど「めざめ」は僕と細野さんが初めて共作した曲で、『ゆでめん』に収録される予定だった。でも小倉エージさんにボツにされたいわくつきの曲でね(笑)。「めざめ」は細野さんがソロアルバムに入れたいから、「驟雨の街」は松本にあげると言われたので、『風街であひませう』に入れようと。この曲は最初ハナレグミに歌ってもらうことになっていたんです。ハナレグミからもOKをもらった後に細野さんが「やっぱり自分で歌いたい」と……。急にわがままを言うわけですよ(笑)。でも細野さんには誰も逆らえない。

――細野さんらしいエピソードですね(笑)。
松本 そこでハナレグミが浮いてしまったので、ラッツ&スターの「Tシャツに口紅」を歌ってもらうことになった。この曲は大滝さんプロデュースのとても出来のいい曲だけど、一般的にはマイナーなイメージがあって、ずっともったいないと思っていたから、この機会に引っ張り出してみた。

――大滝詠一さんへのオマージュ的な1曲になりましたね。
松本 いろいろな理由と状況的な流れで偶然そうなったんだけど、ハナレグミでレコーディングしてみたらすごく良かった。

――様々なアレンジで歌われたカバー曲を聴かれてみて、どのような感想を持ちましたか。
松本 すべてが新鮮に聴こえた。こういうアルバムって、歌手と歌の組み合わせが合っていない捨て曲がたいてい半分、もしくは3〜4曲くらいあるものなんだけど、このアルバムに関してはそれが1曲もない。まるでオリジナルアルバムに近い完璧な出来だと思う。奇跡だよ。サウンドプロデューサーを務めてくれた鈴木正人さんの功績が大きいよね。120点満点だね。朗読のCDを入れたら150点満点(笑)。

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