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降谷建志、「歌や楽器の天才じゃなかったからこそ作れた」1stソロアルバム

 2015年、Dragon Ashの活動と並行してソロプロジェクトをスタートさせた降谷建志。3月16日発売の配信シングル「Swallow Dive」、完全生産限定シングル「Stairway」を経て、6月17日に1stソロアルバム『Everyting Becomes The Music』を発売した。作詞・作曲はもちろん、全ての楽器演奏、歌録り以外のレコーディングまで自ら行ったという本作。「歌や楽器の天才じゃなかったからこそ作れたアルバム」と降谷は話す。

全部自分でやるってカッコいいなって(笑)

――ソロ活動をスタートしたきっかけを教えてください。
降谷建志 去年、Dragon Ashのツアーをやっている合間に曲を作り始めたんですけど、Dragon Ashのアルバムを出して、ツアーをしていく中で、今までに味わったことのない達成感や自信を持てたんです。それが精神的なきっかけで、あとは、ツアーの後に、まとまった制作期間が取れるタイミングもあったのでで、ツアーが終わってから、本格的に制作をスタートさせました。

――すべての楽器を一人で演奏するというスタイルは大前提として考えていたものなのですか?
降谷 はい、そうですね。だって、カッコよくないですか(笑)? 全部、自分でやるなんて。

――以前から、いつかやってみたいと思っていたのでしょうか。
降谷 どうでしょうね? そもそも、ソロ活動自体、これまで「できなかった」と言うよりも、「興味がなかった」んです。だから、「いつかやろう」という考えも、まったくなかった。バンドだろうがソロだろうが、自分の実体験を元に、曲を書くという点では同じですから。もちろん、Dragon Ashはロックバンドだから、等身大よりは、“マッチョイズム”みたいな鎧を着るような部分はあるけど、それでも同じ人間が曲を作っているわけだし、バンドでできないことは、特にないので。やらないことは、いっぱいあるけど。だから、ソロアルバムを作りたいと言うよりも、“全部の楽器を自分でやりたい”という気持ちの方が、どちらかと言えば大きかったのかな。

――曲作りから演奏まで、すべてを自分で行うと、理想に近づける一方で、難しい面もあったのでは?
降谷 おっしゃる通り、演奏のズレがうねりを生んで、うねりがグルーヴになるということが一切起きないことは、デメリットでした。すべての楽器を、同じ脳から手に伝わるリズムで演奏するわけだから、練習すればするほど、ギター、ベース、ピアノ、シンバル、すべてが同じタイミングで“点”として鳴るようになる。だから、グルーヴは生まれにくいし、複数の感性が化学反応を起こすような魔法もない。でも裏を返せば、頭の中で設計図さえきちんと描けていれば、努力次第で、限りなく理想に近いものに落とし込めるということですね。

“敗北続きの楽器人生”だからこそできたアルバム

――歌においても、Dragon Ashとは違うニュアンスを感じました。それはソロを意識しての表現なのか、あるいは、あくまでもメロディに寄り添った結果なのでしょうか?
降谷 二者択一なら後者ですね。ただ、意識した側面も、ひょっとしたらあったのかも。まあ、Dragon Ashよりは低いところ(音域)で歌っていますし、Dragon Ashだったらチャンスとばかりに“がなる”ようなフレーズを、今回はファルセットで歌っていたりして、それだけでも、かなり雰囲気は変わりますから。ただ、自分の歌に関しては、よく分かりません。おそらく、歌だけで満足いく自己表現ができたり、人を納得させられる能力があったら、こんなにいろんな楽器に手を出していないと思うんですよ。

――それは、どういう意味ですか? 詳しく聞かせてください。
降谷 俺がバンドを始めたきっかけも、最初はベースだったんですけど、もしKenKenくらい上手かったら、ベースだけでアイデンティティを確立させられるじゃないですか。でも、俺はそうではなかった。ギターも、すごく練習するけど、圧倒的な一番にはなれないという感覚を常に抱いていました。ドラムもそうだし、ピアノもそう。ずっとコンプレックスを持って、ある種の敗北続きの楽器人生なんです(笑)。でも、そのおかげで、気が付くとほとんどの楽器ができるようになった。だから、歌や楽器の天才じゃなかったからこそ作れたアルバムなのかなと思います。

――今はそうして生み出した音楽の届け方が多様化していますよね。降谷さんは、ミュージシャンとリスナーが一番幸せでいられる伝え方は、どのようなものだと思いますか?
降谷 ハイレゾも含めて配信って、俺もよく買うけど、突き詰めて考えれば、ネットビジネスから生まれたものであって、要は、音楽業界のアイデアではない。そこが、音楽業界の現状を生み出した要因のひとつだし、全員の責任なんだと思います。ミュージシャンも、音楽業界の人も。だから、そろそろ音楽が好きな人たちが、音楽ありきで発信していく何かを生み出さないと、どんどんつまらないものになってしまうと思う。そういう意味では、作り手も聴き手も、お互いに一番誠実でいられる場は、ライブだと思います。

積み重ねてきたものを作品にしただけ

  • 1stソロアルバム『Everyting Becomes The Music』ジャケット写真

    1stソロアルバム『Everyting Becomes The Music』ジャケット写真

――おっしゃる通り、ここ数年、ライブ動員は増え続けていますよね。
降谷 だけど、フェスやライブが音楽ビジネスのメインだという時代も、すぐに終わるでしょう。これだけフェスが増えて飽和してくると、自然と淘汰されて、本当に意味のあるもの、必要な場所だけが残るだろうから。そういった時に次に何が出来るか、それを音楽が好きな人たち全員が考えないといけないと思う。間違いなく、近い将来に起こることでしょうからね。そうは言っても、中卒ロッカーは、そんなことを考えるよりも音楽を作る方が向いているから(笑)、だから俺は、音楽を作り続けるだけなんです。「時代性」とか「ビジネス」とか、御託を並べればキリがないけど、クリエイターって本来は、単純に好きだから作るわけで。しかも、音楽好きな人たちの数千分の一、数万分の一の人間だけが、ミュージシャンとして、好きな音楽だけをやって生きていくことが許されているわけですから、それを考えたら、もうシーンやジャンルがどうこうじゃなくて、自分の美学を持って、怠けず、志高く曲を作って、ライブをやるしかないんです。時代を嘆くのも、現役である俺たちがやってしまったら、ちょっと恥ずかしいことですし。

――よく分かりました。それでは、ソロ活動の今後の展望を教えてください。
降谷 すぐに2枚目を作りたいです。アルバムが2枚ないと、(曲数的に)ツアーができませんから。誠意ある形で自分の世界観をきちんと提示できるのは、やっぱりワンマン。倍の曲数があれば、その中から選んでいけるので、もう1枚、早く作りたいですね。

――初のソロアルバムをファンにどのように聴いて欲しいですか?
降谷 純粋に、ひとつの音楽として楽しんでもらえればいいかな。ただ、楽器をやっている人であれば、“敗北の楽器人生”で作れたアルバムだから、言い替えれば、誰にでも作り得る作品だと思っているんです。「ギターを弾けない」っていう人でも、今日から練習を始めれば、10年後には大ベテランですよ。要は、やるかやらないか、日々の積み重ねでしかないんです。このアルバムも、何か特別なひらめきや魔法で作ったものではなくて、ただただ積み重ねてきたものを作品にしただけです。だから、少しでも音楽を目指している人なら、余裕で乗り越えていって欲しい曲もあるし、このアルバムを基準に楽器を練習してもらってもいいんじゃないかと思っています。

(文/布施雄一郎)

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