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ORICON NEWS
山崎まさよし『デジタルな時代だからこそ“生音”を大切に!』
デジタル時代だからこそ、“自分の手”で時間をかけて楽曲制作を――
「ひと昔前までは、街で鳴っているとか、喫茶店の有線放送で鳴っているとか、ラジオもそうだし、選ぶ選ばざるに関わらず、いたるところで音楽を耳にしていました。そういう環境の中で、ポップスというものは育ってきたと思います。そういう意味では、僕自身どこでどんな風に聴かれてもいいと思って作っているし、この形で聴かないとダメということはないんです」
また、こうしたデジタル社会の最先端をいく企画だからこそ、「音楽は生や素朴感にこだわった」と話す。
「僕の仕事は、入口なんです。そこから先は、ダウンロードなのかCDなのか、どういうハードで聴くのか、ヘッドフォンやスピーカーはどうか、それで最終的な出口にいるのがリスナー。結局、入口である音楽そのものが、いかにいいものであるかということが、とても重要です」
デジタルで聴かれる時代だからと言って、じゃあPCで手軽に作ればいいというわけではない。実際に山崎は、今でもピアノやアコースティックギターを弾きながら、それこそ“自分の手”で時間をかけて楽曲を作っている。『ボンカレー』のCMソングにしても、「道を歩いていたら、女の子が練習するピアノの音がもれ聞こえてきたような感じとか、自然音のようなものを出せたらと思って」ということで、スタジオにマイクを立て、部屋の空気感ごとレコーディングする手法を取った。マイク位置を細かく変えながら、実際に自分で演奏してという繰り返しで、かなりの時間を費やしたそう。
「やはりモノを作るには、たくさんの時間をかけないといけないと思っています。アイディアを寝かせるのもそうだし。パッと思いついてパッとできてしまうということは、確かめもせずに流れでできてしまっているということ。そういうものは、人の心にとどまらずに通り過ぎていってしまうんです。カレーもやっぱり手間かけて、煮込めば煮込むほどに美味しくなりますよね。『ボンカレー』はレトルト食品で、食べるのは簡単だけど、入り口のカレー作りのところでは、煮込んでからじっくり寝かせる行程までやっているそうで、だから美味しいんです。音楽も、それと同じことが言えると思います。負荷をかけてものの成熟を計ることは、すごく大切です。でもそれは、生楽器であるとか、人の手を介したものであるとか、生のものでないと絶対にできないことなんです」
山崎の“生”指向は、期せずして時代の最先端に!?
「昔は、オーディオマニアの人がそういう感じだったけど、今は普通の人でも、気にするようになっていると思いますね。先日、葛飾シンフォニーホールでやったライブをハイレゾ録音して、配信したんです。うちには、それを聴けるシステムがないので、残念ながら聴けていないんだけど(苦笑)。聴いてくれた方がたくさんいたし、すごくいい音で良かったと言ってくれました。個人的には、ハイレゾで録音した音源を、アナログ盤にしてターンテーブルで聴いてみたいですね。アナログで周波数帯域のすごく広いものをハイレゾで録って、ダイレクトカッティングで溝を彫ったら、きっと最高音質のアナログ盤レコードになるはずなので、面白いと思うんですけどね」
アナログフェチを自負する山崎。自宅では、木で作られたウッドコーンのスピーカーで、アナログ盤レコードをよく聴いているとのこと。しかし山崎のような嗜好を持った音楽リスナーは、年々数を増している。実際に、アナログレコードとCDの中古販売の専門店「HMV record shop渋谷」が、8月2日にオープンするなど、アナログ盤は再ブレイクの兆しだ。山崎の“生”指向は、期せずして時代の最先端を行っていると言えるのかもしれない。それは、今回山崎が手がけた『ボンカレー』のWEB CMもそうだろう。
「働くお母さん」テーマに、日々忙しさに追われる若い母親が、自分の母親のことを重ね、母の愛情を思い出すという内容。まるでショートムービーのような作りで、温かい感動が心の琴線に触れる作品。そこに、山崎の楽曲がやさしく寄り添っている。
「幸せとか愛情って、見つけにくいし隠れているもの。日々忙しく過ごしていると、なかなか見えてこない。それが、ちょっとした思い出を振り返ったり人と触れあったりすることで、見えなかったものがあふれてきます。この曲が、そのきっかけのひとつになったらいいなと思います」
WEBやダウンロードといった、最新のデジタル環境のなかで、CMや音楽などのクリエイティビティーが繰り広げられた、今回のCM企画。山崎まさよししかりCMクリエイターしかり、デジタルの先には、人のぬくもりや生の手触りをしっかりと見据えている。
(文:榑林史章)
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