昨年12月に30歳の節目を迎えた家入レオが26日、通算19枚目のシングル「Mirror」をリリースした。日本テレビ系水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌で、UNISON SQUARE GARDEN、TenTwentyのギター&ボーカル・斎藤宏介をフィーチャリングに迎えた、家入初となる男性アーティストとのコラボ曲だ。ここ数年、自分自身としっかり向き合うことで「人の期待に応えることが全く苦にならなくなった」という家入に、今作について、また自分らしさについて話を聞いた。
――新曲「Mirror feat.斎藤宏介」は、斎藤宏介さんとのコラボレーションで、曲作りも音楽プロデューサーRyosuke“Dr.R”Sakaiさん、シンガー・ソングライター麦野優衣さんとのコライトでの制作だったそうですね。そうした新しい挑戦をしようと思ったきっかけは?
【家入】今年の春にお休みをいただいて、1ヶ月ほど海外に行かせていただいたんです。オーストラリアの数ヶ所と、マレーシア、シンガポールに行って。2027年に迎えるデビュー15周年が見えてきたタイミングで、東京という普段生活している場所から距離を置くことで、新しい気付きがあるかもと思ったんです。語学だったり、リフレッシュといった自分の中でのテーマもありつつ、ミュージカルを観たり、現地のミュージシャンと曲作りのセッションをしたりといった素晴らしい体験をして。もちろん楽しさを感じつつも、改めて東京でトライ&エラーを繰り返しながら音楽をやっている自分がとても好きだと思えたんです。そうして帰国した後に、日本テレビ系水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌のお話をいただいて。再来年の15周年に向けて、今までのことも大事にしながら、新しい挑戦をしていけたらと思って、いつかご一緒出来たらいいなと思っていた(Ryosuke “Dr.R” )Sakaiさんと曲作りをスタートさせました。
――男性アーティストと初コラボとなった斎藤さんとは、どのような経緯で?
【家入】まずドラマの脚本を読ませていただいて、男女2人の逃走劇ということで、制作だけではなく、歌唱スタイルも男性とフィーチャリングすることで、新しい自分の引き出しを皆さんにも見ていただけるかなと考えて。そこで、以前に音楽番組でご一緒させていただいて、魅力的な歌声がずっと気になる存在だった斎藤さんにお声がけさせていただきました。まだ曲ができる前の段階だったんですが、快諾していただいて。ですから余計に、斎藤さんの期待以上のものを一緒に歌えるように精進したいなと思って、曲を作りました。
――海外に行ったこともそうですし、ドラマの内容やコラボレーションなど、いろんな巡りあわせが重なって、「Mirror」が生まれたんですね。
【家入】ここ1〜2年、「流れに乗る」ということが私のテーマで。20代の頃は、音楽をやりたいという軸はありつつも、自分には何が合うのか、どういう道があるのかを模索しながら、心の内側や今目の前にあるものと言うよりは、外に意識を向けている状態だったんです。「この地点に行けたら大丈夫」と思っていても、そこにたどり着いた瞬間、もう次を見ている感覚があって。でも今は、自分からつかみに行くというよりも、人生の方から私に問いかけてくれるメッセージを拾うようになりました。Sakaiさんも、ずっとご一緒したいと思っていたんですけど、自分からつかみにいかない方が出会える気がしていたんです。いつか絶対、そのタイミングが来るはずだって。それが今回だったので、とても自然な形でパズルのピースがちゃんとはまっていくような、深呼吸しながら1つ1つを享受できた楽曲制作でした。
――アルバム『My name』(2024年)の時に、それまでの悩みや試行錯誤がようやく自分の財産になったと語っていましたが、今はそこから、さらに家入さんのフェーズが進んだように思います。その点、ご自身ではどう感じていますか?
【家入】もともと私は、行き場のない気持ちを表現するという、自分にとってのセラピーであり、本音を言える場所として音楽を作っていたんです。そういう行為に“家入レオ”という名前がついてデビューするという形だったので、そこに嘘はないんですけど、どこか生活者としての私自身と乖離した部分も少なからず感じていて。そこに悩んだり、葛藤したこともあったんですけど、『My name』で、その両方の自分をちゃんと音楽で表現することができました。“家入レオ”も、本名の私も、どちらも自分だと認めることができた時、人の期待に応えることがまったく苦ではなくなって、むしろ“家入レオ”をちゃんとやり切りたいと思ったんです。
それは「演じる」ということとも違うし、ありのままでいいということでもなくて。言葉を選ぶのが難しいですが、両方が互いに溶け合ってひとつになったんでしょうね。その時に、自分が本当にいいと思ったことをやればいいんだと自信がついて、『My name』以降の曲には境界線がなくなった。それで、純粋に自分の気持ちを音楽にすることが本当に楽しくなれたし、それが誰かの胸に届いたらいいなって、自分も、届けたい相手のことも大事にしながら音楽を続けていく術が、本当の意味でわかったんだと思います。
――春先に海外で感じたことも、もしかしたら2〜3年前の家入レオさんだったら、また違ったものになっていたのかもしれませんね。
【家入】そうですね。今をちゃんと生き切ろうと思えたんです。今ここにいるのに、未来のことに頭を悩ませたり、過去を考えることって、もったいない。もちろん、それが分かっていても思考を止められない時期って、誰にでもありますよね。でも私はその時期が終わって、今この瞬間にしっかりと向き合えるようになったし、そういう心身で今を生きていると、「過去って変えられるんだ」と気が付いたんです。
――「過去を変える」とは、どういうことですか?
【家入】今とちゃんと向き合って、自分をしっかり受け止めてあげられると、「あの時、ああすればよかった」っていう過去も、すべて「あれでよかったんだよね」と思えるようになったんです。決してきれい事とかではなくて、過去のその時々で「誰かの期待に応えたい」「自分の弱さを音楽で表現したい」と試行錯誤していた自分も、「よく頑張っていたよね」って気付けたし、それを応援してくれたファンのみなさんがいてくれたことにも、改めて感謝の気持ちが止まらなくなって。私は私でよかったんだと、今、そう思えています。
――今の生き方によって、過去を肯定できるというか、その時々にやったことのすべてがつながって、今がある、と。
【家入】これは30歳になったから言えることなんですけど、私は、人とも日常とも、十二分に感情を使って向き合ってきました。それでもなお、「もっと上手くやらずにいればよかったのにな」って思う自分もいて。もっと人とぶつかってみたり、もっと相手を信頼してみるべきだったのかもと思う部分もあるんです。だから「上手くやろうとしなくてよかったんだ」ってすごく思うんですね。
――家入さんの言う「上手くやろうとしなくていい」をもう少し伺いたいです。
何か、過去の上手くいかなかったことを失敗と思ってしまうのは、今の自分が、何か不安を抱いているからのような気がしていて。自分が「今の自分でよかった」と思えていたら、過去も「それでよかったんだ」と思えるだろうし。ただ私も一人の人間ですから、これから先もまた何かに悩んで「自分なんて」って思うこともあれば、「自分でよかった」って思う瞬間もあるんだろう思います。そういう矛盾を自分の中に宿していること自体が真実であって。ですから、30歳の今の現在の私のインタビューを読んでいただいて「あの時はこう言っていたのに」って思われることもあるでしょうけど、「その時はその答えだったけど」というものを更新していくことが、長く活動を続けることだと思うんです。
もしかしたら、投げやりに聞こえてしまうかもしれないけど、絶対にこれからめちゃくちゃ幸せになるし、どうせまた傷つくと思っていて。それだけは決定している気がするんです。だったら、幸せになることも怖がりたくないし、傷つくタイミングが来たとしても「大丈夫だよ、どうせ幸せになるから」と自分に言ってあげたい。私はそんなに出来た人間じゃないので、常に何かを模索しているし、日々、人に教えていただくことがたくさんあります。だからこそ、その時々で思っていることを、ちゃんと言葉とメロディにしていくことが、私の正義かなって。そう思っているんです。
――過去を変えることで、「自分らしさ」に対する考え方にも、何か変化はありましたか?
【家入】それは常に変わっているかもしれません。自分らしさって、人と関わっていくことで変化していくものだと私は思っていて。「分人」というワードを平野(啓一郎)さんの本で知ったんですけど、長らく一つの身体には一つのキャラクター、性格が入っているという考えが根付いているけど、実は出会った人の数だけ「自分」というものが生まれていくのが「分人」で、たぶん私は、それがとても強い人間だと思うんです。もし、幼稚園の時の友達と二十歳過ぎてからの友達が同じ部屋で私のことを待っていたら、どっちの自分になって部屋に入ればいいのか分からなくなるようなところがあるんです。
じゃあ、幼稚園の時の自分が嘘なのか、二十歳過ぎの自分が嘘なのかなんてことはまったくなくて、どちらも正解。その人と一緒にいる時の私が私っていうタイプなんです。だから今回、斎藤さんと歌ったことで自分の新しい分人が生まれたし、Sakaiさんや麦野さんと制作させていただいたことでも、また別の分人が生まれて…。
10代、20代前半の頃は、すごく自分の個性がほしかったし、自分らしさって何なんだろうと向き合い続けていました。それを経て、今は「どうせ(個性は)あるからいいや」と思えるし、「どうせ変わっていくからいいや」とも思う。仮に「家入さんってこういう人ですよね」と言っていただけて、それが喜ばしいことでも、少し落ち込むことでも、いい意味で、もう自分には関係ないと思えるようになったんです。
「こういう人」というものは、その人が私に対して感じていることであって、私が思っている私ではない。自分らしさって、他者が思う自分、他人が思う“家入レオ”のイメージだって考えられるようになったので、そこにはあまりこだわらなくなりました。意識して自分らしさを出そうとしなくても、どうやっても私になるんだという自信が付いたのかもしれません。
それは音楽においてもそうで、今回もSakaiさんのスタジオで、1本のマイクの前で麦野さんと交代でメロディを出し合っている時に、自分の外側のものが1枚ずつめくられていくような、そんな感覚があって。「自分らしさ」として私の中に根を生やしているものしかSakaiさんには届かない気がしたし、偽りはすべて見抜かれるなと思ったんです。
――自分の本質にはない表面的な表現をしても、その薄っぺらさはいとも簡単にバレてしまう、と。
【家入】そうですね。そもそも、自分では薄っぺらいとすら思っていなかったことでも、「あれ?これって私じゃなかったのかも」と感じたり。考えて自分らしさを出そうとしている時は、まだそれは自分らしさになっていない気がします。その思考を排除することができたのかもしれません。考えることをやめた、という感じなのかな。だからこそ、咄嗟に出てきたものが本当の自分な気がしていて。それに対して自分がショックを受けることもあるじゃないですか。たとえば、驚かされた時に、本当は可愛く驚きたいのに、2オクターブ下の低い声が出たり(笑)。それと同じで。すごくピンチの時に、その人の本性が出るって言いますよね。自分に対してもそう思っていて、そこで、その人、自分の底が知れるんだなと思っていて。
――今、気が付くことができた「自分らしさ」の本質を、昔の自分にもっと早く教えてあげたかった?
【家入】いや、教えてもらっていたと思います。周りにいてくださった方や、スタッフさん、そして友達から。ただ、大事なことだとは分かっていたんですけど、本当の意味で理解できていなかった。でもそれでよかったとも思うんです。やっぱり経験が伴わないと、本当の意味で自分のものにならないし、早い段階で知ることが何でもいいというわけでない気がするんです。人それぞれにタイミングがあって、10歳で気が付く人もいれば、60歳で分かる人もいる。だけど「分かること」が大切で、それぞれのタイミングは天秤にかけられるものではなくて。私は今、それを理解できる段階にいるということだけが、大切な真実だと思っています。
――人としても、アーティストとしても、今、心身・音楽のバランスがとてもいい、充実した状態なんですね。
【家入】そうだと思います。でも、バランスがいいからといって、日々の気持ちの浮き沈みがなくなるわけではないというのが、これまた面白くて。ただそれすらも受け入れられるようになったことで、どんな日々が私を迎えに来ようとも、「大丈夫」と思えるようになったと言うか。
――なるほど。寄せる波が穏やかになったわけではなく、大きな波が来ても小さな波でも、それらを乗りこなせるようになったという感覚?
【家入】そうですね。波は変わっていくんですよ、人生だから。穏やかな時もあれば、大波の時もある。でも、海に浮かんでいる自分は自分だし、海が凪であったとしても、それで私の喜怒哀楽がマイルドになるわけではない。そうしたこともまた、今はとても楽しく感じられています。
取材・文:布施雄一郎
<作品情報>
家入レオ「Mirror」
リリース日:2025年11月26日
■完全生産限定盤
品番:VIZL-2489/価格:4400円(税込)
DVD収録内容:
Leo Ieiri Studio Live 2025 at Victor Studio
(もし君を許せたら/Lady Mary/この世界で/サザンカ/ワルツ)
■初回限定盤
品番:VIZL-2490/価格:2750円(税込)
DVD収録内容:
Mirror feat.斎藤宏介(Music Video)
Mirror(Making Movie)
■通常盤
品番:VICL-37802/価格:1650円(税込)
【収録曲】(共通)
1. Mirror feat.斎藤宏介
2. ラブレター
3. Mirror(Instrumental)
4. ラブレター(Instrumental)
――新曲「Mirror feat.斎藤宏介」は、斎藤宏介さんとのコラボレーションで、曲作りも音楽プロデューサーRyosuke“Dr.R”Sakaiさん、シンガー・ソングライター麦野優衣さんとのコライトでの制作だったそうですね。そうした新しい挑戦をしようと思ったきっかけは?
【家入】今年の春にお休みをいただいて、1ヶ月ほど海外に行かせていただいたんです。オーストラリアの数ヶ所と、マレーシア、シンガポールに行って。2027年に迎えるデビュー15周年が見えてきたタイミングで、東京という普段生活している場所から距離を置くことで、新しい気付きがあるかもと思ったんです。語学だったり、リフレッシュといった自分の中でのテーマもありつつ、ミュージカルを観たり、現地のミュージシャンと曲作りのセッションをしたりといった素晴らしい体験をして。もちろん楽しさを感じつつも、改めて東京でトライ&エラーを繰り返しながら音楽をやっている自分がとても好きだと思えたんです。そうして帰国した後に、日本テレビ系水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌のお話をいただいて。再来年の15周年に向けて、今までのことも大事にしながら、新しい挑戦をしていけたらと思って、いつかご一緒出来たらいいなと思っていた(Ryosuke “Dr.R” )Sakaiさんと曲作りをスタートさせました。
――男性アーティストと初コラボとなった斎藤さんとは、どのような経緯で?
【家入】まずドラマの脚本を読ませていただいて、男女2人の逃走劇ということで、制作だけではなく、歌唱スタイルも男性とフィーチャリングすることで、新しい自分の引き出しを皆さんにも見ていただけるかなと考えて。そこで、以前に音楽番組でご一緒させていただいて、魅力的な歌声がずっと気になる存在だった斎藤さんにお声がけさせていただきました。まだ曲ができる前の段階だったんですが、快諾していただいて。ですから余計に、斎藤さんの期待以上のものを一緒に歌えるように精進したいなと思って、曲を作りました。
【家入】ここ1〜2年、「流れに乗る」ということが私のテーマで。20代の頃は、音楽をやりたいという軸はありつつも、自分には何が合うのか、どういう道があるのかを模索しながら、心の内側や今目の前にあるものと言うよりは、外に意識を向けている状態だったんです。「この地点に行けたら大丈夫」と思っていても、そこにたどり着いた瞬間、もう次を見ている感覚があって。でも今は、自分からつかみに行くというよりも、人生の方から私に問いかけてくれるメッセージを拾うようになりました。Sakaiさんも、ずっとご一緒したいと思っていたんですけど、自分からつかみにいかない方が出会える気がしていたんです。いつか絶対、そのタイミングが来るはずだって。それが今回だったので、とても自然な形でパズルのピースがちゃんとはまっていくような、深呼吸しながら1つ1つを享受できた楽曲制作でした。
――アルバム『My name』(2024年)の時に、それまでの悩みや試行錯誤がようやく自分の財産になったと語っていましたが、今はそこから、さらに家入さんのフェーズが進んだように思います。その点、ご自身ではどう感じていますか?
【家入】もともと私は、行き場のない気持ちを表現するという、自分にとってのセラピーであり、本音を言える場所として音楽を作っていたんです。そういう行為に“家入レオ”という名前がついてデビューするという形だったので、そこに嘘はないんですけど、どこか生活者としての私自身と乖離した部分も少なからず感じていて。そこに悩んだり、葛藤したこともあったんですけど、『My name』で、その両方の自分をちゃんと音楽で表現することができました。“家入レオ”も、本名の私も、どちらも自分だと認めることができた時、人の期待に応えることがまったく苦ではなくなって、むしろ“家入レオ”をちゃんとやり切りたいと思ったんです。
それは「演じる」ということとも違うし、ありのままでいいということでもなくて。言葉を選ぶのが難しいですが、両方が互いに溶け合ってひとつになったんでしょうね。その時に、自分が本当にいいと思ったことをやればいいんだと自信がついて、『My name』以降の曲には境界線がなくなった。それで、純粋に自分の気持ちを音楽にすることが本当に楽しくなれたし、それが誰かの胸に届いたらいいなって、自分も、届けたい相手のことも大事にしながら音楽を続けていく術が、本当の意味でわかったんだと思います。
――春先に海外で感じたことも、もしかしたら2〜3年前の家入レオさんだったら、また違ったものになっていたのかもしれませんね。
【家入】そうですね。今をちゃんと生き切ろうと思えたんです。今ここにいるのに、未来のことに頭を悩ませたり、過去を考えることって、もったいない。もちろん、それが分かっていても思考を止められない時期って、誰にでもありますよね。でも私はその時期が終わって、今この瞬間にしっかりと向き合えるようになったし、そういう心身で今を生きていると、「過去って変えられるんだ」と気が付いたんです。
――「過去を変える」とは、どういうことですか?
【家入】今とちゃんと向き合って、自分をしっかり受け止めてあげられると、「あの時、ああすればよかった」っていう過去も、すべて「あれでよかったんだよね」と思えるようになったんです。決してきれい事とかではなくて、過去のその時々で「誰かの期待に応えたい」「自分の弱さを音楽で表現したい」と試行錯誤していた自分も、「よく頑張っていたよね」って気付けたし、それを応援してくれたファンのみなさんがいてくれたことにも、改めて感謝の気持ちが止まらなくなって。私は私でよかったんだと、今、そう思えています。
――今の生き方によって、過去を肯定できるというか、その時々にやったことのすべてがつながって、今がある、と。
【家入】これは30歳になったから言えることなんですけど、私は、人とも日常とも、十二分に感情を使って向き合ってきました。それでもなお、「もっと上手くやらずにいればよかったのにな」って思う自分もいて。もっと人とぶつかってみたり、もっと相手を信頼してみるべきだったのかもと思う部分もあるんです。だから「上手くやろうとしなくてよかったんだ」ってすごく思うんですね。
――家入さんの言う「上手くやろうとしなくていい」をもう少し伺いたいです。
何か、過去の上手くいかなかったことを失敗と思ってしまうのは、今の自分が、何か不安を抱いているからのような気がしていて。自分が「今の自分でよかった」と思えていたら、過去も「それでよかったんだ」と思えるだろうし。ただ私も一人の人間ですから、これから先もまた何かに悩んで「自分なんて」って思うこともあれば、「自分でよかった」って思う瞬間もあるんだろう思います。そういう矛盾を自分の中に宿していること自体が真実であって。ですから、30歳の今の現在の私のインタビューを読んでいただいて「あの時はこう言っていたのに」って思われることもあるでしょうけど、「その時はその答えだったけど」というものを更新していくことが、長く活動を続けることだと思うんです。
もしかしたら、投げやりに聞こえてしまうかもしれないけど、絶対にこれからめちゃくちゃ幸せになるし、どうせまた傷つくと思っていて。それだけは決定している気がするんです。だったら、幸せになることも怖がりたくないし、傷つくタイミングが来たとしても「大丈夫だよ、どうせ幸せになるから」と自分に言ってあげたい。私はそんなに出来た人間じゃないので、常に何かを模索しているし、日々、人に教えていただくことがたくさんあります。だからこそ、その時々で思っていることを、ちゃんと言葉とメロディにしていくことが、私の正義かなって。そう思っているんです。
――過去を変えることで、「自分らしさ」に対する考え方にも、何か変化はありましたか?
【家入】それは常に変わっているかもしれません。自分らしさって、人と関わっていくことで変化していくものだと私は思っていて。「分人」というワードを平野(啓一郎)さんの本で知ったんですけど、長らく一つの身体には一つのキャラクター、性格が入っているという考えが根付いているけど、実は出会った人の数だけ「自分」というものが生まれていくのが「分人」で、たぶん私は、それがとても強い人間だと思うんです。もし、幼稚園の時の友達と二十歳過ぎてからの友達が同じ部屋で私のことを待っていたら、どっちの自分になって部屋に入ればいいのか分からなくなるようなところがあるんです。
じゃあ、幼稚園の時の自分が嘘なのか、二十歳過ぎの自分が嘘なのかなんてことはまったくなくて、どちらも正解。その人と一緒にいる時の私が私っていうタイプなんです。だから今回、斎藤さんと歌ったことで自分の新しい分人が生まれたし、Sakaiさんや麦野さんと制作させていただいたことでも、また別の分人が生まれて…。
10代、20代前半の頃は、すごく自分の個性がほしかったし、自分らしさって何なんだろうと向き合い続けていました。それを経て、今は「どうせ(個性は)あるからいいや」と思えるし、「どうせ変わっていくからいいや」とも思う。仮に「家入さんってこういう人ですよね」と言っていただけて、それが喜ばしいことでも、少し落ち込むことでも、いい意味で、もう自分には関係ないと思えるようになったんです。
「こういう人」というものは、その人が私に対して感じていることであって、私が思っている私ではない。自分らしさって、他者が思う自分、他人が思う“家入レオ”のイメージだって考えられるようになったので、そこにはあまりこだわらなくなりました。意識して自分らしさを出そうとしなくても、どうやっても私になるんだという自信が付いたのかもしれません。
それは音楽においてもそうで、今回もSakaiさんのスタジオで、1本のマイクの前で麦野さんと交代でメロディを出し合っている時に、自分の外側のものが1枚ずつめくられていくような、そんな感覚があって。「自分らしさ」として私の中に根を生やしているものしかSakaiさんには届かない気がしたし、偽りはすべて見抜かれるなと思ったんです。
――自分の本質にはない表面的な表現をしても、その薄っぺらさはいとも簡単にバレてしまう、と。
【家入】そうですね。そもそも、自分では薄っぺらいとすら思っていなかったことでも、「あれ?これって私じゃなかったのかも」と感じたり。考えて自分らしさを出そうとしている時は、まだそれは自分らしさになっていない気がします。その思考を排除することができたのかもしれません。考えることをやめた、という感じなのかな。だからこそ、咄嗟に出てきたものが本当の自分な気がしていて。それに対して自分がショックを受けることもあるじゃないですか。たとえば、驚かされた時に、本当は可愛く驚きたいのに、2オクターブ下の低い声が出たり(笑)。それと同じで。すごくピンチの時に、その人の本性が出るって言いますよね。自分に対してもそう思っていて、そこで、その人、自分の底が知れるんだなと思っていて。
――今、気が付くことができた「自分らしさ」の本質を、昔の自分にもっと早く教えてあげたかった?
【家入】いや、教えてもらっていたと思います。周りにいてくださった方や、スタッフさん、そして友達から。ただ、大事なことだとは分かっていたんですけど、本当の意味で理解できていなかった。でもそれでよかったとも思うんです。やっぱり経験が伴わないと、本当の意味で自分のものにならないし、早い段階で知ることが何でもいいというわけでない気がするんです。人それぞれにタイミングがあって、10歳で気が付く人もいれば、60歳で分かる人もいる。だけど「分かること」が大切で、それぞれのタイミングは天秤にかけられるものではなくて。私は今、それを理解できる段階にいるということだけが、大切な真実だと思っています。
――人としても、アーティストとしても、今、心身・音楽のバランスがとてもいい、充実した状態なんですね。
【家入】そうだと思います。でも、バランスがいいからといって、日々の気持ちの浮き沈みがなくなるわけではないというのが、これまた面白くて。ただそれすらも受け入れられるようになったことで、どんな日々が私を迎えに来ようとも、「大丈夫」と思えるようになったと言うか。
――なるほど。寄せる波が穏やかになったわけではなく、大きな波が来ても小さな波でも、それらを乗りこなせるようになったという感覚?
【家入】そうですね。波は変わっていくんですよ、人生だから。穏やかな時もあれば、大波の時もある。でも、海に浮かんでいる自分は自分だし、海が凪であったとしても、それで私の喜怒哀楽がマイルドになるわけではない。そうしたこともまた、今はとても楽しく感じられています。
取材・文:布施雄一郎
<作品情報>
家入レオ「Mirror」
リリース日:2025年11月26日
■完全生産限定盤
品番:VIZL-2489/価格:4400円(税込)
DVD収録内容:
Leo Ieiri Studio Live 2025 at Victor Studio
(もし君を許せたら/Lady Mary/この世界で/サザンカ/ワルツ)
■初回限定盤
品番:VIZL-2490/価格:2750円(税込)
DVD収録内容:
Mirror feat.斎藤宏介(Music Video)
Mirror(Making Movie)
■通常盤
品番:VICL-37802/価格:1650円(税込)
【収録曲】(共通)
1. Mirror feat.斎藤宏介
2. ラブレター
3. Mirror(Instrumental)
4. ラブレター(Instrumental)
2025/11/26




