2010年に発売された大貫妙子&坂本龍一さんによるコラボレーション・アルバム『UTAU』のアナログレコード盤と、ライブ映像『UTAU LIVE IN TOKYO 2010』のBlu-ray版が、7月3日に同時発売された。そのリリースを記念して7月5日から3週間限定で、東急歌舞伎町タワー109シネマズプレミアム新宿でライブ映像の特別上映が実施され、7月15日には大貫妙子が登壇するトークイベントが行われた。なお、特別上映は好評につき7月31日まで延長されることとなった。
■坂本さんのメロディに大貫が詞を紡ぎ 2人が息を合わせてアルバムを制作
「『UTAU』のアルバム・レコーディングも、そのあとに行われたツアーも、全部忘れてしまったのですが……」
トークイベントの司会を務め、アルバム制作当時『Sound&Recording Magazine』の編集者として取材に立ち会っていた國崎晋氏の呼び込みで登壇した大貫は、第一声で牽制球を投げた。
今春、大貫はNHKの番組収録のため、同アルバムのレコーディングを行った札幌の芸森スタジオを再訪している。それを機に、彼女がレコーディングのエピソードを思いだしたのではないかと國崎氏も観客も期待したのだが、肩透かしを食らってしまった形だ。
「私の住まいは東京ですが、一時期札幌にも部屋を借りていて、東京と札幌を往復していたことがありました。そのときに芸森スタジオという素晴らしいスタジオがあると知って、今作をレコーディングすることになったんですよね。当時、坂本さんはニューヨークに住んでいらっしゃったのですが、スケジュールはマネージャーさんにお任せといった感じだったんです。たしかマネージャーさんから『教授、ここからここまでスケジュールが空いていますから、大貫さんと何かやったらいいんじゃないですか?』という提案があって、坂本さんは『あ、そう』という生返事だったような気がします」
坂本さんのマネージャーの鶴の一声で急きょ始まったプロジェクトだったため、レコーディングに多くのミュージシャンを集めることは難しいと判断。大貫の歌と坂本さんのピアノというシンプルな編成でアルバムが制作されることとなった。
収録曲の中には、坂本さんがすでにリリースしていたインストゥルメンタルの曲に大貫が新たに詞をつけた「3びきのくま」「Antimony」「Flower」、そしてこのアルバムのために書き下ろされた「a life」がある。
「私自身も作詞作曲をする際は、すべて曲を先に作ります。いわゆる“曲先”という手法で、できあがったメロディが言葉を呼ぶんです。ずっとそのスタイルで歌を作ってきたので、坂本さんのインストゥルメンタルの曲を聴いて言葉が浮かんできたりしていました。そして、いつか坂本さんの曲に1曲か2曲でも詞を書かせていただきたいなと思っていたんです。そんな話をしたら、坂本さんが簡単に『いいよ』とボソボソッとおっしゃったんですよね。思わず『本当に人の話を聞いてい!?』って聞き返したら、小声で『いいよ』って、そんな感じです(笑)」
記憶を手繰り寄せるように『UTAU』のプロジェクトが開始した経緯を語った大貫は、曲に詞をつけるメソッドも語った。
「詞を作るときは、曲をひたすらひたすら聴いていきます。そうすると、湖の底から言葉が泡みたいに浮かんでくるんです。その言葉がメロディにピタッとハマると、そこから波紋のように言葉を広げていけるんですよね。この手法は、自分で作詞作曲をするときも同じです」
トークショーではアナログレコード盤から「美貌の青空」「夏色の服」「鉄道員」が披露された。肩や足でリズムを刻んだり、空を見つめたり、目を閉じたりしながら音楽を聴く大貫は時々微笑みを浮かべていたのだが、國崎氏から「美貌の青空」は売野雅勇氏の作詞だったと言われると、思わず苦笑いが。
「『美貌の青空』も自分で作詞をしたものだと思いこんでいたのですが、聴いていて、私が使う言葉ではないなって思いました。考えてみたら、この曲のオリジナルは坂本さんがご自身で歌を入れている曲ですから、詞はもともとついていたんですよね。たぶん私が『歌いたい』と言ったんでしょうね。坂本さんから『この曲歌ったら?』という言葉は聞いたことがないですから」
本作全編にわたって包み込む独特の空気感について振り返った大貫は、素顔の坂本さんに接して驚いたことがあったと明かす。
「本作に漂う空気感については、自然豊かな芸森スタジオで収録したということももちろんあると思いますが、実はレコーディング期間はプライベートな感じで過ごしていて、朝起きると坂本さんが朝ドラを見ながら朝食をとっていたんですよね。朝ドラが好きな彼の一面は、私も知らなかったので意外だなと思いました。そんなことも含めて、都会でのレコーディングはリラックスできるような状況ではないので、今作は特別な空気の中でレコーディングできたのだと思います」
芸森スタジオでは、2人がそれぞれのブースに入り、互いが見えない状況で阿吽の呼吸をたよりにレコーディングを進めていったという。
「『UTAU』のようにシンプルな曲の場合は、アイコンタクトをとれる状況ではなくても、ヘッドフォン越しに気配や呼吸を感じることで、2人の息が合うところがあるんですよね。互いに寄り添うように、テンポが速くなったり遅くなったりしながらも、1つの世界を作るほうが美しいものが生みだせるんです。ただ、時々歌っているときに坂本さんの弾くピアノがしっくりこないなということもありました。でも曲の途中で歌を止めると、ものすごく彼の機嫌が悪くなるんです(笑)。やはり坂本さんも極限まで集中力を高めてピアノを弾いているので、途中で遮られるのは気分が悪いのでしょうね。その点はずいぶん気を使いました」
こうしてレコーディングが進められた『UTAU』だが、國崎氏の当時の取材メモによって、大貫の歌は後日横浜のランドマークスタジオで全曲撮り直しをしていることがわかると、彼女は目を丸くした。
「芸森で録った歌が収められていると思いこんでいたのですが、全曲撮り直していたなんて! 何のために札幌まで行ったのでしょう(笑)。でも、どこか気になったところがあって、1曲歌い直すとほかの曲と雰囲気が異なってしまうから、全曲歌い直したということでしょうね」
■自身で奏でる音楽に涙する 坂本さんは犬の耳を持つ!?
トークイベントに続いて上映されたBlu-rayのライブ映像『UTAU LIVE IN TOKYO 2010』は、同ツアー終盤の12月10、11日に行われた東京国際フォーラム公演の模様が収録されている。見どころの1つは、アルバムとは異なるアレンジで展開される坂本さんのピアノだ。
「ツアーのステージに立っているのは2人だけなので、坂本さんがいい意味で勝手にアレンジを変えていましたね。曲によって坂本さんが突然即興で弾きはじめることもたびたびあって、『え?』って焦ったこともありましたが、どんなに彼が自由になってもめげずに淡々と歌うことを心がけていました。たぶん坂本さんは、決まったフレーズをツアーで何回も弾くことに飽きちゃうんですよね。彼は私の歌のバックミュージックを奏でる演奏者ではなくてアーティストですから、自由に弾いていただきました」
イベントの会場となった東急歌舞伎町タワー109シネマズプレミアム新宿は、坂本が生前に音響を監修し、SAION Super Real Effects(SSRE)が導入されている。通常、Blu-rayは2チャンネルの信号で音源が収録されているが、同劇場ではBlu-rayの原音を残したままサラウンド的に残響を楽しめる設備を完備している。
「坂本さんの耳は、まるで犬の耳のようなんですよね。それくらい彼は耳がいいんです。私には聴こえないような高音も彼には聴こえていて、レコーディング中に自分で奏でた音に涙が止まらなくなってしまうこともありました。優しい人なのでよく涙を流していましたね」
Blu-rayには、坂本さんの「KOKO」という曲から着想を得て大貫が詞を書いてでき上がった「3びきのくま」も収められている。この曲には、「太陽からほどよい距離に地球があったからいろいろな生物が仲良く生きていける」というメッセージが込められているという。2人の奏でる音楽を聴いていると、大貫と坂本さんが出会って音楽を作った奇跡、そして2人が紡いだ音楽に私たちが出合った奇跡に思いを馳せずにはいられない。
文・森中要子
<リリース情報>
■『UTAU A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』
アナログレコード3枚組
発売日:2024年7月3日
CDオリジナル発売日:2010年11月10日
品番:RZJM-77978~80/価格:12,100(税込)
Produced by 坂本龍一 & 大貫妙子
Vocal:大貫妙子
Piano, Celesta & Rhodes:坂本龍一
■『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』
Blu-ray
発売日:2024年7月3日
DVDオリジナル発売日:2011年11月9日
品番:RZXM-77999/価格:6,600円(税込)
収録:2010年12月10、11日、東京国際フォーラム
Bonus Contents収録:2009年12月26日、東京国際フォーラム
Produced by 大貫妙子 & 坂本龍一
Vocal:大貫妙子
Piano:坂本龍一
■坂本さんのメロディに大貫が詞を紡ぎ 2人が息を合わせてアルバムを制作
「『UTAU』のアルバム・レコーディングも、そのあとに行われたツアーも、全部忘れてしまったのですが……」
トークイベントの司会を務め、アルバム制作当時『Sound&Recording Magazine』の編集者として取材に立ち会っていた國崎晋氏の呼び込みで登壇した大貫は、第一声で牽制球を投げた。
今春、大貫はNHKの番組収録のため、同アルバムのレコーディングを行った札幌の芸森スタジオを再訪している。それを機に、彼女がレコーディングのエピソードを思いだしたのではないかと國崎氏も観客も期待したのだが、肩透かしを食らってしまった形だ。
「私の住まいは東京ですが、一時期札幌にも部屋を借りていて、東京と札幌を往復していたことがありました。そのときに芸森スタジオという素晴らしいスタジオがあると知って、今作をレコーディングすることになったんですよね。当時、坂本さんはニューヨークに住んでいらっしゃったのですが、スケジュールはマネージャーさんにお任せといった感じだったんです。たしかマネージャーさんから『教授、ここからここまでスケジュールが空いていますから、大貫さんと何かやったらいいんじゃないですか?』という提案があって、坂本さんは『あ、そう』という生返事だったような気がします」
坂本さんのマネージャーの鶴の一声で急きょ始まったプロジェクトだったため、レコーディングに多くのミュージシャンを集めることは難しいと判断。大貫の歌と坂本さんのピアノというシンプルな編成でアルバムが制作されることとなった。
『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』限定特別上映トークイベントより 撮影:佐藤早苗
「私自身も作詞作曲をする際は、すべて曲を先に作ります。いわゆる“曲先”という手法で、できあがったメロディが言葉を呼ぶんです。ずっとそのスタイルで歌を作ってきたので、坂本さんのインストゥルメンタルの曲を聴いて言葉が浮かんできたりしていました。そして、いつか坂本さんの曲に1曲か2曲でも詞を書かせていただきたいなと思っていたんです。そんな話をしたら、坂本さんが簡単に『いいよ』とボソボソッとおっしゃったんですよね。思わず『本当に人の話を聞いてい!?』って聞き返したら、小声で『いいよ』って、そんな感じです(笑)」
記憶を手繰り寄せるように『UTAU』のプロジェクトが開始した経緯を語った大貫は、曲に詞をつけるメソッドも語った。
「詞を作るときは、曲をひたすらひたすら聴いていきます。そうすると、湖の底から言葉が泡みたいに浮かんでくるんです。その言葉がメロディにピタッとハマると、そこから波紋のように言葉を広げていけるんですよね。この手法は、自分で作詞作曲をするときも同じです」
トークショーではアナログレコード盤から「美貌の青空」「夏色の服」「鉄道員」が披露された。肩や足でリズムを刻んだり、空を見つめたり、目を閉じたりしながら音楽を聴く大貫は時々微笑みを浮かべていたのだが、國崎氏から「美貌の青空」は売野雅勇氏の作詞だったと言われると、思わず苦笑いが。
「『美貌の青空』も自分で作詞をしたものだと思いこんでいたのですが、聴いていて、私が使う言葉ではないなって思いました。考えてみたら、この曲のオリジナルは坂本さんがご自身で歌を入れている曲ですから、詞はもともとついていたんですよね。たぶん私が『歌いたい』と言ったんでしょうね。坂本さんから『この曲歌ったら?』という言葉は聞いたことがないですから」
本作全編にわたって包み込む独特の空気感について振り返った大貫は、素顔の坂本さんに接して驚いたことがあったと明かす。
「本作に漂う空気感については、自然豊かな芸森スタジオで収録したということももちろんあると思いますが、実はレコーディング期間はプライベートな感じで過ごしていて、朝起きると坂本さんが朝ドラを見ながら朝食をとっていたんですよね。朝ドラが好きな彼の一面は、私も知らなかったので意外だなと思いました。そんなことも含めて、都会でのレコーディングはリラックスできるような状況ではないので、今作は特別な空気の中でレコーディングできたのだと思います」
芸森スタジオでは、2人がそれぞれのブースに入り、互いが見えない状況で阿吽の呼吸をたよりにレコーディングを進めていったという。
「『UTAU』のようにシンプルな曲の場合は、アイコンタクトをとれる状況ではなくても、ヘッドフォン越しに気配や呼吸を感じることで、2人の息が合うところがあるんですよね。互いに寄り添うように、テンポが速くなったり遅くなったりしながらも、1つの世界を作るほうが美しいものが生みだせるんです。ただ、時々歌っているときに坂本さんの弾くピアノがしっくりこないなということもありました。でも曲の途中で歌を止めると、ものすごく彼の機嫌が悪くなるんです(笑)。やはり坂本さんも極限まで集中力を高めてピアノを弾いているので、途中で遮られるのは気分が悪いのでしょうね。その点はずいぶん気を使いました」
こうしてレコーディングが進められた『UTAU』だが、國崎氏の当時の取材メモによって、大貫の歌は後日横浜のランドマークスタジオで全曲撮り直しをしていることがわかると、彼女は目を丸くした。
「芸森で録った歌が収められていると思いこんでいたのですが、全曲撮り直していたなんて! 何のために札幌まで行ったのでしょう(笑)。でも、どこか気になったところがあって、1曲歌い直すとほかの曲と雰囲気が異なってしまうから、全曲歌い直したということでしょうね」
『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』限定特別上映トークイベントより 撮影:佐藤早苗
トークイベントに続いて上映されたBlu-rayのライブ映像『UTAU LIVE IN TOKYO 2010』は、同ツアー終盤の12月10、11日に行われた東京国際フォーラム公演の模様が収録されている。見どころの1つは、アルバムとは異なるアレンジで展開される坂本さんのピアノだ。
「ツアーのステージに立っているのは2人だけなので、坂本さんがいい意味で勝手にアレンジを変えていましたね。曲によって坂本さんが突然即興で弾きはじめることもたびたびあって、『え?』って焦ったこともありましたが、どんなに彼が自由になってもめげずに淡々と歌うことを心がけていました。たぶん坂本さんは、決まったフレーズをツアーで何回も弾くことに飽きちゃうんですよね。彼は私の歌のバックミュージックを奏でる演奏者ではなくてアーティストですから、自由に弾いていただきました」
イベントの会場となった東急歌舞伎町タワー109シネマズプレミアム新宿は、坂本が生前に音響を監修し、SAION Super Real Effects(SSRE)が導入されている。通常、Blu-rayは2チャンネルの信号で音源が収録されているが、同劇場ではBlu-rayの原音を残したままサラウンド的に残響を楽しめる設備を完備している。
「坂本さんの耳は、まるで犬の耳のようなんですよね。それくらい彼は耳がいいんです。私には聴こえないような高音も彼には聴こえていて、レコーディング中に自分で奏でた音に涙が止まらなくなってしまうこともありました。優しい人なのでよく涙を流していましたね」
Blu-rayには、坂本さんの「KOKO」という曲から着想を得て大貫が詞を書いてでき上がった「3びきのくま」も収められている。この曲には、「太陽からほどよい距離に地球があったからいろいろな生物が仲良く生きていける」というメッセージが込められているという。2人の奏でる音楽を聴いていると、大貫と坂本さんが出会って音楽を作った奇跡、そして2人が紡いだ音楽に私たちが出合った奇跡に思いを馳せずにはいられない。
文・森中要子
<リリース情報>
■『UTAU A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』
アナログレコード3枚組
発売日:2024年7月3日
CDオリジナル発売日:2010年11月10日
品番:RZJM-77978~80/価格:12,100(税込)
Produced by 坂本龍一 & 大貫妙子
Vocal:大貫妙子
Piano, Celesta & Rhodes:坂本龍一
■『UTAU LIVE IN TOKYO 2010 A PROJECT OF TAEKO ONUKI & RYUICHI SAKAMOTO』
Blu-ray
発売日:2024年7月3日
DVDオリジナル発売日:2011年11月9日
品番:RZXM-77999/価格:6,600円(税込)
収録:2010年12月10、11日、東京国際フォーラム
Bonus Contents収録:2009年12月26日、東京国際フォーラム
Produced by 大貫妙子 & 坂本龍一
Vocal:大貫妙子
Piano:坂本龍一
2024/07/25



