■The Burning Deadwoods、連続リリースに宿すトラックメイカーの矜持
ダンスミュージックを基軸としつつ、R&Bやジャズ、ローファイヒップホップ、シティーポップなど、さまざまなジャンルを横断したサウンドを生み出す2人組バンド・The Burning Deadwoodsが2日、今年3作目となる配信シングル「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」をリリースした。
2020年末に結成された同バンドは、Deadwood F(Ba&Gt&Pro)とDeadwood K(Key&Pf&Pro)からなる2人組バンド。顔や年齢といった素性が一切明かされない匿名性、そして曲ごとに多彩なゲストボーカルを迎えるという独自のスタイルで話題を呼んでいる。
1stアルバム『T.B.D.』を完成させた2021年、フジテレビTWO×ひかりTV共同制作ドラマ『恋と友情のあいだで』の主題歌「No Other Way feat. DedachiKenta & Sincere」でその名を知らしめた2022年を経て、今年は「Aliens feat. Furui Riho」(5月24日配信)、「Nowhere feat. 弱酸性」(6月21日配信)とリリースを立て続けてきた。
ORICON NEWSは今回そんな注目度急上昇中の2人と初対面をはたし、作曲法や制作環境をひも解いていく。トラックメイカーである彼らが“バンド”を名乗る理由、そしてリリースを重ねる中で虎視眈々と狙うシーンの“変革”とは…?
■音楽的背景を異にする2人の“共通項” 「バンド」であることの真意
――まずは現在の活動スタイルに至った経緯から教えていただけますか?
【Deadwood F(以下、F)】もともと我々はソロで作品を出していたんですが、共通の仕事をする機会が5〜6年くらい前から増えてきたんです。その中で「2人で作ったものを作品化していかないか?」という話になったんですよ。音楽的なバックグラウンドが違う2人なので、一緒にやるようになるとやっぱり新鮮な感覚があります。足りない部分を補い合うような関係性といいますか。
【Deadwood K(以下、K)】音楽業界に入る前からFさんのことは知っていましたが、一緒に組むとは思いもしなかったですね(笑)。
【F】Kさんはアカデミックな素養を持ったクリエイター。僕は完全に独学ですが、Kさんはしっかりと音楽の学校を出られているし、僕の中にはないポップセンスも持っているんです。アンダーグラウンド志向の僕よりも、明らかに社会性があるなと(笑)。
――制作現場ではどういう関係性になるのでしょうか?
【K】“上下関係”のようなものはありませんが、僕としては「自分がどれだけ散らかしても、きっとFさんがまとめてくれるだろうな」と頼り切っているところがあるので(笑)、そういう意味でFさんのことをとても信頼しています。
【F】僕らはお互いに曲の“タネ”を作るんです。そのタネは、メロディーとコードだけの弾き語りの場合もあれば、グルーヴ一発だったり、単なるコード進行のループだったり…とさまざまで。そこにお互いの解釈を加えながらまとめていくんですよ。
――“作品”を作るという作業は、やはり仕事でタッグを組んだときとは異なる感覚ですか?
【F】“仕事”としてできることは拡がるんですが、“作品”となると逆に狭くなってくるんです。お互いが納得できる点=The Burning Deadwoodsの作品なので。だから、僕らがThe Burning Deadwoodsを「バンド」と呼ぶのは、「プロデューサーとして仕事をしている我々が、ここでは仕事抜きで本当にやりたいことを形にしています」という意思表示でもあるんですよ。
■音楽性の拡がりをあえて求めない姿勢 拡がりを導くボーカリストの個性
――そういった共通点を探ってみた結果、どんな印象を抱きましたか?
【F】1stアルバム『T.B.D.』を作っているときは正直不安だったんですが、意外とまとまった作品になって(笑)。「2人の共通項はこういうところなのか」と見出せた作品でもありました。最近はまた作品性が拡がり始めているので、もう少し詰めていきたいとも考えています。
――拡がる要因は音楽的志向の変化なのでしょうか? それともゲストボーカルのキャラクター?
【F】両方だと思います。我々はまず曲を作ってから、その曲に合うボーカリストの方を探すんですけど、実際に歌を入れてもらって「ちょっと違う」と感じたら、曲の方を変えてアジャストしていくんです。そこはやはり歌ありきで曲作りをしているからこそですね。
――今年に入ってからリリースされた「Aliens feat. Furui Riho」「Nowhere feat. 弱酸性」「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」の3作で、歌に合わせて変化させた曲はありましたか?
【F】Furuiさんがそのパターンでした。「この歌にはこういうトラックの方が合うだろう」と、コード進行の一部を変え、ベースラインはガラッとリアレンジしました。弱酸性さんと白神さんには、僕らが作ったデモにそのまま歌を乗せてもらったという感じです。
【K】基本的に歌の録り直しをお願いすることはないんです。というのも、僕らは「この曲をこの人に歌ってもらいたい」「この人の歌声に合う曲を作りたい」のどちらかなんですよ。
――「Nowhere feat. 弱酸性」は、弱酸性さんが普段発表されている楽曲とはまた違ったテイストの楽曲になっています。
【F】弱酸性さんはすごく歌力を持った方なので、「こういった曲調も合うんじゃないでしょうか」と提案してみました。結果、「歌ったことがない曲調です」と快諾していただけて。白神さんに関しては、白神さんが普段歌われている楽曲の雰囲気と似たデモを我々がもともと作っていたこともあり、それを歌いこなしてもらったんです。
■制作環境からひも解くThe Burning Deadwoods流トラックメイク
――ここからは制作環境や使用機材から、お2人の作品づくりを掘り下げたいと思います。DAWソフト(Digital Audio Workstation/音声の録音や編集、編曲といった一連の作業が行えるソフトウェア)は何を使用されていますか?
【F】初動としては、僕がDigital Performerで…。
【K】僕がCubase Pro。そして録りとトラックダウン、その後加工する必要があった場合にPro Toolsを使っています。
【F】それぞれのソフトを使ってタネに自分の解釈を加えていき、録りの段階からは互換性を高めるために、多くのスタジオで定番になっているPro Toolsをベースにするというやり方です。
――今回撮っていただいたトラック画面には、MIDIトラックとオーディオトラックが混在していますね。
【F】ドラム、コード進行、メロディーから作り始めることが多いんですが、僕もKさんもサンプルで作ったり、生演奏で作ったり、MIDIの打ち込みで作ったり…と、さまざまなんです。「Nowhere feat. 弱酸性」で言うと、基本的なトラックは僕がすべて打ち込みで作り、そこにKさんが上モノを載せてくれるという流れでした。それで、歌録りの直前くらいに「ベースは生(演奏)の方が合いそうだ」と思って差し替え、Kさんが作ってくれたギターもサンプリングをもとにしたものだったので、自分で弾き直すことにしたんです。
――アイデアを出した人と演奏を担当する人が違うというのは、とてもバンド的な制作法と言えます。
【F】Kさんは鍵盤プレイヤーでもあるので、僕が作ったフレーズを生演奏らしいニュアンスにしてもらったり…ということもよくあります。
【K】「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」の鍵盤がまさにそうですね。単純にデジタルのものをアナログ楽器に変換するということではなく、演奏者のクセや生っぽさを加えるために差し替えているんです。
■アナログとデジタルを巧みに使い分ける、“職人”ならではの音色選び
――ギターとベースは何を起用されたんですか?
【F】ギターがYamahaのPacifica(PAC612)、ベースがBB734でした。どちらも1995年製です。もともとFenderのJazz BassとGibsonのES-135を持っていたんですが、もう少しモダンなモデルがいいなと思って導入した2本ですね。「Aliens feat. Furui Riho」と「Nowhere feat. 弱酸性」のギターでは、PacificaとES-135を聴き比べた結果、Pacificaを選びました。
――アンプやエフェクターは?
【F】すべてプラグイン(ソフト)で後がけです。使っているのはIK MultimediaのAmpliTubeと、Native InstrumentsのGuitar Rig。Line 6のHX Stompでかけ録りをしていた時期もあるんですが、演奏が甘くなりがちで。ラインで録った方がシビアに判断できるんです。
――Kさんの鍵盤は?
【K】僕はYamahaのCP4 STAGEというステージピアノを使っています。88鍵じゃないとどうしても物足りなさを感じてしまうので、マスターはいつも88鍵。家にはアップライトピアノもあるんですが、録るとなるとマイキングなどが必要になるので、ソフトシンセの音源をCP4で鳴らすようにしています。
――鍵盤の音色については、Fさんとどのようにやりとりを?
【K】(XFER RECORDS製)SERUM、(Reveal Sound製)Spire、(LennarDigital製)Sylenth1、(Native Instruments製)MASSIVE辺りをよく使うんですが、これらについては音色のプリセットごと送り合っています。ほかには「Nowhere feat. 弱酸性」だとUVIのRetro Organという音色を使いました。個人的に好きな音でもあって、使う場面が多いです。
【F】いわゆる普通の鍵盤となると、SPECTRASONICSのKeyscapeを使うことが多いよね。
【K】一般的なピアノもエレピもオルガンもいい音色がそろっているので。
――ドラムの音源は?
【F】Native InstrumentsのBatteryです。The Burning Deadwoods用のプリセットをもう20種類以上作ってあるので、使い勝手もいいですし。プリセットはわりとヒップホップやローファイ系の音色で組んであるものが多いですね。「Aliens feat. Furui Riho」と「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」では同じプリセットを使っているんですよ。
――「Nowhere feat. 弱酸性」ではストリングスの音色も印象的です。
【K】EASTWESTのHollywood Stringsというソフトで録っています。ドライな音色で、レガートが自然にかかるので、1960〜70年代のソウルっぽい感じが出しやすいんですよ。ただ、それだけだと浮いてしまうので、RolandのINTEGRA-7のストリングス音を薄らとかけて馴染ませています。
■シンプルな音像の裏にある構築美 音を立体的に描くトラックメイカーとしての個性
――今回の3曲もシンプルな音像にまとめられている印象でしたので、ここまでトラックを重ねて構築されているのかと驚かされました。
【K】Fさんのトラックメイクは油絵的な手法なんです。絵としてはシンプルな構図だとしても、何層も塗り重ねられていて。クラップの音だけで4〜5種類重ねているときもあるんです。でも最終版を聴くと、それを感じさせない。
【F】個人的には「思ったより多いかもしれないけど、そんなに多くもないんじゃない…?」と思っています(笑)。お互いがやりたいことを重ねていくわけですから、どのトラックも簡単には捨てられないんです(笑)。結果、トラックを捨てずに聴きやすい音像にする方法やバランス感を考えていくわけです。
【K】いろいろな音やフレーズの“ごった煮”ではなく、1音を立体的に聴かせるためのレイヤーなんです。
――立体的な音像にするには、どういった意識でトラックを重ねていくべきなのでしょうか?
【K】それは僕も教えてほしいです(笑)。
【F】あくまで僕の場合の話ですが、「ミックス段階の処理で済むことかもしれないけど、打ち込みでやっておく」という意識は持っています。特にその意識を向けるのは“音同士のつながり”で、例えば、鍵盤に「もう少しミッドローがほしい」と思ったとして、「それがスネアの低音部とどうつながるのか」「キックとつながる際にアタック成分は十分だろうか」と。ミックスでリバーブやEQをかければ済む作業でもあるんですが、僕としては「ミックスを詰めてみないと分からない」だと遅いんです。
――打ち込みの段階で、すでに完成図が見えている状態にしたいと?
【F】はい。音と音の間に隙間はほしいんですけど、音楽の場合だと隙間=無音ではなくて。残響音などが薄らと響いている状態がほとんどなので、そういった隙間で鳴っている音まで作っておきたいんですよ。そうやって重ねたトラックは、結局ミックスで削ることもあるんですが、完成図が見えているかどうかは重要だと思います。
――これからDTMを始める人にもそういった意識で制作に取り組んでみてほしいですね。
【F】和食って見た目や味はシンプルかもしれませんが、素材選びと下ごしらえの行程がとても複雑ですよね。フランス料理のソースも、素材のいいところを見切ってシンプルに出している。そういう部分は音楽と似ているなと感じます。
【K】いい例えですね(笑)。
【F】Kさんが絵で例えたから、僕は食で…(笑)。ただ、ごちゃっとした“ジャンクフード”を悪く言いたいわけじゃないんです。だって、どちらもおいしいですから(笑)。これからDTMを始める若い人は、ジャンクフードをどんどん作っていったっていいと思うんです。でも、そのときに「理由はわからないけどジャンクになってしまった」ではなくて、狙って作って欲しいなと。そのために完成図を頭の中で描けるようになっておくこと、選択肢を多く作っておくことがポイントになるんじゃないかなと思います。
――今後The Burning Deadwoodsとして、どのような動きしていきたいと考えていますか?
【K】曲のストック自体はありますが、新曲も継続して作っていきます。あと、アレンジャーとして参加することが決まっている作品もあるので、そういった活動も並行して行っていく予定です。
【F】基本的には毎月1曲ずつ発表していき、それらをアルバムとしてまとめられたらいいなと考えています。
――アルバムに向けて曲を作るのではなく?
【F】プレイリスト的にまとめたいんです。それら全曲を作っているのがThe Burning Deadwoodsという風になれば面白いなと。日本だとトラックメイカー名義の作品って少ないですし、歌が音楽だと思うのも正解ではあるんですが、もっとトラックメイカーの味や個性が注目されるようになってもいいなって。歌い手の方から僕らの音楽に入ってきてもらえるのもうれしいですし、僕らの音楽の質感を気に入って各曲のボーカリストを好きになってくれるのもうれしい。そういった相互アクセスをもっと活性化させていきたいですね。
ダンスミュージックを基軸としつつ、R&Bやジャズ、ローファイヒップホップ、シティーポップなど、さまざまなジャンルを横断したサウンドを生み出す2人組バンド・The Burning Deadwoodsが2日、今年3作目となる配信シングル「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」をリリースした。
2020年末に結成された同バンドは、Deadwood F(Ba&Gt&Pro)とDeadwood K(Key&Pf&Pro)からなる2人組バンド。顔や年齢といった素性が一切明かされない匿名性、そして曲ごとに多彩なゲストボーカルを迎えるという独自のスタイルで話題を呼んでいる。
1stアルバム『T.B.D.』を完成させた2021年、フジテレビTWO×ひかりTV共同制作ドラマ『恋と友情のあいだで』の主題歌「No Other Way feat. DedachiKenta & Sincere」でその名を知らしめた2022年を経て、今年は「Aliens feat. Furui Riho」(5月24日配信)、「Nowhere feat. 弱酸性」(6月21日配信)とリリースを立て続けてきた。
ORICON NEWSは今回そんな注目度急上昇中の2人と初対面をはたし、作曲法や制作環境をひも解いていく。トラックメイカーである彼らが“バンド”を名乗る理由、そしてリリースを重ねる中で虎視眈々と狙うシーンの“変革”とは…?
――まずは現在の活動スタイルに至った経緯から教えていただけますか?
【Deadwood F(以下、F)】もともと我々はソロで作品を出していたんですが、共通の仕事をする機会が5〜6年くらい前から増えてきたんです。その中で「2人で作ったものを作品化していかないか?」という話になったんですよ。音楽的なバックグラウンドが違う2人なので、一緒にやるようになるとやっぱり新鮮な感覚があります。足りない部分を補い合うような関係性といいますか。
【Deadwood K(以下、K)】音楽業界に入る前からFさんのことは知っていましたが、一緒に組むとは思いもしなかったですね(笑)。
【F】Kさんはアカデミックな素養を持ったクリエイター。僕は完全に独学ですが、Kさんはしっかりと音楽の学校を出られているし、僕の中にはないポップセンスも持っているんです。アンダーグラウンド志向の僕よりも、明らかに社会性があるなと(笑)。
――制作現場ではどういう関係性になるのでしょうか?
【K】“上下関係”のようなものはありませんが、僕としては「自分がどれだけ散らかしても、きっとFさんがまとめてくれるだろうな」と頼り切っているところがあるので(笑)、そういう意味でFさんのことをとても信頼しています。
【F】僕らはお互いに曲の“タネ”を作るんです。そのタネは、メロディーとコードだけの弾き語りの場合もあれば、グルーヴ一発だったり、単なるコード進行のループだったり…とさまざまで。そこにお互いの解釈を加えながらまとめていくんですよ。
――“作品”を作るという作業は、やはり仕事でタッグを組んだときとは異なる感覚ですか?
【F】“仕事”としてできることは拡がるんですが、“作品”となると逆に狭くなってくるんです。お互いが納得できる点=The Burning Deadwoodsの作品なので。だから、僕らがThe Burning Deadwoodsを「バンド」と呼ぶのは、「プロデューサーとして仕事をしている我々が、ここでは仕事抜きで本当にやりたいことを形にしています」という意思表示でもあるんですよ。
■音楽性の拡がりをあえて求めない姿勢 拡がりを導くボーカリストの個性
――そういった共通点を探ってみた結果、どんな印象を抱きましたか?
【F】1stアルバム『T.B.D.』を作っているときは正直不安だったんですが、意外とまとまった作品になって(笑)。「2人の共通項はこういうところなのか」と見出せた作品でもありました。最近はまた作品性が拡がり始めているので、もう少し詰めていきたいとも考えています。
――拡がる要因は音楽的志向の変化なのでしょうか? それともゲストボーカルのキャラクター?
【F】両方だと思います。我々はまず曲を作ってから、その曲に合うボーカリストの方を探すんですけど、実際に歌を入れてもらって「ちょっと違う」と感じたら、曲の方を変えてアジャストしていくんです。そこはやはり歌ありきで曲作りをしているからこそですね。
――今年に入ってからリリースされた「Aliens feat. Furui Riho」「Nowhere feat. 弱酸性」「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」の3作で、歌に合わせて変化させた曲はありましたか?
【F】Furuiさんがそのパターンでした。「この歌にはこういうトラックの方が合うだろう」と、コード進行の一部を変え、ベースラインはガラッとリアレンジしました。弱酸性さんと白神さんには、僕らが作ったデモにそのまま歌を乗せてもらったという感じです。
【K】基本的に歌の録り直しをお願いすることはないんです。というのも、僕らは「この曲をこの人に歌ってもらいたい」「この人の歌声に合う曲を作りたい」のどちらかなんですよ。
――「Nowhere feat. 弱酸性」は、弱酸性さんが普段発表されている楽曲とはまた違ったテイストの楽曲になっています。
【F】弱酸性さんはすごく歌力を持った方なので、「こういった曲調も合うんじゃないでしょうか」と提案してみました。結果、「歌ったことがない曲調です」と快諾していただけて。白神さんに関しては、白神さんが普段歌われている楽曲の雰囲気と似たデモを我々がもともと作っていたこともあり、それを歌いこなしてもらったんです。
■制作環境からひも解くThe Burning Deadwoods流トラックメイク
――ここからは制作環境や使用機材から、お2人の作品づくりを掘り下げたいと思います。DAWソフト(Digital Audio Workstation/音声の録音や編集、編曲といった一連の作業が行えるソフトウェア)は何を使用されていますか?
【F】初動としては、僕がDigital Performerで…。
【K】僕がCubase Pro。そして録りとトラックダウン、その後加工する必要があった場合にPro Toolsを使っています。
【F】それぞれのソフトを使ってタネに自分の解釈を加えていき、録りの段階からは互換性を高めるために、多くのスタジオで定番になっているPro Toolsをベースにするというやり方です。
――今回撮っていただいたトラック画面には、MIDIトラックとオーディオトラックが混在していますね。
【F】ドラム、コード進行、メロディーから作り始めることが多いんですが、僕もKさんもサンプルで作ったり、生演奏で作ったり、MIDIの打ち込みで作ったり…と、さまざまなんです。「Nowhere feat. 弱酸性」で言うと、基本的なトラックは僕がすべて打ち込みで作り、そこにKさんが上モノを載せてくれるという流れでした。それで、歌録りの直前くらいに「ベースは生(演奏)の方が合いそうだ」と思って差し替え、Kさんが作ってくれたギターもサンプリングをもとにしたものだったので、自分で弾き直すことにしたんです。
――アイデアを出した人と演奏を担当する人が違うというのは、とてもバンド的な制作法と言えます。
【F】Kさんは鍵盤プレイヤーでもあるので、僕が作ったフレーズを生演奏らしいニュアンスにしてもらったり…ということもよくあります。
【K】「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」の鍵盤がまさにそうですね。単純にデジタルのものをアナログ楽器に変換するということではなく、演奏者のクセや生っぽさを加えるために差し替えているんです。
■アナログとデジタルを巧みに使い分ける、“職人”ならではの音色選び
――ギターとベースは何を起用されたんですか?
【F】ギターがYamahaのPacifica(PAC612)、ベースがBB734でした。どちらも1995年製です。もともとFenderのJazz BassとGibsonのES-135を持っていたんですが、もう少しモダンなモデルがいいなと思って導入した2本ですね。「Aliens feat. Furui Riho」と「Nowhere feat. 弱酸性」のギターでは、PacificaとES-135を聴き比べた結果、Pacificaを選びました。
――アンプやエフェクターは?
【F】すべてプラグイン(ソフト)で後がけです。使っているのはIK MultimediaのAmpliTubeと、Native InstrumentsのGuitar Rig。Line 6のHX Stompでかけ録りをしていた時期もあるんですが、演奏が甘くなりがちで。ラインで録った方がシビアに判断できるんです。
――Kさんの鍵盤は?
【K】僕はYamahaのCP4 STAGEというステージピアノを使っています。88鍵じゃないとどうしても物足りなさを感じてしまうので、マスターはいつも88鍵。家にはアップライトピアノもあるんですが、録るとなるとマイキングなどが必要になるので、ソフトシンセの音源をCP4で鳴らすようにしています。
――鍵盤の音色については、Fさんとどのようにやりとりを?
【K】(XFER RECORDS製)SERUM、(Reveal Sound製)Spire、(LennarDigital製)Sylenth1、(Native Instruments製)MASSIVE辺りをよく使うんですが、これらについては音色のプリセットごと送り合っています。ほかには「Nowhere feat. 弱酸性」だとUVIのRetro Organという音色を使いました。個人的に好きな音でもあって、使う場面が多いです。
【F】いわゆる普通の鍵盤となると、SPECTRASONICSのKeyscapeを使うことが多いよね。
【K】一般的なピアノもエレピもオルガンもいい音色がそろっているので。
――ドラムの音源は?
【F】Native InstrumentsのBatteryです。The Burning Deadwoods用のプリセットをもう20種類以上作ってあるので、使い勝手もいいですし。プリセットはわりとヒップホップやローファイ系の音色で組んであるものが多いですね。「Aliens feat. Furui Riho」と「More Bitter, Mocha Better feat. 白神真志朗」では同じプリセットを使っているんですよ。
――「Nowhere feat. 弱酸性」ではストリングスの音色も印象的です。
【K】EASTWESTのHollywood Stringsというソフトで録っています。ドライな音色で、レガートが自然にかかるので、1960〜70年代のソウルっぽい感じが出しやすいんですよ。ただ、それだけだと浮いてしまうので、RolandのINTEGRA-7のストリングス音を薄らとかけて馴染ませています。
■シンプルな音像の裏にある構築美 音を立体的に描くトラックメイカーとしての個性
――今回の3曲もシンプルな音像にまとめられている印象でしたので、ここまでトラックを重ねて構築されているのかと驚かされました。
【K】Fさんのトラックメイクは油絵的な手法なんです。絵としてはシンプルな構図だとしても、何層も塗り重ねられていて。クラップの音だけで4〜5種類重ねているときもあるんです。でも最終版を聴くと、それを感じさせない。
【F】個人的には「思ったより多いかもしれないけど、そんなに多くもないんじゃない…?」と思っています(笑)。お互いがやりたいことを重ねていくわけですから、どのトラックも簡単には捨てられないんです(笑)。結果、トラックを捨てずに聴きやすい音像にする方法やバランス感を考えていくわけです。
【K】いろいろな音やフレーズの“ごった煮”ではなく、1音を立体的に聴かせるためのレイヤーなんです。
――立体的な音像にするには、どういった意識でトラックを重ねていくべきなのでしょうか?
【K】それは僕も教えてほしいです(笑)。
【F】あくまで僕の場合の話ですが、「ミックス段階の処理で済むことかもしれないけど、打ち込みでやっておく」という意識は持っています。特にその意識を向けるのは“音同士のつながり”で、例えば、鍵盤に「もう少しミッドローがほしい」と思ったとして、「それがスネアの低音部とどうつながるのか」「キックとつながる際にアタック成分は十分だろうか」と。ミックスでリバーブやEQをかければ済む作業でもあるんですが、僕としては「ミックスを詰めてみないと分からない」だと遅いんです。
――打ち込みの段階で、すでに完成図が見えている状態にしたいと?
【F】はい。音と音の間に隙間はほしいんですけど、音楽の場合だと隙間=無音ではなくて。残響音などが薄らと響いている状態がほとんどなので、そういった隙間で鳴っている音まで作っておきたいんですよ。そうやって重ねたトラックは、結局ミックスで削ることもあるんですが、完成図が見えているかどうかは重要だと思います。
――これからDTMを始める人にもそういった意識で制作に取り組んでみてほしいですね。
【F】和食って見た目や味はシンプルかもしれませんが、素材選びと下ごしらえの行程がとても複雑ですよね。フランス料理のソースも、素材のいいところを見切ってシンプルに出している。そういう部分は音楽と似ているなと感じます。
【K】いい例えですね(笑)。
【F】Kさんが絵で例えたから、僕は食で…(笑)。ただ、ごちゃっとした“ジャンクフード”を悪く言いたいわけじゃないんです。だって、どちらもおいしいですから(笑)。これからDTMを始める若い人は、ジャンクフードをどんどん作っていったっていいと思うんです。でも、そのときに「理由はわからないけどジャンクになってしまった」ではなくて、狙って作って欲しいなと。そのために完成図を頭の中で描けるようになっておくこと、選択肢を多く作っておくことがポイントになるんじゃないかなと思います。
――今後The Burning Deadwoodsとして、どのような動きしていきたいと考えていますか?
【K】曲のストック自体はありますが、新曲も継続して作っていきます。あと、アレンジャーとして参加することが決まっている作品もあるので、そういった活動も並行して行っていく予定です。
【F】基本的には毎月1曲ずつ発表していき、それらをアルバムとしてまとめられたらいいなと考えています。
――アルバムに向けて曲を作るのではなく?
【F】プレイリスト的にまとめたいんです。それら全曲を作っているのがThe Burning Deadwoodsという風になれば面白いなと。日本だとトラックメイカー名義の作品って少ないですし、歌が音楽だと思うのも正解ではあるんですが、もっとトラックメイカーの味や個性が注目されるようになってもいいなって。歌い手の方から僕らの音楽に入ってきてもらえるのもうれしいですし、僕らの音楽の質感を気に入って各曲のボーカリストを好きになってくれるのもうれしい。そういった相互アクセスをもっと活性化させていきたいですね。
2023/08/02





