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【インタビュー】 女性だけで結成された東京女子管弦楽団がアルバムをリリース 「新たな歴史を創り出したい」

 女性の社会進出は徐々に進みつつあるが、オーケストラは国内外を問わず、いまだに男性の演奏家が多数を占めている。そんな状況を打破しようと、女性奏者だけで構成された東京女子管弦楽団が2022年6月に発足した。フルオーケストラによる第1回定期公演(2022年12月)の模様を収録したファーストアルバムを5月17日にリリースし、第2回定期公演も開催するなど、ますます活動の幅を広げている。

第1回公開オーディションでは200名にものぼる応募者のなかからキャリアを問わず選りすぐりの演奏家が選出された

第1回公開オーディションでは200名にものぼる応募者のなかからキャリアを問わず選りすぐりの演奏家が選出された

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■女性演奏家が活動しやすい環境の整備とクラシックを楽しむ人の裾野拡大を目指す

 楽団の設立に奔走した代表理事の福元麻理恵さんは、音楽イベントのプロデュースやアーティストを派遣するサウンド東京の社長も務めている。これまで多くのイベントに演奏家を派遣してきたが、女性奏者からは「オーケストラでの演奏機会に恵まれない」と嘆く声が多く寄せられたという。

福元 オーケストラはもともと男性のみという時代が長く、女性が参加できるようになってからまだ100年も経っていないので、歴史あるオーケストラほど男性が多いというのが現状です。そんななかで、照明器具などの製造・販売を手がけるモデュレックスの曄道社長に、女性演奏家たちの窮状をお話しする機会がありました。そして、女性がキャリアをあきらめることなく演奏活動が続けられるよう「オーケストラを作ろう!」と意気投合し、曄道社長が会長、私が代表理事となって東京女子管弦楽団(TWO)を設立したんです。

 TWOの発起人である福元氏は、実際にオーケストラ活動を始めると、話を聞いて想像していた以上に女性アーティストが厳しい状況に立たされていることを実感したという。

福元 日本にはいろいろなオーケストラがありますが、楽団員のオーディションで、女性の演奏家は音だけを聴くカーテン審査なら最終審査まで行けたとしても、カーテンが外されると落とされてしまうこともあるそうです。国内外を問わず、オーケストラが有名であるほど男性のほうが合格しやすいという傾向が強いようですね。素晴らしい女性の演奏家は大勢いますが、女性は出産や子育てのときに練習ができなくなるから採用を控えようという流れになりがちなのです。

 自身もヴァイオリニストとして活躍し、2人の子どもの出産、育児を経験していることから、大変な時期はそんなに長くないと、実体験から訴える。

福元 産前産後は練習をお休みする期間がありますが、練習回数を減らしつつも鍛錬を継続すれば、テクニックが格段に落ちることはないと感じています。TWOは産休育休制度を整備して、子どもがいても無理なく演奏活動が続けられる環境を提供したいと思っています。お子さんを楽屋に連れてきてもOKですし、ベビーシッター代は楽団で負担することにしています。

「女性が奏でる音にはパワーもある」と語る、東京女子管弦楽団代表理事 理事長の福元麻理恵さん

「女性が奏でる音にはパワーもある」と語る、東京女子管弦楽団代表理事 理事長の福元麻理恵さん

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 TWOの楽団員選出にあたって行われたオーディションでは、読売日本交響楽団などで長きにわたってコンサートマスターを務めた小森谷巧氏ら、錚々たるメンバーが審査員に名を連ねた。

福元 初回のオーディションには、国際コンクールの優勝者など、輝かしい経歴をお持ちの演奏家にもお越しいただきましたが、オーケストラスタディが足りないと審査員の先生方に判断されて選出ならず、というケースもありました。オーケストラでは全体を意識した演奏をできるかどうかが重要なポイントになりますし。審査に加わっていなかった私からすると、ぜひ入団していただきたいと思うような、プロのオーケストラで長い間活動されながら諸事情があって退団されたという方もいらっしゃいましたが、審査員のお眼鏡にかなわなかったり……。本当に初回のオーディションは紆余曲折がありましたね。でも、先生方は、オーケストラに必要な人数ありきで団員を採用しませんでした。実力があり、オーケストラの勉強もしっかりとしているメンバーを約40名選出してくださったんです。

 昨年12月、紀尾井ホールで行われた第1回定期公演は、オーディションで選ばれた正規メンバーにエキストラの演奏者が加わり、総勢60名ほどが集結して開催された。その際に演奏し、好評を博した「内なる音(ね)」は、福元氏とともに楽団運営を担う作曲家の松永悠太郎氏が手がけたTWOのオリジナル曲だ。

松永 TWOの評議員で、書棚や図書空間の企画・選書などを行っている和泉佳奈子さんに、1冊の本を紹介していただいたんです。それは、ノルウェーの作家ヨン=ロアル・ビョルクヴォルが書いた『内なるミューズ』という本。『内なるミューズ』(邦訳)とは、人間が生まれながらにして持っている音楽性や、人間が音楽を聴いたときに感じる心の衝動などを表現する言葉で、その本から着想を得て、楽団員の皆さんがパワーを発揮できるような曲ができました。メインテーマのヒントとなったのは、古くからある日本の民謡やわらべ歌。TWOは日本のオーケストラなので、日本人に聴きなじみがあるような曲調を採用しています。

 第1回定期公演では、「内なる音」に加え、チャイコフスキーの幻想序曲『ロメオとジュリエット』、ベートーヴェンの『交響曲第7番イ長調 作品92』が演奏された。

福元 クラシック音楽のコンサートというと、敷居が高いと思われがちですが、映画に行こうか、レストランに行こうか、それともオーケストラを聴きに行こうか、といった感じで、気軽な選択肢の1つになって、若い人やお子さんにも足を運んでいただけるような文化が日本にもできたらいいなと考えています。そんな思いから、第1回の定期公演は耳の肥えたお客さまを大事にしながらも、これまであまりクラシック音楽に触れてこなかった方にも楽しんでいただけるように、どこかで聴いたことがあるような、聴きやすいと思っていただける曲で、力強さを感じさせる曲を選びました。女性だけのオーケストラだからこそ、繊細で柔らかい曲ではなく、パワーのある曲をお届けしたかったんです。会場にいらっしゃったお客様からは、「初めてのクラシックの演奏会だったけれどかっこよかった」「迫力があった」「楽しかった」など、こちらの気持ちにお応えいただくような声を頂戴してうれしく思っています。そのコンサートの模様が今回のアルバムに収録されました。

■音楽活動と並行してSDGsの活動にも着手

 今年度は定期公演を2回実施するほか、室内楽コンサートも数回予定しており、地方遠征も検討中というTWO。

福元 お呼びがかかれば、東京以外でも演奏会を行いたいと思っていますし、サポート会員様には、楽団員が出向いて演奏する「音楽のプレゼント」も実施する予定です。また、TWOは、クラシック音楽を追求しつつ、新曲も随時発表していきたいと思っています。何百年も前に作られながら、社会情勢や人々のライフスタイルが変わった現在でも愛されているのがクラシックの名曲。長い間に淘汰されなかったのは、何か意味があって、何かパワーがあるはずです。その名曲の数々を受け継いでいくと同時に、新曲を発表して歴史を新たに作っていきたいと考えています。

 さらに、TWOはSDGsの活動にも力を入れている。

福元 まだ企画段階ですが、広島で中古ピアノに日本画を施して美しく蘇らせ、そのピアノとともにTWOが演奏し平和の祈りを捧げるイベントを、1000人の子どもたちと一緒に行う予定です。「人種を越え、音楽を通してみんながつながって仲良くなろう」というメッセージを伝えるイベントにしたいと考えています。そのピアノはイベントを皮切りに、学校や幼稚園など、さまざまな施設を巡回する計画を立てています。

集団として女性を応援し、個としての演奏家も支援する東京女子管弦楽団

集団として女性を応援し、個としての演奏家も支援する東京女子管弦楽団

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 コロナ禍を経て、音楽の力が再認識されるからこそ、TWOの活動が注目される。

福元 コロナ禍で人が集まることができなくなり、心が苦しくなったり、人は1人では生きられないと感じたりした方も多かったと思います。そんなとき、音楽を聴くことで人生が楽しくなったり、日々に潤いがもたらされたりしたこともあったのではないでしょうか。私自身、音楽の力を感じましたし、幸せな人生を送るために音楽は必要不可欠だと実感しています。オーケストラの演奏会は、大勢の演奏者と、聴衆がいることで成り立ちます。その一瞬は、その場に立ち会った人々と命の共有ができる時間だと思うんです。コロナ禍を経て、人と会って一緒に何かをすることはとても幸せなことなのだと痛感したからこそ、TWOの演奏活動には大きな意義があると考えています。

 世界ではこれまでに女性だけのオーケストラがいくつか存在していたが、戦争をはじめとする社会事情などにより、消滅してしまったという。そんな先人たちに敬意を払いつつ、永遠に活動していくことを目指して船出したTWOが、この先どんな航跡を残していくのか。教育、雇用、結婚など、いまだ課題の多いジェンダー格差に音楽の力で切り込んでいく東京女子管弦楽団の今後に注目したい。

文・森中要子


■東京女子管弦楽団
音楽を愛し、音楽で夢を描く、自立した1人ひとりの女性から成り立った、プロフェッショナルオーケストラ。2022年6月10日に、一般社団法人東京女子管弦楽団として設立され、「女性がもつパワーの提起」と「音楽家の社会的地位向上」を目指して活動をスタート。演奏会主催や教育機会の提供を通じて女性音楽家に優れた活躍の場を提供し、音楽芸術の振興と発展を目指す様々な活動を展開。記念すべき第1回の公演には、日本のみならず世界から注目を集めている若手女性指揮者の喜古恵理香氏を迎え、チャイコフスキー、ベートーヴェンの珠玉の名曲を、当楽団のための新曲と併せて披露した。
東京女子管弦楽団 オフィシャルサイト:https://tokyowo.art/

<リリース情報>
■東京女子管弦楽団 1stアルバム『ベートーヴェン 交響曲第7番』
CD+DVD/FRCA-1319/4000円(税込)
2023年5月17日発売
2022年12月12日 東京紀尾井ホールにて収録

東京女子管弦楽団 1stアルバム『ベートーヴェン 交響曲第7番』

東京女子管弦楽団 1stアルバム『ベートーヴェン 交響曲第7番』

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<収録曲>
【CD】
1. 内なる音(東京女子管弦楽団テーマ曲)
2. チャイコフスキー幻想序曲『ロメオとジュリエット』
3. ベートーヴェン 交響曲第7番
【DVD】
1. 内なる音
2. チャイコフスキー『くるみ割り人形』より「花のワルツ」

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