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招聘プロモーターが直面するブランド存続の危機「隔離措置はアフターコロナに響く損失に」

 新型コロナウイルス感染拡大でコンサートやフェスなどが軒並み中止や延期に追い込まれてから早2年。長らく海外アーティストの来日公演が途絶え、ウズウズしている音楽ファンは多いだろう。欧米では状況に即した対策に舵を切り、大型フェスの実施やワールドツアーを再開するアーティストも増えている。かたや日本では、依然として厳しい制限が続き、海外アーティスト招聘(しょうへい)プロモーターの体力も限界に達しているという声も聞こえてくる。招聘プロモーター10社による協力組織・インターナショナル・プロモーターズ・アライアンス・ジャパン(IPAJ)の代表も務める、クリエイティブマンプロダクションの清水直樹社長に、招聘プロモーターの窮状や洋楽ライブ文化を取り戻すための取り組み、今年の展望を聞いた。

海外アーティストの来日公演が途絶えて早2年、招聘プロモーターの極まる窮状(クリエイティブマンプロダクション提供)

海外アーティストの来日公演が途絶えて早2年、招聘プロモーターの極まる窮状(クリエイティブマンプロダクション提供)

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■オミクロン拡大による入国禁止措置 翻弄される招聘プロモーター

今年4月に開催される米国最大級の野外音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」に、きゃりーぱみゅぱみゅが出演することが去る1月に発表された。2年ぶりの開催となる同イベントには、イェーことカニエ・ウェストビリー・アイリッシュハリー・スタイルズをはじめ音楽ファン垂涎の豪華アーティストが、世界各国からラインナップされている。このように欧米では、参加者にワクチン接種証明の提示や検査の陰性証明の提示を義務づけるなどして、徐々にライブエンタメ産業が賑わいを取り戻しつつある。

 日本に目を向けると、昨年後半から急速に感染拡大したオミクロン株に対する水際対策強化により、外国人の新規入国が停止され、その状況は今なお続いている。予定されていた来日コンサートも頓挫し、前述の海外とのギャップは大きい。

 昨年9月に、コロナ感染拡大以降では初となる海外アーティストも含む大型フェス「スーパーソニック」(千葉・ZOZOマリンスタジアム)を開催し、11〜12月には伝説的プログレッシブバンド、キング・クリムゾンの最後の来日公演も成功させた、クリエイティブマンプロダクション清水社長の落胆はかなりのものであった。

IPAJ代表/クリエイティブマンプロダクション社長・清水直樹氏

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「招聘プロモーター各社は、この2つの公演が1人の感染者も体調不良者も出すことなく遂行できたという実証をもとに、今年の来日公演に向けて力を注いでいました。複数のスタジアム、アリーナ級コンサートの準備も進められており、夏には2大洋楽フェスのサマーソニックやフジロックも開催します。ようやくこれから、と意気が揚がった矢先の入国禁止措置により、またもや中止・延期にせざるを得ない公演が相次いでいます。あるプロモーターからは、『今年3月に海外アーティストとしては初の武道館公演100回を達成するはずだった大物アーティストをブッキングしていたが、断念した』と悲痛の声を聞きました」(清水直樹氏/以下同)

 20年に中止・延期となった来日コンサートは計619公演。チケット売上の逸失は363億円にものぼる。それに加えて、チケットの払い戻し手数料も主催者であるプロモーターが負担しており、ゼロどころかマイナスとなっているというのが実状だ。

「国内アーティストのコンサートは損失が出てもシェアをする文化がありますが、海外アーティストの場合は契約書の内容も厳しく招聘プロモーターがほぼすべてのリスクを負うことになります。興行保険も感染症が原因では免責となるため下りないのです」

■来日公演は補償の対象外 招聘プロモーター10社によるアライアンス設立の背景

さらに苦境に追い打ちをかけたのは、来日公演の中止・延期が、政府の支援事業の対象外になっていた点だ。コロナ感染拡大の影響で公演を延期・中止した事業者に対する政府の補助金制度に「J-LODlive(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)」がある。ところがこれは日本発コンテンツの海外発信を目的とした「クール・ジャパン」が前身であったため、来日公演はその対象に組み込まれていなかった。

「僕は大いに疑問に思いました。招聘プロモーターたちの努力で積み重ねてきた来日公演の歴史は、日本の経済や文化の発展に大いに貢献してきたという自負があったからです。ローリング・ストーンズマイケル・ジャクソンの初来日がどれだけの衝撃だったことか」

徹底した感染対策がとられた21年9月開催スーパーソニック (c) SUPERSONIC All Rights Reserved.

徹底した感染対策がとられた21年9月開催スーパーソニック (c) SUPERSONIC All Rights Reserved.

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 振り返ってみれば、ビートルズ来日(66年)を契機に、日本の音楽文化は大きく発展した。海外アーティストの質の高いコンサートを体感して影響を受けた日本のアーティストは多く、近年ではサポートアクトやフェスでの共演からBABYMETALのように海外進出の道が拓けたアーティストもいる。一方、コンサートをきっかけに、日本のファンや文化に触れ、日本びいきになったアーティストも多い。ワールドツアーには必ずと言っていいほど日本が加えられ、『ライブ・イン・ジャパン』を冠した名盤も数多く誕生している。そうした数々の舞台を演出してきた招聘プロモーターが、ここへ来て存続の危機に瀕している。

「アジアで日本ほど豊富に洋楽コンサートが行われる国はなく、20年以上続くフジロックやサマーソニックといった大型フェスも含めると、近隣諸国からも数万人規模の音楽ファンが日本に訪れます。その経済効果は音楽産業だけに止まりません。インバウンドもクールジャパン戦略の1つだったはずで、その点をもっと認めてもらってもいいのではないかと思いましたが、1年近くおいてけぼりにされてきたわけです。そこで、招聘プロモーターが一丸となって政府に要望し、J-LODlive2(21年4月7日〜22年3月31日)からはようやく我々も補償の対象となったのです」

 安全なイベントの遂行に向け、統一したガイドラインを策定する傍ら、政府や行政に対してどれほど粘り強く働きかけたかは、想像に難くない。それが発端となり、昨年5月には、洋楽コンサートを主体とする関東圏のプロモーター10社、エイベックスエンタテインメント、ウドー音楽事務所、エム アンド アイ カンパニー、クリエイティブマンプロダクション、キョードー東京、スマッシュ、ハヤシインターナショナルプロモーションズ、阪神コンテンツリンク ビルボードジャパン、プロマックス、Live Nation Japanによる協力組織・IPAJも設立された。

「スーパーソニック」で実現したスティーヴ・アオキ、ZEDD、アラン・ウォーカーによるスペシャルコラボ (c) SUPERSONIC All Rights Reserved.

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■腹を括って招聘したキング・クリムゾン最後の来日公演

IPAJの次の目標は、正常な来日公演を少しでも早く再開することだ。昨年9月のスーパーソニックには、7組の海外アーティストが出演。スタッフを含む来日人数は計41名。通常の大型フェスからはかなり絞られた形となり、当初予定されていた大阪での開催も、入国後の隔離措置や移動の観点から見送られた。

「開催直前のキャンセルもありました。しかしそれが結果的に、スティーヴ・アオキ、ZEDD、アラン・ウォーカーのスペシャルコラボという世界のどこでも見られない貴重なステージにつながりました。入国前・出国後の徹底した健康モニタリングや厳格な隔離措置、行動制限、膨大な資料の提出など、プロモーターもアーティストもいろんな痛みを伴いましたが、コロナ禍で初めての海外アーティストを招聘したフェスを無事開催することができたことは大きな自信になりました」

 その約2ヶ月後には、キング・クリムゾンの来日公演が実現。50年に及ぶキャリアの最後のワールドツアーにして、全ツアー行程の幕を日本で閉じるというレジェンダリーなコンサートとなった。

50年に及ぶキャリアの最後のワールドツアーを日本で締めくくったキング・クリムゾン Photo by David Singleton

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「コンサートというのは『今回は行けなかったけど、次がある』というものではないんです。それはコロナ禍でなくても同じことで、アーティストたちはあと何年パフォーマンスできるか、常に覚悟を持って活動しています。いつまでも失われていく時間に縛られてはいけないとキング・クリムゾンの“最後の来日公演”については、なんとしても実現させなければいけないと僕らも腹を括りました」

 日本ツアーは東名阪で全8回公演が行われた。この時点で日本では入国後10日間の隔離措置が義務付けられており、「隔離期間中はホテルと練習会場・会場以外は原則移動不可」という東京オリンピックと同様のバブル方式を適用することでツアーが実現した。

「東京公演が終わるタイミングでバブル方式が解除される逆算をして来日してもらい、名古屋、大阪、そして東京に戻る移動は彼らも自由に行動することができました。あの超絶ドラマーがゲームセンターで『太鼓の達人』を楽しむ姿はとても貴重でしたね(笑)。居酒屋も堪能したようで、久しぶりに日本を楽しんでいるアーティストを見ることができたのは僕らにとっても大きな喜びでした。ただ、隔離措置も含めて滞在日数が長期にわたったことで、宿泊費などの請求書は通常の5倍近くにもなり、同じことを何度もできるかといったら、正直言って難しいところです」

 クラシックやミュージカルなどの来日公演も同様の隔離措置がとられているが、招聘する人数が多いと滞在費用もかさむため、滞在先のホテルもランクダウンせざるを得ない状況も生まれ、「窮屈な場所に押し込められて、囚人のようだった」といった嘆きの声も聞こえている。

サマーソニック2022年は8月20日(土)・21日(日)東京と大阪2会場にて開催決定

サマーソニック2022年は8月20日(土)・21日(日)東京と大阪2会場にて開催決定

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「今後もこのような措置が度重なれば、これまで日本を愛して来日公演を続けてきてくれたアーティストでも、『こんな思いをするくらいなら』と日本を敬遠するようになりかねません。アフターコロナにも響く損失になるのではないかと、大きな危機感を抱いています。海外よりも感染者や重症者が圧倒的に少ない日本は未だに入国制限と隔離措置という令和鎖国状態ですが、海外ではすでに隔離措置さえも適用していません。インターナショナルなコンサートも次々と行われています。IPAJには来日公演を安全に遂行した実績と防疫を徹底した統一ガイドラインがありますし、クラシック、ミュージカル界とも歩調を合わせて政府に陳情していてそれを評価する声が上がっています。現在は各国大使館などの協力もいただきながら、『国内プロモーターが招聘するアーティストについては、安心安全な管理の元に隔離措置なしで扉を開けて欲しい』とさらに政府に要望しているところです」

■夏フェスの完全復活と成功は招聘プロモーター全社のプライド

今年頭のいくつかの公演は中止・延期を余儀なくされたが、今夏のサマーソニック、フジロックの日程はすでに発表されている。果たしてどんなラインナップになるのだろうか。

「今は仕事ができなかったこの2年のフラストレーションを爆発させるように、今年夏から来年にかけて驚くような豪華な来日公演が各プロモーターで計画されています。もちろん19年に20周年を迎えて以来3年ぶりとなるサマーソニックも、すごい顔ぶれです。パンデミック以降の10年先もアジアの頂点に君臨すべく、エポックなフェスとなるはずです」

 アジアの音楽シーンではK-POPが世界的に影響力を増しているが、フェスについては今なおサマソニとフジロックが質・量ともにアジアのツートップであり、出演を熱望する海外アーティストも多い。夏フェスの完全復活と成功は、輝かしい来日コンサートの歴史を紡いできた招聘プロモーター全社のプライドでもある。

徹底した感染対策がとられた21年9月開催スーパーソニック (c) SUPERSONIC All Rights Reserved.

徹底した感染対策がとられた21年9月開催スーパーソニック (c) SUPERSONIC All Rights Reserved.

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「この2年で唯一のポジティブだった出来事は、招聘プロモーターが一丸となれたことです。これまで招聘プロモーター同士は有力なアーティストの取り合いで、バチバチ火花を散らしてきた歴史がありました(笑)。10社が集まって会議をするなど夢物語でしたが、もうムダな争いはやめて時には話し合いで解決しようと。ブッキングも協力し合ったら、来日公演もさらに充実するのではないかとここに来て一気に雪解けがあったんです。昨年のスーパーソニックやキング・クリムゾン公演も主催こそクリエイティブマンでしたが、IPAJ会員各社からも多大な協力をいただきました。次は3月にウドー音楽事務所が発表しているイル・ディ―ヴォを無事に来日させてツアーを成功に導くことに協力していきたい」

 コロナ禍の窮状を打破する目的で設立されたIPAJだが、アフターコロナでも存続させる意向だ。清水社長は「日本のアーティストの世界進出やグローバルな視点を国内プロモーターにレクチャーするなど続けて行きながら、将来的にはプロモーター同士でタッグを組んだフェスやイベントも開催できたら」と意欲をのぞかせる。各プロモーターそれぞれ強いジャンルやアーティストを持っているだけに、この難局をバネにして、日本の新たな洋楽コンサート文化が幕を開けることを期待したい。

文・児玉澄子

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  • 海外アーティストの来日公演が途絶えて早2年、招聘プロモーターの極まる窮状(クリエイティブマンプロダクション提供)
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  • 50年に及ぶキャリアの最後のワールドツアーを日本で締めくくったキング・クリムゾン Photo by David Singleton
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  • サマーソニック2022年は8月20日(土)・21日(日)東京と大阪2会場にて開催決定
  • 50年に及ぶキャリアの最後のワールドツアーを日本で締めくくったキング・クリムゾン Photo by David Singleton
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