1991年に発表した「Good‐bye My Loneliness」を携え、ZARDが90年代のミュージックシーンに颯爽と登場してから30年。その間、音楽を取り巻く環境は大きく変化したが、不思議なことに、ZARDの楽曲の数々は、当時のまま瑞々しい輝きを放ち続けている。その秘訣はいったい何なのか。“ZARD 30周年YEAR”を迎えたこの機会に、改めてその魅力の源泉を探ってみたい。
■確固たるブランドストーリーのもとに築かれたZARD像
エバーグリーンな楽曲作りを目指し、一切の妥協を許さない、そんな制作現場だった…、そう当時を振り返るのは、ZARDのディレクターを務めた寺尾広氏。楽曲はもちろんだが、ビジュアルにおいても「流行を追いかけ過ぎなかったこと」が、新鮮さを失わない理由ではないか、と分析する。
「トレンドを取り入れ過ぎてしまうと、後から見たときに古く感じてしまうことがあります。ボーカルの坂井泉水はメイク1つとっても、ノーメイクに近いナチュラルメイクで、結果的に時代をあまり感じさせないようなビジュアルでした。極度の人見知りであったためテレビ番組でのトークが苦手であったこともあり、音楽番組への出演は7回ほど。露出が少なかったことも神秘的な魅力につながっているのかもしれません」
テレビ番組に出演せず、歌声と写真とによってZARD、ひいては坂井泉水のイメージを増幅させていく。これは、ビーイング創設者・長戸大幸氏のプロデュース方針によるところが大きかった。多くの宣材写真や動画が撮影されたものの、“イメージに合わない”という理由から、そのほとんどがお蔵入りとなったほど、イメージマネジメントは徹底していた。そのこだわりの一例として、寺尾氏は「マイ フレンド」のテレビスポットを挙げる。
「CMでは歩いている坂井さんが振り返るシーンが使用されていますが、あれは2週間くらいロンドンで過ごすなかで撮影した膨大な量の映像の、ほんの数秒を切り取ったものでした」
実際の坂井はスポーツ好きで快活、よく笑う女性だったそうだが、ZARDのイメージはそれからほど遠い。それは、上記のようなビジュアル戦略に加え、彼女が描く歌詞世界の主人公像も大きく影響していたのではないか、と寺尾氏は語る。
「例えば恋愛の歌で、男性から別れを切り出されたとします。坂井さんの描く主人公は、すがりつくタイプではありませんし、かと言って“もういいわ”と相手を切り捨てるタイプでもない。“あなたに夢があるのなら、私はこの場所から応援する”といったスタンスです。こういった女性像は、昭和の時代にあり、平成の楽曲では描かれてこなかったこともあって、新鮮に感じられたのではないでしょうか」
しなやかな強さを秘めた女性像とでも言えばいいだろうか。坂井の描く主人公像は、男性からは好感を、女性からは共感と憧れを以て受け止められた。売上200万枚を突破した5枚目のアルバム『OH MY LOVE』(94年)の頃は、男性よりも女性ファンの比率が上回っており、とくに若い女性に支持されていたという。
このようにZARDのイメージは、内面と外見、双方から形作られていき、そこに表舞台にはほとんど登場しないというミステリアスな要素が加わり、“特別な存在”へと昇華していった。07年に坂井がこの世を去った後に行われた追悼コンサートで、それまでファンが目にすることのなかった映像が初めて公開された。そのなかには、上記のお蔵入りになっていたNYやロンドンで撮影された映像をはじめ、本来のお茶目な表情をしたものなども含まれていたが、それらを目にしてもファンのZARDへのイメージが大きく変わることはなかった。このことからもZARD像が確固たるブランドストーリーのもとに築かれていった様子がうかがえる。
こうやってZARDの魅力をひも解いていくと、リアルタイムの活動を知る世代ではない若年層が、90年代のアイコン的存在に対して憧れを抱き、フォロワーになるのも得心がいく。平均年齢20歳の女性たちによって19年に結成されたZARDのトリビュートバンド・SARD UNDERGROUNDは、まさにその一例と言えるだろう。
■5G時代の最新技術との融合で切り拓く新たな可能性
今も瑞々しい光を放ち続けるZARD。そのデビュー30周年を記念して、「あなたに伝えたい歌。君に届けたい詞(ことば)」をキャッチフレーズに、様々な記念企画が順次展開されている。本来は今年2月10日のデビュー日に開催するライブをピークとするスケジュールが組まれていたが、その皮切りとなる、昨年4月開催予定のシンフォニックコンサート『ZARD 30th Anniversary Premium Symphonic Concert 〜永遠〜』が、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって中止になるなど、波乱含みの幕開けとなった。
有観客で行う予定だったライブはいずれも生配信ライブに切り換えられ、今年2月6日の坂井泉水の誕生日には、バーチャル空間で音楽と花火の競演が楽しめるイベント『ZARD 30th Anniversary ONLINE HANABI SHOW 〜Happy Birthday Dear IZUMI SAKAI〜』を開催。そして、デビュー日の2月10日には、ゆかりの地である東京国際フォーラムから、坂井泉水の歌と映像、そしてバンドの生演奏がシンクロする『ZARD Streaming LIVE“What a beautiful memory 〜30th Anniversary〜”』が全国に届けられた。スタッフたちは当初、「こういった挑戦がファンの皆さんに受け入れてもらえるのかどうか心配だった」と懸念していたが、ファンの反響の大きさがそれを打ち消した。
5月27日の14回目の命日には、『ZARD Premium Acoustic Live』と題したZARD初のアコースティックライブの無料配信が、ZARDオフィシャルYouTubeチャンネルで実施された。会場となったのは京都・高台寺。有観客では決して実現しないであろう特別な場所からのイベントだ。方丈にステージが設置され、その中央に据えられたLEDモニターに映し出された坂井泉水と、両サイドのバンドメンバーたちにより、ZARDのスタンダードナンバーが奏でられた。
「コロナ禍でなければこういうオンラインのイベントは行わなかったと思います。今後の展開を考えるうえでも良い経験になりました」とスタッフは語る。コロナ禍の選択肢が限られたなかで行われた一連の取り組みではあるが、上記ライブに限らず、立体音響技術・ドルビーアトモスを用いた「負けないで」「揺れる想い」の過去映像が配信されたり、インタラクティブな視聴体験イベント「ZARD×音のVR」も開催されるなど、昨年来、5G時代の最新技術とのコラボレーションも盛んに行われており、オファーは絶えない。そういう意味で、最新デジタル技術との融合は、今後の展開の鍵となっていきそうだ。
■「ZARDの文学的な面を取り上げる」新たな試み
新たな試みはライブ配信だけではない。今年6月からは、ZARD・坂井泉水の歌詞の魅力にフォーカスした企画展も展開された。東京・町田市民文学館ことばらんどの開館15周年を記念した「ZARD/坂井泉水 心に響くことば」展である。「ZARDの文学的な面を取り上げたい」という文学館からのたっての希望で実現した。
16年の活動期間で作詞したのは155曲(死後の発表を含む)。レコーディング直前まで推敲した直筆原稿など創作過程がわかる貴重な資料が展示されたほか、代表曲の歌詞をプロジェクターで映し出すなど、いろいろな方法で展示し、こだわってきた詞(ことば)に様々な角度から光が当てられた。また、影響を受けたという石川啄木をはじめとする詩人の作品も展示され、その共通点も垣間見ることができる意欲的な内容となった。
昨年開設されたYouTubeチャンネルのコメント欄を見ると、先を見通せない閉塞感からくる漠然とした不安が広がるなか、清涼感あふれる歌声や言葉の持つ力に励まされているという内容の記述が散見され、今、再びZARDの楽曲が時代に求められていることを実感する。そんななか、9月15日にはファン待望の音楽ストリーミング配信もスタート。人々の疲弊した心に、爽やかな癒しの風を送り込み、希望を紡いでいる。
「ZARDのエバーグリーンな楽曲、瑞々しい声の響き、そして歌詞の世界観を後世に伝えていきたい」−そんなシンプルな思いからスタートした、“30周年YEAR”記念企画の数々。スタッフはファンの広がりを実感しており、その努力は着実に実を結んでいるようだ。周年のラストを締めくくる来年2月のライブでは、果たしてどんな切り口でZARDの魅力を押し広げてくれるのだろうか。新技術との融合はあるのか、期待は膨らむばかりだ。
文・カツラギヒロコ
■確固たるブランドストーリーのもとに築かれたZARD像
エバーグリーンな楽曲作りを目指し、一切の妥協を許さない、そんな制作現場だった…、そう当時を振り返るのは、ZARDのディレクターを務めた寺尾広氏。楽曲はもちろんだが、ビジュアルにおいても「流行を追いかけ過ぎなかったこと」が、新鮮さを失わない理由ではないか、と分析する。
テレビ番組に出演せず、歌声と写真とによってZARD、ひいては坂井泉水のイメージを増幅させていく。これは、ビーイング創設者・長戸大幸氏のプロデュース方針によるところが大きかった。多くの宣材写真や動画が撮影されたものの、“イメージに合わない”という理由から、そのほとんどがお蔵入りとなったほど、イメージマネジメントは徹底していた。そのこだわりの一例として、寺尾氏は「マイ フレンド」のテレビスポットを挙げる。
「CMでは歩いている坂井さんが振り返るシーンが使用されていますが、あれは2週間くらいロンドンで過ごすなかで撮影した膨大な量の映像の、ほんの数秒を切り取ったものでした」
実際の坂井はスポーツ好きで快活、よく笑う女性だったそうだが、ZARDのイメージはそれからほど遠い。それは、上記のようなビジュアル戦略に加え、彼女が描く歌詞世界の主人公像も大きく影響していたのではないか、と寺尾氏は語る。
「例えば恋愛の歌で、男性から別れを切り出されたとします。坂井さんの描く主人公は、すがりつくタイプではありませんし、かと言って“もういいわ”と相手を切り捨てるタイプでもない。“あなたに夢があるのなら、私はこの場所から応援する”といったスタンスです。こういった女性像は、昭和の時代にあり、平成の楽曲では描かれてこなかったこともあって、新鮮に感じられたのではないでしょうか」
しなやかな強さを秘めた女性像とでも言えばいいだろうか。坂井の描く主人公像は、男性からは好感を、女性からは共感と憧れを以て受け止められた。売上200万枚を突破した5枚目のアルバム『OH MY LOVE』(94年)の頃は、男性よりも女性ファンの比率が上回っており、とくに若い女性に支持されていたという。
このようにZARDのイメージは、内面と外見、双方から形作られていき、そこに表舞台にはほとんど登場しないというミステリアスな要素が加わり、“特別な存在”へと昇華していった。07年に坂井がこの世を去った後に行われた追悼コンサートで、それまでファンが目にすることのなかった映像が初めて公開された。そのなかには、上記のお蔵入りになっていたNYやロンドンで撮影された映像をはじめ、本来のお茶目な表情をしたものなども含まれていたが、それらを目にしてもファンのZARDへのイメージが大きく変わることはなかった。このことからもZARD像が確固たるブランドストーリーのもとに築かれていった様子がうかがえる。
こうやってZARDの魅力をひも解いていくと、リアルタイムの活動を知る世代ではない若年層が、90年代のアイコン的存在に対して憧れを抱き、フォロワーになるのも得心がいく。平均年齢20歳の女性たちによって19年に結成されたZARDのトリビュートバンド・SARD UNDERGROUNDは、まさにその一例と言えるだろう。
■5G時代の最新技術との融合で切り拓く新たな可能性
今も瑞々しい光を放ち続けるZARD。そのデビュー30周年を記念して、「あなたに伝えたい歌。君に届けたい詞(ことば)」をキャッチフレーズに、様々な記念企画が順次展開されている。本来は今年2月10日のデビュー日に開催するライブをピークとするスケジュールが組まれていたが、その皮切りとなる、昨年4月開催予定のシンフォニックコンサート『ZARD 30th Anniversary Premium Symphonic Concert 〜永遠〜』が、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって中止になるなど、波乱含みの幕開けとなった。
有観客で行う予定だったライブはいずれも生配信ライブに切り換えられ、今年2月6日の坂井泉水の誕生日には、バーチャル空間で音楽と花火の競演が楽しめるイベント『ZARD 30th Anniversary ONLINE HANABI SHOW 〜Happy Birthday Dear IZUMI SAKAI〜』を開催。そして、デビュー日の2月10日には、ゆかりの地である東京国際フォーラムから、坂井泉水の歌と映像、そしてバンドの生演奏がシンクロする『ZARD Streaming LIVE“What a beautiful memory 〜30th Anniversary〜”』が全国に届けられた。スタッフたちは当初、「こういった挑戦がファンの皆さんに受け入れてもらえるのかどうか心配だった」と懸念していたが、ファンの反響の大きさがそれを打ち消した。
5月27日の14回目の命日には、『ZARD Premium Acoustic Live』と題したZARD初のアコースティックライブの無料配信が、ZARDオフィシャルYouTubeチャンネルで実施された。会場となったのは京都・高台寺。有観客では決して実現しないであろう特別な場所からのイベントだ。方丈にステージが設置され、その中央に据えられたLEDモニターに映し出された坂井泉水と、両サイドのバンドメンバーたちにより、ZARDのスタンダードナンバーが奏でられた。
「コロナ禍でなければこういうオンラインのイベントは行わなかったと思います。今後の展開を考えるうえでも良い経験になりました」とスタッフは語る。コロナ禍の選択肢が限られたなかで行われた一連の取り組みではあるが、上記ライブに限らず、立体音響技術・ドルビーアトモスを用いた「負けないで」「揺れる想い」の過去映像が配信されたり、インタラクティブな視聴体験イベント「ZARD×音のVR」も開催されるなど、昨年来、5G時代の最新技術とのコラボレーションも盛んに行われており、オファーは絶えない。そういう意味で、最新デジタル技術との融合は、今後の展開の鍵となっていきそうだ。
■「ZARDの文学的な面を取り上げる」新たな試み
新たな試みはライブ配信だけではない。今年6月からは、ZARD・坂井泉水の歌詞の魅力にフォーカスした企画展も展開された。東京・町田市民文学館ことばらんどの開館15周年を記念した「ZARD/坂井泉水 心に響くことば」展である。「ZARDの文学的な面を取り上げたい」という文学館からのたっての希望で実現した。
16年の活動期間で作詞したのは155曲(死後の発表を含む)。レコーディング直前まで推敲した直筆原稿など創作過程がわかる貴重な資料が展示されたほか、代表曲の歌詞をプロジェクターで映し出すなど、いろいろな方法で展示し、こだわってきた詞(ことば)に様々な角度から光が当てられた。また、影響を受けたという石川啄木をはじめとする詩人の作品も展示され、その共通点も垣間見ることができる意欲的な内容となった。
昨年開設されたYouTubeチャンネルのコメント欄を見ると、先を見通せない閉塞感からくる漠然とした不安が広がるなか、清涼感あふれる歌声や言葉の持つ力に励まされているという内容の記述が散見され、今、再びZARDの楽曲が時代に求められていることを実感する。そんななか、9月15日にはファン待望の音楽ストリーミング配信もスタート。人々の疲弊した心に、爽やかな癒しの風を送り込み、希望を紡いでいる。
「ZARDのエバーグリーンな楽曲、瑞々しい声の響き、そして歌詞の世界観を後世に伝えていきたい」−そんなシンプルな思いからスタートした、“30周年YEAR”記念企画の数々。スタッフはファンの広がりを実感しており、その努力は着実に実を結んでいるようだ。周年のラストを締めくくる来年2月のライブでは、果たしてどんな切り口でZARDの魅力を押し広げてくれるのだろうか。新技術との融合はあるのか、期待は膨らむばかりだ。
文・カツラギヒロコ
2021/10/08

