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テレ東“攻めてる”音楽番組作りのカギは混成チームのケミストリー

 バラエティ、そしてドラマと、独自の路線で「攻めてる!」と話題のテレビ東京は、やはり音楽番組もそのスタイルを貫き、果敢に挑戦を続けている。レギュラーの『プレミアMelodiX!』、『月〜金お昼のソングショー ひるソン!』のほか、特番の『テレ東音楽祭』、『年忘れにっぽんの歌』、『日本作詩大賞』、『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』など、話題の音楽番組を一手に引き受けるプロデューサー・星俊一氏は、ユニークな発想の根源は「音楽とバラエティの混成で制作しているから」と語る。

6月30日、5時間生放送『テレ東音楽祭2021 〜思わず歌いたくなる最強ヒットソング100連発〜』

6月30日、5時間生放送『テレ東音楽祭2021 〜思わず歌いたくなる最強ヒットソング100連発〜』

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■ “渋谷系”にハマった学生時代 音楽番組観覧がきっかけでテレビ局を志望

――「攻めてる!」と話題のテレ東の音楽番組ですが、番組を制作するうえで、他局との違いとはどんなところにあるとお考えですか?

「まず、テレ東の制作に関わるスタッフの人数は他局に比べると少ないです。そのため音楽ではJ-POPだけでなく、演歌、クラシック、ジャズ…、いろいろなジャンルの番組を作りますし、並行してバラエティ番組も担当します。また、『テレ東音楽祭』のような大型番組になると、音楽チームとバラエティチームの混成で制作するので、両者の良いところがうまくブレンドできて、面白い企画ができているのかなと思います」

――星さんは、最初から音楽番組制作志望だったのですか。

「そうです。でも、入社面接で“音楽番組を作りたい!”と力説した局は全滅しました。当時、テレ東は『ギルガメッシュないと』(91年〜98年)のような深夜番組があったので、哲学科だった僕は“哲学とエロスを融合した番組を作りたい”と言ったら受かっちゃって(笑)」

――なんと(笑)。音楽番組制作を志望するまでの経緯をさかのぼって教えてください。

「出身は福島です。母が自宅でピアノ教室を開いていましたが、僕はピアノではなく、バイオリンを3歳から18歳くらいまで習っていました。そのため、音楽のベースはクラシックなんです。中学でサザンオールスターズやユーミン(松任谷由実)、BOOWY、洋楽などを聴くようになり、次第にギターを弾き始めて、大学受験の頃にはフリッパーズ・ギターに代表される“渋谷系”にハマりましたね。受験で初めて行った東京では、渋谷系の聖地、渋谷HMVの空気を吸って帰ってきました。結局浪人することになって、その時に上京したんです。その後、入学した大学でバンドサークルに入って、その頃から“音楽の仕事をしたい”と漠然と思うようになっていきました」
※「BOOWY」は2個目の「O」にスラッシュ有りが正式表記

――それが、いつしか具体的な目標に変わっていったわけですね。何かきっかけになった出来事があったのですか。

「就活前に観覧した、フジテレビの音楽番組『FACTORY』(98年〜11年)です。その日は僕の好きな小山田圭吾(元フリッパーズ・ギター)さんのレーベル、TRATTORIA特集だったのですが、“テレビ局で音楽番組の担当になれば、好きなアーティストに会えるんだ!”という気持ちになったんです」

■音楽からバラエティまで幅広く担当して培ったバランス感覚

――でも、「哲学とエロス」でテレ東へ入社することになった(笑)。

「入社後、どうにか制作に配属され、みのもんたさんMCの『愛の貧乏脱出大作戦』(98年〜02年)のADとなり、翌年、音楽チームに移って、演歌番組『歌って最高!』(01年〜02年)のADとして、氷川きよしさんが日本全国に出かけて行くコーナーの担当になりました。「箱根八里の半次郎」(00年)や「きよしのズンドコ節」(02年)が大ヒットした頃だったので、どこへ行っても老若男女からすごい人気で、本当に驚きました。演歌についてはそれまでほとんど聴いたことのない素人でしたが、そういったファンの反応に触れたり、北島三郎さんや石川さゆりさんの歌をスタジオで間近に聴き、その迫力に鳥肌が立つなんて経験もしたりと、演歌の魅力を勉強させてもらいました。その後、深夜番組『MelodiX!』のディレクターになって、演歌とJ-POPの番組を担当するようになったんです」

――その後も、ジャニーズの番組をはじめ、様々な音楽番組を担当されていますね。

ジャニーズJr.Ya-Ya-yahNEWSが出演する『Ya-Ya-yah』(03年〜07年)という番組や担当していた頃は、最もカット割りにこだわって演出していた時代ですね。その後、『みゅーじん/音遊人』(04年〜09年)では、僕のルーツであるクラシックやジャズのジャンルに携わることができました。ピアニストの上原彩子さんやジャズピアニストの上原ひろみさんの海外密着取材を行ったり、チック・コリア(ジャズピアニスト)のスタジオ収録を経験したり。同じピアニストでもジャズとクラシックでは弾き方が全然違うことを体感できるなんて、贅沢ですよね。2010年くらいからは音楽番組と並行してバラエティ番組もやるようになって、音楽番組とは違う楽しさを知りました」

――ところで、テレ東音楽祭といえば、第1回目の14年、関ジャニ∞の出番ではテレ東の社長から社員まで総動員、17年には華原朋美さんが馬に乗りながら歌い、18年には人気番組『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』とのコラボで、水を抜いた池の中でAKB48が泥まみれで歌い、昨年は司会の国分太一さんがたらい船で登場して川に落ちる…など、ユニークな演出が毎回話題になります。こういうアイディアはどのように生み出されているのですか。

「“テレ東だったら同じ曲でも違う見え方ができて面白い”という差別化がないと、埋もれてしまうと思うんです。先ほどもお話したように大型特番は、バラエティとの混成チームによる制作なので、音楽チームから生まれないアイディアが出てくるんです。他局と比べて予算が少ないので、アイディア勝負というところもありますが、“池の水抜いたところで歌うのはどうですか?”とか、好き勝手なことばかり言ってくる(笑)」

――星さんご自身は音楽とバラエティ、両方の番組を手掛けていらっしゃいます。それぞれ使う筋力が違うと思うのですが、どういう使い分けが必要なのでしょう。

「バランスが大事ですよね。音楽チームは、気持ち良く出演していただくとか、うまく整えることを考えがちですが、バラエティチームは、シンプルに面白いかどうかだけを突き詰める。“池の水抜いたところで歌ってもらえませんか?”って事務所にオファーするのはイヤだけれど、“これ、面白いよね”って思える感覚は捨てちゃいけないものだと思うんです。そうやっているうちにビタっとはまると、他では観ることのできないものが作れるんですよ。それって、どちらかにバランスが崩れると成立しないから、上手くバランスのとれた筋力をつけると良い番組ができるんじゃないでしょうか。僕自身、今は音楽の比重が高いですが、音楽とバラエティを半々でやっていた頃は、バランスが取れていた気がするので、もう少しバラエティをやりたいと思っているところです」

■レギュラーのテレビ音楽番組は過渡期、意義を見直し次の転換を考える必要がある

――コロナ禍の規制の中では、演出も変わってくると思うのですが、どのような印象をお持ちですか。

「改めて思ったのは、人間の数というか、観客の密な感じの絵の強さは、熱量が高くてインパクトがある、ということですね。昨年は2回『テレ東音楽祭』を行い、そのうち6月は過去のVTRを中心に放送したのですが、例えば、過去の関ジャニ∞の映像で、200人のダンサーと踊ったり、スタジオの中にお客さんがギチギチに入ったりしている絵は、パワーがあります。今はそれができないから、規制のある中で何ができるかを考えているところです。目前に聴いている人がいるかいないかで、歌い手のモチベーションも変わりますしね。それもあり、司会の国分さん、広末(涼子)さんには聴き手としての役割も担っていただいた状況です」

――キャスティングに関してはどうでしょうか。

「コロナ禍で、YOASOBIAdoなどテレビに出演しなくてもヒットするアーティストが出てきていますよね。露出を制限している人たちをテレビ番組にどう取り込んでいくのかは、これからの課題として持っています」

――他局も含めてですが、近年、音楽特番が増えていますよね。

「そうですね。コロナ禍で制作状況は変化していますが、音楽特番は比較的、視聴率が取れるんですよ。コロナ前はライブが盛り上がっていたので、他局も含めて、ライブと番組をリンクする手法が増えていましたが、それができなくなった今、視聴者は音楽特番をフェス的な感覚で観て、SNS実況で多くの人たちが繋がっています。いつもはバラバラの家族が年末に同じテレビ番組を一緒に観るという現象も起きていますので、みんなで楽しめて、リアルタイムで人と繋がることのできる番組を作ることが、今後、テレビが残っていく1つの手段なのかもしれません。その一方で、レギュラーの音楽番組は過渡期のような気がします。テレビ局としては歌を撮ることは、伝統として残しておきたいと思いますが、今は僕が子どもの頃のように、音楽番組を情報源とする時代ではありません。テレビがプロモーションや音楽のツールとして意義がある…、アーティストにそう思っていただいているうちに次の転換を考えないとダメかなと思っています」

――昔と違って、音楽との接点はテレビ以外の方が多くなってしまいましたよね。

「でも、視聴者の目線に立つと、年配の方はYouTubeよりもテレビで音楽を聴いているから、その世代に対しての音楽番組もある程度残しておく必要があります。例えば、『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』は、誰でも口ずさめる日本の名曲の数々を、懐かしい歌唱シーンや超貴重映像を交えて紹介する人気番組ですが、過去の名曲のVTRを年代順にランダムに並べるというのは、ある意味YouTube的でしょう? YouTubeを見ない世代に向けて、YouTube的な見せ方でテレビ音楽番組を作っている、という考え方ですね。自分が80歳になったとき、音楽をどうやって聴いているかを想像することも多いので、そういった世代に向けての番組作りと、10代20代に向けての番組作りは、セットで考えていくべきだと思っています」

(文・坂本ゆかり)

【星俊一氏 プロフィール】
1976年生まれ、福島県福島市-出身。2000年テレビ東京入社、制作局に配属。『歌って最高!』『Ya-Ya-yah』『みゅーじん/音遊人』『木曜8時のコンサート』『モヤモヤさまぁ〜ず』『ヨルヤン』など、J-POPだけでなく、演歌、クラシック、ジャズ…、様々なジャンルの音楽番組に携わり、並行して『愛の貧乏脱出大作戦』『ココリコミリオン家族』『逆向き列車』などのバラエティ番組も担当。現在は、『テレ東音楽祭』『プレミアMelodiX!』『月〜金お昼のソングショー ひるソン!』『年忘れにっぽんの歌』『夏祭りにっぽんの歌』『日本作詩大賞』『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』『二軒目どうする? 〜ツマミのハナシ〜』などの番組を手がけている。

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  • 6月30日、5時間生放送『テレ東音楽祭2021 〜思わず歌いたくなる最強ヒットソング100連発〜』
  • 星 俊一氏(テレビ東京 制作局クリエイティブビジネスチーム プロデューサー) 
  • 6月6日に放送された『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』

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