ライブ配信に必要な3つの要素「継続」「テンポ感」「多彩さ」

 20年の国内音楽シーンの動向を振り返えると、「ライブ配信の年だった」と言ってよいだろう。ここ数年で音楽ビジネスの中心となったライブ・エンタテインメントが、全世界を襲ったパンデミックによって自粛せざるを得なくなり、多くのアーティストが一斉にライブ配信へと舵を切った。そしてその内容は、リアルなライブ以上に、アーティストの個性を色濃く反映したものとなった。

■試行錯誤の末にたどり着いたライブ配信の3つのタイプ

 春先は、ある意味で「ライブの代わり」として注目されたライブ配信であったが、それはすぐに「ライブとは別の、新しいオンライン・コンテンツ」という認識に変わったことで、配信する側も、視聴者側も、さらにはプラットホーム側も、全員が手探りの状況の中、さまざまなスタイルのライブ配信が試みられた。そうして今、現状で考え得る試行錯誤が一巡し、ライブ配信のアプローチもいくつかのタイプに集約されてきたと言える。それを大きく3つに分類すると、「映画タイプ」、「テレビ番組タイプ」、そして「深夜ラジオ番組タイプ」となる。

 「映画タイプ」とは、年に一度できるかできないかというレベルの規模の大きなライブ配信。多様な趣向を凝らしたスペシャルな演出はもとより、映像面やサウンド面にとことんこだわるなど、映像作品に匹敵する高いクオリティを追求したオンライン・コンテンツだ。この場合、配信でしか実現できない演出・表現を突き詰められる一方で、必然的にコストや制作期間が必要となり、視聴チケットも高価となる傾向がある。

 対して「テレビ番組タイプ」は、例えば5回の配信でワンセットという形式だったり、期間を設定して月1回の配信を行ったりと、テレビのレギュラー番組のように定期的に行われるライブ配信のこと。コンスタントに視聴者とコミュニケーションを取りつつ、規模感よりも、選曲やシチュエーションにこだわり、回ごとにテーマを掲げることで特別感をもたせるというアプローチ。アーティストが、自身の番組、あるいはメディアを持つようなイメージだ。

 このテレビ番組タイプを、さらにライトなものにしたものが「深夜ラジオ番組タイプ」だ。内容をライブ(音楽)に限定せず、トークやバラエティ色のあるコンテンツも交えながら、週1回など配信頻度を高めるという方法だ。現状では、アーティストが個人的に行っているインスタライブなどがこれに近いと言えよう。

■重要度を増すプロモーション・コンテンツとしてのライブ配信の活用

 これら3タイプのライブ配信の中で、オンラインと最も相性が良いのは、3番目の「深夜ラジオ番組タイプ」ではないだろうか。視聴者はアーティストと1対1の感覚が得られやすく、特に熱心なファンならば、アーティストと近い距離感は大きな魅力だ。また、そのアーティストの作品をそれほど知らない人にとっても、気軽に楽しめる内容であるという点で間口の広いライブ配信と言える。コア層を満足させながら、新規ファンとの接触機会を増やすという意味では、20年に生まれた新しいプロモーション・コンテンツと言っていいかもしれない。

 もちろん、映画タイプのスペシャルなライブ配信は、ファンにとって嬉しいことだし、そこに全力を投じ、妥協せずに作品を作り上げるのがアーティスト然とした姿勢である。しかしながら、そのスペシャルが年に1回だけでは、この情報過多の現代においてファンの関心をつなぎとめ続けることはとても難しい。だからこそ、スペシャルなライブ配信をピークにもっていくためにも、そこに至るまでのプロモーション、すなわち深夜ラジオ番組タイプのライブ配信をどう発信していくのかが、より大切になってくるだろう。

■オンラインの最重要ポイントは「発信し続けること」と「テンポ感」

 その時に大きなポイントとなるのが、「発信し続けること」だ。特にネットにおいては、常にアーティストが動いている様子をファンに伝え、そしてファンとコミュニケーションをとり続けることが極めて重要だ。

 少々話が逸れるが、定額制の音楽ストリーミングサービスが欧米で主流となった際、既発楽曲のリミックスがとても重要な役割を果たした。音楽ストリーミングサービスでは、作品の「発売日」は、CDほど大きな意味を持たなくなっており、むしろ長い期間、そのアーティストの作品が聴き続けられることが重要だ。そのために、アーティストは短いスパンで作品をリリースし続けなければならなくなるが、そうは言っても実際問題として、新曲を月に1曲リリースするのは容易ではない。しかしリスナーは、年に1枚のアルバムをなかなか待ってはくれない。

 そこでリミックスを中心に、ライブ・バージョンやアコースティック・バージョンなどの、いわゆるバージョン違い音源を定期的にリリースしていくことで話題を提供し、常にアーティストが動いていることを示すことで、ファンの関心をつなぎ止められる。また新規のリスナーにバージョン違い音源に触れてもらうことで、原曲の良さを改めて伝えることも可能となる。こうすることで、新作の制作期間であっても、リスナーとの接触機会を増やすことができ、アーティストへの入口を大きく広げることにもつながるというわけだ。その際に大切になってくるのが、リリースのタイミングと、そのスパン。つまり、テンポ感だ。これが散発的であったり、あまりに唐突であったり、時期を逸してしまっては、せっかくリリースしても、期待する効果は薄れてしまう。

 こうした動向は、音楽ストリーミングサービス、すなわちネット特有のアプローチだが、日本では、原曲至上主義的な傾向が強いのか、あるいはリミックスがどこか手抜きのように受け取られる風潮が強いのか、音楽ストリーミングサービスが広まった今でも、こうした事例はあまり見受けられない。もちろん、無くはないのだが、残念ながら全体的に、あまりテンポ感がよろしくないように感じてしまう。

 余談が長くなってしまったが、要は同じネットをベースにするライブ配信でも、このテンポ感が大切な要素の1つであり、実施頻度や方法も含めて、テンポ感よくライブ配信を実施することで、リアルなライブの代替としてではなく、新たなプロモーション・コンテンツとしてライブ配信を活用すべきタイミングがやってきたのではないだろうか。

■フットワークが軽妙なK-POP界のライブ配信アプローチ

 プロモーション・コンテンツという視点では、K-POPファン必須とも言われている動画配信サービス「V LIVE」のアプローチには、たくさんのヒントが隠されているように思える。ここで簡単にV LIVEを紹介しておくと、このサービスにはK-POPの多くのグループ、マネージメントが参加しており、各グループが配信する動画は、基本的に無料で視聴が可能。さらに課金制のプレミアムチャンネルに登録すれば、特別な限定映像も見ることができるという仕組みだ。つまり、この1つのアプリをスマホに入れておくだけで、K-POPグループのメンバーと一気に距離を縮められ、さらにファンクラブ的なサービスまで得ることができるのだ。

 ここまではV LIVEのシステム的な話だが、注目すべき点は、配信コンテンツの多彩さと絶妙な配信間隔で、実にフットワークが軽いのだ。内容は1時間を超えるようなプライベート感あふれるトークから、グループ総出演の作り込まれた番組、数分程度のミュージックビデオやそのメイキングなどレア映像、さらにはテキストのみで行われるファンとのチャットなど実に多岐に渡る。こうした配信は、アプリ内で通知が届くために見逃すことがない。

 しかも、例えイチ推しのグループが配信せずとも、常時さまざまなグループが配信を行っているため、K-POP全体の活気を感じられてくる。ここで言いたいのは、このシステムやK-POP界のアプローチの善し悪しではなく、各K-POPグループが行っているライブ配信のテンポ感やスピード感、配信コンテンツの多様さ、そしてファンとのコミュニケーションのとり方、さらには横方向とのつながりなど、参考となるポイントがたくさん含まれているのではないだろうかということだ(ちなみにBTSは、今年8月に米国ビルボード・シングルチャートで1位を獲得した「Dynamite」のリミックス「Dynamite (Holiday Remix)」を昨年12月にリリースしている)。

 いずれ遠くない将来、フル動員によるリアルな有観客ライブも再開されるだろう。そして、その時が来たとしても、20年に急速に広まったライブ配信は、何等かの形で残るはずだ。21年は、その将来までの橋渡し期間となるであろう。だからこそ、ある意味で今年以上にライブ配信の活用の仕方が、音楽シーン活性の鍵を握っている。
(文・布施雄一郎)

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