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転売目的でのチケット購入は詐欺行為? 今後の影響は

 2017年9月22日、「電子チケット スマホ貸出不正転売 神戸地裁有罪判決」(毎日新聞)という見出しで、「サカナクション」のコンサートの電子チケットを転売目的で取得したなどとして詐欺罪に問われた男に対し、神戸地裁が懲役2年6月、執行猶予4年(求刑・懲役2年6月)を言い渡したとの報道がなされた(本稿執筆時、判決未確定)。この判決の持つ意味と、今後の影響を弁護士の東條岳氏(Field-R 法律事務所)に解説してもらった。

転売目的でのチケット購入は詐欺行為?

転売目的でのチケット購入は詐欺行為?

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◆弁護士が解説する詐欺行為に当たる理由

 この事件の判決は、2つの点で非常に画期的なものと言えます。

 まず1点目は、従来犯罪行為として捉えられていなかった行為を犯罪行為として捉え、有罪とすることができたという点です。これまでの高額転売による逮捕事例は、各都道府県の迷惑行為防止条例によって、会場付近でダフ屋行為を行う者を摘発するというものがほとんどでした。

 迷惑行為防止条例は、あくまで「生活の平穏」を保持することが目的となっていますので、ダフ屋行為が「公共の場所」で行われる必要があり、「公共の場所」ではないと解されているインターネット上での高額転売は、摘発の対象外となっていました。その結果、インターネット上のチケット転売において、月に2000万円以上を売上げる者もおり、事実上の野放しとなっていました。

 また、コンビニ等におけるチケットの転売目的購入について、「公共の場所」における行為であるとして迷惑行為防止条例違反で摘発した例もありました。しかし、ダフ屋行為が迷惑行為防止条例違反で摘発されたとしても、東京都の条例で言えば、その罰則は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」とされており、ダフ屋行為によって得られる多額の利益に比べれば比較的軽微な罰則であるという点で、高額転売を抑止するには不十分と言わざるを得ませんでした。

◆チケットエージェンシーを誤信させ、不正にチケットを入手

 本件では、転売目的でチケットを購入しようとする者が、その目的を隠してぴあやEMTGなどのチケットエージェンシーに対してチケットの購入を申込み、その結果、転売目的の購入ではないとチケットエージェンシーを誤信させ、チケットエージェンシーにチケットを送付させたという行為をもって、詐欺罪(刑法246条)に該当すると評価されました。

 本件においては、実際に転売行為を行ったことが確認されることで転売目的であることが立証されましたが、インターネット上のチケット転売サイトにおいて見られるように、チケットの当選発表直後から券面価格の数倍もの値段で転売されているような場合には、これらのチケットの入手を転売目的の購入によるものと判断することもそれほど困難ではないと考えられます。

 このように、本件は、転売行為そのものを違法行為と捉えるのではなく、転売行為の前段階において必然的に存在する転売目的のチケットの購入行為を詐欺行為と捉えた点で、画期的なものといえます。また、詐欺罪の法定刑は懲役10年以下であり、罰金がないという点で、迷惑行為防止条例違反などに比べて非常に刑が重い犯罪であることに加え、犯罪によって得たチケットは没収の対象となります。

 したがって、この判決が確定した場合、転売目的でのチケット購入に詐欺罪を適用する事例が、全国各地で複数出てくることが予想されます。これにより、従来、法律の網目をかいくぐり行われていた高額転売の抑止に高い効果を上げることが期待されます。

◆高額なチケットを購入せざるを得ないファンも詐欺行為の実質的な被害者

 2点目は、2年6月の求刑に対して、求刑通りの懲役2年6月、執行猶予4年という比較的重い判決が下されたことです。

 前述のとおり、詐欺罪は法定刑としては懲役10年以下という重い犯罪ではありますが、本件は初犯であるにもかかわらず、比較的重い判決が下されました(本稿執筆時、判決未確定)。また、報道によれば、本件を担当した裁判官は、判決で「一般客の参加機会が奪われる上、適正価格を超過した額の支払いを余儀なくされ、音楽業界に大きな不利益が生じる」と指摘しています。

 本件の量刑を判断するにあたっては、チケットエージェンシーが詐欺罪の直接の被害者となることのみならず、正規にチケットを購入してライブ等に参加しようとしているファン、高額なチケットを購入せざるを得ないファンも詐欺行為の実質的な被害者に含まれるとされていること、そして、それらのファンが実質的な被害者に含まれることにより、ひいては音楽業界に大きな不利益が生じることの3点が考慮されたものと言えます。

 この判決は、転売目的でチケットを購入し、それを高額で転売する行為が社会的に許容されるものではないことを示したという点においても、画期的なものであると言えるでしょう。

 以上のように、この判決がもたらす影響は少なくないものと思われます。転売目的で購入されたチケットが詐欺行為によって得られたチケットであるということになれば、それを購入したファンにも盗品等に関する罪(刑法256条)が成立する可能性があるため、音楽業界としては、買う側、売る側のいずれの面でも、転売行為に関与しないようファンに呼びかけていく必要があるでしょう。

提供元:CONFIDENCE

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