大江千里、ジャズピアニストとしての“再デビュー”語る「やらなければ後悔すると思った」

 大江千里から久々に届いた新作『Boys Mature Slow』(9月6日発売)は、ジャズで表現する喜びが伝わってくる、ジャズへの愛に満ちたアルバムだった。
 
 3歳からクラシックピアノを習い、小学生でポップスに開眼、大学生でソロデビューし、活躍してきた大江。10代の頃から特別な憧れを抱いてきたジャズに取り組むため、単身でNYに渡って4年半を経た今、自身のジャズのかたちを見つけたようだ。

 それにしても、50歳を前にしてそれまでのキャリアをいったん断ち、基礎からジャズを学ぶために大学に通ったストイックさには舌を巻く。「やるなら今だとアラートが鳴ったんです。人生は一度しかない。やらなければ後悔すると思った」。ジャズのトリオで曲を作ったりもしたが、「自己流なので騙しだましやってきた感じ。息苦しかった」と当時を振り返る。

 選んだニューヨークの名門校、ニュースクールの講師陣には、大江が敬愛するチコ・ハミルトン、ジミー・オーウェンズ、レジー・ワークマンといった、プロの一流ミュージシャンが名を連ねる。「ジュニア・マンスのプライベートレッスンを受けることもできました。彼らの人間臭いところや音楽に対する美意識などを肌で感じ、“ジャズは特別なもの”という意識が少しずつ薄れていった。と言っても、そうなるまでに3年半くらいかかったんですが(笑)」。それまでのキャリアも壁となり立ち塞がった。「リズムの取りかたからして違う。僕があまりにも凝り固まっていたから、ジャズにコンバートするのは無理だと思っていたと、後で先生に打ち明けられました」。そんな葛藤の日々だったが、ジャズの理論を学び、若い学生たちとの交流を重ねていくうちに、「ドアがゆっくり開いていった」と彼は表現する。

 今作に取り掛かったのは、卒業(今年5月)を間近に控えた昨年末。レコーディングに至るまでの、山あり谷ありの物語はライナーノーツに詳しいが、メンバーはもちろん、スタジオの予約からエンジニアとの交渉まで、全て一人で行った。「コンセプトは“メロディを伝える”。クインテッドにしたのはフロントに若い才能を置いて、その後ろに僕が見え隠れするような、楽曲をアピールする作品を作りたかったから。低い跳び箱をゆっくり飛ぶ僕のようなピアニストがいてもいいはずで、いかに“いいね”って思わせるかを考えながらの作曲でありレコーディングでした」。

 アルバムを聴いた周囲の評価は「ポップなアルバム」だった。「東海岸のクールなジャズアルバムを目指して意気込んで作ったのに。でも、それが僕の持ち味だと自分を肯定できるようになった」。今作の出来栄えが口コミで伝わり、人脈が広がっていったのは大きな副産物と語る。

 「響きを大事に、シンプルでありなが味わい深いソロを弾くことが目標です」――Boys Mature Slow、ゆっくりと成熟するジャズピアニスト、大江のアルバムは、夢を追いかけることの楽しみも教えてくれる。

 本作を引っ提げ、2年ぶりに帰国した彼は、東京JAZZ(9月7日:東京国際フォーラム地上広場、9日:丸ビル1階マルキューブ)や、ブルーノート名古屋(10月12日)ブルーノート東京(10月14日、15日)で公演を行う。(オリジナル コンフィデンスより)

『Boys Mature Slow』
9月6日発売
VRCL 4022-4023(CD+DVD)
3300円(税込)
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