ORICON STYLE

2006年06月14日
宇多田ヒカル
SPECIAL ISSUE

この4年の間に更なる飛躍を見せたアーティスト宇多田ヒカル

 今さらながら『DEEP RIVER』は重厚感のある作品だった。1st『First Love』では無限に広がるかのような才能の迸りに驚き、2nd『Distance』ではその切れ味の鋭さに舌を巻いた。そのくらい彼女の作品からは毎回たくさんの楽しみを受け取ってきた。
 新作『ULTRA BLUE』。ここには“宇多田ヒカル”がしっかりと立っている。いや、もちろん、これまでの作品にも彼女ならではの個性がしっかりと息づいてはいたのだが、今回は“濃度”が桁違いに濃い。妥当な表現ではないかもしれないが、“音楽の神”が宇多田ヒカルという類まれな才能を介して極上の音楽を届けてくれたこれまでに対し、今回は宇多田ヒカル自身がディテールに至るまでの全てを発信しているという感じだろうか。まるで、過去の作品を貶めるように捉えられそうだが、それは本意ではない。3作の輝きは少しも色あせてはいないし、つまりは、アーティスト宇多田ヒカルのグレードがこの4年の間に更なる飛躍を見せていたということだ。

“生”を感じさせられるアルバム

 「traveling」以降から始まった彼女自身によるアレンジはこのアルバムでも全作品に及んでいる。さらに「COLORS」を除く全ての曲の“Keyboards and Programming”に宇多田ヒカルの名がクレジットされている(9曲は彼女単独での作業)。そんなところにもこの作品の“濃密”な味わいが溢れているように思える。
「自分らしさがすごく出てて、例えば歌詞にしても言いたいことが言えてて、入れたいだけの遊び心も入れられて、使いたかった言葉とかも使えて・・・っていう満足感があるし、あとボーカル面でも、“あ、何かすごくよくできたな”っていう意識があるし」と宇多田はこの作品に対しての満足度を語っている。それは、決して独りよがりの満足感ではなく、瑞々しいまでの鮮度を持った楽曲の数々を、受け手に大事に差し出せる充実感を素直に喜んでいる彼女の“純粋さ”から派生したものだ。そのくらい、ここに収められた作品からは“生”を感じさせられる。そして、その“生”ならではの魅力が「誰かの願いが叶うころ」や「Be My Last」といった既発のシングルナンバーにも新たな躍動感を与えている。言い方を換えよう。ここに収められているシングルナンバーはこのアルバムの中に収められたことで、その全体像をより捉えやすくなっているということだ。

音楽を通したコミュニケーション

 そんな『ULTRA BLUE』の中でも彼女自身が完成度に十分な満足を覚えているのがアルバムタイトルの元ともなったトラック4の「BLUE」。
「この曲ね、どこをとっても、言いたいことが言えてるの。今までみたいに、わかりやすい歌詞の中とか、自分が描いたストーリーの中で、めちゃくちゃ素な一行があるとか、そういう見せ方じゃなくて、ホント全体がその一行みたいな、今までチラッって出してた一行みたいなとこが、この曲は全部がそうなったっているのが、もう満足」
 こうした言葉を聞いていると、この4年間彼女が最も欲していたのは“音楽を通したコミュニケーション”だったのではないかと思えてくる。そのコミュニケーションツールを得たことによって、堰を切ったように溢れてきた“素の宇多田ヒカル”。彼女の今の思いがびんびん感じられるこのアルバムは、たまらなく素敵だ。だからこそ、このアルバムをしっかりと抱きしめてほしい。
(文:田井裕規)