クリープハイプが新曲「愛す」発表――10周年への想い 「ちょっと届かないくらいがいちばん楽しい」

 日常のなかで感じる切なさ、痛み、妬み、どこかにあるはずの希望をストーリーテラーのように描き出す歌。そして、生々しいバンドサウンドと一度耳にすると決して忘れることのない歌声によって、バンドシーンのなかで代えの利かない存在感を確立しているクリープハイプ。現メンバーになって10周年を迎えた彼らから、ニューシングル「愛す」(読み:ブス)が届けられた。

「クリープハイプを知らない人にも 届くような曲を作りたかった」

「イト」(2017年)以来、約3年ぶりのCDシングルとなる本作のタイトル曲「愛す」は、別れてしまった“君”に対する後悔をテーマにしたナンバー。「つい“ブス”とか言って素直になれなかったけど、やっぱり愛しくてしょうがない。でも、たぶんもう会えない」……という感情を描いた歌詞は、まさに“尾崎世界観”節だ。この曲に関して尾崎は、「“クリープハイプの曲”ではなくて、曲自体が広がって、バンドのファン以外の人たちにも聴いてもらいたい曲です」と語る。
尾崎世界観クリープハイプを知ってくれている人はもちろん大事ですけど、そこだけに寄り掛かるのはよくないと思うんです。ある程度知ってもらえるようになったからこそ、クリープハイプを知らない人にも届くような曲を作りたかったんです。それは作り手としての欲求でもあり、“そういう曲がないと残っていけない”という危機感でもあります。
長谷川カオナシ『愛す』のデモ音源を聴いたとき、バンドのお客さんだけではなく、もっといろんな人に聴いてもらえるポピュラリティがあると感じました。アレンジをするときも、バンドでエモーショナルに演奏するというより、曲の良さを伝えることを意識していました。
 生ドラムのフレーズをループさせたリズムトラック、あえて生々しい表現を抑えたギター。バンドらしさよりも、曲自体の魅力を際立たせることを優先させた「愛す」のアレンジには、バンドサウンド以外の要素がふんだんに取り込まれている。もちろん、クリープハイプにとっては新機軸と言えるだろう。
小泉拓これまでは基本的に一斉に音を鳴らしてきたので、データで組み立てる今回の制作はすごく新鮮でした。曲が良ければいいという想いだったし、抵抗はなかったですね。もし“ドラムは必要ない”ということになれば、無理に演奏しなくてもいいという気持ちでした。
小川幸慈ギターに関しても、音色やトーンを重視して、自分自身の表情はなるべく消すようにしました。
尾崎歌もそうで、なるべくクセが出ないように、無機質に歌っています。曲を立たせるためには、バンドの熱を冷ましたほうがいいと思っていました。自分たちの意思でこういった引き算のアクションを起しているという意味ではバンドらしいと思うし、自分たちに飽きないためにも新しいことをやりたかったんです。

作っている側と受け取る側のズレは必ずある

 楽曲の魅力を新たな層に伝えるための施策は、ミュージックビデオ(MV)にも及んでいる。「愛す」のMV制作を担当したのは、MV、CM、テレビ番組などで独創的な映像作品を提示しているクリエイティブチーム“AC部”。クリープハイプとAC部のコラボレーションは、NHKみんなのうたで放送された「おばけでいいからはやくきて」以来、2回目。「ベイビーメイビー」と題されたオリジナルのSFアニメ作品と「愛す」の歌詞を融合させたMVは、キャラクターやストーリーのインパクト、過剰な情報量の映像を含め、すでに大きな話題となっている。
長谷川初めて見たときから“すごい。これは何だろう?”という衝撃がありました。何度も見ていると、曲が切なくなるところでは、MVでも切ないシーンが重なっていたり、曲の良さが伝わる作品だと思います。
尾崎1回見ただけで全部理解できることも大事だけど、何回も見ないと理解できなかったり、面白さがわからなくてもいいと思うんです。せっかく作品を作るんだから、長く触れてほしいし、何度も見てもらいたいと思っています。
 カップリング曲には、フジテレビの若手芸人によるお笑いプロジェクト「ウケメン」エンディングテーマ曲「キケンナアソビ」を収録。“こっちは口だけじゃない だからさ もっと色々しようよ”など、尾崎らしいダブルミーニングが楽しめるこの曲にも、打ち込みの要素が全面的に取り入れられている。
小泉打ち込みの良さがすごく出てますね。『愛す』もそうだけど、音楽は何でもありだし、バンドのフォーマットだけにこだわらなくてもいいと感じました。
尾崎同じスタイルを貫くのもバンドらしさだと思うし、エフェクターで音色を変えるような感覚で、制作のスタイルを切り替えることで幅も広がるんじゃないかなと思っています。バンドサウンドにはすぐに戻れますからね。
 2月からは10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はクリープハイプで出来てた」がスタート。バンド史上最大キャパの幕張メッセ国際展示場9-11ホール公演を含むこのツアーに対して彼らは、「大きな会場でのワンマンは絶対に成功させたい。次のステージに向かうための大事なツアーだと思います」(長谷川)「いままで培ってきたこと、いまのバンドの姿勢を見せたい」(小川)と強い意欲を見せる。バンド初の著作『バンド』(ミシマ社)でも語られているように、クリープハイプは決して順調に進んできたのではなく、さまざまな試行錯誤、紆余曲折のなかで現在のポジションを獲得した。現状に満足することなく、不安定であっても、常に先に向かっていくスタンスこそが、このバンドの最大の原動力なのだろう。
尾崎いまの状況も決して居心地がいいわけではなくて。ずっとバランスが悪い場所にいるような気もします。でも、その姿勢でいいのかなと思っています。今回のシングルもそうですけど、作っている側と受け取る側のズレは必ずあるし、そこは学びながらやっていくしかないと思います。ちゃんと狙いを定めて、やりたいことがしっかり届くようにしたいという気持ちもあるけれど、受け取る側とのズレも大事なんですよね。100%を伝えられたらバンドをやる意味がなくなると思うし、ちょっと届かないくらいがいちばん楽しいのかもしれないですね。

提供元: コンフィデンス

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