来年25周年のゴスペラーズ、“生のハーモニー”に拘るワケ 「音楽は人との響き合い」
世界的な作家陣が集結した珠玉のラブソングR&Bアルバム
黒沢 薫 お互い音楽を続けてきたからこそ、こういう形で再会できた。そのことがうれしいと、彼らも言ってくれました。
アルバムでは全12曲中、7曲を両プロデューサー、もしくはどちらかがが手がけている。
村上てつや 当初は50thの記念の意味もあって、シングル1曲を想定していたんですよ。そしたら彼らから『今のゴスペラーズに歌ってほしい』とものすごい勢いで曲が送られてきました。しかもアメリカの音楽業界を生き抜いてきた彼らだけあって、どの曲も“今のサウンド”でした。
象徴的なのは、今夏に発売されたシングル「In This Room」。HIP HOP隆盛以降のR&Bが色濃いトラックや、艶かしい歌詩は正統派ボーカルグループという一般的なゴスペラーズのイメージを覆すものだ。
黒沢 薫 それが意外にも、すごくしっくり来ました。流行りだからといって妙に妙にハードなHIP HOPだったりしたら違和感もあったかもしれないけど、あくまでもメロウでスウィートという軸はブレていなくて。J.Queもゴスペラーズを理解した上で作ってくれたと思うとうれしくなりましたね。
酒井雄二 彼らとのスタジオワークもすごく面白くて、曲作りの風景をインスタライブで中継したり。機材や音色、それこそ解禁前の曲まで全世界に明かしてしまう。これが今のアメリカの音楽ビジネスなんだなあと。僕もうっかり映り込んだりして、そんなときは“日本の有能なミュージシャン”みたいな顔を作りました(笑)。
また、アルバムのリード曲「Sweetest Angel」はTWICEやOH MY GIRLなどを手がけ、グローバルに活躍するMayu Wakisakafが担当。作曲には台湾の気鋭のトラックメイカーが共作で参加している。
村上てつや 今回は新しい作家陣にたくさん曲を提示してもらったのですが、なかでも一番インパクトがあったのがこの曲。譜割りの細かさやボーカルチェンジの早さはまさに今のサウンドで、僕らとしても挑戦の意味が大きかった。失敗するかもしれないというリスクも含めてね。でも、だからこそやっておきたかった。結果、完成したら周りからもすごく評判がよくて、Bryan、J.Queの曲を差し置いてリード曲になった次第です。
来年でメジャーデビュー25周年を迎える彼ら。盤石なスタイルとポジションを確立しながら、攻めの姿勢もまだまだ止めない。
安岡 優 ファンに喜んでもらいたいのはもちろんだけど、ブラインドで(ゴスペラーズと知らずに)聴いた人、特に今の世界のサウンドに馴染んでいる若い世代にどう届くかが楽しみです。少なくとも平均年齢45歳のサウンドじゃないものができたと思っているので(笑)。その上でアルバムまで辿り着いてくれたら最高ですね。
アナログと生のハーモニーを今こそ届ける意味合い
黒沢 薫 今回、かなり自信のあるアルバムができました。アナログを先に出すのは、そのことを端的に世の中にお知らせする、ある種の戦略的な意味合いもあります。
北山陽一 アナログが再び人気を集めているのは、聴くための儀式的な手順が音楽を特別なものにするということに気づいた人が、若い世代の音楽好きにも増えているからじゃないかなと。また僕らもアナログの音源になることを前提に、コーラスワークなどの試行錯誤もいつも以上に綿密にやることができて、すごく達成感のあるレコーディングでした。
意欲的な挑戦を盛り込んだアルバムながら、そこに貫かれているのは5人のハーモニー。今年2月、グループ史上初めて新聞に掲載した意見広告「世界には、ハーモニーが足りない。」。そして“今、世界に必要なものは…”という意味のタイトルが付けられた本作には、ゴスペラーズの真骨頂である極上のラブソングが詰め込まれている。
安岡 優 いろんな意味合いに受け取られるであろう問い掛けだったけど、僕らの回答としてはラブソングだった。音楽だって結局は人と人との響き合いがなければできないものだし、来年のデビュー25周年に向けて改めて自分たちの音楽と向き合う意味合いもありました。
骨太なメッセージを、熟練のハーモニーで優しく包み込む。四半世紀の活動歴をメンバーチェンジなく積み上げてきた、彼らだからこその説得力だ。10月からは全国36都市40公演を回るツアーがスタートする。
村上てつや 長く一緒にやってこれたのも、メンバーみんなが出不精じゃなかったことは大きかったと思いますよ。スタジオにこもって音源を作り込むよりも、ライブをやるモチベーションのほうが高いというか。
北山陽一 ブレイク前からラジオで1曲を歌うのも含めて、年間100回は人前で歌ってきました。そうすると恥はかけないから5人で練習することになるし、結果的に雑念が入る余地がなかったのかも(笑)。
安岡 優 ひと昔前はよく『全国細かく回ってすごいですね』と言われていました。でも僕らがデビューした頃に比べて、たくさんライブをするアーティストが増えましたよね。それはミリオンヒットが出にくくなったことやいろんな理由があるんだろうけど、僕はいろんなことが一周して音楽を伝える本来の形に戻ったと思う。そういう意味では音楽業界が、今すごくいい状況になっているんじゃないかなと。
(文/児玉澄子)