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NexTone代表取締役CEO 阿南雅浩氏 大切なのは「エージェントに徹し、権利者の意向を柔軟に反映させること」 10年の歩みと著作権管理の現状【インタビュー】

 2016年2月、音楽の著作権管理と利用促進を推進する事業、権利者・クリエイターをサポートする事業を展開することを目的に発足したNexTone。会社発足から10年、デジタル化の加速、コロナ禍など、音楽をめぐる環境はめまぐるしく変化している。いまや音楽業界内外で注目される存在となったNexTone設立の経緯やこれまでの歩み、今後の展望について、代表取締役CEOの阿南雅浩氏に話を聞いた。

NexTone代表取締役CEO 阿南雅浩氏

NexTone代表取締役CEO 阿南雅浩氏

10年間で管理曲数は7倍、取扱高は13.5倍に拡大

――創立からの歩みを振り返りつつ、この10年間での変化や、現状でのNexToneの業務内容を教えてください。

阿南「権利者に著作権管理の新たな選択肢を提供する」ということを目的に、2016年にNexToneはスタートしました。設立以前から「サブスクリプション・サービスで配信するにはどうすればいい?」「ライブ・ビューイングをやるにはどうしたらいい?」といった声をいただいており、当社がハブとなってそれらのニーズに応えつつ、それが巡って楽曲管理とのシナジーを拡大した10年間でした。そのため現在では、設立当初の目的でもある著作権管理事業をコアビジネスとしつつ、エージェントとして、権利者や利用者の多様なニーズに応えるべく、DD(デジタルディストリビューション)事業、音楽配信事業、ビジネスサポート事業(当社のキャスティング事業、システム開発・保守運用事業、レコチョクのソリューション事業)の4つの事業を展開しております。

 主軸である著作権管理事業においては、NexTone設立時の管理曲数9.6万曲から10年間で約60万曲増加し、2025年度3月期で69.1万曲と約7倍に、取扱高(徴収額)は約27億円から約365億円と約13.5倍になりました。ヒット曲を多数お預けいただいているおかげで、曲数以上に取扱高の伸びが顕著となっています。とはいえ、著作権使用料徴収額の市場シェアではまだ10%にも達しておらず、当初掲げた目標である50%には遠く及びません。それでも設立時の目的は、現時点でもある程度達成できていると考えています。

――コロナ禍以降、個人で音楽を作り、発信するクリエイターが増えると同時に、サブスクリプション・サービスの普及で音楽の聴かれ方が大きく変化しました。著作権管理に直結する、音楽の発信のされ方の変化については、どのようにご覧になっていいますか?

阿南「発信のされ方」については、テクノロジーの進歩はあるものの根本的には以前とそれほどの変化は感じておりません。もちろん、プロダクションに所属せずレーベルとも契約せず、アーティスト自身がすべてを自分で行うことは可能な時代とはなりました。とはいえ、現状ではアーティスト自身がプロモーションや商品流通、著作権登録やアーティスト印税の分配までこなすのは相当難しい。まだしばらくの間はそうだと思います。実際に、すべてを自分で行っている人は極わずかです。そういう意味で、実態はそれほど変わっていないと考えています。

 確かに2000年代に入り、いずれはレコード会社もプロダクションも不要になるかもしれないと言われましたが、20年以上経ってもそれほど変わりませんし、CDも減少したとはいえ今なお大きな存在感を示しています。それこそブロックチェーンが出てきた時は、これで著作権管理も個人で管理可能だとも言われましたが、世の中、それほど大きく実態は変わっていません。そういう意味でも、やはりアーティストにはクリエイティブな活動に専念いただいて、レーベルやプロダクションには制作宣伝などにプロの力を発揮いただき、そこから先の「めんどうなこと」「特殊なノウハウが必要なこと」を、すべてNexToneに丸投げしていただければと考えていますし、そういう存在になりたいと思っています。

 ただし、「変化は感じない」と言いつつも、生成AIの登場による、著作権法第2条で言うところの「(人の)思想・感情を創作的に表現」していない音楽、著作物とは定義されない楽曲については、慎重に取り扱わねばならないと考えています。

――実際に生成AIで音楽が作られ始めている現状については、どのように考えていらっしゃいますか?

阿南法的にも、著作権が認められる作品というのは人間が思想や感情を創作的に表現したものに限られますから、たとえば動物が描いた絵に著作権はありません。人間が作っていないという点で、AIが作った音楽によって、職業作家やミュージシャンを含めた音楽家が機会損失をこうむったり、それによって創造のサイクルが回らなくなってしまうことには危機感を抱いています。

 極端な例ですが、たとえばAIが作った音楽でBGMや背景音楽として通用することがあったとしても、「数秒で作れるからAIでいい」「作曲家にお金を払わなくて済むからAIでいい」という社会を、私は否定的に考えています。数年前にハリウッドで、「AIが書く脚本を認めるな」という脚本家たちのデモがありました。同じことが作詞家や作曲家にも言えると思いますし、著作権の取り扱いをしっかりと考えなければ、プロフェッショナルが失業したり、なり手がいなくなる危険もあります。とはいえ便利なものの進歩を止めることはできませんから、今言えることは、AIと音楽の関係は十分に慎重な議論が必要だということです。

――一方で、現代の音楽の「聴かれ方」については、どのような傾向があるとお感じですか?

阿南2020年以降、70〜90年代の名曲が再評価される傾向が顕著になったと感じています。また、当社の徴収額データを見ると、もちろん新譜にはリリースタイミングでの瞬発力はあるものの、通年で見たとき、3年前や5年前の楽曲や音源が徴収額の上位にランクされています。前年にヒットした楽曲が次の年にも放送で使われ、カラオケで歌われているわけですから、その時の世の中でのヒット感と、徴収額とでは少々違う傾向があります。これは善し悪しではなく、そういう事象があるということです。こうしたことは、CDなどの記録媒体からサブスクリプション・サービスへと聴取スタイルが変貌していることの象徴的な事象だと捉えています。もうひとつ、シティポップ人気に代表されるように、70年代、80年代の曲が海外での再生回数が飛躍的に伸びているといったことが、デジタルで数字としてはっきりとわかるようになったことも、聴かれ方の変化を端的に示していると思います。

著作権を譲渡しない管理手法がクリエイターに支持される理由

――音楽に対する価値観そのものについては、この10年間で何か変化をお感じですか?

阿南当社の著作権徴収額が年々増加していることを踏まえても、音楽の価値は上がっていると考えています。少なくとも下がってはいない。むしろ、エンタテインメントにおいて、ゲーム、アニメ、スポーツでも音楽は欠かせない存在となっていますから、よい意味で音楽とエンタテインメントが融合していくなかで、音楽は、衰退しない、普遍的な存在になっていると考えています。そうした状況で、我々が預かっている楽曲の価値を最大化させるべく、ビジネスサポート事業として、配信やライブ・ビューイング、CM使用などのコンテンツ利用企画提案までさせていただいている点がNexToneの特色です。

――現状、日本の音楽著作権管理団体としてNexToneとJASRACの2つがありますが、JASRACとの関係性やすみ分け、あるいは差別化については、現状はどのようになっていますか?

阿南JASRACとの関係性は、独占禁止法の問題もあり、設立当初からあまり変化はありません。それでも、配信や放送、カラオケや演奏の分野では、データを共有して、二重徴収や誤分配を避けるために、必要に応じてコミュニケーションをとっています。

 差別化の点においては、JASRACが信託譲渡契約により著作権を移転させる管理手法であるのに対して、当社は著作権を権利者に残したまま委任・取次によって、あくまでもエージェントとして、クリエイターをはじめとする権利者の意向に沿った管理とすることを強調しています。先ほども少し触れましたが、お預かりした楽曲をDD事業やキャスティング事業などを通じて、楽曲の経済価値の最大化を図る「攻めの管理」を行っていることも、もっと広く知っていただけるようにアピールする必要があると考えています。

――JASRACと異なり、NexToneは「著作権を保有しない」ことの意味合いや、権利者から見た際のメリットについて改めて教えてください。

阿南そもそも論になりますが、著作権等管理事業法の立法は、「著作権を譲渡しない形式の楽曲管理があるべきではないか」「一社独占ではなく競争原理の導入が必要ではないか」というニーズが大きくなったことによるものです。そのニーズに応えるべく設立したのがNexToneですので、我々はあくまでもエージェントに徹し、権利者の意向を柔軟に反映させることができるようにしたのが当社独自の楽曲管理手法です。それが近年、多くの権利者、特にシンガーソングライターやボカロP、ゲーム・アニメ業界からの支持を得ており、これが大きな強みになっています。

――確かに、著作権を譲渡せずに管理してもらえる御社の手法は、ボカロPをはじめとする現代の音楽クリエイターと相性が良さそうですね。

阿南先ほど、市場シェアはまだ10%に満たないとお話ししましたが、NexTone設立以降にデビューしたアーティストで考えると、感覚的なお話ですが、おそらく30〜40%くらいの作品を当社に委託いただけているのではないかと考えています。特にこの5年ほどの間にデビューしたアーティストは、最初から楽曲管理のひとつの選択肢としてNexToneを検討していただけていますので、今後も当社の管理手法を広くご理解いただけるように尽力したいと思っています。

――現状、NexToneに委託しているアーティストの満足度を高めていくことで、よりシェアを拡大していこう、と。

阿南おっしゃる通りです。実際に我々がやり取りさせていただいているのは音楽出版社がメインで、そのみなさまの満足度をいかに高めていくかが大切だと思っています。私はよく米作りに例えるのですが、農家は頑張って美味しいお米を作り、収穫を農協に出荷したら、そこから先の流通はお任せしますというスタイルに近くて、クリエイター自身は、作った楽曲を自社プロダクション、レコード会社、放送局などの系列音楽出版社に預けるわけで、当社は一義的にはその音楽出版社とやり取りをさせていただいています。いわゆるBtoB事業ですから、企業広告的な活動でのアピールではなく、音楽出版社のさまざまなご要望にお応えすることで、さらなるシェアの拡大を目指したいと思っています。

――今後の展望や今もっとも注力している事業、早期に着手すべきと考えている項目などをお聞かせください。

阿南NexToneの創立以来、演奏権、海外徴収権など、それまでに管理されていなかった分野を開拓してまいりました。しかし、演奏権の一部である「カラオケ・社交場での演奏」だけは、歴史的に人海戦術が必要で、未だ管理できておりません。そのため、NexToneの事業に賛同して楽曲管理を委託いただいている権利者に、その支分権だけはJASRACに、その他はNexToneにと、作品届けや再分配に二度手間をおかけしてしまい、それが権利者目線で、当社に楽曲管理を委託しづらい大きなハードルにもなっています。そのため、利用者や関係団体の協力も得ながら、一日も早くフルラインナップでの管理を実現しなければならないと考えております。

 シンガーソングライターやボカロP、ゲームやアニメ音楽などの権利者からは、設立以来、支持をいただいていますが、そうした権利者の中にも、まだ楽曲を委託いただけていない方がいらっしゃいます。また、シェア拡大に向けては、職業作家が中心となるアイドルやK-POP、歌謡曲といったジャンルにも当社の特徴を理解していただき、オールジャンルを網羅しなければならないと強く感じているところです。

――最後に、クリエイターをはじめとする音楽著作権の権利者に向けてメッセージをお願いします。

阿南NexToneは、企業理念として「For the Future of Music 〜音楽文化・音楽産業の発展のために、私たちは挑戦を続けます〜」を掲げています。私たちは単なる著作権管理事業者にとどまらず、世界にも類を見ない音楽の総合エージェントとして、音楽制作者のみなさま、音楽コンテンツを利用されるみなさまのすべてのニーズにお応えする会社を目指しています。平たく言うならば、「面倒なことや権利処理はすべてNexToneにお任せください」という立ち位置を目指しており、DD事業やキャスティング事業、そしてビジネスサポート事業もそのために発足しました。みなさまからも、「あったらいいな」というサービスをどんどん当社にリクエストしていただけることを心から願っております。
※文中敬称略

取材・文:布施雄一郎
【阿南雅浩氏プロフィール】
■1986年:CBS・ソニーグループ(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社
法務部契約課を皮切りに一貫して著作権業務、500 組以上のアーティスト契約に従事し、日本中のほぼ全てのプロダクション、音楽出版社の知己を得る
1999年:世界初の有料音楽配信サービス「bitmusic」(現mora)の立ち上げ、2002年に 「着うた(R)」サービスの立ち上げなどに参画
■2007年:エイベックス・グループ・ホールディングス(現エイベックス)に移籍
執行役員として法務部、契約部、国際部、経営企画部などを管掌
2014年にグループの音楽出版社、エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社代表取締役社長、2015年にNexToneの前身、株式会社イーライセンス代表取締役社長(兼務)に就任
■2016年:NexTone発足
JASRAC1社独占の弊害に対抗するため、エイベックスが出資し、株式会社イーライセンスと株式会社ジャパン・ライツ・クリアランスの筆頭株主となり、両社を合併して、2016 年にNexTone発足、同社代表取締役CEOに就任(兼務)
2018年:エイベックスを完全退職し、NexToneの経営に専念
2020年:東京証券取引所マザーズ(現グロース)に株式公開
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