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ORICON NEWS
40周年のサザン、桑田佳祐が語る変化とは?「世の中の風潮と戦ってきた」
『海のOh, Yeah!!』が2週連続1位、この20年でサザンにも“デジタルの波”が
“プレミアムアルバム”と銘打たれた本作には、サザンが1997年から今年までに発表した楽曲から選りすぐった全32曲が収録されている。デビュー40周年、前述の『海のYeah!!』から20年目というタイミングで放たれた、祝祭色の強い企画盤である。
ディスク1に当たる“Daddy”sideは「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート〜」「涙の海で抱かれたい 〜SEA OF LOVE〜」といった名ポップチューンや、「BLUE HEAVEN」、「イエローマン 〜星の王子様〜」、「01MESSENGER 〜電子狂の詩(うた)〜」、「私の世紀末カルテ」など、ミレニアム目前の当時の混沌を見つめていた、サザンの音楽探求の足跡で主に構成されている。リリースに先駆けて行われたオフィシャルインタビューにおいて桑田佳祐はこう語っている。
「2000年を間近に控えた当時は、自分の目に見える範囲でも見えない範囲でも、デジタルの波がわっと押し寄せていましたね。レコーディングの機材にしても、以前はできなかったようなことが簡単にできるようになって、当時のマニュピレーターやレコーディングエンジニアにいろんな無茶振りをし始めた頃でしたね」(桑田)
歴代売上4位の「TSUNAMI」、東日本大震災を経て「しばらく別の箱にそっとしまっておこう」
だが2011年の東日本大震災の直後から、甚大な津波被害による被災者の感情への配慮という見地から、「TSUNAMI」はテレビやラジオ等において耳にすることがなくなった。それぞれのメディアがそれぞれの思いと考えのもと、いわゆる“自粛”の動きがとられたのだ。
「もちろん被災された方々への配慮は、決して忘れてはならないことですから、僕自身、この曲はしばらく別の箱にそっとしまっておこうと思っていました」(桑田)
すると、それからほどなくして、一部の見識者から自粛という動きそのものについて疑問を呈する声があがった。2016年には、被災地である宮城県女川町の臨時災害放送局“女川さいがいFM”が閉局を迎えた際、“最後の一曲”として「TSUNAMI」がオンエアされた。放送後、同曲にはリスナーからの感謝の声が多数寄せられたそうだ。ただ、それでもサザン並びに桑田は、2008年に行われたライブ『真夏の大感謝祭』での演奏を最後に、自分たちから「TSUNAMI」を発信するアクションを起こしてはこなかった。
「我々サザンとしては、スタッフも含めて、東北のことを忘れてはいない。震災は終わっていません。だから自分を戒めるじゃないですけど、歌わないようにしてきました」(桑田)
「あらためて“あの日を忘れない”という想いも込めて、この曲を収録しよう」
「アルバムの1曲目としての意味合いも感じられたし、この作品に、ひとつ特別な色を与えてくれているようにも思えました。サザンには「東京VICTORY」という、被災地と寄り添う思いを綴った曲もありますが、あらためて“あの日を忘れない”という想いも込めて、この曲を収録しようと決めました」(桑田)
「世の中の風潮と組んず解れつ戦ってきた20年間だったのかもしれない」
「シンプルなラブソングではない曲が増えましたね。世の中の風潮と組んず解れつ戦ってきた20年間だったのかもしれない。2000年代に入るとインターネットを通じてより多くの情報がより手に入りやすくなったし、自分の世代なりの心配事や気になることが増えました」(桑田)
さらに3曲の新曲が興味深い。ジャーナリスティックな切り口が光る「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」。爽快なサウンドに乗せてかの日のアイドルへの憧憬と惜別を歌う「壮年JUMP」。そして原由子がメインボーカルと弦編曲を手掛けた「北鎌倉の思い出」。どの曲からも、なおも新たなサウンドを探求せんとしている、彼らの飽くなき姿勢が感じられる。
「「闘う戦士たち〜」は事前に映画(同曲が主題歌を務める『空飛ぶタイヤ』)を観て、感じた思いをそのまま歌にしました。「壮年〜」は(タイアップの)三ツ矢サイダーのCMも“夏だサザンだ”みたいな明快なコンセプトだったので書きやすかった。「北鎌倉〜」は原さんと二人でスタジオに入ってプリミティブに作り始めました。この弦編曲ではクラシックを学んでいた彼女が懐刀を発揮させています」(桑田)
無限の選択肢が存在する今、「“何を選ぶのか”ではなく“何を選ばないのか”が重要」
「最近の洋楽はよく出来ていて、ラジオで聴こうがスマートフォンやPCで聴こうが成立するように最小限の音数で作られていますよね。情報もデジタル音源も無限と言える選択肢が存在する昨今ですから、曲の方向性、歌詞の言葉選び、アレンジにおいても“何を選ぶのか”ではなく“何を選ばないのか”が重要になってくる。そこで40年の暖簾なりの技や勘のようなものが働いてくれたらという願いはありますけどね。40年前よりもジャンルレスな音楽シーンのなかで、嵐やEXILEやAKB48の人たちが、彼らなりの若さでいまだからこそ歌える歌があるように、サザンはサザンで工夫を凝らして、僕らが演奏してこそ楽しんでもらえるような歌をこれからも歌っていきたいと思います」(桑田)
かつての思春期に洋楽や日本の歌謡曲から影響を受けた青年たちが組んだバンドは、いまや国内はもとより、海外のベテラン勢とも異なる姿で、未踏のキャリアを更新し続けるまでの存在となった。祝祭と憂いと慈しみの先に広がるサザンのこれからとは? やはり今後も期待せずにはいられない。
(文:内田正樹)