ORICON NEWS
注目の音楽ユニット・三月のパンタシアとは? 日常の“表と裏”を同時に描くリアルに共感
曲のようなユニット名で顔は非公開……ネットやアニメファンとの親和性が高い
三月のパンタシアには、今の時代の10代〜20歳前後の音楽ユーザーにフィットした要素が複数見られる。ひとつはネーミング。SEKAI NO OWARI、水曜日のカンパネラに代表される「○○の○○」や「○○は○○」といった、歌詞のひと節のような文章タイプのアーティスト名で、「何これ?」「どういう意味?」という、良い意味での違和感が生まれ、それがインパクトに繋がっている。これは、人気のラノベやドラマ、コミックなどのタイトルの付け方の傾向とも合致。「セカオワ」「逃げ恥」のように、すでに「三パシ」と省略されて、ジワジワと名前が広がっている。
もうひとつは、顔が非公開であること。ユーザー側には、聴いた人それぞれの中で、主人公像や物語をイメージできるという自由さが生まれる。10代を中心にした現在の音楽ユーザーは、LINEやネットを介した言葉と絵によるコミュニケーションに慣れ親しみ育っている。同時にボカロやニコニコ動画においては、歌っているその人の顔やバックボーンといった情報に左右されることなく、純粋にその作品に対していかに共感でき、いかに想像力をかきたてられるかということをポイントに聴く傾向にある。そうしたユーザー世代をターゲットにした音楽にとって、顔が非公開であることは、むしろメリットだとも言える。実際に、96猫、EGOIST、ClariSなど写真非公開のアーティスト、みみめめMIMI、パスピエ、暁月凛など、デビュー当初は非公開だったが現在は公開してライブ活動を行っているアーティストも多数いて、ほとんどがネットやアニメのファンとの親和性が高い。
メディアミックス展開を可能にする豪華なクリエイター陣
三月のパンタシアには、そうしたメディアミックス展開を可能にするクリエイターが、最初から多く参加している。すこっぷ、ゆうゆ、40mp、n-buna、buzzGなど人気ボカロPが楽曲を提供し、映画化が決定した小説『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)の装丁イラストを担当したloundrawや、『臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族』(古野まほろ著)の装丁イラストなど手掛ける浅見なつが、ジャケットやブックレットのイラスト、ミュージックビデオの絵を担当。前出の小説を手掛けているノベリストのみのりも名を連ねている。この豪華さには「メンツがすごい」などネットでも話題になっていた。
表と裏が同時に存在する歌詞と歌声で、若者のリアルな心情を体現
ネット上にも「『フェアリーテイル』はサビで泣くのでカラオケで歌えない」「バラード調の歌ではないけど、不思議と涙をそそられる。歌詞のメッセージ性に何か自分と通ずるモノでもあるのか…」など、歌声や世界観に対する評価が高い。パンタシア=ファンタジーを意味し、三月という出会いと別れの季節感をファンタジーと捉えた、どことなく醸し出されるモラトリアム感もまた、大人になりきれないネットの音楽ユーザーやラノベのファンの五感を刺激している。
(文:榑林史章)