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サザンオールスターズ、10年ぶりのオリジナルアルバムが初登場1位! “葡萄”の房のようにたわわに実った新作を徹底解剖
これぞサザン! バラエティに富んだ収録曲
そこで、新曲を中心に、収録曲をひも解いていきたいと思う。まずはサザンの持ち味のひとつである、酒と女を題材にした曲や、夏の海と恋をかけた楽曲。例えば「青春番外地」は、ブルージーでホーンも入ったナンバー。酔いどれ感と哀愁がたっぷりだ。「天井棧敷の怪人」は、ムーディーなキューバン・ラテン調。どこか『ステレオ太陽族』とか『NUDE MAN』のころのサザンをほうふつとさせる。これは、往年のファンならば、これぞサザンだ! と口をそろえるだろう。
美しいハモを聴かせるミディアムバラードの「彼氏になりたくて」などは、まるで静かな浜辺で聴いているような雰囲気だ。武井咲が出演したテレビCM曲「はっぴいえんど」もまた、心地よい海風を感じさせてくれるナンバー。そして原由子のメイン・ボーカル曲「ワイングラスに消えた恋」は、昭和歌謡のムードたっぷり。まさしく原坊節といった感じで、聴くものを思わずホロリとさせる。
感情が高ぶるロックナンバーも多数収録
しかし、どの曲もあくまでもエンタテインメントの一貫としての表現に徹しているところはさすが。例えば「道」という曲では、自分自身のことを卑下しながら、<これが僕のやり方だ>と歌う。「道」はジャカジャカとかき鳴らされるアコギと、浮遊感あふれるシンセが絶妙に絡み合うナンバーで、しっとりとしながら実に熱い歌声を聴かせている。実はこの前には「天国オン・ザ・ビーチ」が収録されており、「天国〜」からの流れで「道」を聴くと、2010年に桑田が食道がんで手術を受けたときに桑田が感じたであろう、死生観のようなものが伝わってくる気がする。<人生なんて〜儚い物語>という歌詞もあり、改めて聴くと乾いたサウンドと相まって、非常に刹那的なものを感じた。
読めば読むほど深みにハマる“物語”
この10年という年月の間には、日本にとって実に様々なことが起きた。それは、サザンにとっても他人事ではなく、その都度、様々な行動を起こしてきた。たとえば震災もそのひとつ。一昨年、約8年ぶりに開催されたサザンのスタジアムツアー『灼熱のマンピー!! G★スポット解禁!!』では、2011年の桑田のソロツアーで使われた、宮城復興の願いを込めた提灯にふたたび火を灯し、最終日の宮城まで各地で灯された。『葡萄』からは桑田やサザンはもちろん、この10年間に起こったさまざまな出来事への想いが感じられる。
また、桑田は「葡萄の花言葉に『陶酔』という意味がある」ともコメントしていたが、アルバムは最新でありながら、様々な時期のサザンをほうふつとさせるサウンドやメロディーが絶妙に忍ばせられており、リスナーとしてサザンとともに歩んできた37年の月日が、まるで走馬燈のように頭の中を駆け巡る感覚もあった。その瞬間の心地よさは、まさしく「陶酔」と言っていいだろう。10年ぶりのアルバムではあるが、10年と言わず37年分の、サザンと聴き手が共有してきた経験と想いが、葡萄の房のようにたわわに実った16曲だ。
(文/榑林史章)