2020年6月、「才能豊かなアーティストとともに、色褪せない音楽を追求し、音楽が持つ本質を的確に多くのリスナーへ発信すべく」ポニーキャニオン内に設立した音楽レーベル「IRORI Records」(イロリレコーズ)。設立から5年、当初はOfficial髭男dismとスカート、2組のアーティストのみの所属だったが、提携レーベルを含め現在は11組が所属するレーベルに成長。音楽業界内外で注目される存在となっている。設立の経緯やこれまでの歩み、今後の展望について、IRORI Recordsのレーベル長・守谷和真氏に話を聞いた。
■「この方向性ならこのアーティストが一番素晴らしい」というアーティストと契約
――5年前にIRORI Recordsを立ち上げた経緯や思い描いていたレーベル像について教えてください。
【守谷】元々、社内で新レーベルを立ち上げたいという構想がありまして、Official髭男dismを発掘し、彼らが世の中に広く知られたタイミングで会社から正式な打診を受けてレーベルを立ち上げました。ただその時に、特に大きな目標を掲げたり、ジャンルを限定したりするようなことは考えてなくて。なぜかと言うと、それ以前はどういうプロモーションをしたらネタになってニュースになるかといった、音楽の本質とは違う部分を考えることが多かったんです。それがOfficial髭男dismとスカート(澤部渡)を担当するようになって、2組と仕事をしていく中で、音楽の本質で勝負していけるという体験をしたんです。ちょうど、そういったアーティストを集めたレーベルを作れるといいなと考えていたところでしたので、特に明確な狙いがあったというわけではないんです。
――強いて言えば、純粋に良い音楽を広めていこう、と。
【守谷】そうですね。僕らは「この方向性ならこのアーティストが一番素晴らしい」と思う人たちと契約しているので、自然と同じタイプが重ならなくなる。もし、特定のジャンルや方向性に絞ると、そこにどうしても優劣が生まれてしまいますが、それぞれの方向性で「一番」と感じるアーティストと一緒にやっているので、その結果、いい意味で方向性が多彩なのだと思います。もうひとつ、僕もスタッフも洋楽リスナーが多いので、僕らが魅力を感じるアーティストは、ルーツとして洋楽を聴いて育っていて、それをJ-POPに変換している人たちが多い気がしています。もちろん、それが基準ではありませんが、後になって話をしてみると、個性はバラバラなのに彼らが聴いてきた音楽と共通項が多いんです。そこはひとつ、レーベルのベーシックなカラーになっているのかもしれません。
――今や11組のアーティストが所属するまでになったこの5年間を振り返って、どのように感じていますか?
【守谷】Official髭男dismとスカートの2組だけでスタートして、5年後もこの2組だけの可能性があったことを考えると、すごくチャレンジングな5年間であり、このレーベルに集まったアーティストたちが作り上げてくれたブランディングも、自分が思い描く以上のものになっている実感があります。IRORI Recordsは従来のレーベル形態より、もう少し広い活動をしていて、立ち上げ後すぐに所属してくれたKroiやTOMOO、Bialystocksをはじめとするアーティストたちとは、ライブやグッズ周りといったトータルのビジネスを一緒に取り組んでいます。僕たちにそのノウハウがあったわけではなく、しかもそれがコロナ禍ど真ん中での取り組みでしたので、本当にアーティストと二人三脚でコロナ禍を乗り越えていきました。それこそコロナ禍で初ワンマンというアーティストもいて、異常事態の中でお客さんをどう盛り上げるかといった試行錯誤は、コロナ禍が明けた今、どのアーティストもライブ・パフォーマンスがすごく強いと思える大きな要因になっていると思います。
――ライブと言えば、今年5月にイギリス・ブライトンで開催された音楽フェスティバル『The Great Escape』内ショーケース・イベント「The Allternative Escape」にレーベル所属アーティストが4組(a子、Bialystocks、go!go!vanillas、Kroi)出演しましたね。これはどういうきっかけで?
【守谷】go!go!vanillasがIRORI Recordsに移籍してきたタイミングで、ロンドンへレコーディングに行ったんです。彼らはUKロックにルーツがあるバンドなので。その時に知り合ったスタジオの人間を通して『The Great Escape』の話をいただきました。一般的に海外戦略といえば、北米やアジア圏ツアーはよく聞きますが、イギリスはあまり聞きませんよね。でもイギリスって、音楽的な情緒や共鳴が日本と近い気がしているんです。しかもIRORI RecordsにはUKがルーツだというミュージシャンが多いので、イギリスで一度チャレンジしようと思ったんです。
――現地の反応や手応えはいかがでしたか?
【守谷】一体どれくらいのお客さんが来てくれるのか不安もありましたが、400人ほどのヴェニューがパンパンになって。「日本から来たアーティスト」くらいの情報しかない中、文化圏の違う、ほぼ現地の人たちですごく盛り上がりました。サーキットイベントでしたので、私自身もいろんな会場にライブを観に行きましたが、客観的に見ても、自分たちの音楽クオリティは高いと感じましたし、そこに熱狂する現地のお客さんの様子も体感できました。会場を担当していた現地のフェス・スタッフからも「一番クオリティが高かった」と言ってもらえて、自信にもなりましたし、イギリスをはじめヨーロッパに自分たちの音楽を届けたいと思うきっかけにもなりました。これを続けていけば、いわゆるアニメ発信などとは違う文脈で「日本のミュージシャンはヤバイぞ」と本当に思ってもらえるかもしれないと感じています。
■リスナーにより深く刺さるような音楽を届けたい
――一方で国内では、5周年を記念したタワーレコードとのコラボレーションが好評ですね。
【守谷】タワーレコードさんにIRORI RecordsのCDキャンペーンを組んでいただいて、所属アーティストのポスター展示やフリーマガジン「IRORI BOOK」の配布、そして渋谷店では7月に期間限定POP-UP SHOPも展開しました。POP-UP SHOPは当初1週間の予定でしたが、評判がすごく良かったので2週間やらせていただいて。我々のレーベルって、「IRORI Recordsだから聴いてみよう」と言うよりは、個々のアーティストのファンが集っていったら「そこにIRORI Recordsがあった」というような存在だと思っていて。だからライブに行けば、アーティストによって客層は本当にバラバラ。ですからこういう機会に、自分の好きなアーティスト以外の、IRORI Recordsの音楽を知ってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
――ちなみに、「IRORI」というユニークなネーミングはどのように名付けられたのですか?
【守谷】レーベルを立ち上げる際、Official髭男dismとのオンライン会議中に「レーベル名をどうしようか」と話をしたんです。そこで、私はアウトドアが好きなこともあって、ひたすらキャンプ用語を出していって。その中に「囲炉裏」があったんです。この言葉はとても日本っぽいし、英字表記にすると回文になってロゴのアイデアも浮かびやすそうで。それに私が好きな海外のレーベルと語感がちょっと近いこともあって「IRORI」がしっくりときたんです。ですから、その場で決まったような感じではありましたが、結果的に、何か自分の考える音楽の価値観みたいな物にもすごくつながる名前になったと思っています。
――所属アーティストの個性を考えると、確かにレーベル自体にキャンプ感がありますよね。個々はバラバラにソロキャンプをしていても、みんなが同じキャンプ地にいて、どこか不思議な一体感もある、そんな雰囲気を感じます。
【守谷】そうなんですよね。後々話をこじつけようと思ったら、いろいろと後づけできる名前になりました(笑)。
――この5年間で音楽の聴かれ方は大きく変わりましたが、音楽サブスクリプション・サービス(以降、サブスク)中心の時代に、レーベルの在り方、役割も変化していると感じますか?
【守谷】質問の答えになっているかどうかわかりませんが、音楽の聴かれ方は確実に変わっていると思います。SNSでのバズが直接的にチャートに影響する時代で、結果、サブスク黎明期に比べると音楽的な本質とは少々かけ離れたチャートになりがちだと感じています。言い換えると、楽曲の再生数がファン数とイコールではないことも明確になってきたと思っています。いくら再生数が多くても、ライブにたくさんのひとが来てくれるとは必ずしも言えない。そういう状況で、特に我々のようにライブも含めてトータルにアーティストと活動していくレーベルにとっては、いかにライブに足を運んでもらうかという点でも、数を稼ぐのではなく、リスナーの濃さを高めることが大切。そのためには、自分たちの音楽をどういうふうに聴いてもらうのか、届け方、1再生の重みがとても大事になってきていると考えています。
――なるほど。IRORI Recordsとしては、数よりも密度を上げていきたい、と。
【守谷】はい。もちろん、バズを狙って音楽を作ることもひとつの正義だと思いますが、それを狙って出来る人たちに、僕らが数の勝負をしかけても勝てる確率は低い。ならば我々は、リスナーにより深く刺さるような音楽を届けたいし、この音楽を聴いていろんなことを感じてほしいと思って発信しています。例えば、Official髭男dismの「Pretender」は2019年のリリースですが、6年経ったいまでもサブスク・チャートTOP50に入り続けています。いい作品は残るというクリエイティブの良さが大前提ではありますが、僕らレーベルがどう音楽を届けるのかといった部分も、少なからず関与しているような気はします。
■プライオリティが高いのは“ライブ力”より“音源力”
――ちなみに今、新しい才能を発掘する際に、サブスクやSNSなどのネットとリアルなライブとでは、どちらの比重が高いですか?
【守谷】我々の場合は、ほぼ100%ネットだと言っていいと思います。TuneCoreなどを利用すれば、今は誰でも自分の作品をサブスク配信できますから、それを聴いたり、YouTubeで若いアーティストと出会ったりすることが多いですね。そこで気になったアーティストのライブを観に行くことはありますが、たまたまライブを見ていて発掘するということは少なくなったかもしれません。
――ネットを重視する理由は?
【守谷】僕らは“ライブ力”と言うよりも、絶対的に“音源力”と言うか、音源の個性、ボーカルの個性に圧倒的なプライオリティを置いているんです。実際にこれまでの経験でも、曲を聴いて「いいな」と思ってもライブがあまり良くなかったという例はザラにあって。ただ、ライブは環境を整えて経験を積めば向上できますが、クリエイティブのセンスって、努力や経験ではなかなか大きく変えられないと思っていて。その人が元来持っているセンスや哲学が重要なので、まずは必ず音源をチェックします。でも、ライブがすごく良くても音源が良いと思えなければ、契約はかなり難しい。これがすべてではありませんが、それくらいに、自分は音源に高いプライオリティを置いています。
――よくわかりました。それでは、今後のレーベル展望を聞かせてください。
【守谷】良くも悪くも、この5年でレーベルのカラー、客観的なイメージが出来上がったと思っていますが、そこに自分たちが飲み込まれたり、勝手に「このカラーに合うアーティストを」と世界を狭めたりすることなく、新しい価値観を見いだしてくれる次世代アーティストたちに、積極的に対応できるようにしていきたいですし、今いるアーティストとも長く一緒にやっていけたらと考えています。
――『The Great Escape』のような海外展開については?
【守谷】おそらくIRORI Recordsのアーティストたちって、世界中で聴かれて名前が認知されることよりも、自分たちが発信したい音楽がどれだけ伝わるのか、そこを重視する人たちがほとんどだと思うんです。その自我を崩してまで、海外にアジャストした音楽を作ることは誰も考えてないと思いますし、レーベルとしても、意図的に海外にアジャストしたクリエイティブを作ろうとは考えていません。根本的にはそういうマインドですが、もちろん日本の音楽が世界にどう伝播していくのか、そこにはチャレンジしていきたいですね。
――では最後に、リスナーにメッセージを。
【守谷】我々は、本当に音楽が好きな人間が集まって、音楽を作り、それを届けようとしているレーベルです。だからこそ、私たちと同じように音楽が好きな方々をがっかりさせてしまわないよう、真摯に音楽と向き合って発信し続けていこうと思っていますし、音楽が好きな方々には、ぜひとも自分たちの音楽を聴いてほしいです。所属アーティストの名前は知っているけど、まだちゃんと聴いたことがないという方々にも、ぜひIRORI Recordsの音楽をチェックしていただければと思っています。
取材・文:布施雄一郎
■IRORI Records Official site:https://irorirecords.com/
■「この方向性ならこのアーティストが一番素晴らしい」というアーティストと契約
――5年前にIRORI Recordsを立ち上げた経緯や思い描いていたレーベル像について教えてください。
【守谷】元々、社内で新レーベルを立ち上げたいという構想がありまして、Official髭男dismを発掘し、彼らが世の中に広く知られたタイミングで会社から正式な打診を受けてレーベルを立ち上げました。ただその時に、特に大きな目標を掲げたり、ジャンルを限定したりするようなことは考えてなくて。なぜかと言うと、それ以前はどういうプロモーションをしたらネタになってニュースになるかといった、音楽の本質とは違う部分を考えることが多かったんです。それがOfficial髭男dismとスカート(澤部渡)を担当するようになって、2組と仕事をしていく中で、音楽の本質で勝負していけるという体験をしたんです。ちょうど、そういったアーティストを集めたレーベルを作れるといいなと考えていたところでしたので、特に明確な狙いがあったというわけではないんです。
――強いて言えば、純粋に良い音楽を広めていこう、と。
【守谷】そうですね。僕らは「この方向性ならこのアーティストが一番素晴らしい」と思う人たちと契約しているので、自然と同じタイプが重ならなくなる。もし、特定のジャンルや方向性に絞ると、そこにどうしても優劣が生まれてしまいますが、それぞれの方向性で「一番」と感じるアーティストと一緒にやっているので、その結果、いい意味で方向性が多彩なのだと思います。もうひとつ、僕もスタッフも洋楽リスナーが多いので、僕らが魅力を感じるアーティストは、ルーツとして洋楽を聴いて育っていて、それをJ-POPに変換している人たちが多い気がしています。もちろん、それが基準ではありませんが、後になって話をしてみると、個性はバラバラなのに彼らが聴いてきた音楽と共通項が多いんです。そこはひとつ、レーベルのベーシックなカラーになっているのかもしれません。
――今や11組のアーティストが所属するまでになったこの5年間を振り返って、どのように感じていますか?
【守谷】Official髭男dismとスカートの2組だけでスタートして、5年後もこの2組だけの可能性があったことを考えると、すごくチャレンジングな5年間であり、このレーベルに集まったアーティストたちが作り上げてくれたブランディングも、自分が思い描く以上のものになっている実感があります。IRORI Recordsは従来のレーベル形態より、もう少し広い活動をしていて、立ち上げ後すぐに所属してくれたKroiやTOMOO、Bialystocksをはじめとするアーティストたちとは、ライブやグッズ周りといったトータルのビジネスを一緒に取り組んでいます。僕たちにそのノウハウがあったわけではなく、しかもそれがコロナ禍ど真ん中での取り組みでしたので、本当にアーティストと二人三脚でコロナ禍を乗り越えていきました。それこそコロナ禍で初ワンマンというアーティストもいて、異常事態の中でお客さんをどう盛り上げるかといった試行錯誤は、コロナ禍が明けた今、どのアーティストもライブ・パフォーマンスがすごく強いと思える大きな要因になっていると思います。
【守谷】go!go!vanillasがIRORI Recordsに移籍してきたタイミングで、ロンドンへレコーディングに行ったんです。彼らはUKロックにルーツがあるバンドなので。その時に知り合ったスタジオの人間を通して『The Great Escape』の話をいただきました。一般的に海外戦略といえば、北米やアジア圏ツアーはよく聞きますが、イギリスはあまり聞きませんよね。でもイギリスって、音楽的な情緒や共鳴が日本と近い気がしているんです。しかもIRORI RecordsにはUKがルーツだというミュージシャンが多いので、イギリスで一度チャレンジしようと思ったんです。
――現地の反応や手応えはいかがでしたか?
【守谷】一体どれくらいのお客さんが来てくれるのか不安もありましたが、400人ほどのヴェニューがパンパンになって。「日本から来たアーティスト」くらいの情報しかない中、文化圏の違う、ほぼ現地の人たちですごく盛り上がりました。サーキットイベントでしたので、私自身もいろんな会場にライブを観に行きましたが、客観的に見ても、自分たちの音楽クオリティは高いと感じましたし、そこに熱狂する現地のお客さんの様子も体感できました。会場を担当していた現地のフェス・スタッフからも「一番クオリティが高かった」と言ってもらえて、自信にもなりましたし、イギリスをはじめヨーロッパに自分たちの音楽を届けたいと思うきっかけにもなりました。これを続けていけば、いわゆるアニメ発信などとは違う文脈で「日本のミュージシャンはヤバイぞ」と本当に思ってもらえるかもしれないと感じています。
■リスナーにより深く刺さるような音楽を届けたい
――一方で国内では、5周年を記念したタワーレコードとのコラボレーションが好評ですね。
【守谷】タワーレコードさんにIRORI RecordsのCDキャンペーンを組んでいただいて、所属アーティストのポスター展示やフリーマガジン「IRORI BOOK」の配布、そして渋谷店では7月に期間限定POP-UP SHOPも展開しました。POP-UP SHOPは当初1週間の予定でしたが、評判がすごく良かったので2週間やらせていただいて。我々のレーベルって、「IRORI Recordsだから聴いてみよう」と言うよりは、個々のアーティストのファンが集っていったら「そこにIRORI Recordsがあった」というような存在だと思っていて。だからライブに行けば、アーティストによって客層は本当にバラバラ。ですからこういう機会に、自分の好きなアーティスト以外の、IRORI Recordsの音楽を知ってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
――ちなみに、「IRORI」というユニークなネーミングはどのように名付けられたのですか?
【守谷】レーベルを立ち上げる際、Official髭男dismとのオンライン会議中に「レーベル名をどうしようか」と話をしたんです。そこで、私はアウトドアが好きなこともあって、ひたすらキャンプ用語を出していって。その中に「囲炉裏」があったんです。この言葉はとても日本っぽいし、英字表記にすると回文になってロゴのアイデアも浮かびやすそうで。それに私が好きな海外のレーベルと語感がちょっと近いこともあって「IRORI」がしっくりときたんです。ですから、その場で決まったような感じではありましたが、結果的に、何か自分の考える音楽の価値観みたいな物にもすごくつながる名前になったと思っています。
――所属アーティストの個性を考えると、確かにレーベル自体にキャンプ感がありますよね。個々はバラバラにソロキャンプをしていても、みんなが同じキャンプ地にいて、どこか不思議な一体感もある、そんな雰囲気を感じます。
【守谷】そうなんですよね。後々話をこじつけようと思ったら、いろいろと後づけできる名前になりました(笑)。
――この5年間で音楽の聴かれ方は大きく変わりましたが、音楽サブスクリプション・サービス(以降、サブスク)中心の時代に、レーベルの在り方、役割も変化していると感じますか?
【守谷】質問の答えになっているかどうかわかりませんが、音楽の聴かれ方は確実に変わっていると思います。SNSでのバズが直接的にチャートに影響する時代で、結果、サブスク黎明期に比べると音楽的な本質とは少々かけ離れたチャートになりがちだと感じています。言い換えると、楽曲の再生数がファン数とイコールではないことも明確になってきたと思っています。いくら再生数が多くても、ライブにたくさんのひとが来てくれるとは必ずしも言えない。そういう状況で、特に我々のようにライブも含めてトータルにアーティストと活動していくレーベルにとっては、いかにライブに足を運んでもらうかという点でも、数を稼ぐのではなく、リスナーの濃さを高めることが大切。そのためには、自分たちの音楽をどういうふうに聴いてもらうのか、届け方、1再生の重みがとても大事になってきていると考えています。
――なるほど。IRORI Recordsとしては、数よりも密度を上げていきたい、と。
【守谷】はい。もちろん、バズを狙って音楽を作ることもひとつの正義だと思いますが、それを狙って出来る人たちに、僕らが数の勝負をしかけても勝てる確率は低い。ならば我々は、リスナーにより深く刺さるような音楽を届けたいし、この音楽を聴いていろんなことを感じてほしいと思って発信しています。例えば、Official髭男dismの「Pretender」は2019年のリリースですが、6年経ったいまでもサブスク・チャートTOP50に入り続けています。いい作品は残るというクリエイティブの良さが大前提ではありますが、僕らレーベルがどう音楽を届けるのかといった部分も、少なからず関与しているような気はします。
■プライオリティが高いのは“ライブ力”より“音源力”
――ちなみに今、新しい才能を発掘する際に、サブスクやSNSなどのネットとリアルなライブとでは、どちらの比重が高いですか?
【守谷】我々の場合は、ほぼ100%ネットだと言っていいと思います。TuneCoreなどを利用すれば、今は誰でも自分の作品をサブスク配信できますから、それを聴いたり、YouTubeで若いアーティストと出会ったりすることが多いですね。そこで気になったアーティストのライブを観に行くことはありますが、たまたまライブを見ていて発掘するということは少なくなったかもしれません。
――ネットを重視する理由は?
【守谷】僕らは“ライブ力”と言うよりも、絶対的に“音源力”と言うか、音源の個性、ボーカルの個性に圧倒的なプライオリティを置いているんです。実際にこれまでの経験でも、曲を聴いて「いいな」と思ってもライブがあまり良くなかったという例はザラにあって。ただ、ライブは環境を整えて経験を積めば向上できますが、クリエイティブのセンスって、努力や経験ではなかなか大きく変えられないと思っていて。その人が元来持っているセンスや哲学が重要なので、まずは必ず音源をチェックします。でも、ライブがすごく良くても音源が良いと思えなければ、契約はかなり難しい。これがすべてではありませんが、それくらいに、自分は音源に高いプライオリティを置いています。
――よくわかりました。それでは、今後のレーベル展望を聞かせてください。
【守谷】良くも悪くも、この5年でレーベルのカラー、客観的なイメージが出来上がったと思っていますが、そこに自分たちが飲み込まれたり、勝手に「このカラーに合うアーティストを」と世界を狭めたりすることなく、新しい価値観を見いだしてくれる次世代アーティストたちに、積極的に対応できるようにしていきたいですし、今いるアーティストとも長く一緒にやっていけたらと考えています。
――『The Great Escape』のような海外展開については?
【守谷】おそらくIRORI Recordsのアーティストたちって、世界中で聴かれて名前が認知されることよりも、自分たちが発信したい音楽がどれだけ伝わるのか、そこを重視する人たちがほとんどだと思うんです。その自我を崩してまで、海外にアジャストした音楽を作ることは誰も考えてないと思いますし、レーベルとしても、意図的に海外にアジャストしたクリエイティブを作ろうとは考えていません。根本的にはそういうマインドですが、もちろん日本の音楽が世界にどう伝播していくのか、そこにはチャレンジしていきたいですね。
――では最後に、リスナーにメッセージを。
【守谷】我々は、本当に音楽が好きな人間が集まって、音楽を作り、それを届けようとしているレーベルです。だからこそ、私たちと同じように音楽が好きな方々をがっかりさせてしまわないよう、真摯に音楽と向き合って発信し続けていこうと思っていますし、音楽が好きな方々には、ぜひとも自分たちの音楽を聴いてほしいです。所属アーティストの名前は知っているけど、まだちゃんと聴いたことがないという方々にも、ぜひIRORI Recordsの音楽をチェックしていただければと思っています。
取材・文:布施雄一郎
■IRORI Records Official site:https://irorirecords.com/
2025/11/05




