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【インタビュー】藤あや子、憧れの歌手・吉幾三と共作 景色を思い描きながら歌う女の情念

 演歌歌手としての活動と並行して、小野彩(このさい)というペンネームで創作活動も展開する藤あや子。小野彩が綴った詞に吉幾三がメロディをつけ、7月3日にリリースしたニューシングル「雪の花」が大きな話題を呼んでいる。突然の病に襲われながらもそれを乗り越え、完成させた新曲の制作秘話を藤あや子に聞いた。

故郷の雪景色思い出しながら女の情念を詞に紡いだ藤あや子

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■新生・藤あや子が歌う 小野彩作詞、吉幾三作曲の“みちのく艶歌”

「シンガーソングライターになりたいと思って、30年ほど前に作詞作曲を始めたのは、同じく東北出身の吉幾三さんに憧れていたからです。小野彩というペンネームも、吉さんが“よし・いくぞう!”なら、私は“このさい”やろう! ということでつけた名前です」

 吉が作詞・作曲を手がけた「おばこ巡礼歌」を、藤あや子は1996年にリリースしている。

「最近は、坂本冬美ちゃんとセットで食事やゴルフを通じて吉さんと親交を深めているのですが、5年くらい前に、『詞を書いてくれたら曲をつけるから書いて!』と吉さんがおっしゃったことがあって、すぐに詞を書きあげて吉さんにお渡ししたんです。そして吉さんがメロディをつけてくださって、『雪の花』ができ上がりました」

 小野彩は、女の情念を詞に綴った。その舞台は、ふたりの故郷であるみちのくだ。

「雪の辛さと恋愛の辛さが似ていると感じて、『雪が降る中で女性が紅を引いて、男性のもとに駆け出す』というイメージがすっと浮かんだんです。もちろん思いだされたのは、私の故郷で、みちのくの小京都と呼ばれる角館の雪景色です。角館に住んでいたときは、牡丹雪や横殴りの吹雪など、さまざまな雪を経験したので、いろいろな表情を見せる雪景色を思いだしながら、女の情念を詞に紡ぎました。光栄なことに、吉さんの名曲『雪国』と呼応するような歌とおっしゃっていただくこともありますが、それはまったくの偶然です」

 詞も曲も完成し、吉がデモテープも作り、あとはレコーディングするだけという段階まで進んでいた「雪の花」だが、リリースのタイミングを逸したまま5年ほどが過ぎていた。

「『雪の花』を作っていたときはデビュー30周年に重なっていた時期で、新曲候補がいくつかあったために、保留のままになっていました。やはり私の詞に吉さんが曲を書いてくださった作品ですから、私自身もしかるべきタイミングで出したいと考えて、スタッフとも話しあったうえで、吉さんにもいい頃合いで発売しましょうとお伝えしていたんです。それから5年が経とうとしていた今年の初め、吉さんから『真奈美(本名)が歌わないなら誰かに渡すぞ』と、ちょっと脅迫めいたご連絡をいただいて(笑)、スタッフと相談してレコーディングの準備を始めました」

 その矢先、彼女を子宮体がんが襲う。

「4月に受けた人間ドッグで初期の子宮体がんが見つかり、5月の初めに子宮と卵巣の全摘出手術を行いました。レコーディングは延期も検討しましたが、私の入院中に、吉さんが編曲をしてくださった若草恵先生とオケ撮りを進めてくださったんです。吉さんは『こっちは大丈夫だから任せてくれ!』と私におっしゃってくださって、その一言でどれだけ安心したことか!」

 歌のレコーディングは、退院後まもなく行われた。

「手術もありましたし、退院後にしっかり声が出るか不安でしたから、入院前に歌を録っておいたほうがよかったのではないかと思ったりもしたのですが、入院前にレコーディングする時間が取れなかったんです。でも、手術を経験して、悪いものを取りさって、きれいな体で“新生・藤あや子”として歌ったほうが、歌への思い入れも強くなるのではないかとも感じました。レコーディングのときは、エレキギターの情熱的なイントロを聞いた瞬間に雪景色が目に浮かんで、鳥肌が立ったのを覚えています。歌えるだろうかという不安は一気に吹き飛んで、『歌いたい!』と心から思いました」

 レコーディングに吉は立ち会わず、信頼するディレクターの指示を仰いだ。

「三連符がこの曲のポイントだから、リズムをしっかりとりながら感情を乗せて歌うように、ディレクターからはアドバイスを受けました。三連符は、私の師匠である猪俣公章先生が得意としていたリズムです。猪俣先生の教えを思いだしながら、課題曲であるかのような感覚でレコーディングに臨みました。特に吉さんから歌のアドバイスはなく、レコーディング終了の報告と、無事に発売したという報告を吉さんに入れましたが、音沙汰なしです。『どうなっているのかしら?』と思っていたら、先日冬美ちゃんから『吉さんが3人でご飯に行きたいとおっしゃっているから、日程をすり合わせましょう』と連絡をいただいて、ようやくお約束を取りつけました。どんな感想をいただけるのか、楽しみと不安が入り混じっています」

 ミュージックビデオは、2005年以来、コンサートDVDの撮影など数々の作品で、新しい映像制作に取り組んできた盟友・小松莊一良が手がけた。

「今回は、場末のスナックのママを演じています。食材が詰まったレジ袋を持って商店街を歩いたり、お店に着いて『よっこらしょ』と荷物を置いて開店準備をしたり……。『こんなママ、いるだろうな』と思いながら、本物のスナックをお借りして撮影しました。実は私の母も秋田でバーを経営していたんです。母の店にも真っ赤なベルベットの椅子やミラボールがあったので、『お母さんもこんな感じで仕事していたのかな』と思いを馳せることができました。水商売に生きる女性のたくましさや悲しさを感じることができたのもいい経験になりましたね」

 カップリングには、アジアの歌姫テレサ・テンが歌って1970年代に中華圏で大ヒットした「月亮代表我的心」(邦題:月は何でも知っている)が収録されている。

「6、7年前に深夜のテレビで、テレサ・テンさんがこの歌を歌っているのを見て、『なんて素晴らしい歌なんだ!』と引きこまれました。その際に歌のタイトルをメモして、いつかチャンスがあったら歌ってみたいと、レコード会社のスタッフに伝えていたんです。それをスタッフが覚えていて、今回カップリングに収めました。発音をご指導くださったのは、NHKの中国語講座にも出演されている劉セイラさんです。セイラ先生によると、テレサさんは口づけをするような歌い方をされていて、現代の中国語とはまたひと味違うやさしい響きで歌っているそうなんです。たしかに、この歌を歌うテレサさんは艶っぽくてかわいらしいんですよね。『やはりこの曲は中国語で歌うしかない!』とワクワクしながら中国語の勉強を楽しみました」

病気を経験したことで違う景色が見えるようになったという

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■亡き母のメッセージを真摯に受け止めつつ 術後は猫吸いとヨガでリハビリ

 突然のがん罹患と手術の公表は、世間を驚かせた。

「病気のことを公表したのは、女性の歌を歌っていて、女性を応援したいという思いがあったから。その一方で、自分では一大事という感覚があまりなく、性格的に隠しごとは苦手ですし、とにかく事実を発信しようと考えたんです。でも、手術して1ヶ月後の検診に行った際、主治医の先生が『あや子さんの公表後に、多くの女性が検査に訪れたんだよ。あや子さんは、何百人の命を救ったかもしれないね』とおっしゃって、私の言葉で多くの女性が行動に移してくださったことをうれしく思いました。さらに先生が『これから歌う歌も違ってくるかもしれないね』と言ってくださったのも感激して!」

 入院中は、これまでの歌手人生を振り返る時間を過ごしたという。

「実は、私の母も63歳でがんに侵されて、そのまま帰らぬ人となってしまったんです。そんな母と同じ年齢で私ががんになったのは、母からの『もう少しいたわりなさい』というメッセージなのかなと思わずにはいられません。これまで忙しくバタバタと生きてきましたが、63歳でがんになったのは、いろいろと考えたほうがいいのではないかというお告げだったかもしれないと思うんです。歌をはじめ、何でもきっちりとやらないと気が済まない性格で、自分に厳しすぎる傾向があったので、これを機に少し自分にやさしくしてみようかなと考えるようになりました。病気を経験したことで、また違う景色を見ているなと感じています」

 そんな彼女の支えとなっているのが、SNSやマンガで大人気の保護猫マルとオレオだ。

「退院して自宅療養中も“マルオレ吸い”(猫吸い)のおかげで順調に回復しました。あの子たちは迷惑そうな顔をしていましたが(笑)。いつおもしろいポーズを取るかわからないので、シャッターチャンスを逃すまいと、スマホが手放せないんですよね」

 術後まもなく、美ボディを作りあげているヨガも再開した。

「手術は開腹ではなく、1センチほどの穴を何ヶ所か開けるダヴィンチ手術といわれるものだったので、お医者様からお腹を伸ばしたほうがいいとアドバイスをいただいたんです。ヨガもどうぞやってくださいということで、術後1ヶ月からヨガを再開しました。ブリッジも、肘をついて逆立ちするハンドスタンドもやっています!」

 今後は、歌手として活動しながら、ひとりでも多くの女性が美しく元気に生きていけるように、自分の経験上でプラスになることがあったら積極的に発信をしていきたいと目を輝かせる藤あや子。大病を乗り越え、深みを増した彼女の歌声は、さらに多くの人々を魅了するだろう。

文・森中要子

<作品情報>
藤あや子「雪の花」
2024年7月3日発売
品番:MHCL-3093/価格:1,500円(税込)

藤あや子「雪の花」

藤あや子「雪の花」

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【収録曲】
M1 雪の花 作詞:小野彩(藤あや子) 作曲:吉幾三 編曲:若草恵
M2 月亮代表我的心 作詞:孫儀 作曲:翁清溪 編曲:新田高史
M3 雪の花(オリジナル・カラオケ)
M4 月亮代表我的心(オリジナル・カラオケ)
※翁清溪の「清」は「清」の旧字体が正式表記

■藤あや子 プロフィール
1961年5月10日生まれ、秋田県出身。85年にNHK『勝ち抜き歌謡天国』で優勝し、89年にシングル「おんな」でデビュー。代表作はシングル「こころ酒」「むらさき雨情」花のワルツ」など。2013年にはJAZZアルバムも発表し、演歌歌手でありながら、作詞、作曲、エッセイ執筆のほか、近年は保護猫活動にも力を入れている。秋田県「食彩あきた応援大使」、山梨県「北杜市ふるさと親善大使」なども務めている。

■藤あや子 オフィシャルサイト:https://ayako.fanmo.jp/

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