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【インタビュー】 藤あや子、J-POPの人気曲をカバー 思い出とともに甦る名曲の数々

 4月に北島三郎プロデュースによるシングル「女がひとり」を発売し、ロングランヒットを記録している藤あや子。歌手として第一線で活躍しつつ、保護猫との生活を発信したり、写真集を発売したりと、幅広く活動を展開している彼女が、J-POPの名曲を歌ったカバーアルバム『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩〜KASSAI〜』を12月20日にリリースした。「歌は語るように、詞は歌うように」という師匠の言葉を胸に、まさに“喝采”すべき名盤が完成した。

ライブのワンシーンをイメージして撮影に臨んだ藤あや子

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■カバーアルバム第3弾は大切な人へ捧げるメモリアルな作品

 今作は、『Woman』(2011年発売)、『GENTLEMAN〜私の中の男たち〜』(17年発売)に続く、3作目のカバーアルバムとなる。

「昨年の暮れに行われたスタッフとの食事会の席で急きょ企画が決まりました。食事会は、所属事務所の宣伝部長で、当時末期がんを宣告された河西成夫氏を囲む会だったのですが、その際に彼が『医者からは今度の春の桜は見られないと言われたんだよ。思い残すことは、あや子のアルバムを作れなかったことだな』とこぼしたんです。その言葉を聞いて、その場にいたスタッフと『河西さんに闘病を頑張ってもらうためにもアルバムを作ろう!』と団結し、制作が決まりました」

 河西氏は、藤とスタッフの奮闘ぶりを見届けるように、アルバムのレコーディング作業が終わった11月14日に旅立った。

「河西さんは100曲以上の候補曲を考えてくださっていました。その中から、スタッフと話しあってセレクトし、私が提案した4曲も追加してアルバムができ上がったのですが、河西さんがセレクトした曲は『これを私が歌うの!?』と思ってしまうような意外なラインナップでしたね。郷ひろみさんの『ハリウッド・スキャンダル』(作詞:阿木燿子/作曲:都倉俊一)も個人的には驚きの選曲でしたが、『これをあや子が歌ったらおもしろいと思う!』と河西さんがおっしゃって、『そう言われたらやってやるぞ!』と思って臨んだ曲です」

 レコーディングでは葛藤もあったという。

森進一さんの『冬のリヴィエラ』(作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一)は、男の身勝手さが許せない詞だなと思ったのですが(笑)、そんな男を許すくらいの女になりたいなという思いも湧いてきて、複雑な気持ちで歌った曲です。『離したくはない』(作詞・作曲:森友嵐士/歌:T-BOLAN)はAメロとBメロが難しかったのですが、何回か歌ううちに自分の持ち歌のように生き生きと歌うことができました。挑戦状を受けて立つ、じゃないですが、これまでのキャリアや歌に対する思いなども含めてチャレンジした曲ばかりです。歌手としてとても勉強になりましたし、改めて楽曲の素晴らしさを感じました。オリジナルの楽曲が制作された当時から時が流れて、私も成長して、曲に対する印象が変わった歌もあります。いろいろな発見があるレコーディングになりました」

「さよならエレジー」「366日」「海鳴り」、そして「Far away」の4曲は藤あや子のセレクトだ。

「実はまだ『さよならエレジー』(作詞・作曲:石崎ひゅーい/歌:菅田将暉)をアルバムに収録していることを石崎ひゅーい君には直接伝えていないんです。以前から『さよならエレジー』を歌いたいと思っていたので、今度ひゅーい君とお食事する機会を設けて、完成したアルバムをお渡ししたいと思っています。『366日』(作詞・作曲:Izumi Nakasone/歌:HY)も大好きな曲なのですが、自分で選んでおきながらその音域の広さに苦戦しました。『海鳴り』(作詞・作曲・歌:中島みゆき)は私が高校生のときに聴いていた思い出の曲。友達と悩みを打ち明けたりしたなと、当時の思い出を懐かしく振り返りながら歌いました。そして『Far away』(作詞・作曲:伊藤薫/歌:谷村新司)もとても好きな曲なのですが、レコーディングを経ていっそう印象に残る楽曲になりましたね」

「Far Away」は、今年10月8日に亡くなっていたことが公表された谷村新司の名曲だ。

「『Far away』の歌入れが終わって、ダビング作業をしている最中に、谷村さんの訃報が飛び込んできたんです。やさしくて穏やかな谷村さんの在りしのお姿を思い返すと同時に、切ない詞が胸にグッときました。まさか谷村さんをお見送りする曲になるとは思いもしませんでしたね。歌手人生の中でも忘れられない1曲になりました」

「語るように歌う」ことの難しさ実感したという藤あや子

「語るように歌う」ことの難しさ実感したという藤あや子

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 表題曲の「喝采」は、ギターの伴奏に合わせて完成した。

「『喝采』(作詞:吉田 旺/作曲:中村泰士/歌:ちあきなおみ)は河西さんを思って歌いました。お別れの曲と思うと、いろいろな思いがこみ上げてきてレコーディングではなかなか歌えなかったのですが、歌手としてしっかり歌わなければ、闘病生活を頑張っている河西さんに合わせる顔がないと、自分を奮い立たせて歌ったんです。ギタリストの方と呼吸を合わせてでき上がった歌は、あまりに生々しい歌声が吹きこまれていて、スタッフに『少しリバーブかけませんか?』とお願いしたのですが、河西さんもスタッフも『これがいい!』とおっしゃるので、そのままの歌声になりました。私にしてみれば裸を見られているような気恥ずかしさがありますが、一方で私自身にとってもスペシャルな『喝采』ができたなと自負しています」

 レコーディングにあたって、大切な人たちからの言葉を胸に刻んだ。

「20代の頃に師匠の猪俣公章先生から『歌は語れ、詞は歌え』といつも言われていました。若かった私はその言葉がなかなか理解できず、もがくうちにだんだんわかるようになってきたのですが、それでもやっぱり民謡育ちということもあるためか、きっちりと歌いたくなるんですよね。ところが、昨年リリースした『鳥』をプロデュースしてくださった南こうせつさんが、歌番組でご一緒したときに『あやちゃん、もっと抜いて。歌わなくていいよ。そのほうが色っぽいし切ないから』っておっしゃったんです。こうせつさんの言葉にはハッとさせられましたし、猪俣先生の『歌は語れ、詞は歌え』という言葉を改めて思い出しました。実はレコーディングに1日だけ顔を出してくださった河西さんも、『もっと自由に伸び伸びとはみ出すくらいに歌ってよ』って笑いながらおっしゃっていたんです」

 こうして、心に語りかけるような歌を収めたアルバムが完成した。

「年齢とともにキャリアを重ねてきましたが、改めて『語るように歌う』ことの難しさを実感しました。でも歌手ですから、自分で歌っていて気持ちいいと思っているだけではいけないんですよね。お聴きくださる方に届く歌でなければならないと、改めて心に留めました。歌手として原点に返って、大切なことを再確認できた作品になりました」

■めぐりくるチャンスをつかんで、軽やかなステップで歌手人生を歩む

 アルバム名の『喝彩』の“彩”には、いろいろな意味が含まれている。

「中国語では“喝采”ではなく“喝彩”と書くそうですし、企画のきっかけとなった河西の“かさい”にもかけています。また、私のペンネームである小野彩(このさい)も“彩”という字を使っていますし、何より彩りのある楽曲が収録されているということもあり、アルバムのタイトルは『喝彩』としました。実は、今作のサウンドディレクターは、オリジナルの『喝采』の編曲をされた高田弘さんの息子さんの高田浩希さんなんです。運命の不思議なめぐり合わせを感じる1枚になりました」

 ジャケット写真は、ライブのワンシーンを彷彿とするショットだ。

「カメラマンさんに『いいですね、いいですね! かっこいいです!』と乗せられながら撮影しました。抱えているギターはマイギターです。還暦を迎えたときにギターを購入してレッスンをスタートして、目下『さよならエレジー』を練習しています。まだ人前で披露できる腕前ではないので、せめて写真だけでも撮ってもらおうと思って抱えてみました(笑)。目標は大好きなエレキギターを弾くこと。そのためにも、まずは基本となるアコースティックギターの習得を目指して頑張っているところです。不思議なもので学生時代は勉強が嫌いだったのですが、いまは学ぶことが大好きなんですよね。ギターレッスンもウキウキ気分で通っています。でも、やっぱりレッスンは厳しい! 終わって帰るころには、指も痛くてドッと疲れも出るのですが、それも含めて楽しんでいます」

 今作のように「急きょ企画が持ち上がったときに、パッと動けるフットワークの良さを維持していきたい」と語る藤あや子。愛しの保護猫マルとオレオのコミックも発売され、マルオレの母としての顔も持つ彼女は、5年後のデビュー40周年に向けて、愛猫の名を冠した「マルオレフェス」を開催したいと意気込む。この先も、めぐりくるラッキーをしっかり受けとめる彼女の多彩な活動に期待が高まるばかりだ。

文・森中要子

還暦を迎えてからギターにチャレンジした藤あや子

還暦を迎えてからギターにチャレンジした藤あや子

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■藤あや子 プロフィール
1961年5月10日生まれ、秋田県出身。1985年にNHK『勝ち抜き歌謡天国』で優勝し、1989年にシングル「おんな」でデビュー。代表作はシングル「こころ酒」「むらさき雨情」「花のワルツ」など。2013年にはJAZZアルバムも発表し、演歌歌手でありながら、作詞作曲、エッセイ執筆のほか、近年は保護猫活動にも力を入れている。秋田県「食彩あきた応援大使」、山梨県北杜市「北杜ふるさと親善大使」なども務めている。

<リリース情報>
『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩〜Kassai〜』

『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩〜Kassai〜』

『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩〜Kassai〜』

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発売日:2023年12月20日
品番:MHCL-3058/価格3,200円(税込)

01.街の灯り
02.ハリウッド・スキャンダル
03.グッド・バイ・マイ・ラブ
04.さよならエレジー
05.366日
06.冬のリヴィエラ
07.離したくはない
08.見上げてごらん夜の星を
09.海鳴り
10.さよならの向う側
11.Far away
12.あなた
13.喝采

■「Ayako Fuji Cover Songs 喝彩〜KASSAI〜」特設サイト
https://www.110107.com/s/oto/page/fuji_kassai?ima=5046

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