2024年4月にワーナーミュージック・ジャパンでの社長在籍期間が丸10年を迎える小林和之氏は、この節目にある決断をした。それが正社員制度の導入だった。マーケットシェアを伸ばすために、ワーナーミュージック・グループは近年テクノロジーへの投資を加速しているが、その目標を達成するためには、社員の意識改革も不可欠であると考えたからだ。新たなレーベルカラーを作り上げたい、そう意気込む小林氏は「もっとエッジを立てていこうよ」と社員に呼びかける。人への投資に本気で取り組むワーナーミュージック・ジャパンは、これからどう変わっていくのだろうか。
■アーティストに寄り添う良きパートナーであるためにテクノロジーへの投資は不可欠
――大晦日の『NHK紅白歌合戦』にはあいみょん、MISAMO(TWICE)が出演します。2組ともパッケージ、デジタルともに好成績を残していますが、中でもストリーミングでは常に多くの楽曲が上位にランクインしています。10月より貴社は新年度(FY2024)がスタートしていますが、まずは今期のデジタルへの取組みについてお話しください。
小林 デジタル領域はいっそうの強化を図ろうということで、2024年の重点事項の第一に掲げています。この2年ほど、ワーナーミュージック・グループ(WMG)は、社内のデジタルシステムのアップグレードを行ってきたのですが、ご存じのように今年1月にグループの最高経営責任者(CEO)に、YouTubeの元最高ビジネス責任者のロバート・キンセルが就任し、新たなテクノロジーの導入にも着手しています。先日、彼が来日した際にも、「今我々がやるべきことは、アーティストの利益をもたらすためのテクノロジーへの投資であり、そのスピーディな導入に注力していく」と意欲を見せていました。今後、音楽とどうクロスしていくのか、とてもわくわくしています。
――いいアーティストを発掘・育成してヒットを生むというレコード会社の根本は変わらないけれど、デジタルシーンにおいてテクノロジーの強化、技術革新は不可欠であるということですね。
小林 例えば、大リーグでも最新のテクノロジーを導入して、メジャーリーガーのデータを分析していますよね。各球団はそのデータをもとにプレイヤーの支援強化を図り、ベストパートナーになろうと努めています。僕は音楽もそれと同じだと思うんです。プレイしたり、音楽を生み出したりするのは人間です。その“青空”の部分は永遠に変わらないけれど、その下に流れる雲の動きは刻一刻と変化している。その動きを素早く読み取り、いかにアーティストに還元していくかが重要です。アーティストに寄り添う良きパートナーであるためにも、テクノロジーへの投資は不可欠なのです。
それに加えて、今年度はワーナーミュージック・ジャパン(WMJ)らしさをもっと追求したい。まっさらなキャンバスに新たに色をつけていくような気持ちで、レーベルカラーを作り上げていきたいと考えています。WMJの強みって、やはりグローバルミュージックカンパニーであることだと思うんです。それをもっと色濃く打ち出していくには、アーティストのアウトバウンドを成功させてグローバルヒットを作っていくことが近道です。今だとアニメを活用したアウトバウンドの促進は手っ取り早いし、僕らもやりたいけれど、残念ながらそのエンジンは持ち合わせていない。でも、我々にはアジア各国にWMGの仲間がいて、ワンチームとなって動くことができるわけですから、その部分をもっと活用するべきなんですよ。それを理解し、各国とのコミュニケーションを深めることができる人材が必要であることから、近年では社内の国際化の推進に取り組んでいます。
■マーケットシェア拡大には人への投資も必須 正社員制度導入に踏み切った背景
――確かにスタッフもずいぶん国際色豊かになっていますよね。自身の言葉でアジア各国のスタッフにダイレクトに伝えていけば、熱量も伝わりやすいですね。
小林 ちょっと短絡的かもしれませんが、社内の雰囲気を変えていくには、まずはスタッフの意識を変えていくことだと思ったのです。WMJの今のCFOであるフランク・ピドゥはグローバルメーカー出身のフランス人で、COOの島田和大は日本人ですが外国での就業・留学経験が豊富で、語学に加えグローバルなビジネスセンスを持っています。また、執行役員兼人事本部長のジェフ・ピールは、外資系金融出身のアメリカ人で、ジェフも先ほどのフランクも学生時代に来日していて日本での暮らしが長く、言語・文化的なローカルセンスを持っています。
というように、エグゼクティブ陣はグローバル感とローカル感を持ち合わせていますが、スタッフの国際色も豊かになってきています。もちろん語学に通じているから成功するわけではありませんが、せっかくグローバルミュージックカンパニーに在籍しているのだから、国際社会の共通語である英語を話せ、グローバルやアジアのスケールでものごとを考えられるスタッフがもっといたほうがいいよね、って。そういった動きもあって、僕が社長に就任した10年前に比べたら、そのようなスタッフは3倍くらいに増えていると思います。とはいえ、そういう僕は関西弁しか話せないんですけどね(笑)。
社内の雰囲気を変えるという意味では、女性スタッフの人数も増えていますね。今では男女半々の割合になっています。また、女性の本部長もいて、女性が働きやすい環境を整えることも、テーマとして強く意識しています。先ほどお話しした、WMJのカラーを作っていくためには、働いているスタッフのマインドが変わり、会社の雰囲気が変わっていかないと。全てつながっていて、どれも欠かせないわけです。200人くらいの社員数だから、こうやって僕が言い続けていたら、案外早く、もっとフットワークの軽い会社に変わっていくことができるのではないかと思っています。
――テクノロジーを使いこなすのは人ですから、重点項目を達成するうえでもスタッフの意識改革は重要ですね。このほど正社員制度を導入されたのも、その一環なのでしょうか。
小林 コロナウイルスのパンデミックが2年以上続く中で、社員のモチベーションアップについてもずいぶん悩みました。その中で、スタッフの不安やストレスを軽減するためにも契約という雇用形態は見直すべきではないかと考え、正社員制度を導入したいと思うようになりました。エグゼクティブクラスは契約でもいいけれど、とくに若いスタッフは不安に感じるだろうな、と思ったからです。WMG本社には、22年の年初に米マイアミで行われたキックオフミーティングで、WMJのカラーを強くして、マーケットのシェアを伸ばしていくためには、人に対する投資が必要であること。そのために正社員制度が必要であることを話し、理解してもらいました。正社員制度の導入は、ほとんどのスタッフに喜んでもらえていると思います。
もう1つ、これは画期的なことだと思うのですが、正社員制度導入のタイミングでいち早く65歳までの定年引き上げも行いました。これらはフレームづくりかもしれませんが、近い将来、欲しい人材の獲得にもつながると思っています。当社ではインターンシップ制度を取り入れているので、多くの学生がやってくるのですが、せっかく卒業後に迎えたいと思っても、正社員制度を導入していないという理由でちゅうちょされることもありましたね。
■「もっとエッジを立てていこうよ」尖がったことに挑戦してワーナーらしさを追求したい
――正社員雇用を主軸とする点や定年退職制度など、日本独特の商習慣にも理解を示されたわけですね。今後リクルーティングで効き目が出てくるように思います。
小林 僕が社長に就任したのは今から10年前なのですが、これまでもなんとなく「みんな、今ひとつワーナー愛が温度低め」って感じていたんですよね。それって、雇用形態から生まれる不安も背景にあったのではないかと。この先ディスアドバンテージの部分が出てくるかもしれないけれど、アドバンテージが勝ると思います。正社員制度導入、65歳定年制、社内の国際化や女性の活躍の推進…、これらがつながっていくと、「WMJのカラーって何?」って聞かれたときに、明白に答えられるようになると信じています。
あともう1つ、スピードを加速させているのが、WMG傘下で全世界にデジタルの配信委託事業を展開しているADA(Alternative Distribution Alliance)です。国内外のアーティストならびにインディペンデントレーベルとディストリビューション契約を結んで配信を支援しているのですが、今年3月にADA JapanヘッドにErick Chu(エリック・ジュ)が着任してから、いっそうジャンルの幅が広がっています。彼はアニメやゲーム業界にも広い人脈を持っているので、ADAから配信されるアーティストや楽曲は今後さらに増えていくと思っています。ヒットはもちろんですが、リスナーの多様化に応えるディストリビューションサービスとして、配信する楽曲数の充実を図りたいですね。ADAの迅速なアーティスト支援や、意思決定のスピードは本当に早いので、大きな可能性を感じています。
――WMJの社長に就任されたのが14年の4月ですから、来年の4月で丸10年となります。その間、多大なプレッシャーやストレスがあったと思いますが、これまでどうやってご自身を奮い立たせてこられたのでしょうか。
小林 鈍感度が高いのかもしれませんね(笑)。それと、音楽の側にいることができていることが活力になっていますので、それには本当に感謝しています。前に勤めていた会社で一時期、音楽制作から離れたことがあったのですが、その時に改めて音楽の側にいることの幸せを思い知ったのです。僕たちの喜びは、音楽を楽しむ人たちの姿を見ることですから。好きな言葉は、明石家さんまさんの「生きてるだけで丸儲け」なのですが、さすがにコロナのパンデミックは少々堪えましたね。「そろそろ引き時かな」なんて弱気になったこともありましたが、ある時「まだまだやり残したことがあるじゃないか、」そう気づいたんです。そうしたら徐々に情熱が回復していきました。
――そのやり残したことが人的資源への投資やアウトバウンドの成功であったと。ワーナーらしさを追及するにあたり、スタッフにはどんな言葉をかけたいですか。
小林 「もっとエッジを立てていこうよ」かな。今、ヒットしているジャンルをフォローするのもいいけれど、全く違うジャンルや空いているところを開拓していってほしいですね。新しいことにチャレンジするってものすごく勇気がいることだけれど、ひるまずに取り組んでほしいし、僕たちもそれを許容できる環境を作りたい。あいみょんだってTWICEだって、今でこそ確固たるポジションを築いているけれど、最初はここまで人気が出るとは誰も予想していなかったでしょう。他レーベルではありますが、YOASOBIだってAdoだって、挑戦したからこそ今の成功があると思うんです。
分かっているようなことを言ってリスクを回避する人が多いけれど、「青いこと言うよな、コイツ」みたいな人にどんどん出てきてもらって、尖がったことをやって欲しい。とはいえ、尖りすぎたら「もうちょっと丸くしない?」って言うかもしれないけど(笑)。そうやっているうちに、いつの間にか白いキャンバスがワーナーのカラーに染まっているんじゃないかな。まだ幻想に近いところはありますが、今期はそういうレーベルを目指したいですね。
撮影・加藤千絵(CAPS)/ 文・葛城博子
■小林和之(こばやし・かずゆき)氏 プロフィール
ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEO
1956年2月、兵庫県神戸市生まれ。ミュージシャンとしての活動を経て1982年3月にEPICソニー(現 EPICレコードジャパン)に入社し、ディレクター、プロデューサーとして数々のアーティストを担当する。2002年10月、エピックレコードジャパン代表取締役に就任。08年3月、ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブに就任し、EPICレコードジャパン代表取締役、デフスターレコーズ代表取締役、アリオラジャパン代表取締役を兼任。13年6月、ソニーのミュージックテレビビジネス、ライブビジネス、チケット・ビジネス及び出版(書籍)を含めたメディア・グループを統括。14年4月にワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長兼CEOに就任後、役職を現職に変更。
■アーティストに寄り添う良きパートナーであるためにテクノロジーへの投資は不可欠
――大晦日の『NHK紅白歌合戦』にはあいみょん、MISAMO(TWICE)が出演します。2組ともパッケージ、デジタルともに好成績を残していますが、中でもストリーミングでは常に多くの楽曲が上位にランクインしています。10月より貴社は新年度(FY2024)がスタートしていますが、まずは今期のデジタルへの取組みについてお話しください。
小林 デジタル領域はいっそうの強化を図ろうということで、2024年の重点事項の第一に掲げています。この2年ほど、ワーナーミュージック・グループ(WMG)は、社内のデジタルシステムのアップグレードを行ってきたのですが、ご存じのように今年1月にグループの最高経営責任者(CEO)に、YouTubeの元最高ビジネス責任者のロバート・キンセルが就任し、新たなテクノロジーの導入にも着手しています。先日、彼が来日した際にも、「今我々がやるべきことは、アーティストの利益をもたらすためのテクノロジーへの投資であり、そのスピーディな導入に注力していく」と意欲を見せていました。今後、音楽とどうクロスしていくのか、とてもわくわくしています。
――いいアーティストを発掘・育成してヒットを生むというレコード会社の根本は変わらないけれど、デジタルシーンにおいてテクノロジーの強化、技術革新は不可欠であるということですね。
小林 例えば、大リーグでも最新のテクノロジーを導入して、メジャーリーガーのデータを分析していますよね。各球団はそのデータをもとにプレイヤーの支援強化を図り、ベストパートナーになろうと努めています。僕は音楽もそれと同じだと思うんです。プレイしたり、音楽を生み出したりするのは人間です。その“青空”の部分は永遠に変わらないけれど、その下に流れる雲の動きは刻一刻と変化している。その動きを素早く読み取り、いかにアーティストに還元していくかが重要です。アーティストに寄り添う良きパートナーであるためにも、テクノロジーへの投資は不可欠なのです。
それに加えて、今年度はワーナーミュージック・ジャパン(WMJ)らしさをもっと追求したい。まっさらなキャンバスに新たに色をつけていくような気持ちで、レーベルカラーを作り上げていきたいと考えています。WMJの強みって、やはりグローバルミュージックカンパニーであることだと思うんです。それをもっと色濃く打ち出していくには、アーティストのアウトバウンドを成功させてグローバルヒットを作っていくことが近道です。今だとアニメを活用したアウトバウンドの促進は手っ取り早いし、僕らもやりたいけれど、残念ながらそのエンジンは持ち合わせていない。でも、我々にはアジア各国にWMGの仲間がいて、ワンチームとなって動くことができるわけですから、その部分をもっと活用するべきなんですよ。それを理解し、各国とのコミュニケーションを深めることができる人材が必要であることから、近年では社内の国際化の推進に取り組んでいます。
――確かにスタッフもずいぶん国際色豊かになっていますよね。自身の言葉でアジア各国のスタッフにダイレクトに伝えていけば、熱量も伝わりやすいですね。
小林 ちょっと短絡的かもしれませんが、社内の雰囲気を変えていくには、まずはスタッフの意識を変えていくことだと思ったのです。WMJの今のCFOであるフランク・ピドゥはグローバルメーカー出身のフランス人で、COOの島田和大は日本人ですが外国での就業・留学経験が豊富で、語学に加えグローバルなビジネスセンスを持っています。また、執行役員兼人事本部長のジェフ・ピールは、外資系金融出身のアメリカ人で、ジェフも先ほどのフランクも学生時代に来日していて日本での暮らしが長く、言語・文化的なローカルセンスを持っています。
というように、エグゼクティブ陣はグローバル感とローカル感を持ち合わせていますが、スタッフの国際色も豊かになってきています。もちろん語学に通じているから成功するわけではありませんが、せっかくグローバルミュージックカンパニーに在籍しているのだから、国際社会の共通語である英語を話せ、グローバルやアジアのスケールでものごとを考えられるスタッフがもっといたほうがいいよね、って。そういった動きもあって、僕が社長に就任した10年前に比べたら、そのようなスタッフは3倍くらいに増えていると思います。とはいえ、そういう僕は関西弁しか話せないんですけどね(笑)。
社内の雰囲気を変えるという意味では、女性スタッフの人数も増えていますね。今では男女半々の割合になっています。また、女性の本部長もいて、女性が働きやすい環境を整えることも、テーマとして強く意識しています。先ほどお話しした、WMJのカラーを作っていくためには、働いているスタッフのマインドが変わり、会社の雰囲気が変わっていかないと。全てつながっていて、どれも欠かせないわけです。200人くらいの社員数だから、こうやって僕が言い続けていたら、案外早く、もっとフットワークの軽い会社に変わっていくことができるのではないかと思っています。
――テクノロジーを使いこなすのは人ですから、重点項目を達成するうえでもスタッフの意識改革は重要ですね。このほど正社員制度を導入されたのも、その一環なのでしょうか。
小林 コロナウイルスのパンデミックが2年以上続く中で、社員のモチベーションアップについてもずいぶん悩みました。その中で、スタッフの不安やストレスを軽減するためにも契約という雇用形態は見直すべきではないかと考え、正社員制度を導入したいと思うようになりました。エグゼクティブクラスは契約でもいいけれど、とくに若いスタッフは不安に感じるだろうな、と思ったからです。WMG本社には、22年の年初に米マイアミで行われたキックオフミーティングで、WMJのカラーを強くして、マーケットのシェアを伸ばしていくためには、人に対する投資が必要であること。そのために正社員制度が必要であることを話し、理解してもらいました。正社員制度の導入は、ほとんどのスタッフに喜んでもらえていると思います。
もう1つ、これは画期的なことだと思うのですが、正社員制度導入のタイミングでいち早く65歳までの定年引き上げも行いました。これらはフレームづくりかもしれませんが、近い将来、欲しい人材の獲得にもつながると思っています。当社ではインターンシップ制度を取り入れているので、多くの学生がやってくるのですが、せっかく卒業後に迎えたいと思っても、正社員制度を導入していないという理由でちゅうちょされることもありましたね。
■「もっとエッジを立てていこうよ」尖がったことに挑戦してワーナーらしさを追求したい
――正社員雇用を主軸とする点や定年退職制度など、日本独特の商習慣にも理解を示されたわけですね。今後リクルーティングで効き目が出てくるように思います。
小林 僕が社長に就任したのは今から10年前なのですが、これまでもなんとなく「みんな、今ひとつワーナー愛が温度低め」って感じていたんですよね。それって、雇用形態から生まれる不安も背景にあったのではないかと。この先ディスアドバンテージの部分が出てくるかもしれないけれど、アドバンテージが勝ると思います。正社員制度導入、65歳定年制、社内の国際化や女性の活躍の推進…、これらがつながっていくと、「WMJのカラーって何?」って聞かれたときに、明白に答えられるようになると信じています。
あともう1つ、スピードを加速させているのが、WMG傘下で全世界にデジタルの配信委託事業を展開しているADA(Alternative Distribution Alliance)です。国内外のアーティストならびにインディペンデントレーベルとディストリビューション契約を結んで配信を支援しているのですが、今年3月にADA JapanヘッドにErick Chu(エリック・ジュ)が着任してから、いっそうジャンルの幅が広がっています。彼はアニメやゲーム業界にも広い人脈を持っているので、ADAから配信されるアーティストや楽曲は今後さらに増えていくと思っています。ヒットはもちろんですが、リスナーの多様化に応えるディストリビューションサービスとして、配信する楽曲数の充実を図りたいですね。ADAの迅速なアーティスト支援や、意思決定のスピードは本当に早いので、大きな可能性を感じています。
――WMJの社長に就任されたのが14年の4月ですから、来年の4月で丸10年となります。その間、多大なプレッシャーやストレスがあったと思いますが、これまでどうやってご自身を奮い立たせてこられたのでしょうか。
小林 鈍感度が高いのかもしれませんね(笑)。それと、音楽の側にいることができていることが活力になっていますので、それには本当に感謝しています。前に勤めていた会社で一時期、音楽制作から離れたことがあったのですが、その時に改めて音楽の側にいることの幸せを思い知ったのです。僕たちの喜びは、音楽を楽しむ人たちの姿を見ることですから。好きな言葉は、明石家さんまさんの「生きてるだけで丸儲け」なのですが、さすがにコロナのパンデミックは少々堪えましたね。「そろそろ引き時かな」なんて弱気になったこともありましたが、ある時「まだまだやり残したことがあるじゃないか、」そう気づいたんです。そうしたら徐々に情熱が回復していきました。
――そのやり残したことが人的資源への投資やアウトバウンドの成功であったと。ワーナーらしさを追及するにあたり、スタッフにはどんな言葉をかけたいですか。
小林 「もっとエッジを立てていこうよ」かな。今、ヒットしているジャンルをフォローするのもいいけれど、全く違うジャンルや空いているところを開拓していってほしいですね。新しいことにチャレンジするってものすごく勇気がいることだけれど、ひるまずに取り組んでほしいし、僕たちもそれを許容できる環境を作りたい。あいみょんだってTWICEだって、今でこそ確固たるポジションを築いているけれど、最初はここまで人気が出るとは誰も予想していなかったでしょう。他レーベルではありますが、YOASOBIだってAdoだって、挑戦したからこそ今の成功があると思うんです。
分かっているようなことを言ってリスクを回避する人が多いけれど、「青いこと言うよな、コイツ」みたいな人にどんどん出てきてもらって、尖がったことをやって欲しい。とはいえ、尖りすぎたら「もうちょっと丸くしない?」って言うかもしれないけど(笑)。そうやっているうちに、いつの間にか白いキャンバスがワーナーのカラーに染まっているんじゃないかな。まだ幻想に近いところはありますが、今期はそういうレーベルを目指したいですね。
撮影・加藤千絵(CAPS)/ 文・葛城博子
■小林和之(こばやし・かずゆき)氏 プロフィール
ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長兼CEO
1956年2月、兵庫県神戸市生まれ。ミュージシャンとしての活動を経て1982年3月にEPICソニー(現 EPICレコードジャパン)に入社し、ディレクター、プロデューサーとして数々のアーティストを担当する。2002年10月、エピックレコードジャパン代表取締役に就任。08年3月、ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブに就任し、EPICレコードジャパン代表取締役、デフスターレコーズ代表取締役、アリオラジャパン代表取締役を兼任。13年6月、ソニーのミュージックテレビビジネス、ライブビジネス、チケット・ビジネス及び出版(書籍)を含めたメディア・グループを統括。14年4月にワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長兼CEOに就任後、役職を現職に変更。
2023/12/19



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