社会全体のエコ意識の高まりとともに、近年、多くの企業では、プラスチックを使わないエコ素材の開発が加速している。そんな中、今年5月にソニー・ミュージックソリューションズが、環境配慮型の音楽・映像パッケージ用ディスクトレイを開発したことを発表した。誰もが手にしたことがあるであろう、CDやDVD、Blu-ray、Ultra HD Blu-rayといった光ディスクを収納するプラスチック製ケース。そのディスクトレイ部分から、プラスチックがほぼ削減された。「エンターテインメント×SDGs」アーティストたちのサステナブルな行動に寄与するうえでも、大きな意味のある取組みと言えるだろう。
■異例のスピードでリリース 営業と製造物流2つのチームで開発を推進
今回、プラスチック97%削減を実現したディスクトレイを開発したのは、ソニーミュージックのグループ会社であるソニー・ミュージックソリューションズ。エンターテインメントに関する幅広いソリューションビジネスを展開する同社では、音楽・ゲーム・アニメ・映画などさまざまな領域のパッケージの企画・制作・デザイン・製造なども行っている。静岡にある製造工場では近年、太陽光発電や資材のリサイクル等に取り組むなどしてSDGsに向き合ってきたが、もう一歩踏み込んだ試みを、という機運の高まりが社内にあったという。そんな中、普段取り扱っているプラスチックのディスクトレイを、環境に配慮した素材に置き換えられないか、という案が持ち上がった。22年春のことだった。
発案者である東京の営業グループと静岡の製造物流グループによってプロジェクトチームが発足し、6月には開発がスタート。ディスクトレイの素材には、ソニーが開発した環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」が採用されることになった。21年6月に発売されたワイヤレスヘッドホン「WF-1000XM4」のパッケージに使用されており、優しい色合いや手触り、洗練されたデザインが決め手となった。
「ディスクトレイに活用したいと紙素材を開発したソニーグループのクリエイティブセンターに相談したのが始まりでした。そこから一気に開発のスピードに拍車がかかりました。年度内にめどをつけたいという目標を伝えると、さすがに短期間であることに驚かれていましたが…(笑)」
そう語るのは、パッケージソリューションカンパニー営業グループ営業本部PM営業部次長・鈴木宏枝氏。結果、その目標は達成できたわけだが、その理由として、「ソニー側の知見と協力」「ソニー・ミュージックソリューションズ内での一貫進行」に加え、「意思決定の早さ」を挙げている。社内横断組織とはいえ、メンバーが同じカンパニーであったことで、意思の疎通が円滑に進んだことがスピードアップにつながったようだ。
開発でもっとも苦労した点は紙粉の除去だった。前出のワイヤレスヘッドホン「WF-1000XM4」の充電ケースに入っているイヤホンとは異なり、ディスクは直接トレイに接するため、紙粉が付くとディスク再生に影響が出る。
「最初の試作品は粉だらけで全く使い物になりませんでした。紙粉をなくすため、繊維同士がバラバラにならないようにトレイを成形する際の力の加え方やカットの仕方も工夫して、試作品を作っては検証を重ねました」(パッケージソリューションカンパニー製造物流グループ製造物流本部技術部技術1課・大川直樹氏)
また、ディスクをトレイに入れる過程で、スタックしたトレイが崩れるなどの作業効率低下が起こらないか3Dプリンターで試作品を作って検証、輸送の際の振動や落下に耐え得るかなど、製造、流通工程で、現行のプラスチックの品質保証レベルをクリアできるかどうかも併せてチェックされた。
そうやって完成したトレイは今年3月1日・2日、ソニー・ミュージックソリューションズがエンターテインメント業界向けに提供する様々なソリューションを展示・紹介するビジネスイベント『EMBARK』(ソニーシティ2階)でお披露目された。来場者の反応は上々で、多くの問い合わせが入ったという。
「エンタメ各社は、サステナビリティに対する取り組みをミッションの1つとして掲げているものの、パッケージビジネスにどう取り込んでいけばいいのかトライアルの最中です。そんな中でこのトレイを見ていただき、ある意味わかりやすいメッセージと捉えていただけたようです」(鈴木氏)
■天然素材ならではの“味”を持つディスクトレイ 環境への取り組みを共に考えるきっかけづくりに
ディスクトレイに採用された紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」は、中国・貴州の山地で栽培する竹、タイで収穫するさとうきびの搾りかす、古紙を用いている。そのためブレンドする古紙によって、色の出方が変わる。例えば、OA用紙は白っぽく、新聞は若干グレーがかった色合いになる。そこは、どれだけ作っても同じ製品になるプラスチックとは大きく異なる。しかし、それを天然素材ならではの“味(=個性)”として受け取ると、俄然、このディスクトレイを活かしたパッケージの意味合いが変わってくる。加えて、ソニーのパッケージデザインを手掛けた、クリエイティブセンターのデザイナーの手による、トレイのシンプルでなめらかな美しいラインは、プラスチックケースのそれとは異なる魅力がある。
確かに、現行のプラスチックのディスクトレイは丈夫でローコストではある。しかし、パッケージはアーティストの表現の一部。作品を発信するアーティストが、このディスクトレイを採用することにより、自ずと環境に対する考えや想いが、手に取るユーザーに伝わる。環境への取り組みを共に考えるきっかけづくりともなる。「それは配信にはない、まさにパッケージならではのメッセージです」と語る鈴木氏は、多くのアーティストに関心を持ってほしいと期待する。今後は、新素材を使用したディスクトレイのコンセプトに賛同するアーティストを増やしていきたい考えだ。
再生可能な紙素材を採用した、新しい音楽・映像パッケージ用ディスクトレイを開発したことで、エンターテインメント領域におけるサステブルな取り組みの1つの形を示したソニー・ミュージックソリューションズだが、成果物だけではない思わぬ副産物もあったという。それは、社内の横断的プロジェクトならではの達成感だ。
「東京の営業チームと静岡の製造チームとが一緒になってプロジェクトを進めることができたことがすごく嬉しかったですね。このプロジェクトに限らず、今後も連携して、新しいことにチャレンジできるのではないかというところにも期待しています」(パッケージソリューションカンパニー製造物流グループ製造物流本部本部長・藤田真一氏)
「社名に同じソニーがついていても、ビジネスが全然違う人たちと意見交換でき、ものづくりできた体験はとても刺激的でした」(鈴木氏)
今回の環境配慮型ディスクトレイ開発は、「エンターテインメント×SDGs」を考える上で、アクションにつなげやすい画期的な取組みと言える。近い将来、このディスクトレイを採用するアーティストが増えることを願わずにはいられない。同時に、このような横断的なコラボレーションによる経験を活かし、次にどんなソリューションを開発・提供してくれるのか、プロジェクトチームのこれからの動向にも大いに期待したい。
文・葛城博子
■異例のスピードでリリース 営業と製造物流2つのチームで開発を推進
今回、プラスチック97%削減を実現したディスクトレイを開発したのは、ソニーミュージックのグループ会社であるソニー・ミュージックソリューションズ。エンターテインメントに関する幅広いソリューションビジネスを展開する同社では、音楽・ゲーム・アニメ・映画などさまざまな領域のパッケージの企画・制作・デザイン・製造なども行っている。静岡にある製造工場では近年、太陽光発電や資材のリサイクル等に取り組むなどしてSDGsに向き合ってきたが、もう一歩踏み込んだ試みを、という機運の高まりが社内にあったという。そんな中、普段取り扱っているプラスチックのディスクトレイを、環境に配慮した素材に置き換えられないか、という案が持ち上がった。22年春のことだった。
発案者である東京の営業グループと静岡の製造物流グループによってプロジェクトチームが発足し、6月には開発がスタート。ディスクトレイの素材には、ソニーが開発した環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」が採用されることになった。21年6月に発売されたワイヤレスヘッドホン「WF-1000XM4」のパッケージに使用されており、優しい色合いや手触り、洗練されたデザインが決め手となった。
そう語るのは、パッケージソリューションカンパニー営業グループ営業本部PM営業部次長・鈴木宏枝氏。結果、その目標は達成できたわけだが、その理由として、「ソニー側の知見と協力」「ソニー・ミュージックソリューションズ内での一貫進行」に加え、「意思決定の早さ」を挙げている。社内横断組織とはいえ、メンバーが同じカンパニーであったことで、意思の疎通が円滑に進んだことがスピードアップにつながったようだ。
開発でもっとも苦労した点は紙粉の除去だった。前出のワイヤレスヘッドホン「WF-1000XM4」の充電ケースに入っているイヤホンとは異なり、ディスクは直接トレイに接するため、紙粉が付くとディスク再生に影響が出る。
「最初の試作品は粉だらけで全く使い物になりませんでした。紙粉をなくすため、繊維同士がバラバラにならないようにトレイを成形する際の力の加え方やカットの仕方も工夫して、試作品を作っては検証を重ねました」(パッケージソリューションカンパニー製造物流グループ製造物流本部技術部技術1課・大川直樹氏)
また、ディスクをトレイに入れる過程で、スタックしたトレイが崩れるなどの作業効率低下が起こらないか3Dプリンターで試作品を作って検証、輸送の際の振動や落下に耐え得るかなど、製造、流通工程で、現行のプラスチックの品質保証レベルをクリアできるかどうかも併せてチェックされた。
そうやって完成したトレイは今年3月1日・2日、ソニー・ミュージックソリューションズがエンターテインメント業界向けに提供する様々なソリューションを展示・紹介するビジネスイベント『EMBARK』(ソニーシティ2階)でお披露目された。来場者の反応は上々で、多くの問い合わせが入ったという。
「エンタメ各社は、サステナビリティに対する取り組みをミッションの1つとして掲げているものの、パッケージビジネスにどう取り込んでいけばいいのかトライアルの最中です。そんな中でこのトレイを見ていただき、ある意味わかりやすいメッセージと捉えていただけたようです」(鈴木氏)
■天然素材ならではの“味”を持つディスクトレイ 環境への取り組みを共に考えるきっかけづくりに
ディスクトレイに採用された紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」は、中国・貴州の山地で栽培する竹、タイで収穫するさとうきびの搾りかす、古紙を用いている。そのためブレンドする古紙によって、色の出方が変わる。例えば、OA用紙は白っぽく、新聞は若干グレーがかった色合いになる。そこは、どれだけ作っても同じ製品になるプラスチックとは大きく異なる。しかし、それを天然素材ならではの“味(=個性)”として受け取ると、俄然、このディスクトレイを活かしたパッケージの意味合いが変わってくる。加えて、ソニーのパッケージデザインを手掛けた、クリエイティブセンターのデザイナーの手による、トレイのシンプルでなめらかな美しいラインは、プラスチックケースのそれとは異なる魅力がある。
確かに、現行のプラスチックのディスクトレイは丈夫でローコストではある。しかし、パッケージはアーティストの表現の一部。作品を発信するアーティストが、このディスクトレイを採用することにより、自ずと環境に対する考えや想いが、手に取るユーザーに伝わる。環境への取り組みを共に考えるきっかけづくりともなる。「それは配信にはない、まさにパッケージならではのメッセージです」と語る鈴木氏は、多くのアーティストに関心を持ってほしいと期待する。今後は、新素材を使用したディスクトレイのコンセプトに賛同するアーティストを増やしていきたい考えだ。
再生可能な紙素材を採用した、新しい音楽・映像パッケージ用ディスクトレイを開発したことで、エンターテインメント領域におけるサステブルな取り組みの1つの形を示したソニー・ミュージックソリューションズだが、成果物だけではない思わぬ副産物もあったという。それは、社内の横断的プロジェクトならではの達成感だ。
「東京の営業チームと静岡の製造チームとが一緒になってプロジェクトを進めることができたことがすごく嬉しかったですね。このプロジェクトに限らず、今後も連携して、新しいことにチャレンジできるのではないかというところにも期待しています」(パッケージソリューションカンパニー製造物流グループ製造物流本部本部長・藤田真一氏)
「社名に同じソニーがついていても、ビジネスが全然違う人たちと意見交換でき、ものづくりできた体験はとても刺激的でした」(鈴木氏)
今回の環境配慮型ディスクトレイ開発は、「エンターテインメント×SDGs」を考える上で、アクションにつなげやすい画期的な取組みと言える。近い将来、このディスクトレイを採用するアーティストが増えることを願わずにはいられない。同時に、このような横断的なコラボレーションによる経験を活かし、次にどんなソリューションを開発・提供してくれるのか、プロジェクトチームのこれからの動向にも大いに期待したい。
文・葛城博子
2023/08/09



