4人組ロックバンド・a flood of circleが、10曲入りのニューアルバム『花降る空に不滅の歌を』を2月15日にリリースした。
前作『伝説の夜を君と』から約1年2ヶ月ぶり、12枚目のフルアルバムとなる今作は、昨年10月20日に開催されたフリーライブ『I'M FREE 2022』のステージ上で告知され、ファンを沸かせた。ギタリスト・アオキテツの正式加入から5年、様々なスペシャル企画を展開した結成15周年イヤーなども経て、4人が今作で提示するサウンドとは?
ORICON NEWSは、そんな傑作の制作を終えたばかりの佐々木亮介(Vo&Gt)、アオキテツ(Gt)、HISAYO(Ba)、渡邊一丘(Dr)に接触。今作に込めた思いやサウンドアプローチについて聞いた前編に続き、後編となる本インタビューでは、レコーディングで使用された楽器群について聞いていく
■“決め込まない楽曲制作”を支えた、バンドアンサンブルの絶対的なバランス感覚
――アオキさんの中で特に印象的だった楽曲は?
【アオキ】俺は「月夜の道を俺が行く」ですかね。録り終わるまで歌詞ができていなかったんですけど、完成した歌を聴いたら強烈で。
――ギターの面では?
【アオキ】「カメラソング」かな。結構柔らかい自分が出せた気がする。
――これまでの楽曲に比べて、歪みをかなり抑えていますね。
【アオキ】確かにここまで抑えているのは珍しいかも。この曲は335(Gibson Custom製1959 ES-335 Reissue)で録ったんですよ。
――その一方で、「くたばれマイダーリン」のギターソロなどでは強烈な歪みも登場させています。
【アオキ】あれはファズを深めにかけた音。佐々木くんから「こういう音がほしい」ってリクエストがあって。
【佐々木】「“くたばれ感”を出してほしい」って(笑)。
――HISAYOさんはいかがでしたか?
【HISAYO】ベースは、シンプルなアレンジで説得力を出すように意識していました。これまでの制作やライブを通して、徐々に自信がついてきたこともあって、あまり弾き込まなくてもいいかなと。それを形にできたと思っているのが「くたばれマイダーリン」。しかも、この曲はミックス(ダウン)でもベースが大きめになっていて…。
【佐々木】このミックスになったとき、姐さんは最初めちゃくちゃ抵抗していたんです(笑)。「ベースの音、大きすぎません!?」って(笑)。
【HISAYO】何回も言いました(笑)。でも結果、それが面白さとかイビツさになっていて、いいなと思っています。あと、この曲もでき上がってから歌詞を聴いたんですけど、アルバムの中でも異質というか…物語や情景が浮かんでくる感じがして、個人的にお気に入りですね。
――「如何様師のバラード」では、全編にわたって歪みを深くかけていますね。ここまで存在感のあるサウンドで弾いていることも珍しいのでは?
【HISAYO】普段からボードに入れているパリセイズ(EQD製メガオーバードライブ)をかけた音です。確かに今回のアルバムでは「如何様師のバラード」だけだし、前回のアルバムは全体的にわりと歪ませた方だったけど、曲に上手くなじんでいたから…。そういう意味だと、今回はドカンといきましたね(笑)。
――渡邊さんは、ドラム演奏の面で意識した部分や印象深い楽曲はありましたか?
【渡邊】イメージは全曲同じだったので…みんなが挙げていない曲で話そうかな(笑)。たとえば「GOOD LUCK MY FRIEND」とかでは、芯を突くようなアプローチを狙っていて、あまりボコボコやりすぎないようにしました。
――それはなぜですか?
【渡邊】亮介が前作くらいから「全体的に軽めのサウンドにしたい」と言っていて、それが俺の中で続いているんです。タイム感とかも含めて、歌が聴こえやすいようなリズムを意識しようと。昔の曲とかを聴くと、テンポは速いし、サウンドもヘヴィだし…なんか「生き急いでるな」って思うんですよ(笑)。もちろん当時はそれが良かったんだけど、今は違うかなって。やっぱり、バンドというコミュケーションツールを通していろんな人に聴いてもらいたいわけだから、歌が届きやすいようなドラムを…って考えましたね。
――以前までのアプローチだと、違うアレンジになっていましたか?
【渡邊】前までだったら、8ビートでハイハットとかももっと細かく刻んでいたと思う。でも、歌との関係を考えると、音数を減らした方がいいなって考えるようになった。姐さんが話したことにも通じるけど、シンプルな方が歌も届きやすいだろうって考え始めたんです。
――「音を軽くしたい」というリクエストには、どんな意図があったのでしょうか?
【佐々木】“自然なa flood of circleの音”を表現したいと思い始めたのが大きいかな。さっきナベちゃん(渡邊)も話していたけど、テツが加入して、本当にゼロからバンドを作っていくような感覚だったんです。人間同士の関係性もそうだし、音もそう。その中で「もっとシンプルに俺らのよさを表現できないか」と思ったんです。バンドには、やっぱり“自然に出している音”っていうものがあると思うんで、だったら個人的な嗜好とかじゃなく、ライブで鳴らしているリアルな音でやろうと。で、ライブで鳴らしている音に改めて向き合ってみたら、俺らが普段ライブで鳴らしている音ってそんなにヘヴィでもないのかなと気づいたんですよね。
――逆に、それまでヘヴィさを追求していたのはなぜだったのでしょう?
【佐々木】たぶん、そういうバンドと自分たちを見比べていたところがあったんだと思うんですよ、「これは俺らにはできない」って。イギリス人エンジニアのザブ(ザビエル・ステーブンソン氏)に参加してもらったアルバム『a flood of circle』(2018年2月発売)には、ドロップD(チューニング)の曲とかもあったし、まさにそういう時期だった。それを試行錯誤のひとつとしてやってみた上で、今は違う考え方になっている感じかな。わざわざアルバムタイトルに“歌”って入れたのもそれに尽きるんです。今回は“歌のアルバム”だと最初から思っていたので、自然と歌が前に出てくるサウンドっていう点で、今までの俺らと比べて軽いことがキーワードになるんじゃないかと思ったんですよ。
■絶対的な相棒や新兵器を導入しながらも、重視したのは“バランス感”
――今作のレコーディングで使用された機材について伺います。渡邊さんは曲ごとにスネアのトーンやシンバルの質感が異なっていますが、数台を使い分けたのでしょうか?
【渡邊】前作では、1970年代のGretchのブラスシェルをメインスネアにしていたんですけど、今回はそこにdwのブラスをカスタムしたやつと、Gregg Keplingerっていうスネアをプラスして、曲に応じて使い分けましたね。
――Gregg Keplingerのシェルは?
【渡邊】スチール…なのかな?合金なんですけど、個人工房で作られているスネアなので、ロゴも説明もないんですよね(笑)。スネアはその3台だけど、今回はシンバルの影響が大きかったと思います。今ライブで使っているPaisteの900シリーズとRUDEシリーズに加えて、Formula 602シリーズとThe Paisteシリーズのリフレクターも導入したんです。
――シンバルだけで4シリーズも使い分けた理由は?
【渡邊】周りとの関係性ですね。シンバルを替えるだけでエッジの立ち方とか混ざり方も変わるので、そこがいいエッセンスになったのかなと思います。あと、今回も前作と同じスタジオで録ったから、スタジオの響き方とかがわかってきたし、メンバーとバランスを取る方法も見つかってきたんです。俺の持っている楽器は基本的にいい音しかしないので(笑)、バランスを重視する方向に変わった感じです。
――ドラムセット自体は不動だったのですね。
【渡邊】基本的に全曲一緒で、替えたとしてもバスドラムくらい。セット自体は…もう何年替えていないんだろう?以前、別のメーカーのセットを試したことがあったんですけど、俺にはしっくりこなかったんですよ。そこからなおさら替えようって思わなくなりました(笑)。
――HISAYOさんのメインベースは?
【HISAYO】ライブでもメインにしているYamahaのBB2024です。今回はいつものa flood of circleから大きく外れるような曲がなかったので、足下もいつも通り。ナベちゃんも言った通り、全体の中でどうかっていう部分を見て調整していく感じでした。
――バランス重視のサウンドメイクを目指した?
【HISAYO】「それぞれが好きな音を出すのはもうやめよう」と(笑)。最近のライブリハーサルでも、まずは音のバランスを見るところから始めているんです。レコーディングはリズム隊から録るので、テツの出番はかなり後になるじゃないですか。それでも最初に来てもらって、みんなで音を決めるっていう。だから、いい意味で“自分のこだわり”みたいなものはなくなっていますね。
――アオキさんはインスタグラムで、多数のギターを並べている写真も投稿されていましたが…?
【アオキ】でも、使ったのは3〜4本ッスね。結局いつものレスポール(Gibson製Les Paul Custom 1973)と335(Gibson Custom製1959 ES-335 Reissue)、あとL's TRUSTで作ってもらったTLスタイルとかかな。アンプはMarshallだし、ツマミもほぼライブと同じです。
――使い慣れた機材だからこそ、レコーディング前の音決めもスムーズに?
【アオキ】レコーディング当日の朝、風呂に入りながら「あのギターで録ろう」とか「こういう感じの音にしよう」って考えて。録りながら悩む…みたいなことはなかったですね。
――となると、レコーディングもすごい早さで(笑)?
【アオキ】めちゃくちゃ早いッスよ(笑)。レコーディングのときだけ、俺は自分のことを今剛さんだと思っているんで。「絶対1〜2テイクで終わらせるぞ」っていう気持ち(笑)。
――佐々木さんが使用されたギターは?
【佐々木】2本のGretschとZEMAITISのアコギ。あと、最終調整のダビングは自分の家でやることが多いんですけど、そのときはフェンダーがPrimal Screamとコラボして出したストラト(Fender 30th Anniversary Screamadelica Stratocaster)を使ったかな。
【アオキ】「Party Monster Bop」のバッキングとかはそのストラトだった気がする。
【佐々木】ああ、確かそう。毎回何か1つ新しい要素を入れるようにしています。洋服とかもそうなんだけど、俺は新しいものを買うとその日に着たいタイプなんですよ。取っておくことができないっていうか(笑)。
■“自分自身”にフォーカスしたニューアルバムで、楽器面からも描き出されたストーリー
――2本のGretschというのは、ライブでもメインで使用されている、白色のG6139T CBDC Falconと黒色のG7593 Black Falconですね。
【佐々木】Black Falconの方は今回、結構自分の中でストーリーがあって。このギター、前回のツアーファイナルでぶっ壊しちゃったんですよ。あの日は安倍晋三さんが亡くなった日で、別に安倍さんに対してどうこうってことじゃないんだけど、やるせなくて感情が高まっちゃったのと、自分で何か表現しなきゃっていう思いに駆られたんですね。それで壊しちゃって、さすがにもうおさらばかなと思っていたんです。でも、それを聞きつけたGretschの日本工場の人が、「佐々木さんのBlack Falconは絶対に大事ですから」って直してくれて。
――いい縁があったんですね。Black Falconは佐々木さんのアイコンとも言えますし、2014年にGretschとエンドースメント契約を結ぶきっかけにもなったギターですから。
【佐々木】エンドースに関しても、もともと日本でGretschを取り扱っていた会社の人がつなげてくれた話だったんだけど、ブランドホルダーが今はもう別の会社になっているので、そういう関係性もなくなっていたんですよ。で、直してくれた人が「代々木公園のフリーライブの朝に修理したBlack Falconを届けます」って連絡をくれたんだけど、そのときにギターを託したのが、エンドースとかをつなげてくれた人っていうね。ニクいことをするなぁって(笑)。だから、もちろんその日のライブでも使ったし、これをレコーディングで使わないなんてことはないだろうと思って、それ以降に録った曲では結構使いました。
――修理後の音の変化についてはどう感じていますか?
【佐々木】確かに音はめちゃくちゃ変わったけど…悲しいかな、俺の手のクセがあるから同じゾーンに入ってきちゃうんですよね(笑)。昔から使っているギターでも、フェンダーのストラトでも、直ったBlack Falconでも、キャラクターは全然違うはずなのに、俺が弾くと同じような音になる(笑)。
――そもそもGretschを使い始めたきっかけは?
【佐々木】Black Falconを買ったのはちょうど姐さんが加入した頃で、そのときも今回と同じように「自分が何とかしなきゃ」っていうモードだったんです。で、革ジャンとギターを買おうと思って、中古の楽器屋で一番かっこいいやつを買ったっていう。CBDC Falconの方は、THE ROOSTERSの大江慎也さんの誕生日イベントに出ることになって、その日に新しいギターを下ろそうと思って買いました。で、ちょうど初めて日本製のFalconが出るって話を聞いたので、「つまりこのギターはまだ誰も弾いていないってことか」と思って買ったんですよね。
――そのCBDC Falconには、今作のジャケットを手がけた画家・奈良美智氏のイラストも描かれています。
【佐々木】大江さんのイベントで初めて奈良さんと会って、若気の至りでサインを書いてもらったんです。そのときに「いつかジャケットを描いてほしい」ってことも言った気がするんだけど、俺が歌詞とかイラストとかを書いているノートを見た奈良さんが、「これはもうアートブックだから、自分で描いた方がいいよ」って言ってくれたんですよね。そう言われたらもう頼む理由がないじゃないですか(笑)。で、そこから10年、音楽はもちろんだけど、ジャケットを描いたり写真を撮ったり…とにかく自分のコントロールが効く範囲でやり続けてきて、今回奈良さんにジャケットを描いてもらうことになったんです。
――アオキさんのライブのメインギターは1973年製のGibson Les Paul Customです。
【アオキ】いいギターを買ってから上京しようと思って、6〜7年前に買ったやつですね。もともと黒のLes Paul Customがほしいなとは思っていたんで、そのとき店にあったやつを買いました。ナットとかフレットとかっていう消耗品を替えたくらいで、ほかは特にイジっていないです。
――最近のライブでは、新たにもう1本黒いLes Paul Customを使用されていますね。
【アオキ】ずっとサブにしていた、赤の1996年製のカスタムを塗り直してもらったんですよね。ボディー自体はめちゃくちゃ重たいんですけど、音は73年製より軽め。「月夜の道を俺が行く」が最後にレコーディングにした曲なんですけど、そのタイミングでちょうど塗装が終わったんで、うれしくてそのまま使いました。
――ヘッド裏を別の色で塗りつぶす“スティンガー仕様”を採用した理由は?
【アオキ】どっちも真っ黒だとややこしいなってのと、かっこいいから(笑)。73年製の方はほぼオリジナルの仕様だけど、こっち(96年製)は木以外全部変えているっていうくらい改造していますね。ピックアップは57クラシックで、なるべく73年製の音に近づけようとしていろいろやっています。
■永らくともに歩み続けてきたからこそ感じる、愛用楽器の“進化”
――渡邊さんがライブで使用されているドラムセットは、Gretsch製USAカスタムですが、こちらはいつ頃導入されたのですか?
【渡邊】Led Zeppelinのジョン・ボーナムが好きだったので、最初は26インチのアクリルシェルのセットを買ったんですけど…10年くらい前に今使っているGretschに替えました。亮介がBlack Falconを買ったのと同じくらいの時期ですね。そこから育つまで結構時間がかかりました。
――入手してから10年以上経過し、音の印象はどう変化していきましたか?
【渡邊】ローの落ち着き方とかがだいぶ変わりました。俺がセットのクセを理解したとか、自分自身の耳が変わってきたこととかも要因だと思うんですけど、最初の頃は音が全然抜けてこなくて…。Gretschは製造工程も特殊だし、俺が買った頃はパーツの原産国が変わった時期でもあったんですけど、それでも変わらずGretschらしい音がする。これってすごいことというか、魔法みたいだなって思うんですよ。もうGretsch以外のセットが叩けなくなっている自分が怖いくらいです(笑)。
――次のツアーでは新たにパッドの導入も視野に入れているそうですね?
【渡邊】機材自体は新しくないんですよ。「KIDS」(2014年4月発売シングル『KIDS/アカネ』収録)に銅鑼の音が入っているんですけど、それをライブで鳴らすときに使ったことがあって。まだ動くか不安なんですけど、動いたら使います(笑)。
――HISAYOさんのライブ用メインベースは、レコーディングでも活躍したというYamahaのBB2024ですね。こちらはいつ頃入手されたベースなのでしょうか?
【HISAYO】2007年頃だったと思います。もともとBB Limitedというモデルを使っていたんですが、ヘヴィなバンドに加入することになったので、もう少ししっかり低音が出せるベースを…ということで入手して、そこからずっと使っていますね。自分的にも扱いやすくて、a flood of circleに加入してからも使い続けています。
――4弦のチューナーにはHIP SHOT製Dチューナーも装着されていますが、これは先ほど佐々木さんが言っていたドロップDチューニングの楽曲用に取りつけたものですか?
【HISAYO】いえ、もともとですね。昔やっていたバンドがドロップチューニングも多用するバンドだったので、a flood of circleに入る前からつけていましたし、なんなら新しくベースを買ったら必ずこれをつけるというのが習慣になっていて(笑)。
――音にはどんな印象を持っていますか?
【HISAYO】強いというか、ほかのベースと比べて単純に音が大きいです。すごくパワーがあるので、そこからいかに引いていくかという感じになりますね。自分のタッチや技術もハッキリと出てしまうので、スキルアップにもつながっているのかなと思います(笑)。
■アルバム『花降る空に不滅の歌を』収録曲
01. 月夜の道を俺が行く
02. バードヘッドブルース
03. くたばれマイダーリン
04. 如何様師のバラード
05. 本気で生きているのなら
06. カメラソング
07. 花降る空に不滅の歌を
08. GOOD LUCK MY FRIEND
09. Party Monster Bop
10. 花火を見に行こう
前作『伝説の夜を君と』から約1年2ヶ月ぶり、12枚目のフルアルバムとなる今作は、昨年10月20日に開催されたフリーライブ『I'M FREE 2022』のステージ上で告知され、ファンを沸かせた。ギタリスト・アオキテツの正式加入から5年、様々なスペシャル企画を展開した結成15周年イヤーなども経て、4人が今作で提示するサウンドとは?
ORICON NEWSは、そんな傑作の制作を終えたばかりの佐々木亮介(Vo&Gt)、アオキテツ(Gt)、HISAYO(Ba)、渡邊一丘(Dr)に接触。今作に込めた思いやサウンドアプローチについて聞いた前編に続き、後編となる本インタビューでは、レコーディングで使用された楽器群について聞いていく
■“決め込まない楽曲制作”を支えた、バンドアンサンブルの絶対的なバランス感覚
――アオキさんの中で特に印象的だった楽曲は?
【アオキ】俺は「月夜の道を俺が行く」ですかね。録り終わるまで歌詞ができていなかったんですけど、完成した歌を聴いたら強烈で。
――ギターの面では?
【アオキ】「カメラソング」かな。結構柔らかい自分が出せた気がする。
――これまでの楽曲に比べて、歪みをかなり抑えていますね。
【アオキ】確かにここまで抑えているのは珍しいかも。この曲は335(Gibson Custom製1959 ES-335 Reissue)で録ったんですよ。
――その一方で、「くたばれマイダーリン」のギターソロなどでは強烈な歪みも登場させています。
【アオキ】あれはファズを深めにかけた音。佐々木くんから「こういう音がほしい」ってリクエストがあって。
【佐々木】「“くたばれ感”を出してほしい」って(笑)。
――HISAYOさんはいかがでしたか?
【HISAYO】ベースは、シンプルなアレンジで説得力を出すように意識していました。これまでの制作やライブを通して、徐々に自信がついてきたこともあって、あまり弾き込まなくてもいいかなと。それを形にできたと思っているのが「くたばれマイダーリン」。しかも、この曲はミックス(ダウン)でもベースが大きめになっていて…。
【佐々木】このミックスになったとき、姐さんは最初めちゃくちゃ抵抗していたんです(笑)。「ベースの音、大きすぎません!?」って(笑)。
【HISAYO】何回も言いました(笑)。でも結果、それが面白さとかイビツさになっていて、いいなと思っています。あと、この曲もでき上がってから歌詞を聴いたんですけど、アルバムの中でも異質というか…物語や情景が浮かんでくる感じがして、個人的にお気に入りですね。
――「如何様師のバラード」では、全編にわたって歪みを深くかけていますね。ここまで存在感のあるサウンドで弾いていることも珍しいのでは?
【HISAYO】普段からボードに入れているパリセイズ(EQD製メガオーバードライブ)をかけた音です。確かに今回のアルバムでは「如何様師のバラード」だけだし、前回のアルバムは全体的にわりと歪ませた方だったけど、曲に上手くなじんでいたから…。そういう意味だと、今回はドカンといきましたね(笑)。
――渡邊さんは、ドラム演奏の面で意識した部分や印象深い楽曲はありましたか?
【渡邊】イメージは全曲同じだったので…みんなが挙げていない曲で話そうかな(笑)。たとえば「GOOD LUCK MY FRIEND」とかでは、芯を突くようなアプローチを狙っていて、あまりボコボコやりすぎないようにしました。
――それはなぜですか?
【渡邊】亮介が前作くらいから「全体的に軽めのサウンドにしたい」と言っていて、それが俺の中で続いているんです。タイム感とかも含めて、歌が聴こえやすいようなリズムを意識しようと。昔の曲とかを聴くと、テンポは速いし、サウンドもヘヴィだし…なんか「生き急いでるな」って思うんですよ(笑)。もちろん当時はそれが良かったんだけど、今は違うかなって。やっぱり、バンドというコミュケーションツールを通していろんな人に聴いてもらいたいわけだから、歌が届きやすいようなドラムを…って考えましたね。
――以前までのアプローチだと、違うアレンジになっていましたか?
【渡邊】前までだったら、8ビートでハイハットとかももっと細かく刻んでいたと思う。でも、歌との関係を考えると、音数を減らした方がいいなって考えるようになった。姐さんが話したことにも通じるけど、シンプルな方が歌も届きやすいだろうって考え始めたんです。
――「音を軽くしたい」というリクエストには、どんな意図があったのでしょうか?
【佐々木】“自然なa flood of circleの音”を表現したいと思い始めたのが大きいかな。さっきナベちゃん(渡邊)も話していたけど、テツが加入して、本当にゼロからバンドを作っていくような感覚だったんです。人間同士の関係性もそうだし、音もそう。その中で「もっとシンプルに俺らのよさを表現できないか」と思ったんです。バンドには、やっぱり“自然に出している音”っていうものがあると思うんで、だったら個人的な嗜好とかじゃなく、ライブで鳴らしているリアルな音でやろうと。で、ライブで鳴らしている音に改めて向き合ってみたら、俺らが普段ライブで鳴らしている音ってそんなにヘヴィでもないのかなと気づいたんですよね。
――逆に、それまでヘヴィさを追求していたのはなぜだったのでしょう?
【佐々木】たぶん、そういうバンドと自分たちを見比べていたところがあったんだと思うんですよ、「これは俺らにはできない」って。イギリス人エンジニアのザブ(ザビエル・ステーブンソン氏)に参加してもらったアルバム『a flood of circle』(2018年2月発売)には、ドロップD(チューニング)の曲とかもあったし、まさにそういう時期だった。それを試行錯誤のひとつとしてやってみた上で、今は違う考え方になっている感じかな。わざわざアルバムタイトルに“歌”って入れたのもそれに尽きるんです。今回は“歌のアルバム”だと最初から思っていたので、自然と歌が前に出てくるサウンドっていう点で、今までの俺らと比べて軽いことがキーワードになるんじゃないかと思ったんですよ。
■絶対的な相棒や新兵器を導入しながらも、重視したのは“バランス感”
――今作のレコーディングで使用された機材について伺います。渡邊さんは曲ごとにスネアのトーンやシンバルの質感が異なっていますが、数台を使い分けたのでしょうか?
【渡邊】前作では、1970年代のGretchのブラスシェルをメインスネアにしていたんですけど、今回はそこにdwのブラスをカスタムしたやつと、Gregg Keplingerっていうスネアをプラスして、曲に応じて使い分けましたね。
――Gregg Keplingerのシェルは?
【渡邊】スチール…なのかな?合金なんですけど、個人工房で作られているスネアなので、ロゴも説明もないんですよね(笑)。スネアはその3台だけど、今回はシンバルの影響が大きかったと思います。今ライブで使っているPaisteの900シリーズとRUDEシリーズに加えて、Formula 602シリーズとThe Paisteシリーズのリフレクターも導入したんです。
――シンバルだけで4シリーズも使い分けた理由は?
【渡邊】周りとの関係性ですね。シンバルを替えるだけでエッジの立ち方とか混ざり方も変わるので、そこがいいエッセンスになったのかなと思います。あと、今回も前作と同じスタジオで録ったから、スタジオの響き方とかがわかってきたし、メンバーとバランスを取る方法も見つかってきたんです。俺の持っている楽器は基本的にいい音しかしないので(笑)、バランスを重視する方向に変わった感じです。
――ドラムセット自体は不動だったのですね。
【渡邊】基本的に全曲一緒で、替えたとしてもバスドラムくらい。セット自体は…もう何年替えていないんだろう?以前、別のメーカーのセットを試したことがあったんですけど、俺にはしっくりこなかったんですよ。そこからなおさら替えようって思わなくなりました(笑)。
――HISAYOさんのメインベースは?
【HISAYO】ライブでもメインにしているYamahaのBB2024です。今回はいつものa flood of circleから大きく外れるような曲がなかったので、足下もいつも通り。ナベちゃんも言った通り、全体の中でどうかっていう部分を見て調整していく感じでした。
――バランス重視のサウンドメイクを目指した?
【HISAYO】「それぞれが好きな音を出すのはもうやめよう」と(笑)。最近のライブリハーサルでも、まずは音のバランスを見るところから始めているんです。レコーディングはリズム隊から録るので、テツの出番はかなり後になるじゃないですか。それでも最初に来てもらって、みんなで音を決めるっていう。だから、いい意味で“自分のこだわり”みたいなものはなくなっていますね。
――アオキさんはインスタグラムで、多数のギターを並べている写真も投稿されていましたが…?
【アオキ】でも、使ったのは3〜4本ッスね。結局いつものレスポール(Gibson製Les Paul Custom 1973)と335(Gibson Custom製1959 ES-335 Reissue)、あとL's TRUSTで作ってもらったTLスタイルとかかな。アンプはMarshallだし、ツマミもほぼライブと同じです。
――使い慣れた機材だからこそ、レコーディング前の音決めもスムーズに?
【アオキ】レコーディング当日の朝、風呂に入りながら「あのギターで録ろう」とか「こういう感じの音にしよう」って考えて。録りながら悩む…みたいなことはなかったですね。
――となると、レコーディングもすごい早さで(笑)?
【アオキ】めちゃくちゃ早いッスよ(笑)。レコーディングのときだけ、俺は自分のことを今剛さんだと思っているんで。「絶対1〜2テイクで終わらせるぞ」っていう気持ち(笑)。
――佐々木さんが使用されたギターは?
【佐々木】2本のGretschとZEMAITISのアコギ。あと、最終調整のダビングは自分の家でやることが多いんですけど、そのときはフェンダーがPrimal Screamとコラボして出したストラト(Fender 30th Anniversary Screamadelica Stratocaster)を使ったかな。
【アオキ】「Party Monster Bop」のバッキングとかはそのストラトだった気がする。
【佐々木】ああ、確かそう。毎回何か1つ新しい要素を入れるようにしています。洋服とかもそうなんだけど、俺は新しいものを買うとその日に着たいタイプなんですよ。取っておくことができないっていうか(笑)。
■“自分自身”にフォーカスしたニューアルバムで、楽器面からも描き出されたストーリー
――2本のGretschというのは、ライブでもメインで使用されている、白色のG6139T CBDC Falconと黒色のG7593 Black Falconですね。
【佐々木】Black Falconの方は今回、結構自分の中でストーリーがあって。このギター、前回のツアーファイナルでぶっ壊しちゃったんですよ。あの日は安倍晋三さんが亡くなった日で、別に安倍さんに対してどうこうってことじゃないんだけど、やるせなくて感情が高まっちゃったのと、自分で何か表現しなきゃっていう思いに駆られたんですね。それで壊しちゃって、さすがにもうおさらばかなと思っていたんです。でも、それを聞きつけたGretschの日本工場の人が、「佐々木さんのBlack Falconは絶対に大事ですから」って直してくれて。
――いい縁があったんですね。Black Falconは佐々木さんのアイコンとも言えますし、2014年にGretschとエンドースメント契約を結ぶきっかけにもなったギターですから。
【佐々木】エンドースに関しても、もともと日本でGretschを取り扱っていた会社の人がつなげてくれた話だったんだけど、ブランドホルダーが今はもう別の会社になっているので、そういう関係性もなくなっていたんですよ。で、直してくれた人が「代々木公園のフリーライブの朝に修理したBlack Falconを届けます」って連絡をくれたんだけど、そのときにギターを託したのが、エンドースとかをつなげてくれた人っていうね。ニクいことをするなぁって(笑)。だから、もちろんその日のライブでも使ったし、これをレコーディングで使わないなんてことはないだろうと思って、それ以降に録った曲では結構使いました。
――修理後の音の変化についてはどう感じていますか?
【佐々木】確かに音はめちゃくちゃ変わったけど…悲しいかな、俺の手のクセがあるから同じゾーンに入ってきちゃうんですよね(笑)。昔から使っているギターでも、フェンダーのストラトでも、直ったBlack Falconでも、キャラクターは全然違うはずなのに、俺が弾くと同じような音になる(笑)。
――そもそもGretschを使い始めたきっかけは?
【佐々木】Black Falconを買ったのはちょうど姐さんが加入した頃で、そのときも今回と同じように「自分が何とかしなきゃ」っていうモードだったんです。で、革ジャンとギターを買おうと思って、中古の楽器屋で一番かっこいいやつを買ったっていう。CBDC Falconの方は、THE ROOSTERSの大江慎也さんの誕生日イベントに出ることになって、その日に新しいギターを下ろそうと思って買いました。で、ちょうど初めて日本製のFalconが出るって話を聞いたので、「つまりこのギターはまだ誰も弾いていないってことか」と思って買ったんですよね。
――そのCBDC Falconには、今作のジャケットを手がけた画家・奈良美智氏のイラストも描かれています。
【佐々木】大江さんのイベントで初めて奈良さんと会って、若気の至りでサインを書いてもらったんです。そのときに「いつかジャケットを描いてほしい」ってことも言った気がするんだけど、俺が歌詞とかイラストとかを書いているノートを見た奈良さんが、「これはもうアートブックだから、自分で描いた方がいいよ」って言ってくれたんですよね。そう言われたらもう頼む理由がないじゃないですか(笑)。で、そこから10年、音楽はもちろんだけど、ジャケットを描いたり写真を撮ったり…とにかく自分のコントロールが効く範囲でやり続けてきて、今回奈良さんにジャケットを描いてもらうことになったんです。
――アオキさんのライブのメインギターは1973年製のGibson Les Paul Customです。
【アオキ】いいギターを買ってから上京しようと思って、6〜7年前に買ったやつですね。もともと黒のLes Paul Customがほしいなとは思っていたんで、そのとき店にあったやつを買いました。ナットとかフレットとかっていう消耗品を替えたくらいで、ほかは特にイジっていないです。
――最近のライブでは、新たにもう1本黒いLes Paul Customを使用されていますね。
【アオキ】ずっとサブにしていた、赤の1996年製のカスタムを塗り直してもらったんですよね。ボディー自体はめちゃくちゃ重たいんですけど、音は73年製より軽め。「月夜の道を俺が行く」が最後にレコーディングにした曲なんですけど、そのタイミングでちょうど塗装が終わったんで、うれしくてそのまま使いました。
――ヘッド裏を別の色で塗りつぶす“スティンガー仕様”を採用した理由は?
【アオキ】どっちも真っ黒だとややこしいなってのと、かっこいいから(笑)。73年製の方はほぼオリジナルの仕様だけど、こっち(96年製)は木以外全部変えているっていうくらい改造していますね。ピックアップは57クラシックで、なるべく73年製の音に近づけようとしていろいろやっています。
■永らくともに歩み続けてきたからこそ感じる、愛用楽器の“進化”
――渡邊さんがライブで使用されているドラムセットは、Gretsch製USAカスタムですが、こちらはいつ頃導入されたのですか?
【渡邊】Led Zeppelinのジョン・ボーナムが好きだったので、最初は26インチのアクリルシェルのセットを買ったんですけど…10年くらい前に今使っているGretschに替えました。亮介がBlack Falconを買ったのと同じくらいの時期ですね。そこから育つまで結構時間がかかりました。
――入手してから10年以上経過し、音の印象はどう変化していきましたか?
【渡邊】ローの落ち着き方とかがだいぶ変わりました。俺がセットのクセを理解したとか、自分自身の耳が変わってきたこととかも要因だと思うんですけど、最初の頃は音が全然抜けてこなくて…。Gretschは製造工程も特殊だし、俺が買った頃はパーツの原産国が変わった時期でもあったんですけど、それでも変わらずGretschらしい音がする。これってすごいことというか、魔法みたいだなって思うんですよ。もうGretsch以外のセットが叩けなくなっている自分が怖いくらいです(笑)。
――次のツアーでは新たにパッドの導入も視野に入れているそうですね?
【渡邊】機材自体は新しくないんですよ。「KIDS」(2014年4月発売シングル『KIDS/アカネ』収録)に銅鑼の音が入っているんですけど、それをライブで鳴らすときに使ったことがあって。まだ動くか不安なんですけど、動いたら使います(笑)。
――HISAYOさんのライブ用メインベースは、レコーディングでも活躍したというYamahaのBB2024ですね。こちらはいつ頃入手されたベースなのでしょうか?
【HISAYO】2007年頃だったと思います。もともとBB Limitedというモデルを使っていたんですが、ヘヴィなバンドに加入することになったので、もう少ししっかり低音が出せるベースを…ということで入手して、そこからずっと使っていますね。自分的にも扱いやすくて、a flood of circleに加入してからも使い続けています。
――4弦のチューナーにはHIP SHOT製Dチューナーも装着されていますが、これは先ほど佐々木さんが言っていたドロップDチューニングの楽曲用に取りつけたものですか?
【HISAYO】いえ、もともとですね。昔やっていたバンドがドロップチューニングも多用するバンドだったので、a flood of circleに入る前からつけていましたし、なんなら新しくベースを買ったら必ずこれをつけるというのが習慣になっていて(笑)。
――音にはどんな印象を持っていますか?
【HISAYO】強いというか、ほかのベースと比べて単純に音が大きいです。すごくパワーがあるので、そこからいかに引いていくかという感じになりますね。自分のタッチや技術もハッキリと出てしまうので、スキルアップにもつながっているのかなと思います(笑)。
■アルバム『花降る空に不滅の歌を』収録曲
01. 月夜の道を俺が行く
02. バードヘッドブルース
03. くたばれマイダーリン
04. 如何様師のバラード
05. 本気で生きているのなら
06. カメラソング
07. 花降る空に不滅の歌を
08. GOOD LUCK MY FRIEND
09. Party Monster Bop
10. 花火を見に行こう
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2023/02/17