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NHK『紅白』制作統括も実感 今年のテーマ“LOVE&PEACE”に寄せるアーティストの期待感

 3年ぶりにNHKホールで、有観客で開催されることが発表された『第73回NHK紅白歌合戦』。制限緩和が進んだことで音楽ライブやイベント、フェスが本格的に再開し、音楽ストリーミング配信、CDセールスともに好調だった1年を振り返り、制作統括の加藤英明氏は「その勢いと紅白ならではのライブ感を出したい」と意欲をみせる。今年のテーマとして掲げた“LOVE&PEACE”に込めた想いや、“今年ならでは”の出演者選出や企画に対するこだわりを聞いた。

『第73回NHK紅白歌合戦』出場歌手の発表記者会見。会場には、IVE、緑黄色社会、LE SSERAFIM、Saucy Dog、JO1、なにわ男子、BE:FIRSTが姿を見せた (C)NHK

『第73回NHK紅白歌合戦』出場歌手の発表記者会見。会場には、IVE、緑黄色社会、LE SSERAFIM、Saucy Dog、JO1、なにわ男子、BE:FIRSTが姿を見せた (C)NHK

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■アーティストもテーマに賛同 “平和の尊さ”や“希望”、“愛”をじんわり感じる4時間に

一昨年は史上初の無観客開催、昨年は改修工事により“聖地”であるNHKホールを離れ東京国際フォーラムにて開催と、この2年間、イレギュラー開催が続いた紅白。3年ぶりに有観客のNHKホールで実施できるようになった今年、番組の制作統括を務める加藤氏がまず考えたのは、何をテーマにするかだった。

「収束の見通しの立たない新型コロナウイルス感染症にウクライナ危機、相次ぐ自然災害など、明るい未来が見通せず、世界中が不安な空気に包まれている中で、紅白にできることは何なのか。スタッフらと議論し、僕なりに考えた結果、今年のテーマは音楽的なメッセージにしたいと考えたんです」

 その結果「今年の雰囲気に最もしっくりくるワード」として選んだのが、“LOVE&PEACE”だった。1960年代から70年代にかけてサイケデリックロックを介して世界的に広がったフラワームーブメント、そのメッセージである。

「声高にこういうことを考えましょうと訴えるつもりはなく、大晦日の最後の4時間、1年を振り返りながら、出場したアーティストの歌から、“平和の尊さ”や“希望”、そして“愛”についてじんわりと感じてもらえればいいなと思いました」

 テーマを決定した後、加藤氏が驚いたことがある。それは、出場アーティストたちが想像以上に「紅白のテーマを気にしてくれていたこと」だった。

「ここ数年、感じていたことではありますが、アーティストはもちろん、事務所やレコード会社の方も含め、今年のテーマは何かと聞かれることが本当に増えました。紅白に出るなら新曲をプロモーションしたいという気持ちより、テーマに合わせてという思いを皆さん持ってくださっているようで有難いですね。さらに今年はテーマと、そこに込めた思いをお伝えしたところ“いいテーマ”と好評で、歌う曲や演出についてもテーマに沿ったアイデアをいろいろ出していただいていて、アーティストからの期待感を感じています」

今年の『紅白』のテーマ「LOVE & PEACE -みんなでシェア!-」 (C)NHK

今年の『紅白』のテーマ「LOVE & PEACE -みんなでシェア!-」 (C)NHK

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■ライブやフェスが再開した22年 だからこそ今年は生っぽさを伝えたい

そうやってアーティストたちが例年以上に出演に期待を寄せるのは、やはり長引くコロナ禍によってライブが制限されてきた経験が影響していると、加藤氏は感じている。

「春あたりからイベントの開催制限が撤廃され、観客の収容率を100%に引き上げてのライブやコンサートが増えました。夏には各地で様々なフェスが再開し、海外からもアーティストが来日してライブが開催されるようになりました。この状況は過去2年間では考えられなかったことです。それまでオンラインで観ていたライブをリアルで観ることができるようになり、音楽ってやはり自分たちの生活になくてはならないものだなと感じた人は多いと思うし、アーティストにとってもそれは同じだと思います。むしろ、コロナ禍で行う生のステージパフォーマンスに対して、新しい可能性を見出そうとしている気概をアーティストたちから感じています」

 そんな時代の空気感に応えるために、演出面においては「手触り感のある、生放送ならではのライブ感のある紅白にしたい」と意気込む。さらに、もう1点、紅白に打ち出したい今年ならではの音楽シーンの特徴があるという。

「今年は、アイドルからベテランまで世代を問わず、CDパッケージが売れたことも印象的でした。CDを購入して手元に置きたいと考えるユーザーがこんなにもいるんだということに驚かされました。音楽ライブ、CD売上に勢いが戻ってきて、音楽ストリーミング配信も加速し、アーティストたちの再出発の気運が感じられた1年であったと感じていますので、その勢いも紅白で表現したいですね」

『第73回NHK紅白歌合戦』制作統括・加藤英明氏

『第73回NHK紅白歌合戦』制作統括・加藤英明氏

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 出場者の選考ポイントは例年どおり、(1)今年の活躍 (2)世論の支持 (3)番組の企画・演出の3点。中でも先の“勢い”の言葉からもわかるように、今年はとくに「この1年本当に頑張った人」に着目したという。初出場の10組には、LE SSERAFIMIVEら韓国系新人ガールズグループが含まれているのはその表れである。

「選出に関しては悩みましたが、夏くらいから毎週のように韓国のガールズグループが来日して、それを待ち望んでいたファンが押しかけ、大変な盛り上がりを見せました。2組ともYouTubeでは再生回数が1億回を突破しています。それは明らかに突出した人気を獲得している表れですから、やはりこの勢いは、今年の音楽シーンを考えた時に無視できないだろうと考えたのです」

 すさまじい勢いを見せたアーティストということでは、人気アニメシリーズ「ONE PIECE」の新作映画『ONE PIECE FILM RED』のヒロイン役の歌姫・ウタも外せない。アニメのキャラクターが紅白歌手として出場するのは番組史上初めてだが、映画が国内動員数1300万人、興行収入180億円を突破し、今年を代表する大ヒット作品となったことを考えれば、今年の音楽シーンを語るうえで重要な存在の1人であることは確かだ。番組ではウタと『ONE PIECE FILM RED』のコラボ企画も用意されている。

 そのほかの初出場についても、納得の活躍をした顔ぶれがずらりと並んだ。

なにわ男子BE:FIRSTJO1らアイドルがエネルギッシュな活動をされていましたし、シンガーソングライターではVaundyAimer、バンドでは緑黄色社会Saucy Dogも楽曲制作やライブで、目覚ましい成果を収められています」

■いろんな世代がいろいろなことを言い合える 全世代対応コンテンツであることに挑み続ける紅白

ネットでは「若年層ばかり気にしているのではないか」という声も散見されるが、「紅白は全世代対応コンテンツであることに挑み続ける」と加藤氏はキッパリ。

「大晦日という時間だから成立するのかもしれませんが、これまで72回にわたり貫いてきたように、紅白は今や少なくなった全世代対応コンテンツとして、残っていかなければいけないと考えています。これだけマーケットが細分化している中で、矛盾しているとよく言われますし、『#紅白見ない』がTwitterのトレンドワードになるくらい批判も多いですけれど、ネガティブな意見も、気にしてくれているからだとポジティブに受け止めて。あの人が出ていない、この人が出て嬉しい等、ツッコミどころ満載ですが、それも紅白ならではの魅力の1つと捉え、1年の締めくくりの大晦日に、いろんな世代がいろいろなことを言い合える番組があってもいいのではないかと思っています」

 テーマの副題となっている「みんなでシェア」にもその思いが込められている。

「奪い合い、自分本位になりがちな時代に、紅白という誰でも見られる音楽番組で、皆で共有する時間をもってもらいたいという思いです」

3年ぶりに有観客で開催される『第73回NHK紅白歌合戦』 (C)NHK

3年ぶりに有観客で開催される『第73回NHK紅白歌合戦』 (C)NHK

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 さらに今年ならではの試みとしては、特別企画『氷川きよし〜新たなるステージへ〜』も特筆すべきトピックだろう。

「2000年から毎年欠かさず紅白に出場され、演歌・歌謡曲というジャンルが必ずしも繁栄を続けてきたわけではない中にあって、あれだけの存在感を放たれて、輝いてきた唯一無二の方です。今の時代を象徴している1人であり、オーセンティックな存在である一方で、そのバランスが新しい価値を生んでいます。歌手活動を休止されると聞き、今年は特別企画でのご出演をお願いしました」

 司会は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源頼朝役を務め、一大ムーブメントを起こした大泉洋と、Twitterフォロワー数が400万人超えの橋本環奈という今年大活躍の2人に加え、スペシャルナビゲーターにニュースから音楽番組まで、今やテレビ界を代表するMCの1人として存在感を放っている櫻井翔、そして、桑子真帆アナウンサーの4人で番組を盛り上げる。

 コロナ禍の2年間、無観客や会場の変更などを余儀なくされながらも創意工夫して開催されてきた紅白。3年ぶりにホームグラウンドでの有観客開催となる今年、アーティストや司会者とともに、この1年間の空気感を全世代に向けてどのような形で見せてくれるのか、その挑戦に期待したい。

文・河上いつ子

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