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藤あや子デビュー35周年記念作「鳥」で見せた引き算の美学「使命感をもって歌いたい」

 今年デビュー35周年を迎えた藤あや子。4月には美ボディを披露した写真集『FUJI AYAKO』で世間を驚かせ、その興奮冷めやらぬなか、6月22日にはアーティストとして新たな一歩を踏み出すための道標となる作品、「鳥」をリリースする。本作は、これまでシングル2作のプロデュースを行った南こうせつが93年に発表した楽曲。約30年の時を経て、南本人のプロデュースにより、藤が新たに命を吹き込んだ本作は、情感豊かで凛とした強さを秘めた楽曲に仕上がった。アニバーサリーイヤーにあえてカバー作を選んだ理由や、南とタッグを組むことによって受ける刺激、さらに年齢を重ねてますます輝きを増す人間力の源について聞いた。

デビュー35周年を迎えさらに輝きを増す藤あや子

デビュー35周年を迎えさらに輝きを増す藤あや子

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■世の中が不安定で重苦しく生き辛い今の時代に「鳥」を発表できる喜び

――南こうせつプロデュースは、30周年記念曲「たそがれ綺麗/からたちの小径」(17年)、昨年の「夢のまにまに」に続いて3作目となります。前2作は新作、本作はカバーですが、選曲の理由を教えてください。

 実は「鳥」は、前作の「夢のまにまに」の制作中に、こうせつさんから「どうしてもあや子ちゃんに歌ってほしい曲がある」と言われて、カップリング曲として提案された歌でした。私自身も音資料を聴いて、ぜひ歌いたい! とレコーディングに臨んだのですが、今までにはなかったタイプの曲ですし、今の時代にとても合っているなと思って、カップリングではなく、次回作にしたいとお願いしたんです。
――「鳥」は、こうせつさんが93年にリリースしたシングル作「夢の時間」のカップリング曲ですね。

 ご本人はシングルとして発売するつもりだったけれど、当時、「夢の時間」が映画の主題歌に決まったタイミングだったので、「鳥」はカップリングという形での発表になってしまったそうです。そんな経緯もあって、こうせつさんにとってはとても思い入れの強い作品だったようです。

――こうせつさんが29年間、いつか光を当てたいと大事にしていた楽曲が、藤さんの35周年を飾るシングルになったのですね。

 35周年って、藤あや子の前の村勢真奈美という名前でデビューした時代から数えてなんですよ。そこまで足しちゃうわけ? って(スタッフに対して)実は思っているんですけども(笑)。ただ、私の中では周年ということよりも、コロナ禍や戦争で世の中が不安定で重苦しく生き辛い今の時代に、この作品を発表できることが本当にありがたいと思っているんです。男女の別れの歌ではありますが、愛する対象には肉親や友人などいろいろな人を当てはめることができるし、“鳥が飛んでいく”という描写は、苦しみからの解放という意味にも受け取れる。悲しいだけではなく、平和のシンボルとしての“鳥”をイメージできる内容にもなっているので、いろいろな方たちの気持ちに響くのではないかと思っているんです。

――確かに「鳥」というタイトルからは、希望や自由…、いろいろなことが連想されます。

 でしょ! 実はシングルカットが決まったときに、こうせつさんから「タイトルが“鳥”では淋しいから、別のものに変えてもいいかなと思うんだけど」って言っていただいたんですが、私は、一文字で“鳥”だからいいんですよ、これでいきましょう! って言ったんです(笑)。

「鳥」のレコーディングメンバー。左から 吉川忠英・藤あや子・南こうせつ・斎藤ネコ

「鳥」のレコーディングメンバー。左から 吉川忠英・藤あや子・南こうせつ・斎藤ネコ

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■たった1ヶ所、1つのこぶしがこの歌を藤あや子の「鳥」にした

――レコーディングで何かリクエストはあったのですか。

 歌においては職人ですから、どういうものを必要とされているのかを事前に考えて、何パターンかの歌い方を用意して、その中から選んでいただき、レコーディングに臨みました。歌い終わると、「1ヶ所だけこぶしを入れてもらっていいかな」って言われまして。この曲のどこに入れるの? って驚きつつ、言われた1ヶ所に1つだけこぶしを入れたんです。そうしたら、見事にこの曲が藤あや子の「鳥」になって。こうせつさんのすごさを感じた瞬間でした。

――南こうせつさんの楽曲にはどんな魅力を感じていますか。

 すごく情熱のある方なので、歌も同様に、優しい響きではあるけれど、どこか芯のある強さが見え隠れしますね。故郷の大分でオーガニックのみかんを作るなど農作業もされているせいか、曲作りにもそういうシンプルさが感じられます。料理に例えると、いろいろな調味料を加えなくても、お塩を入れただけで味わい深くなるような作品作りをされるんです。いいお出汁を飲むとスーッと身体に沁みこんでいきますよね。でも、それって実は一番難しいこと。シンプルに食材を活かすことができないから、いろいろな味を足してしまうわけですからね。

――では、レコーディングでは、藤さんも“シンプル”にこだわられたのですか。

 もっと歌いたいけれど、抑えて抑えてという感じにしました。斎藤ネコさんのアレンジもそうですが、この曲に関しては、それぞれがこの歌を活かすために最小限の味付けで完成させたという印象ですね。プロたちが引き算をしていって、それによって研ぎ澄まされて、洗練されて、結果、旨味や魅力が倍になったという感じです。

――カップリングの2曲は、オリジナル・アルバムの中から、「鳥」と同じ作詞家の岡田冨美子作品を藤さんご自身が選ばれたそうですね。

 今回は岡田先生にフィーチャーしたかったんです。女性の作家は演歌の世界では少ないのですが、先生は今もすごく頑張っていらっしゃる素敵な方です。2作とも20年前くらいの作品なんですけど、久しぶりに聴いてみて、当時よりも今の時代に合っているのではないかと思って選びました。当時と今とで自分の声が不思議なくらい変わっていないことや、当時の歌い方のほうが、新鮮味があっていいなと思って、敢えて録り直しをせずに収録しました。

■還暦を過ぎて生きる楽しさを知ったからこそ使命感をもって歌いたい

――20年前と声が変わっていないというのはすごいですね。

 私はもともと声フェチなので、すごくこだわりがあるんです。10年前からヨガを始めたのも、今、キックボクシングをやっているのも、スタイルのためではなく、良い声を出すためのトレーニング。身体は楽器ですから、うまく使いこなすためには丈夫にしておかないといけませんからね。3年前にお酒を断ったのも、アルコールで声を衰えさせたくないからですし。いろんなことに興味を持ってチャレンジしていますが、それは歌うことが何より楽しいから、そのために自分がしなければいけないことをしているだけなんです。そのおかげでキーも声質も変わっていないですし、朝イチからめちゃくちゃビンビンにいい声が出ますよ(笑)。

――その一方で、年齢を重ねたことによって、心情的に、歌に深みが増すということもあるのではないかと思うのですが。

 確かに、30代だったら「鳥」は歌えなかったと思いますね。30代40代って、熱くもなるけれど、傷ついたり、耐えられないことがあったり、私自身、今、振り返っても苦しかったなって思うんです。そんな時代を通り越して、還暦を迎えた昨年、すごく楽になりました。若い頃は破滅的な思考をしていたときもあって、40代で死ぬんだろうと考えていて、60歳になるなんて想像もできなかったんですけど、いざ還暦を迎えてみたら、まだまだ元気だし、やれることもたくさんあって毎日が楽しくて…。以前だったら納得いかなくて許せなかったことも、“いいじゃない”って思えるようになったし(笑)。そうなれたのは、これまで経験してきたことが自分にとって栄養になっているからだと思うんです。歌手として自分が発信できることをしなければ、という使命感が芽生えてきたのも還暦を迎えてからですね。

――美ボディを披露した写真集も多くの女性に元気と勇気を与えています。

 ありがとうございます。還暦になって写真集なんてないでしょって思っていたんですけれど、人生わからないもんですね、ホント(笑)。

藤あや子写真集「FUJI AYAKO」(撮影:浅井佳代子/講談社)

藤あや子写真集「FUJI AYAKO」(撮影:浅井佳代子/講談社)

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――「鳥」のジャケット写真はその写真集の未発表カットだそうですね。ナチュラルな、今までにはなかった雰囲気で、素敵です。

 カメラマンの浅井佳代子先生に、曲に合った1枚を選んでいただきました。先生は印刷のインクの色までこだわって指示してくださって、本当にありがたかったです。

――細部に至るまで、まさにプロたちの総力を結集した豪華な作品なんですね。

 一流の人たちが本気出したらこんなすごいのできちゃったっていう感じでしょうか。一見してすごい感じには見えないんだけど、よくよく聴いてみたら、よくよく見てみたらすごい1枚っていうのがまたすごいところです(笑)。

――まだまだやりたいことはたくさんあるそうですが、現時点での目標と野望を教えてください。

 今は、アコースティックギターに熱中していて、「鳥」の弾き語りができるようになることを目標にして練習しています。あとは(飼い猫の)マルオレ(※)のフェスを実現するという壮大な構想を練っています(笑)。やりたいことがあるということは、毎日を生き生きと過ごせることにつながります。もともとポジティブ思考なんですけど、我ながら楽しいことを見つけるのが上手いなって思っています。

※SNSで話題沸騰の保護猫「マルくん」「オレオちゃん」の姉弟猫の愛称。20年にはその日常を収めた写真集『マルとオレオと藤あや子』が発売される人気ぶり

文・河上いつ子


■ 藤あや子Profile
1961年生まれ。1987年演歌歌手デビュー。藤あや子に改名後は数々の音楽賞を受賞し、作詞・作曲家としても活動。近年ではSNSが話題となり保護猫チャリティー活動も。2022年35周年を記念した写真集も話題に。

藤あや子 シングル「鳥」

藤あや子 シングル「鳥」

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【作品情報】
藤あや子 シングル「鳥」
発売日:2022年6月22日(水)
MHCL-2963/1300円(税込)

1.鳥(作詞:岡田冨美子 作曲:南こうせつ 編曲:斎藤ネコ)
2.秘密(作詞:岡田冨美子 作曲:弦哲也 編曲:桜庭伸幸)
3.銀河心中(作詞:岡田冨美子 作曲:弦哲也 編曲:桜庭伸幸)
4.鳥(オリジナル・カラオケ)
5.秘密(オリジナル・カラオケ)
6.銀河心中(オリジナル・カラオケ)

関連写真

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  • 「鳥」のレコーディングメンバー。左から 吉川忠英・藤あや子・南こうせつ・斎藤ネコ
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