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音楽プロデューサー・瀬尾一三氏が語る、中島みゆきライブアルバム完成までの奇跡と苦悩、葛藤

 2020年2月、新型コロナウィルス感染症の影響により突然打ち切られた中島みゆきの『ラスト・ツアー「結果オーライ」』。2月に発売された、同ツアーのライブアルバムが出来るまでの2年間には何があったのだろうか。30年以上にわたり中島の音楽プロデューサーを務める瀬尾一三氏に、コンサート現場での葛藤からアルバム発売までの経緯を聞いた。

音楽プロデューサー・瀬尾一三氏

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■突然のツアー中止。延期を模索するが打てる手がない…

 今回のツアーが始まったのは、2020年1月12日 。新型コロナウイルス感染症に関するその頃の日本人の知識は、「中国・武漢で新しいウイルスが発生して大変なことになっているらしい」、その程度だった。数年前から準備を行い、今回が最後のツアーと決めていた関係者たちも同じ認識だったと言う。

 それが崩れたのが2月26日の大阪・フェスティバルホールでの公演初日。行政からの指示により翌日以降の全てのツアーが中止となってしまったのだ。当時のことを瀬尾氏は「突然シャットダウンされた感じです」と振り返った。

 ただし現場では、「いつなら振替公演ができるか」、「会場やミュージシャン、スタッフのスケジュールは抑えられるか」など、コンサートを続けるためにできることを必死で模索し、最終的には「8月くらいになればツアーが再開できるだろう」と考えていたと言う。

 しかし、一向に終息の気配が見えず、瀬尾氏や中島本人、そしてスタッフ一同にも決断の時期が迫る。

「2020年の2月26日にライブがストップし、代替方法を模索していましたが全てがダメになってしまった。残りの全公演中止を判断した時には『未消化で終わってしまうこのツアーをどうすればいいんだろう』とそればかりを考えていました」

 新型コロナウイルス感染症との闘いから約3年。今ではライブの届け方も多様になり、配信の技術も著しく向上。ツアーがあと2年遅ければ、途中からライブ配信など別の選択肢もあったかもしれない。

「2020年当時も配信という選択肢はありました。ライブで歌った何曲かを会場で再収録・撮影し、作品として発表することで『このツアーは終わりです』という形に収める事も考えました。でも、僕たちは大所帯なので、いずれを選択しても“密”になる必要が出てくる。その一言が我々を動けなくしてしまいました」

 誰よりも音楽を愛し、ファンやスタッフを愛する中島みゆきだからこそ、感染リスクを冒してまでツアーを完結させるという選択肢はなかった。

■「とにかく聴いてくれ」と渡したライブ音源

 全てがゼロの状態になったある時、瀬尾氏はあることを思い出す。

「何故かわからないんだけど、今回のツアーは初日から全部録音していたんですよ」

 これが、ライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』の始まりだった。しかも、レコーディング時と同じマルチトラックで録っていたというから驚きだ。

 まだ整音しきっていないライブ音源ではあるが、瀬尾氏は「とにかく一度聴いてみてくれ」と中島に渡したという。

 その後、2020年12月に瀬尾氏と中島みゆきとの間で「ツアーの決着のつけ方」についての会談が行われた。

「僕は彼女に『新型コロナが収まった2021年か2022年に、同じ内容のツアーをもう1回やりますか?』って聞いたんです。ツアーの時とはいろいろ状況が違うから『同じセットリストで同じライブを再開するのは如何なものでしょう』って。だからこそ『ライブに来られなかった人のためにも音源を発表して終わりにしませんか』と言ったんです」

 瀬尾氏の提案を受け、中島も了承。そうしてアルバム制作が始まったのが21年の春。同年夏からは中島も本格的に加わり、最終OKが出たのは、発売決定リリース直前の11月末だったという。

「きっと、彼女の中では『これでいいのだろうか』という気持ちの揺れがあったと思います。本来望んでいた終わりかたではありませんでしたが、何もないよりはあったほうがいいのではないかと。結果的に伝説的な作品になったと思います」

 その言葉通り、収録されているのは、デビュー曲「アザミ嬢のララバイ」をはじめ、「悪女」、「糸」などの名曲がずらり。曲名を見るだけでも「コンサートに行きたかった」と思う人は多いのではないだろうか。

ライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』をリリースした中島みゆき

ライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』をリリースした中島みゆき

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■アレンジにも「ラスト・ツアー」ならではのこだわり

 今ツアーの準備は、スタートの1〜2年前から始まっていたという。セットリストは、瀬尾氏と中島で考えた。

「彼女が骨組みを考えて『この曲とこの曲は繋がらない』とか、『この曲を並べると、ステージでショウアップできるのではないか』といったことを話し合いながら曲順を入れ替えていきます。今回はラストツアーということもあり、昔のファンにも共感してもらえるような曲もいくつか選んでいます」

 特に初期の楽曲に関しては、中島からこんな依頼を受けていたという。

「僕が携わる前に発表した作品については、『オリジナル曲のまま、特別なアレンジをしないで欲しい』と言われました。「アザミ嬢のララバイ」や「悪女」を僕が違う形にアレンジしてしまったら、『ラスト・ツアー』の趣旨と変わってきてしまいますからね。それに、オリジナルのままに演奏することが、ファンにとって必要なことだと彼女も考えていたと思います」

「あたいの夏休み」などの楽曲は、オリジナルのイントロをそのまま再現しているという。そこに注目して聴いてみるのもおもしろいかもしれない。

 こうして2022年2月2日の発売に漕ぎつけた今作。ツアーは不本意な形で幕を下ろす結果となってしまったが、ライブアルバムとして見事な昇華を遂げた。瀬尾氏が言う通り“伝説的なアルバム”になったことは間違いない。映像がないからこそ想像が膨らみ、思い出をかき立てられるのではないだろうか。ツアーを観た人も観ていない人も、何度でも堪能してもらいたい、そんな贅沢なライブアルバムである。

中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』より

中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』より

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■盟友の故・小林信吾さん、「彼が亡くなったことは、僕の右腕をもがれたようなもの」

 2020年10月、キーボーディストで音楽プロデューサーの小林信吾さんが亡くなった。今作はもちろん、長きにわたり中島みゆきのバンマスを務め、“瀬尾氏の右腕”と呼ばれるほど頼りになる存在であった。そんな小林氏について、瀬尾氏は最後にこう語ってくれた。

「彼が亡くなったことは、僕の右腕をもがれたようなものです。たらればの話をしてもしょうがありませんが、新型コロナがなくツアーが最後まで続いていたら、彼はもう少し生きていたように思います。彼とは20年間一緒に音楽をやってきて、今後はかなりの部分を彼に任せようと思っていたところでした。これから20年をかけて新しい人を育てることは僕にはできません。僕にはそのくらい大きな存在でした。中島みゆきさんにとっても同じくらい大きな存在だったと思います。自分の親の死よりも泣いてしまった、そのくらい悲しい出来事でした」

文・ちはらみどり

■瀬尾一三プロフィール:
1947年9月30日生まれ。兵庫県出身。1969年、フォークグループ「愚」として活動。1973年にソロシンガーとしてアルバム『獏』を発売。同年『LIVE`73』を吉田拓郎と共同プロデュース。その後、中島みゆきをはじめ、吉田拓郎、長渕剛、?永英明他、100をゆうに越えるアーティストたちの作品のアレンジやプロデュースを手がけ、34年目の音楽パートナー・中島みゆきにおいては、楽曲制作のみならずコンサート、『夜会』、『夜会工場』の音楽プロデュースも務めている。

2017年、自身初の作品集第1弾『「時代を創った名曲たち」〜瀬尾一三作品集 SUPER digest〜』を発売。2019年には第2弾、2020年には第3弾を発売した。
2020年、自伝的書籍『音楽と契約した男 瀬尾一三』を出版。

2022年2月2日、最新プロデュース作品となるライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』を発売。

■中島みゆき プロフィール:
1975年、「アザミ嬢のララバイ」でデビュー。同年に日本武道館で開催された「第6回世界歌謡祭」に出場し「時代」でグランプリを受賞する。1976年、1stアルバム『私の声が聞こえますか』をリリース。以降、現在までにオリジナルアルバムを43作品リリースしているほか、アルバム、ビデオ、コンサート、夜会、ラジオパーソナリティー、TV・映画のテーマソング、楽曲提供、小説・詩集・エッセイなどの執筆と幅広い活動を行っている。2002年に「地上の星」、2014年に「麦の唄」で『NHK紅白歌合戦』に出場。

2020年、最後の全国ツアーとなる『中島みゆき  2020ラスト・ツアー「結果オーライ」』を1月12日より開始するも、新型コロナウイルス感染症の拡大により翌2月26日の大阪公演で中止に。

2022年2月2日、ライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』を発売。

■作品情報
中島みゆき 
ライブアルバム
『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』
2022年2月2日(水)発売

好セールス続くライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』

好セールス続くライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』

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【初回盤 2CD+Blu-ray】(※)YCCW-10396〜7/B 定価:¥7,700(税込)
【初回盤 2CD+DVD】(※)YCCW-10398〜9/B 定価:¥7,150(税込)
【通常盤 2CD】YCCW-10400〜1 定価¥4,400(税込)
※初回盤 特典Blu-ray、 DVD内容:
『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』のライブリハーサル、各地舞台裏、「悪女」、「糸」、「誕生」他、貴重な歌唱シーンのダイジェストを含むドキュメント映像を収録(約52分)

■収録曲 ※全盤共通
Disc-1
1.一期一会
2.アザミ嬢のララバイ
3.悪女
4.浅い眠り
5.糸
6.ローリング
7.流星
8.最後の女神
9.齢寿天任せ(よわいことぶきそらまかせ)
Disc-2
1. 離郷の歌
2. この世に二人だけ
3. ナイトキャップ・スペシャル
4. 宙船(そらふね)
5. あたいの夏休み
6. 麦の唄
7. 永遠の嘘をついてくれ
8. 慕情
9. 誕生
10. 人生の素人
11. 土用波
12. はじめまして

関連写真

  • 音楽プロデューサー・瀬尾一三氏
  • ライブアルバム『中島みゆき 2020 ラスト・ツアー「結果オーライ」』をリリースした中島みゆき
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