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「ブレずに進化」Mステプロデューサーの数年後を見据えた番組作り

 出演アーティストがスタジオに一堂に会して、華やかな演出で生ライブを披露する。音楽番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日)が長年貫いてきたスタイルだ。ある意味シンプルにも思えるこのスタイルが、いかに貴重なものであるかを、改めて噛みしめている、と語るのは番組プロデューサーの利根川広毅氏。さまざまな制約のある中で、いかに生の熱気や空気感を醸成し、視聴者に伝えていくのか、今まさにその腕が試されていると言えるだろう。利根川氏の演出やキャスティングのこだわりを聞いた。

12月24日放送の『ミュージックステーション ウルトラ SUPER LIVE 2021』午後5時から6時間を超える生放送に

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■良い楽曲は時代を超える Mステ『ウルトラ SUPER LIVE』で実感

 今年、放送35周年を迎えてさまざまな記念企画を行ってきた『ミュージックステーション』(以下Mステ)が、その集大成となる大型プログラム『ミュージックステーション ウルトラ SUPER LIVE 2021』を12月24日に放送する。午後5時から6時間を超える生放送となり、出演アーティストは67組。会場の幕張メッセから今年の音楽シーンを賑わせたヒット曲のほか、きらびやかな演出によるクリスマススペシャル・メドレー、番組35年の歴史を彩ったヒット曲の特別メドレーなどのスペシャル企画で、祝祭感あふれる一夜限りのステージが展開される予定だ。
「平成のヒット曲と最新のヒット曲をラインナップしながら、改めて素晴らしい楽曲というのは時代を超えるものなのだと実感しています。そして新旧ヒットが並んでも違和感を覚えないのは、何よりMステがW良いライブパフォーマンスWを届けることにこだわってきた番組だからこそだと自負しています」(利根川広毅プロデューサー/以下同)

 ジャンルを超えた複数のアーティストがスタジオに一堂に会して、生のパフォーマンスを繰り広げる。そのMステの様式は放送開始から35年間、大きく変わっていない。

「テレビの音楽番組としては極めてオーソドックスですが、放送開始から35年経った現在では、むしろ貴重なスタイルになったのかもしれません。ジャンルや世代の縛りもなく、その時代の音楽シーンのトップランナーたちがタモリさんと一緒に数列のトーク席に座り、隣り合ったアーティスト同士で雑談を繰り広げている。そんな光景すら、Mステのコンテンツの1つになっているように思います。アーティストの方によっては、ちょっと照れくさいかもしれないですけど(笑)」

利根川広毅プロデューサー(テレビ朝日 総合編成局 第1制作部)

利根川広毅プロデューサー(テレビ朝日 総合編成局 第1制作部)

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■目先の結果を追うのではなく3年後、5年後、10年後を見据えた番組づくり

 一方でコロナ禍においては、スタジオに集まるアーティスト数を制限せざるを得ない事情もあった。そのためか近年のMステはライブだけでなく、VTR企画にも若干多くの時間がとられるようになった印象がある。

「VTR企画も“最新の音楽情報の発信源”となるよう新たなトライを繰り返していて、その中からヒット企画も生まれています。ただ、今はVTR企画が好評だからといって、そこに甘んじていたら、いつの間にか出演アーティスト枠が減っていたという状況になりかねません。Mステの背骨はあくまで今見たいライブ、つまり今輝いている豪華アーティストが次々と登場して生パフォーマンスを披露することなので、その点は今後もブレないような形で進化をしていきたいと強く意識しています」

 長く続いてきた番組をさらに持続させるためには、「目先の結果だけでなく、3年後、5年後、10年後を見据えること」が重要であると利根川プロデューサーは語る。

「その核となるのはやはり出演していただいているアーティストはもちろん、将来的に出演してもらいたいアーティストとのリレーションをしっかりと築いていくことだと思います。テレビ番組の中でも、こと音楽番組というのは非常に属人的なところがあって、アーティストとスタッフとの関係性で出演が決まるところも大きいんです。僕自身趣味も兼ねて、毎週何本もライブハウスやホールに足を運んでいるのですが、そうした中で知り合って信頼関係を築いていたアーティストやそのスタッフの方から、『最初にテレビ出演するなら利根川さんの作る番組がいい』と言ってもらえたときの嬉しさは、やっぱり大きいものがありますね。ただし、“番組に出てもらう”ことが大切なのではなく、お互いにとってプラスになるような“良い出方をしてもらう”ことが一番大切なので、そのタイミングを含めてしっかり向き合いたいと思っています」

 今年からはMステのYouTube公式チャンネルで、次世代アーティストにスポットを当てる「Spotlight」プロジェクトが始動。注目のアーティストたちのMステセットでの歌唱映像と紹介VTRをアップするシリーズ企画で、TempalayWONK須田景凪など、Mステ本編に数ヶ月後や数年後に登場することが期待される新しい才能のオリジナルライブ動画が続々と公開されている。こういった目配りが、将来の番組を支えていくことは言うまでもないことだ。

■豪華アーティストが次々と登場して生パフォーマンス コロナ渦でその価値を改めて実感

 地上波テレビで生パフォーマンスを披露できる貴重な番組として、Mステ出演を目標に掲げるアーティストは多い。一方でストリーミングの普及で、近頃はライブ活動を行わない、あるいは顔を出さないで活動するアーティストも台頭している。その潮流にならうように、Mステでも今年はりりあ。ひらめ、もさを。といった「顔出しNG」アーティストのテレビ初出演が目立った。

「視聴者が観たいアーティストに出演していただくのがMステのスタンスであり、そこに活動スタイルやジャンルの縛りは設けていません。また顔出しNGのアーティストでもダメ元でオファーしてみたら、意外に『テレビに出たかった』という方もいらっしゃいました。ただ、やはりMステの基本は生のパフォーマンスを視聴者にドキドキしながら観ていただくことに尽きます。演出や見せ方、どこまで“顔”を映すか、はアーティスト本人の意向を汲みつつ、その上でオファーが叶うかどうかは『本物のライブパフォーマンスができるか』にかかってくるところはありますね。音源が素晴らしいのにライブで演奏したら良さが伝わらない、ではアーティストの方のプラスにはなりませんから」

 豪華アーティストが次々と登場して生パフォーマンスをする。そんな1時間の小さなフェスを毎週作りたい、と利根川プロデューサーは語る。

「そのオーソドックスなスタイルがいかに貴重なものであったか、コロナ禍を経て改めて噛み締めているところです。そしてフェスは観客がいてこそ、初めて完成するものでもあります。現在はまだ通常放送の観覧は解禁できていませんが、出演者、スタッフ、観覧の方の安全を最優先に考えた上で、今後は有観客の形に戻していくべく準備を進めています。観客を前にしてこそアーティストのパフォーマンスにもパワーがみなぎる。その熱気はきっと画面の向こうにも伝わるはずです」

文・児玉澄子


■利根川広毅(とねがわひろき)氏プロフィール
1977年生まれ。フリーランスとして数々の音楽番組の演出を担当し、2013年に日本テレビ入社。『LIVE MONSTER』『バズリズム』『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』など数多くの番組を演出。18年9月にテレビ朝日に入社。現在は『ミュージックステーション』『関ジャム 完全燃SHOW』のプロデューサーを務めている。

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  • 12月24日放送の『ミュージックステーション ウルトラ SUPER LIVE 2021』午後5時から6時間を超える生放送に
  • 利根川広毅プロデューサー(テレビ朝日 総合編成局 第1制作部)

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