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ロックムーブメント再検証

 ONE OK ROCKサカナクションSEKAI NO OWARIなどがアルバムセールスで10万枚を超え、さらにMAN WITH A MISSIONも最新アルバムが累積7万枚を超えるなど、ここ1〜2年で一気にセールスを伸ばすバンドが複数登場した。加えて、クリープハイプやThe Mirrazなど12年、13年メジャーデビュー組もランキング上位に入るなど、ニューカマーも登場している。ところが、業界全体を包む空気はいたって冷静だ。アイドルブーム、K-POPブームから、バンドブームへ──。このような機運が今一つ、感じられないのはなぜか?業界関係者の声から、シーンの今と、今後の可能性、シーンに対する業界内の反応をレポートする。

昨年から今年にかけて、注目を集める“オオカミ”バンド、MAN WITH A MISSION

昨年から今年にかけて、注目を集める“オオカミ”バンド、MAN WITH A MISSION

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■若手バンドシーンにも活況の兆し

 ここ数年で活気を帯びてきたロックバンドシーン。ただし、かつてのような“ブーム到来”という空気にまでは至らず、地道に、着実に状況が形作られつつある印象が強い。
 ただし、考えてみれば、こんなふうに変革の波がゆるやかに進むのは、現代の音楽状況の特徴と言える。この何年かのK-POP、アイドル、それにボーカロイドの隆盛も、外側から見れば突然の出来事だと感じられるような強烈な熱狂があった。しかし現実にはずっと以前から当事者たちによる活動は行われており、やがてそれを熱心にするサポートするファンや関係者が現れ、そしてそこからビジネスに繋げられるルートが整備されていったものである。

 近年のバンドシーンで、次世代の若手たちに焦点を向けると、セールスでは10万枚の壁が越えられず、ブレイクのタイミングがなかなか到来しない感も強かった。そこには実力のあるベテランから中堅のバンド群といった上の世代が意欲的な活動を続けている事実も大きいだろう。

 しかし今年に入り、20代を中心とした若手ロックバンドシーンも徐々にだが、活況を呈しはじめている。今回の特集にあたって音楽・メディア関係者に行ったアンケートからも、その現状が見えてくる。

「アイドルやアニメ関係が全盛期のなか、ロックを聴きたい、バンドを聴きたい、ライブに行きたいという洋楽志向とも違うマーケットは不変であり、そのあたりの層がまとまってきた感があります」(音楽メーカー/制作・宣伝)

「現在のリスナーの傾向には『自分で音や活動情報を探しだす能動性』、『ライブ等の現場で仲間と感じあうといった“共有意識”を通して自分を認識する』点が強く表れていると思います。特に後者の傾向が顕著です。インターネット内に留まらず、リアルな場でライブ感を味わいたい。そこで、バンドサウンドがクローズアップされてきているのかもしれません」(卸/MD企画担当)

 ここではこうした声を聞きながら、今の若手バンドたちと、それを取り巻く状況について、考察してみたい。

■アリーナクラスを即完がブレイクの目安

 まずは基本的なところで、「このバンドはブレイクした」という概念について確認したい。ブレイクポイントは、かつてなら「アルバムのセールスが何万枚」というおおよその尺度があったものだが、その指標も近年は変わってきている。その判断をどこですべきか、アンケートでは、いくつかの共通した意見が見られた。

「日本武道館、幕張メッセなど、アリーナクラスの会場でライブのチケットを即完売できるようになったら、ブレイクした印象を持つと思います」(FMラジオ局/編成担当)
「それぞれのバンドで目指す場所によって違うと思いますが…、共通状況で言うと、武道館ライブでしょうか」(TV局/プロデューサー)

 このように現在のバンドシーンでは、大都市圏で、アリーナ級の会場で公演が打てることがブレイクの目安と考えられているようだ。それだけのキャパを満たし、オーディエンスを満足させるパフォーマンスを見させられれば、名実ともに人気・実力の両方を満たしたバンドだと認められるということだろう。

 とはいえ、いくら大会場が埋まっても、一般的な認知度が低いケースはいくらでもある。それだけ現代のカルチャーは混沌としている。そこで、各バンドはそこからさらに一段階押し上げようとするのかどうかの選択を迫られる。つまり、一般レベルでのブレイクを狙うかどうか、だ。

「Shibuya O-EAST、LIQUIDROOMクラスが売り切れて、Zeppをワンマンで開催できる、または、フェスなら中規模ステージの比較的良い時間帯に出られるようになったら「ロックバンド界隈」でのブレイク」(音楽メーカー/制作・宣伝)

 これも異論のないところだろう。どこをブレイクポイントとするか。当然、アーティストが大衆性を求めていないのに無理をして「お茶の間レベル」のブレイクを目指すのは無理があるだろう。逆に、充分な力量を持ちながら、ロックバンド界隈にしか認められないケースも多い。そこで、ここでは、あくまでもポピュラーな支持を狙うケースを前提に話を進めていく。

■クロスオーバーな活動で一般層へもリーチ

「お茶の間レベル」のブレイクのためには、バンドの地力はもちろんのこととして、その上ではどんなアプローチが必要とされるのか。

「露出先の獲得。『ミュージックステーション』(EX系)や、『musicる』(EX系)の「もし売れ」のコーナーのような、ロック好き以外が見るところでの露出先が増えていくことが必要。雑誌もいわゆる音楽専門誌だけではない展開ができているバンドほどブレイクに近いところにいるのかな、という印象があります」(音楽メーカー/プロモーション担当)

「動員の下地ができたところで、それなりに大きいタイアップがはまり、それがセールス的にも跳ね返ると、サカナクションやSEKAI NO OWARIクラスの、お茶の間も相手にしたブレイクという感じだと思う」(音楽メーカー/制作・宣伝)

 確かに、タイアップをどう利用していくのかが、カギの一つとなることは間違いないだろう。
「サカナクションのブレイクもタイアップが一因にある。ライトユーザーレベルにまで浸透するには、普段バンドに触れない人たちに純粋に「音」を認知して、良いと思ってもらうことが重要」(卸/MD企画担当)

 ここまで何度か名前の挙がっているサカナクションは、音楽性のみならず、活動ベースも実にクロスオーバーなスタンスで行っている。ことロックバンドの場合は、特に地上波のテレビメディアでの活動から距離を置きたがるケースが多いが、サカナクションのリーダーの山口一郎は、“ロック村”に軸足を置きながら、よりメジャーな場所での動きも視野に入れていることを名言している。こうした意識があるからこそ、同バンドはドラマの主題歌を書いたり、地上波テレビの音楽番組にも堂々と出演しているのである。

 タイアップについては、清涼飲料の「GEROCK」が去年以降、MAN WITH A MISSION、BIGMAMA、[Champagne]をCMに起用するなど、ロックバンドと有益なタッグを実現させている。また最近ではcinema staffが亀田誠治をプロデューサーに招いたシングルで、テレビアニメ『進撃の巨人』(MBSほか)の後期のエンディングテーマを担当している。

 こうした動きからバンド個々の渦は起こっていくとして、それをさらに大きくし、シーン全体を活性化させていく上では、どんなことが求められるのか? これについてのアンケートでは、もはや願望というか、祈りにも似た回答が目立った。
「ライバルバンドや、船頭のようなカリスマバンドの出現に期待」(音楽メーカー/プロモーション担当)
「あんな風になりたいと思えるスーパースターがシーンを盛り上げる」(FMラジオ局/プロデューサー)

 ライバル、カリスマ、スーパースター……。もっともMAN WITH A MISSIONのように旧来的なロックバンド像に当てはまらない成功例もあるわけだが、待望されているのは大きな存在感を示してくれるバンドたちの登場ということだろう。それには何よりもバンド自体の高いアーティスト性が必要だ。そして当然、そうした才能を発見したり、クリエイティブな場を実現できるスタッフの力が不可欠となる。

■メロディのポップさもブレイクのカギに

 ところで今回のアンケートでは、やはりバンド周辺ではライブパフォーマンスの魅力が重視されている結果が出た。これが多くのバンドの基礎体力となるのは当然だが、こと音楽という表現の可能性を考えてみれば、そこから漏れ落ちる魅力も見逃すべきではない。

最新アルバムが注目を浴びているパスピエは、ライブもこなしているが、それ以上に音源制作において、実に現代的なポップミュージックを成立させているバンドである。バンド表現にも、このように多様な方向性があることも改めて確認しておきたい。その意味では、以下の回答も興味深い。
「バンドのブレイクには、圧倒的なメロディのポップさ(聴きやすさ)が必要」(音楽メーカー/制作・宣伝)
 このほかにも、バンドにおいても、楽曲のメロディの重要性を指摘する声は多かった。

 これも決してそこだけに集約させていい話ではないが、しかし大衆の心を掴むという点では、非常に重要な要素ではある。特に2000年代に入って以降のロックバンドは、オルタナティヴ以降の洋楽ロックの感覚が主流になったことで、ポップなメロディをあまり書かなくなった印象が若干あった。そこでは、日本的なメロディに対するてらいのようなものも感じられた。

 その印象がやや変わったのは9mm Parabellum Bulletの登場だろう。コテコテのメタルサウンドはともかく、情緒性たっぷりの歌謡曲的なメロディすら堂々と歌う彼らには、ロックが新世代によって鳴らされ始めた事実を痛感させられた。それはONE OK ROCKのような、独特の言葉の感覚とともに濃厚なメロディを叫ぶバンドにおいても、同じである。ここには、音楽観は元より、おそらくメロディの感覚についても、旧世代との違いが大きくあるのだろう。他フィールドへの曲提供等クロスオーバーな活動も必要

 こうした流れに関連し、最近のバンド界での新鮮なトピックとして、SMAPのシングル「Joy!!」を赤い公園の津野米咲が書き下ろしたことが思い起こされる。赤い公園はポストロックともアヴァンギャルドともつかないゴチャ混ぜのサウンドが個性的なバンドだが、もともと津野のメロディラインにはところどころポップな要素があった。まだ20代前半の女性のバンドマンが、国民的な人気グループの曲を書いてヒットに結び付けたのは痛快な出来事だった。

 ここには現代っ子特有の音楽観もうかがえる。先述のテレビ出演やタイアップでも触れたが、「ロックバンド界隈」では、いわゆる芸能界的な世界はどうしても意識過剰になってしまうケースが多い。しかし今の若者は生まれながらのJ-POP世代であり、歌謡曲は古典とも言える。それだけにそうした音楽からの影響も、また、ポップフィールドへの曲提供も抵抗なく、才能を発揮できるのではないだろうか。若い世代からは、今後も、こうした自由な発想を期待したいところだ。

 じわじわと、少しずつ塗り替えられつつあるバンドシーン。今の新世代の中から次代を担っていくのは、果たしてどのバンドだろうか。(『ORIGINAL CONFIDENCE』13年7月8日号掲載)

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