Chara+YUKI『echo』アルバムレビュー 気鋭のクリエイターたちと作り出した音楽が示す2人の「今」

 昨年11月26日に発表された、Chara+YUKIの活動再開。1999年の同日は、2人によるコラボ曲「愛の火 3つ オレンジ」が発表された日であった。当時、すでにポップスターであった2人のユニットは大きな話題となったが、残念ながら制作された楽曲はこれのみ。しかし今回、20年ぶりとなった再共演では、1月31日に7インチ・アナログEPとしてリリースされたシングル「楽しい蹴伸び」、そして2月14日に発売される『echo』は、ミニ・アルバムと言いつつも8曲入りと、待望のフル・スペック作品と言えそうだ。

独創的なCharaとYUKIの音楽や言葉を、ゲスト陣がスタイリング

  • Chara+YUKI

    Chara+YUKI

 その中身だが、ユニット名がダイレクトに2人の名前から成っていることからも分かるように、すべての曲を2人が手がけ、2人が歌い、2人がプロデュースしている。比重として、Charaがメインのサウンド・プロデュースを行う一方で、YUKIはメインのリリック・プロデュース的な立ち位置で作詞を手がけることで、それぞれのソロを組み合わせただけとは違う、2人だけの新たな世界を生み出している点が本作の大きな魅力。つまりそれだけ、十分すぎる2人のキャリア――メロディ・センス、言葉や音色のチョイス、歌い方、グルーヴに至るまで、成熟した音楽に関わるすべての要素――が混ざり合った、2人の"今"が凝縮された作品と言ってよいだろう。

 そうした2人のスタンダード的な音楽性に、もうひとつの"今"と言うべき音楽的トレンドを注入しているのが、各曲で招かれたサウンド・プロデューサー陣たちによるトラックだ。例えるならば、独創的なCharaとYUKIの音楽や言葉を、ゲスト陣がスタイリングをすることで、2人は、普段着でもよそ行きの服でもない、「Chara+YUKI」という新たな衣装を身にまとうことができ、結果、その骨格である2人の音楽が、より際立っているといった具合だ。そう考えると、一般的には「CharaとYUKIのコラボレーション」として語られることが多いユニットだが、本作に関しては、「Chara+YUKI」という確固とした音楽性を持ったひとつのユニットとゲストのサウンド・プロデューサー陣とのコラボレーションだと考えた方がしっくりとくる。
  • ミニアルバム『echo』(CD盤)/2月14日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

    ミニアルバム『echo』(CD盤)/2月14日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

 そのオープニングは、20年前に作られた「愛の火 3つ オレンジ」を大胆にリアレンジした「愛の火 3つ オレンジ(2020version)」からスタート。東京とロサンゼルスで活動を展開するヒップホップ・クルー、CIRRRCLEのA.G.Oがサウンドをプロデュースし、そこに小西遼(CRCK/LCKS)アレンジによるホーン・セクションが加えられ、華やかさとほのぼのさが同居する空間を生み出している。その上を自由に、そして無邪気に飛び跳ねるように歌うCharaとYUKIの表情が、まるで歌声から見えてくるようで、2人がこの共演をいかに楽しんでいるのかがひしひしと伝わってくる。なお、原曲にはなかった終盤のリリックも聴きどころのひとつだ。

 続く「You! You! You!」では、新進気鋭のトラック・メイカーSeihoによるトラックと、楽器的にエディットされた2人の歌をビートで聴かすクラブ・チューン。そこから、大沢伸一のアレンジによるテクノ・ポップ風の「ひとりかもねむ」へ。あまり起伏のないメロディをウィスパーボイスで淡々と歌いながらも、耳に残るフレーズと、歌詞カードで確認したくなるワードが随所に散りばめられている。なお、タイトルは、百人一首から引用されたものだそうだ。

現代人の緊張感をほぐす心地よい“隙間”

  • シングル「楽しい蹴伸び」/1月31日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

    シングル「楽しい蹴伸び」/1月31日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

 そしてリード曲であり、先ごろMVも公開された"大人のサマーソング(Chara)"という「楽しい蹴伸び」。TENDREこと河原太朗が作曲し、すべての楽器を彼が演奏/プログラミングしたアーバン・ソウル。隙間の多いメロウなサウンドにより、そこからYUKIのリリックがより印象的に浮き上がり、聴き手は自身の感情を、実に心地よく、緩やかな波に漂わせてることができる。実はこの隙間、言い換えれば余白こそが、このミニ・アルバム全曲に共通したポイントだ。

 物理的に音がないという意味での隙間だけでなく、最初から最後までフルで力を込めるのではなく、緩急によって力の抜きどころを作ってくれることで、聴き手に安心感を与えてくれる隙間でもある。また、言葉の解釈として、聴き手の状況や心情によって、いろんな意味に理解できるという点でも、言葉の隙間(=余白)と言えよう。そうした隙間こそが、Chara+YUKIの音楽の特色なのだ。
 それを「ゆるい」「気だるい」といった言葉で表現する人も多いが、情報過多で、強い音や言葉、映像のみが人々を刺激し続ける今の世の中において、2人が作るこうした隙間こそ、現代人の緊張感をほぐしてくれる大切な要素なのではないだろうか。果たして本人たちが、そこを意識していたのかどうかは定かではないものの、この曲に出てくる《楽しい蹴伸び/余分な力はいらない》という一節も、そんな隙間とどこか繋がってくる気がするのは、筆者の考えすぎだろうか。

 そして、ドラマーであり音楽プロデューサーの白根賢一の手による「YOPPITE」は、まさに大人の甘さが漂う一曲。リバーヴィーなCharaとYUKIのユニゾンボーカルが幻想的に響くと、Charaが作曲し、彼女と親交のあるKan Sanoによるプロデュース曲「鳥のブローチ」では、まるで夢の中の物語かのような情景を作り出している。この曲は、本作では数少ないバンド・アレンジで、ベースを高桑圭(Curly Giraffe)、そしてギターの小林祐介、ドラムに吉木諒祐(THE NOVEMBERS)が、2人のキュートさを独自のシューゲイザー・サウンドで表現している。
  • ミニアルバム『echo』(LP盤)/2月14日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

    ミニアルバム『echo』(LP盤)/2月14日発売(EPIC RECORDS JAPAN)

 キッズの合唱から始まる「Night Track」はYUKIの作曲。プロデュースはトラック・メイカーのmabanuaが手がけ、ゆったりとしたビートの上で、子供たちとCharaとYUKIが歌うハッピーソングだ。そしてラストを締めくくるのは、アコースティック・ギターがフィーチャーされたタイトル曲「echo」。シンプルな曲で、かつホームレコーディング的な音の質感が、より2人を身近な存在に感じさせてくれ、2人の声が混ざりあったり、会話をするように歌われたりする様子が、とてもリアルに伝わってくる。ギターとベースは岸田繁(くるり)がプレイ。Charaもアコースティク・ギターを弾き、終盤に重なってくるYUKIのドラムが、エンディングに向けて曲に、穏やかな熱量と厚みを加えている。

 とにかく聴き終えた後に、いろんなものが浄化されたような、そんな余韻に浸れる作品。バレンタイン・デーにCharaとYUKIから送られた、大切なプレゼントとなるだろう。

提供元: コンフィデンス

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