米津玄師Ver「パプリカ」や「馬と鹿」の編曲家 「クラシックとPOPSの融合を3層構造で聴かせる」

  • クラシックをスタジオ録音で”CDに最適化”して聴かせるEnsemble FOVEの新アルバム

    クラシックをスタジオ録音で”CDに最適化”して聴かせるEnsemble FOVEの新アルバム

──11月にはEnsemble FOVEの初のCD作品がリリースされました。
坂東この作品は、まさにこれまでのFOVEの活動の集積のようなもので、劇伴やJ-POPで経験したスタジオでのアプローチを改めてクラシックに戻す試みをしているんです。通常、クラシックのアルバムというのは、ホールのS席で聴いている体験をご自宅でも...という風に録音されるのが1つの完成形なんですが、僕が当初から念頭にあったのは、CDというメディアの特性を最大限に生かすことでした。そのためには、やはりスタジオ録音が最適だと考えたんです。そしてレコーディングした各曲を、DAWソフトでチマチマと自宅でエディットして、それぞれの曲の連なりによって1つのストーリーを語るような構成にしました。こんなふうに、コンセプトを踏まえてキュレーションされたクラシックのアルバムって、コンピレーションは別としてなかなかないんですよね。最近はヨーロッパで少しずつそういった動きもありますが、いわゆるクラシックマニアではない人ほど、「クラシックってこんなふうにも聴けるんだ!」と新鮮に感じていただける作品になったんじゃないかと自負しています。

──この表現が正しいかどうかはわかりませんが、ポップスの発想と手法を取り入れることで、「クラシック=高尚」という先入観をなくす試みでもあったのでしょうか?
坂東僕自身はあまり高尚とは思ってないんですけどね(苦笑)。ただ、歴史があるが故に、文脈が非常に重んじられるというところは多分にあるとは思います。僕は、純粋に作品として面白いと思えるのであれば、どんな形でもいいと思っています。ただし、クラシック/現代音楽を出自とする人間として思うのは、確かにクラシックは間口をもっと広げなければいけない。だけど同時に、決して安っぽいものにしてはいけないとも思うんです。間口を広くするのと、敷居を下げる。もっと言うと、安くするというのは確実に別なんです。先ほどある方に「軽いもの」と言われた、というお話をしましたが、僕はたとえ現代音楽以外の作品に関わる場合でも、歴史を経て確立してきたクラシックの伝統は決して軽視はしたくありません。そうしないと依頼してくださった側にも、またクラシック側にも申し訳ないことになってしまいます。何より、自分が納得できません。これからもコラボレーションを続けるうえで、出自やポリシーをブラさないことは、創作を続けるうえでも大切にしていきたいと思っています。

──ご自身の作品制作のほかに関わっていきたいシーンはありますか?
坂東ずっと言い続けていることなんですけど、いつか大河ドラマの音楽を手がけてみたいですね。それこそ武満徹さんや黛敏郎さん、湯浅譲二さん、池辺晋一郎さんといった現代音楽の作曲家の先達の方々は、自分の作品に向き合う一方でさまざまな分野とも柔軟に、誠実に関わってこられました。さまざまなジャンルでリスペクトを持って、交流し合える風通しのいい状況になっていったらうれしいし、そのためにも柔軟なアプローチを続けたいと思います。
文/児玉澄子


坂東祐大
Profile/作曲家、音楽家。1991年生まれ。大阪府出身。東京藝術大学附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部作曲科を首席で卒業。同大学大学院修士課程作曲専攻修了。様式を横断したハイブリッドな文脈操作やサンプリングなどを軸に創作活動を行う。第25回芥川作曲賞(2015年)、長谷川良夫賞(2012年)、アカンサス音楽賞(2013年)受賞、第83回日本音楽コンクール(2014年、入賞)。作曲を野田暉行、安良岡章夫、野平一郎、ピアノを中井正子各氏に師事。Ensemble FOVE主宰。『Oh! スケトラ!!! ユーリ!!! on ICE/オリジナル・スケートソングCOLLECTION』(2016年12月21日発売)や、『井上陽水トリビュート』(2019年11月27日発売、宇多田ヒカルが歌う「少年時代」を編曲。演奏をEnsemble FOVEが担当)などの楽曲も手がけた

提供元: コンフィデンス

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