強烈な歌詞とポップさを融合させた新世代歌姫のあいみょんとは

 昨年、テレビ東京系ドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』のオープニングテーマに起用され、シングル「生きていたんだよな」でメジャーデビューを果たしたあいみょん。現代の若者らしい価値観を持ちつつも、そこにはしっかりとした意思表示があり、独特な感性で描かれる詞世界が若年層を中心に人気を得ている。最近では、カルチャー誌の表紙やファッション誌に登場し、注目度が増しているあいみょんとは、いったいどんなアーティストなのだろうか。

路線変更も覚悟の上、賛否両論はすんなりと受け入れられた

 昨年11月にテレビ東京系ドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』のオープニングテーマに起用されたシングル「生きていたんだよな」でメジャーデビューを果たしたあいみょん。インディーズ時代から命にまつわる楽曲を数多く歌ってきた彼女は、死生観を歌う新世代のフォークシンガーとして世間の注目を浴びたが、続く2ndシングル「愛を伝えたいだとか」は、ファンクビートにフォークのメロディーを乗せた、男目線のラブソングとなっていた。
「もともと私は、ジャンルにとらわれずにいろいろな音楽をやりたいと思っていて。もちろん、すぐに路線変更したんかなって思われるのも覚悟の上で、私はやりたい音楽をやりますっていう意思表示をしたかったんですよね。それも早い方がいいと思ったので、2枚目が一番いいタイミングやなと思って。そう言ったことを踏まえての賛否両論はすんなりと受け入れられたかなと思います」

 彼女の確信犯的なチャレンジは、サウンドだけでなく、歌詞の人称にも見られる。「愛を伝えたいだとか」はいつも朝帰りの“君”を待ち続ける“僕”の心情が描かれており、全国42局のラジオパワープレイを獲得した3rdシングル「君はロックを聴かない」もまた、片思いの“君”と少しでも近づきたいという“僕”の純粋な気持ちが歌われている。
「男性のアーティストさんに憧れてきたんですよ。特に男性が描くラブソングには絶対に敵わないなと思っていて。女性はどうしても自己中になりがちだったり、悲劇のヒロインになりたがるところがあると思うんです。でも、男性は自分を卑下しながら、ちゃんと女性を立てている曲が多いと思うんですよね。例えば、槇原敬之さんの歌詞で『君がいないと何も できないわけじゃないと ヤカンを火にかけたけど 紅茶のありかがわからない』、とか。そんなの書けないなと思って。そういう感情や感性を持ちたいっていう欲望がありますね(笑)。あとは、私が“私”で歌ってしまうと女の子にしかなれないので、男性が聴いても、女性が聴いても当てはまるようにっていう意味で、“僕”視点で書くことが多いですね」

 音響関係の仕事をしている父親の影響で聴いてきた吉田拓郎や浜田省吾を始め、フリッパーズ・ギター、スピッツ、槇原敬之、平井堅らをフェイバリットにあげる彼女は、メジャー1stフルアルバム『青春のエキサイトメント』のオープニングナンバー「憧れてきたんだ」で自身のルーツについてはっきりと語っている。
「今の時代ってすぐに誰々の真似が出てきたとか、誰々っぽいって言われるじゃないですか。でも、私はスピッツやハマショーだけじゃなく、芸術家さんや俳優さんも含め、いろんな人に憧れてきて、音楽という表現方法を選んで活動してる。だから、“真似して何が悪いんや!”って思うんですよね。もちろんコピーするのはダメだけど、“大好きなアーティストさんに影響を受けて音楽をやっています!”っていう意思表示をしたかったんです」

自分のCDが世にたくさん出回るアーティストになっていかないといけない

 アルバムにはさらに、「THE BLUE HEARTSのヒロトさんが、『リンダって誰なんですか?』っていう質問に対して、『誰でもない、みんなの想像の中にいるリンダだ』って答えてるインタビューを読んで、誰でもない人の物語を作ろう」と思ったことがきっかけでできた「ジェニファー」も収録されている。彼女が挙げたアーティストたちは年代やジャンルこそ違えども、時代を超えて愛されるスタンダードナンバーを数多く生み出してきた点では共通している。
「やっぱり、残って欲しいんですよね。音楽は残していかないと寂しいですね。昔は自己満足で音を作っておしまいだったんですけど、今はたくさんの人に届くようにっていうことを最優先に考えてる。音楽って、1曲聴いただけでその時の自分の時代背景を思い出したりするやないですか。それは素敵なことだなと思ってて。だから、私のアルバムも、誰かにとって初めて買ったCDになったりとか、誰かの思い出の1枚になったら嬉しいなと思いますね」

 CDが売れないと言われるようになって久しいが、彼女はあくまでも「CDを売りたい」という。
「私はギリギリCD世代なので、バイトを頑張って、CDショップにフラゲしにいくっていう感覚は青春やったなって思って。もちろん、デジタルやサブスクも大事だけど、CDを作るためにレコーディングして、写真を撮って、デザインするっていう感覚を無駄にしたくない。私はCDを売りたいから特典をつけるっていうのも悪いことではないと思ってるんです。売れる人は売れてるし、決してCDが売れへん時代じゃないんだから、私も自分のCDが世にたくさん出回るアーティストになっていかないといけないと思いますね」

 すでにカルチャー誌の表紙を飾り、女性ファッション誌からも引っ張りだこの彼女は、歌の言葉やポップスメイカーとしての才能が光るメロディーやアレンジ、生楽器の音色はもちろん、ビジュアルやワートワークも込みで表現と捉えているアーティストである。
「今回のジャケットも2メートルくらいの紙の上に本物のパスタや生卵を乗せて、でっかいアート作品ができたんですよ。CDも1つの芸術作品やと思っているし、私の青春の興奮から生まれた11曲をできれば順番通りに流れ出きいて欲しい。さらにいうなら、歌詞カードを見ながら聴いてもらえたら最高やなって思いますね」


(文:永堀アツオ)

提供元: コンフィデンス

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