2013年上半期本ランキング『ターニングポイントを迎えている時代のニーズ』

BOOK:“村上春樹の世界”が再び!3年前を超える!?

 村上春樹の最新長編『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が、集計期間2ヶ月足らずの間に85万部を突破、上半期のBOOKランキングを制した。『1Q84』が大きな注目を浴びてから3年、再び日本中を“村上の世界”に染め上げたといったところだろうか。BOOK1〜3という三分冊になって発表された『1Q84』は、そのいずれもがミリオンセラーとなり、それぞれ年間ランキングの1位(2009年度)、3位(2009年度)、3位(2010年度)にランクインしたが(さらにいえば、その文庫版もすべて2012年の年間TOP20内に入っている)、メディアを通して伝わってくる今作の勢いはその時をも凌ぐもの。年末に再び、世の中が村上春樹一色に染まるのだろうか。

 米国スタンフォード大学の人気講座「意志力の科学」を書籍化した『スタンフォードの自分を変える教室』が4位。心理学、神経科学から経済学まで最新の科学的成果が盛り込まれた、新しいタイプの自己啓発書という打ち出しが、悩める現代人に強く訴求した格好だが、読者の反響も高く、その口コミがさらに部数拡大を促している模様。あらゆる面でターニングポイントを迎えている時代、同書へのニーズは今後も高まっていきそうだ。

 5位にランクインした『できる大人のモノの言い方大全』もまた、違った意味での“時代の産物”といえるだろう。ネット文化が氾濫する現代においては、メールやSNSなどを通してコミュニケーションは成立するものの、生身の人間同士の会話や常識の欠如が懸念材料となっている。ビジネスの場に限られることなく、本来の人と人との交流を活性化させる意味でも、相手を思いやるコミュニケーションは求められるはずだ。今さら“ネットでも聞けない”常識を盛り込んだ同書に、人々の関心が集まったのも当然といえば当然だ。

 近年、このランキングを席巻していた「ダイエット」ものが、新たな動きを見せなかったなか、昨年の年間2位、3位に入っていた『聞く力 心をひらく35のヒント』『置かれた場所で咲きなさい』がここでもTOP10を堅持。『スタンフォードの〜』『できる大人の〜』と併せて、世の中が“心”のダイエットを求めはじめているようにも映る。

コミック:絶大な支持は衰えない『ONE PIECE』ほか人気タイトル

 今年のお正月映画として劇場公開された『ONE PIECE FILM Z』が、配給元である東映の2000年以降の興行収入記録を塗り替える記録的ヒットを達成。その経済波及効果が多岐に及んでいる『ONE PIECE』の最新巻にあたる『ONE PIECE 69』が、2位以下を大きく引き離し、上半期のコミックランキングを制覇した。

 本ランキングは2008年より集計がスタートしており、これまでに上半期ランキング・年間ランキング合わせて9回発表されているが、コミック部門でそのすべての頂点に君臨しているのが『ONE PIECE』ということになった。登場人物の個性はもちろん、荒唐無稽でありながらも読者のカタルシスを満足させ、感動の琴線に触れていくストーリー・テリングの鮮やかさなど、老若男女を問わずその世界観へ引き込む力は、連載開始から16年を迎えようとする今に至ってもまったく色褪せることがない。日本一、いや世界一、親しまれている漫画の称号はまだまだ安泰といえそうだ。

 上記の『ONE PIECE FILM Z』を引き継ぐ形で映画の興収ランキングトップを獲得するなど、こちらもコミックのみならず幅広いメディアで人気を集めている『HUNTER×HUNTER』は、31巻、32巻がそれぞれ3位、4位にランクイン。さらに、昨夏公開された『ROAD TO NINJA―NARUTO THE MOVIE―』が興収10億円を軽々と突破した『NARUTO―ナルト―』も63巻、64巻がそれぞれ2位、6位に入るなど、「劇場公開組」が上位を独占する格好となっている。

 ほかにも、現在劇場版アニメが公開中の『聖☆おにいさん』や昨年末劇場公開となったアニメのDVD発売が控えている『青の祓魔師』、アニメではなく実写版で劇場映画化された『君に届け』、同じく実写版での映画化が進行中の『進撃の巨人』といった人気作がTOP10を形成している。やはり、人気作は映画界が見逃さない、ということだろう。

 それにしても、この10作品の人気の堅実さは強固だ。昨年の年間ランキングでTOP20を占めた中の16タイトルが今回の上半期に揃っており、昨年新刊のリリースがなかったためにランクインがなかった『聖☆おにいさん』も、2011年の年間ランキングでは2タイトルをきっちりTOP20に送り込んでいた。ひょっとすると、プロ野球やJリーグの順位よりも、大相撲の番付よりも“鉄板”なのは、コミックにおけるランキングなのかもしれない。

文庫:『本屋大賞』から続出する“ヒット常連”作家

 ヒット作、ヒット作家の登竜門として今や完全に市民権を得た感のある『本屋大賞』。その2013年ノミネート作品の中で大賞を射止めた『海賊と呼ばれた男』(上巻がBOOKランキング9位にランクイン)の作者、百田尚樹の小説家デビュー作『永遠の0』が上半期の文庫ランキング1位に輝いた。太平洋戦争を題材にしながらも、主人公が自分の先祖の足跡を追っていくうちに“真実”にたどり着くというミステリー仕立てのストーリーが、幅広い層の支持を集めた。2009年の発売、そして昨年の年間文庫ランキング50位からの大躍進。その背景に『本屋大賞』の影響が存在したことは否めないが、またひとり、ベストセラー作家の“常連”が誕生しそうな予感が漂う。

 同じように『本屋大賞』をきっかけに人気作家の道を歩みはじめた、湊かなえの『夜行観覧車』が2位。2010年に単行本として発表されていた作品の文庫化だが、発刊とタイミングを合わせるかのようにテレビドラマ化(TBS系)されたことが大きなフックとなり、単行本時にはかなわなかったランクインを果たした。まだまだ文庫化されていない作品が並んでいる彼女、年末はここに、さらに多くの名前を見つけることになるかもしれない。

 BEST3のもう一角を形成したのは、人気シリーズとなった『ビブリア古書堂の事件手帖 4〜栞子さんと二つの顔〜』。2012年の年間文庫ランキングTOP10に3タイトルを一挙送り込んだポテンシャルは伊達ではないといったところだ。シリーズ1巻目も9位にランクされているように、フジテレビ月9でのドラマ化が新規層の開拓に一役買った可能性も否めないが、この安定感は、コアなファン層が定着していることもうかがわせる。大賞にこそならなかったが、この作品も2012年の『本屋大賞』に最終ノミネートされていた。『本屋大賞』の影響力、やはり侮れない。

 『図書館戦争』『フリーター、家を買う。』『阪急電車』『空飛ぶ広報室』など映像との親和性が高い良質な作品を生み出し続けている有川浩の2作品『県庁おもてなし課』『植物図鑑』が7位と10位。『県庁〜』を含めここにきての相次ぐ映画化、ドラマ化で才能のクローズアップは確実。今後のランキングの動向を左右するキーマン(ちなみに女性作家)となりそうだ。

(文:田井裕規)