- ―― 怒りに満ちた井上さんの力強い目の演技に魅せられました。青野千恵子というキャラクターは、これまであまり演じたことのない役柄でしたね?
- 【井上】 私自身は戦争を経験していない世代なので、青野を演じることはとても複雑な心情でした。銃(ライフル)を持つというのも衝撃的でしたし、これまでにも戦争映画は観てきましたし出演したこともありましたが、本物の銃を持ったのは初めてだったので。でも、両親を目の前で殺されてしまうと、普通では考えられない行動に出てしまうのかなと、彼女の気持ちを理解しようと努力しました。
- ―― 実際にライフルを持ってみた感想は?
- 【井上】 こんなに重いものだったんだ……と、想像以上の重量感でした。もちろん、演じるときは空砲だと分かっていても(銃に対する)恐怖がありましたね。でも、彼女が銃を手にしていたときは、きっと無心だったはず。怖さを忘れて演じなければならないと思ってやりました。
- ―― たしかに緊張感のあるシーンでした。役作りとして事前に準備したことはどんなことですか?
- 【井上】 青野は、常に恨みと怒りを内に抱えています。看護師の経験を活かして負傷者の手当てをする役なんですが、兵隊のみなさんと同じ場所で一緒にお芝居をするので、自分も一軍人になって、戦場で戦う気持ちを持って演じていました。準備としては、戦時中なので、多少は(顔が)痩せている方が時代に合っているのかと思い、食事制限はしました。あとは歴史的背景を学んだり、その時代の戦争映画(昔の洋画)を観たりしました。
- ―― 本作はアメリカ兵に尊敬されていた実在する日本人兵士・大場栄大尉(竹野内豊)が主人公。戦争を知らない世代にとっては、アメリカ兵が感じていた日本人の尊厳、考え方、生き方がよくわかる映画でもありますよね。
- 【井上】 そうなんです。私自身、この作品に出演することで、大場栄大尉や彼をはじめとする日本人兵士たちのサイパンでの戦いのことを知ることができました。ただ、人は気分が落ち込んでいたりすると、戦争が題材の映画は避けたくなるもの。けれど、私たちが知らなくてはいけない事はまだまだあって、そこにはきっと悲惨な事実もたくさんあります──真実は受け止めなければならないし、あの時代があったからこそ、今があることを忘れてはならない、そう思います。
- ―― 自分の生き方を考えるきっかけにもなりましたか?
- 【井上】 今の時代は、自由で恵まれていますよね。自分が学ぼうと思えばいくらでも学ぶことができるし、考え方も自由で、時間もたっぷりある……。けれど、あの時代の人たちは1日1日を生きることが精一杯だった。あの時代を生きていた人々に私たちは感謝しなくてはいけないんですよね。彼らが必死で生きようとしていたその勇姿は、きっと今の若い世代にも響くと思っています。
- ―― 昨年の5月下旬から約2ヶ月に渡って行われたタイ、サイパンの全編海外ロケ。どんな撮影現場でしたか?
- 【井上】 ジャングルのなか、猛暑と戦い、泥まみれになりながらの撮影だったんですが、そういう環境だったからこそ表現できたものもあると思います。なかなか体験できないことばかりだったので、忘れられない現場のひとつになりました。辛かったのは、(仕事の都合で)サイパンと日本を何度か行き来したこと。途中で日本に帰国しても、今、この瞬間もみんながジャングルで戦っている(撮影している)と思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
(文:新谷里映/撮り下ろし写真:原田宗孝)