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木村カエラインタビュー「自分をようやく取り戻せた感覚」

坊主にしたいけど…さすがにそれはできない

――カエラさんはデビュー時から音楽もファッションもすべて、既成概念を壊していく立ち位置にいて、パンク精神をつねに持っていた印象がありますけど。
木村カエラ 意外に自分ではそこに気づいていなかったんです。私、自分のジャンルがわかっていなくて、それこそ自由。そのとき好きだったものをそのまま表現しちゃうので、「Jasper」みたいな打ち込みの曲をやったり、インディーズのバンドっぽくなったり、ポップになったり、クラシックになったり、ジャンルを決め込んで自分を当てはめてこなかった。でも、思い返してみると、モヒカンにしたりとか、そういうスタイルも大好きだったから、結局パンクだったねっていう。開いたものを閉じていったら原点に戻ったみたいな、自分でもなんで今までそこに気づかなかったんだろうという感じだったんです。

――顔にスタッズつけたらみんなが引くかもとか、そういう躊躇もハナからないですもんね(笑)。
木村カエラ パンクだから、もう、いっちゃえってね(笑)。でも自分の中で一線はあるんですよ。実は私、坊主にしたいんだけど、さすがにそれは引かれると思うからできない。

――似合いそうですけど(笑)。
木村カエラ 似合うと思う(笑)。でもスタッズぐらいなら全然、平気だけど、坊主までいったらダメだなっていう怖さはある。私はどこまでもいけちゃう分、どこまでもいってしまうから、自分で線を決める必要があるというか、“抜け”を作らないといけない。スタッズはつけるけど、メイクは目の周りを真っ黒にしないで、あえてナチュラルにするとかね。そういう抜けは気にしてます。

――カエラさんはそういう両極のテイストをバランス良く差し引きするセンスが絶妙ですよね。このアルバムも「PUNKY」のようなパンキッシュな流れと、「Butterfly」に通じる超ポップな木村カエラ像と、真逆のベクトルが違和感なく融合されている。1曲目の「There is Love」で<光と陰はひとつ>と歌っていますが、まさに二面性を内包した作品だと思います。
木村カエラ 「There is Love」は最後に制作した曲で。今回は光と陰がハッキリ分かれたアルバムだからこそ、その中心となる大きな愛を歌った曲を入れたいなと思って、この曲を作ったんです。そう考えると、私はデビューしたときから心をテーマにして歌詞を書いてきて、結局、どんなジャンルでも言いたいことはすべてそこ(心)に行き着くんだなと思いますね。その中で光と陰っていうのは自分のテーマ的なものになっているんだけど、私自身、つねにその両方を行き来している…。というのも、さっきも言ったように『MIETA』を出した後はツアーを回っていても実はモヤモヤしていて、ずっと陰にいたまま抜け出せなかったんです。だから、パンクに行き着いて光が見えた瞬間、そのことを歌いたくなった。苦しいところから這い上がってきた人間の強さとか、生かされていることの喜びとか、自分が心を開いたことですべて変わる感覚とか、そういうことのすごさを歌にしたいと思ったんですよね。

“自分らしさ”を見つけるためには闇を越えないといけない

――陰からやっと解放された状態だったんですね。
木村カエラ ここに行き着くまでは本当に辛かったですからね。私は元々、自分の中に自分が2人いる感覚があって、悪魔と天使が頭の周りで常にワーワーやっているんです。歌詞を書くときなんかも、だいたい最初は暗いものを書くんだけど、そうするともう1人の天使の私が「こんなんじゃ誰も喜ばないよ」と言ってくる。でも悪魔の私が「本当に考えているのはこっちだろ」とまた言い返すっていう、そんなやりとりをずっと続けて、最終的にポップな天使が勝つんですよ。リード曲の「BOX」はまさにそのやりとりをリアルに書いた曲で、闇にガーって下がって「抜け出したい、抜け出したい」ともがいた後に光が見えて、その一発目に書いた曲。だから「私は変わりたい」「私らしくありたい」という想いがものすごくリアルに込められているんです。<この心は見たくない物を捨てるゴミ箱じゃない>のフレーズは、光が死んで心が真っ黒になっていた状態から出てきた言葉だし、サビの<ここ掘れ 深く掘れ>という部分は、自分の中の光を見つけるため、本当に掘って掘って掻き分けていったときの必死な気持ちを歌っているんですよ。

――叫びや悲鳴に近い歌詞ですよね。
木村カエラ 実は歌うときもドスが利き過ぎてしまって、レコーディングでは声が割れないように音量やバランスにすごく気をつけたんです。でもかなり身体に力が入っていたみたいで、翌日は筋肉痛になっていました(笑)。それぐらい感情が高まってしまったんだけど、そこは忘れちゃいけない気持ちだなって思いました。
――曲順も「PUNKY」から「BOX」と続いていて、ここの熱量と凝縮感はすごいですよね。その後、ラストに映画『バースデーカード』の主題歌でもある「向日葵」がきて一気に解放され癒されるっていう、ドラマチックな展開は聴きごたえ満点でした。
木村カエラ そこのラスト3曲の曲順は難しかった。特に「BOX」は勢いがあって最後の曲にもなりえてしまうぐらい感じ取るものが大きい曲だから、どこにしようか考えてしまいました。でもこの曲で終わってしまうのは「PUNKY」っぽくないなと。温かい愛の歌「There is Love」で始まり、ラストも愛の歌の「向日葵」で終わる。そういう流れが一番美しいかなって思ったんですよね。

――では改めて、そんな渾身作のアルバムが出来上がった今の心境は?
木村カエラ 闇から完全に抜けたかと言ったら、実はまだ完全ではなくて。自分らしさを見失ってしまったあの時期の衝撃が強烈だったので、未だにちょっとトラウマみたいなものを引きずっているんですよ。だからツアーを回ってやっと自分の中で答え合わせができるかなと思っています。ただその反面、自分をようやく取り戻せた感覚もあって、心の持ちようはすごく大事だなって改めて感じています。自分らしくいることはすべての自信に繋がるけど、その“自分らしさ”を見つけるためには闇を越えないといけない。そういう意味ではやっとここまで辿り着けたありがたみを感じているし、もっともっと“木村カエラ”を知りたい、個性を出していきたいとも思います。そして、そんな自分の中の光を見つけるきっかけになった『PUNKY』を完成できたことが今は単純に嬉しい。それをいろんな人に聴いてもらいたいって心から思いますね。

(文/若松正子)

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