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武田と哲也、現在の音楽シーンについて語る

音楽は枚数ではなく、聴いてもらう回数を増やすために頑張らないといけない

  • ミニアルバム『LOVE TRACKS』【通常盤】

    ミニアルバム『LOVE TRACKS』【通常盤】

――この20年で、音楽の聴き方、発信の仕方も変わってきましたが。
武田 自分のルーツミュージックと求められるポップミュージックとの距離感も、デビュー当時よりできるようになった分、薄まっていく何かも感じ始めていて。来年20周年を機に一度立ち返ってみようかと考えています。今やネットで世界の音楽を世界で見られるのは当たり前で、若いころはそんな風に聴いてもらうことが夢だった。実際にそうなった今、新しいことにトライしない手はないと思っているんです。

――ネットを使って何かやろうか、と。それはゴスペラーズさんも?
哲也 そういうのはあまり考えてないです。

――ネットやデジタルに抵抗感が?
哲也 それはないです。今ネットやダウンロードを否定するのは、水洗トイレを否定するようなものですからね。
武田 そう言いながら僕ら2人とも、メールもLINEも、まったくしないです。

――でも聴く環境が変わると、アーティストとしてはそこに合わせることも必要ですよね。
哲也 ゴスペラーズに関して言えば比率としてCDのほうが高い傾向にあります。なので、ネットやデジタルの可能性は広がったけど、だからといってそれが必ずしも音楽が売れることには繋がらないわけです。それにうちのお客さんが、それだけCDというフィジカルなものを求めてくれているということは、コンサートがそれだけ大事だということだと思うんです。音を聴くだけならCDでもiTunesでもどっちでもいいけど、CDを買ってくれる人の気持ちは、コンサートを楽しみにしてくれている。ユーザー的には、アナログ的につながりを求めているんだと思います。あくまでもゴスの場合ですけどね。

――そういう現在のあり方は、活動しやすいですか? やりにくいですか?
哲也 嫌な状況とは思わないですね。音楽バブルの頃は、人口に対してCDが売れすぎていた感があるし。
武田 しかも、1人1枚しか買わない時代に100万枚や200万枚売れたので。
哲也 これは聞いた話なんだけど、音楽は枚数じゃなく「聴かれた回数でしょう!」って。コンサートに来てくれる人は、予習で何回も聴いてきてくれるし、帰ったら良かった曲をCDで聴き返して、ライブと比べたりする。アーティストは、そうやって聴いてもらう回数を増やすために頑張らないといけない。洋服もどれだけ売れたよりも、作って売ってる以上は着てほしいじゃないですか。それと同じです。イベントやコンサートの収益が増加しているというニュースを聞きますが、向かっている方向自体は、そう悪くないんじゃないかと思っています。
武田 ライブで人ができることには限りがあるけど、機械で作るものは際限なく歌を上手くできるから、そこに対しての信頼は徐々に失っていますよね。人がライブでできる限りのあることの中で、ここまでやってくれるんだ! というものに人は感動するんです。僕らがデビューした当時は、CDを出せば売れて当たり前の時代。こうすればこれだけ売れると、逆算して作られたアーティストがたくさんいたけど、見事にみんないなくなった。残っているのは、やはりライブでその人が見えるアーティストばかりです。僕らがギリギリ今もやれていられるのは、ライブだけは嘘を付かずにやってきたから。これからどうなっていくかわからないけど、そこを信じるしかないと思っています。

(音楽業界に)飽きてしまった時期もあったけど、また面白くなっている

――フェスなどで一緒になる、若い世代については?
哲也 『SOUL POWER』でセッションをやると、みんなテクニックがすごい。もちろん知識は、若ければ少ないのは当たり前です。心だって今はなくても、器を作っていれば自然と入るもの。形やテクニックから入るのでいいんです。僕らだって、最初はファッションやボーカルのフェイクをマネするところから入ったわけだし。あとは日サロに行ったりとか(笑)。ただ、ロックとソウルの土俵では、市場がまだまだ違うので。だからこそ『SOUL POWER』みたいなイベントをやって、僕らなりにその土俵を広げたいと努力している。良い才能があっても、それを勢いよく押し上げることが難しくなっているのが現状ですね。
武田 今はネットでソウルを聴いて、ストレートに吸収できるけど、僕らの時代はネットがなかったから、途中でこじれて吸収してしまっていたんです。でもその“こじれ”こそが、オリジナリティになっていたと思う。当時は、みんなそれぞれのこじれ方をしていて、同じようなやつがいなかった。今はストレートに吸収してストレートにやっている、同じような人がたくさんいるから、そのなかで頭角を顕すのは当時より大変だろうと思います。僕なら、今の時代R&Bシンガーは目指さないですね(苦笑)。
哲也 昔は、正解を見る機会があまりにもなかった。でも、そのいろんな誤解やこじれ方によって生まれたものが、すごく楽しかったし。こじれも続けていれば個性になります!

――最後に、今の音楽業界について。
武田 1億層アーティストとは言わないけど、誰もがアーティストになれる時代。たまにYouTubeでびっくりするような素人がいるし。そんな時代に僕らが求められているのは、メジャーでやるかどうかではなく、いかに世界に1つしかないものを作るかということ。僕ら自身それを問われていると思っています。今は、セオリーがまったく通じないブラックボックス状態。そこでやっていくには、まずは自分たちの芯を食ったものを作らないと何も始まらない。さっきのこじれの話もそうで、そこから個性が生まれて行く。そういう意味では、これからまた音楽が面白くなると思います。逆算された音楽ばかりで飽きてしまった時期もあったけど、そうじゃないものが注目されつつある今、また音楽が面白くなっていると思います。
哲也 若い子は、テレビで流れる音楽とネットで聴く音楽を、まったく格付けしてないんです。単純に曲が好きかどうか。僕らは、今そういうところに投げ出されている。昔はアイドルとアーティストの間には、確かに格付けがなされていた。しかし今やそれも幻想でしかなく、好かれているかいないかの違いでしかない。メディアで言えば、昔は新聞が権威だったけど、今やネットと同じところにまで引きずり下ろされているし。アーティストだからと、そこにあぐらをかいてる場合じゃないです。そのことをもっと意識しないといけないですね。
武田 できれば、あぐらをかいていたいけど(笑)。

(文:榑林史章)
武田と哲也 オフィシャルサイト(外部サイト)

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