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35周年を迎えた作詞家・売野雅勇氏 明菜、チェッカーズらヒット曲誕生秘話語る

古くさくなる言葉や流行の小物は歌詞に入れてこなかった

──その「MIND CIRCUS」が収録されている中谷さんの1stアルバム『食物連鎖』では、5曲の作詞を担当されていますが、それらが作詞家・売野雅勇の新たな自信になったと言ってもいいですか?
売野 坂本さんから「本能で書く」ということを教えてもらった気がします。そのアルバムの流れで、1997年に中谷美紀 with 坂本龍一の名前でリリースされた「砂の果実」の歌詞を書きました。

──「砂の果実」は30万枚を超えるロングヒットになりましたね。
売野 それがヒットしている頃、友達の家にいた女の子に驚かれたことがあったんですよ。作詞家ってことに驚いたわけじゃなくて、「どうしてあんな変な歌詞を書いたんですか?」と。「僕のなかでは傑作だけど」と答えたら、「でも、他と全然違う」と言われました。ただ、けなされてるとは思わなくて、逆に、「これでいいんだ」と確信が持てたんですよ。旅行でも他人が行かないような場所に行くのと同じで、歌詞も他人と同じようなものは書きませんよ、ということが僕のなかでは大事なので。僕は人間としては頑固の反対側にいると思いますが、ただ単純に群れたくないし、媚びたくない。それを実践しているだけなんです。その生き方が詞にも現われているってことでしょうね。

──この35年のなか、バブル時代もあれば、失われた10年もあり、新世紀もあり、さまざまなブームが現われては消えて行きましたが、時代に合わせる表現を意識されることはありますか?
売野 今回35周年にあたり、自分の作品を読み直し聴き直してみても、古くさくなる言葉、流行りの小物、たとえば「LINE」や「ベスパ」とかをなぜ選ばなかったのか、なぜそれを歌詞に入れなかったのか、正直、自分でもわかりません。とにかく結果的に、時代に合わせて何かを変えなかった35年でした。1980年代、1990年代の歌を聞き直してみると、古くなるのは、コンピュータのドラムの音ですね。もっというと音色。ある種の色です。当時の最先端を意識して、最先端のテクノロジーを駆使していたから、古びしてしまった気がします。でも、ここが不思議なんだけど、コンピュータミュージックの元祖であるYMOがやっていたことは古びないんですよ。なぜかと考えたとき、音色であったり、色を選ぶ本物の耳があれば、10年、20年経っても古びないのかもしれないな、と思っています。言葉のほうに翻ると、そこにも音色のようなものがあるんですよ。響きが。色が。それの選び方次第じゃないですかね。

──古びるか否かは、センスの問題ですか?
売野 そうなんだけど、センスも学ぶことがきっと大事だと思います。センスは身につくものであって、学ぼうとしてもなかなか学べないものだけど、それでも学ぼうとすることが大事。その人が何を聴いた、何を見たかで身につくものだから。それはつまり記憶。たとえば自分の視覚的記憶にないものは自分の身ぶりに現れない。腕を組んで考える仕草にしても、誰かにそっと近づくアクションにしても、発明はできない。どこかで見たから、記憶のなかにあるから、そういう仕草ができるわけです。それと同じで、見たことのないもの、聴いたことのないものは、自分では表現できないんですよ。譜割りという、メロディやリズムへの言葉の乗せ方にしても、もともとそのセンスを持って生まれた人はいなくて、聴いてきた音楽の記憶がそこに現われているのだと思います。

──作詞家は、国語だけじゃなく音楽的センスも必須ですね。
売野 もちろん。歌詞も音楽の一部ですから。ただ、まずは文字で読んだときに感動しないと。それが音楽によって増幅されるわけですからね。文字で感動しない歌詞が歌になったとき感動するはずがない。

チェッカーズは出逢った当時からオシャレだった

──8月には売野雅勇作詞活動35周年記念コンサートが行われますね。FUJIYAMA PARADISE TOUR『天国より野蛮』。不思議なタイトルですね(笑)。
売野 それは私たちが生きている人生のことです。凄くハードだし、ヘヴィだし、泣きたいことも起こって、天国みたいにパラダイスじゃないけれど、この人生は美しい、生きる価値がある、という意味を込めました。だけど、「人生は美しい」と、ストレートなタイトルにするのは恥ずかしくて…。俺、本当に恥ずかしいんだよね、そういうのが(笑)。ツアーとしてあるのは、この1本では終わらないという意思表示というか、次の企画もあるという予告にもなっています。

──出演者も豪華ですね。
売野 歌がうまくて、味があって、出演してくださる方々です。杉山清貴くんがスケジュールの都合で出演できなかったのは残念です。彼以外は、ほぼ予定どおりの方々です。

──藤井フミヤさんも出演されますね。チェッカーズとの出会いは今でも覚えてらっしゃいますか。
売野 最初に会ったのは、彼が21歳のとき。チェッカーズは全員がお洒落でしたね。しかも、どこか不良っぽさもあったので、非常に魅力的でした。なかでもフミヤくんは目立っていました。キュートだったし。彼らはデビュー前にトレーニングの時間があったんですよ。そのとき、作曲家の芹澤さんがいろいろ指導して。その3、4ヶ月の間に僕も何回か遊びに行ったのを覚えています。当時から声も魅力的で。歌う人の声により、書く側のテンションが煽られる場合があって。そういう声の持ち主との出会いも、作詞家にとっては大きいですね。荻野目洋子さんもそういうひとりでした。1980年代から、彼女の歌からはアフタービートが聴こえていましたし、大好きな声でした。普通、アイドルは「気持ちを入れて歌って」とリクエストすると、レガートしてしまうものだけど、彼女の場合は、当時からそれでもビート感が出ていました。「六本木純情派」を聴いてもらえれば、今さらながらに発見してもらえると思います。コンサート当日は、総選挙はありませんが(笑)、いろいろなビデオが流れたり、トークもあると思うので、なつかしもありつつ、そういう新しい発見も求めて、足を運んでいただけると幸いです。

(文/藤井徹貫)

売野雅勇・作詞活動35周年記念コンサート Fujiyama Paradise Tour「天国より野蛮」

●日時:8月25日(木) 開演18:30
●出演:麻倉未稀、稲垣潤一、荻野目洋子、鈴木雅之、中村雅俊、中西圭三、藤井フミヤ、南佳孝、森口博子、山本達彦、Max Lux 他
<ローソンチケット・チケットぴあ・イープラスでチケット一般発売中!>

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